「みんな! 秋葉先生から海水浴場のチケットを貰ったよ!」
花帆が笑顔で部室に飛び込んで来る。
放課後に集まってほしいと全員を呼びつけて何事かと思ったら、まさか海へ遊びに行く予定を立てようとしていたとは。ただでさえBloom Garden Partyに向けてそこまで時間がないってのに、のんびりと遊んでいていいのかと思ってしまう。まあ聞くところによるとコイツ、三年生になっても夏休みの課題をギリギリまで終わらせてなかったみたいだし、夢に対して真面目でも本質の不真面目さを上書きすることはできないのだろう。
「また花帆先輩が突拍子もないことを……。どうしていきなり海に?」
「せっかく零クンが戻ってきてくれたんだし、歓迎会をしたいと思ってね。それにせっちゃんと泉ちゃんは零クンと会って日が浅いから、仲良くなるための交流も兼ねて……だよ!」
「まさかそれを秋葉先生に相談したら、チケットを貰ったということでしょうか?」
「さっすがさやかちゃん! 察しが良くて助かるよ! みんなでどこかへ遊びに行こうと思ってはいたんだけどね。どこにしようか悩んでた時に、まさに天からの施しだよ!」
なんか胡散臭い気もするが、アイツに利用されてるだけなんじゃねぇのか?
ただ、海となればチャンスかもしれない。柳田と桂城のスクールアイドル病を治療するためには、身体のどこかにある真っ赤な傷を探し出す必要がある。水着になれば必然的に肌を晒すことになるので、もしかしたら発見できるかもしれない。過去にも何度か同じ方法で見つけているので、もしかしたら秋葉はその可能性を狙っているのかも。
と、思っていた矢先に秋葉からチャットが飛んできた。
『お膳立てはしておいたから、あとは水着を引ん剝くなりで例の傷を見つけてね!』
やっぱり策があったのか。本来なら交流を深めたうえで、俺の前で脱いでもいいと思わせるような関係性を築くことが傷を見つける王道でもあり近道だ。だがラッキーで発見できるほど安いものはない。再転入してまだ4日目だけど、もしかしたら過去に類を見ないくらいの進展具合になるかもな。
「ただ今は秋だ。この時期に海水浴場って、まさか私たちに寒中水泳でも提案しているのかな……?」
「それがね、どうやらこの時期でも夏を楽しめるような仮想空間を作ってるんだって。そこは夏みたいに日差しが強くて、一年中いつでも海水浴が楽しめる場所になってるらしいよ」
「じゃあいつでも夏休みが満喫できる場所ってことですか!? 徒町、更に期待が上がっちゃいました!」
「それどんな技術!? 相変わらず秋葉先生が関わると奇想天外なことばかり起こるなぁ。ルリはもう慣れたけど」
いつでも夏を堪能できる場所って、一体なにをどうしたらそんな無理矢理なことができるんだよ。アイツの技術はブラックボックスだから俺にも分からないけど、一種のアミューズメント施設だと思えば需要がありそうだ。冬の時期にも夏が楽しめるとあらば避暑地として来場者も多くなるだろう。逆に夏の時期に冬を満喫できるようにすれば避寒地としても利用できるし、そういった場所を作るのは悪くないビジネスかもしれない。
「でも海へ行くのは交流会としてはいい案だと思いますね~。水着で開放的になれますし、れいくんせんぱいに合法的にアピールするチャンスですから」
「そうだな。前の保健室でのあの一件は、許していたとはいえども無法すぎた」
「遂に零の化けの皮が剥がれる時が来たってことだよ! セラスちゃんの魅惑のボディに、淫らに性欲を晒して鼻血を垂らして震えるといい!」
「俺にどんなキャラを期待してんだよ……」
そんなこんなで突然の交流会が始まった。柳田と桂城は元々知らない仲でもなかったので、そんなことをしなくても十分にコミュニケーションは活性化していると思うけど、これもスクールアイドル病の治療に向けての足掛かりだと思っておこう。あわよくばスピード解決できるかもしれないからな。
~※~
「海だぁあああああああああっ!! まさか秋に海水浴ができるなんて、あたしここに到着してから興奮しっぱなしだよ!」
「到着する前にも、かき氷や焼きそばの屋台を制覇するんだってずっと意気込んでいたじゃないですか! ほどほどにしてくださいね!」
「それにしても日差しが夏そのものだし、本当の海に来たかのように解放的だね、まるで異次元に迷い込んだみたい」
瑠璃乃の言う通り、さっきまで俺たちがいた場所と地続きとは思えない異様な光景が広がっていた。THE・海水浴と言わんばかりのシチュエーションが見事に揃っており、照り付ける日差しや青い海、白い砂浜に屋台など、夏の海水浴場を完全に再現している。さっきまで秋の寒さが近づく日本特有の涼しい気候の只中にいたはずなのに、ここまで様変わりされると体感気温がバグってしまう。一応仮想空間らしいんだけど、周りの何もかもがまるで本物のようだ。
なお、当然だが海水浴場なのでみんな水着になっている。俺は適当な海パンに薄手のシャツを羽織っているだけの質素な格好だが、コイツらは誰に見せつけるためなのか気合が入っているな。
とはいえ花帆たちの水着は以前と変わらない。変わらないってことは太っていないから安心と思うべきか、それとも成長していないと不安を煽るべきか。答えは沈黙かな。
柳田と桂城の水着は初見だが、二人のスタイル的にもその姿は衝撃的だ。
柳田は白を基調としたビキニで、髪色や白い肌を相まって輝かしく見える。小柄なくせに出るところはしっかりと出ており、それを隠すことなく露出させているので妙に犯罪臭のする艶めかしさがある。本当に高校一年生かと疑いたくなるが、これが海外の血を引く者のスタイルの良さというわけか。水色のレースの羽織も着ているが、それでは隠し切れない女性の象徴が大いに際立っていた。
髪はリボンで結ってあり、うなじが丸出し。肌の露出もそうだけど、ここまで人目に晒せるのはよほど自分の身体に自信があるのだろう。コイツらしいっちゃコイツらしいけどな。
桂城は見事な黒のビキニで身体のラインが浮き彫りとなり、自身の長身スタイルを遺憾なく生かしている。下半身には短いパレオを巻いており、ファッションとしての扱いなのか肉質の良い太ももを隠す用途としては一切機能していない。小柄だが恵まれたカラダの柳田とは別ベクトルで桁外れで、高校二年生とは思えない体幹と長い手足、鍛えられた腹筋、メリハリの利いた体型は目にする者を圧倒する。
髪は自慢のウルフカットを束ねており、柳田と同じくまとまった清涼感がより彼女の艶美を演出している。
「おや? さっきから私たちをじっと見つめて、見惚れてしまったのかな?」
「ほらやっぱり! 零も思春期の男の子だからね! ほらほら、いつものクールさなんて崩していいんだよ! わたしたちの水着姿に、好きなだけ鼻の下を伸ばすがいい!!」
「いい水着だな。可愛いよ二人共」
「うえっ!? 零が褒めてきた!? いつも冷笑ばかりで素直にならないあの零が!?」
「お前が俺の何を知ってんだよ。瑞河で会っていたとはいえ、一緒にいたのって合計してもまだ数日程度だろうが」
「それでも、あなたが『可愛い』とストレートに褒めてくれることに驚いているんだよ。正直、これほど嬉しいことはないと思うくらいにはね」
「そんな安直な言葉で喜ばせられるのなら、いくらでも言ってやるけどな」
実際に可愛いとは思ってるからお世辞でもなんでもない。小柄と長身で身長凸凹コンビなのだが、どちらも女性の象徴が非常に目立つ傑出したカラダをしている。そんなの、男の目から見たら褒めることはあっても冷笑することはできないだろう。あまりにも視線が吸い寄せられてしまう。その艶やかさを前にして、素直に感想を吐露する以外にできないっつうの。
「れいくんせんぱ~い。座ってないでこっちで一緒に遊びましょ~。せんぱいが帰って来たからこその交流会ですからね~」
「ビーチボールを貸し出してもらいました! 他にはビニールボートとか浮き輪とか、何でも揃ってますよ!」
「本当に仮想世界かと疑うくらい自然が本物そのもので雰囲気もいいですし、息抜きにちょうどいいかもしれません。最近はブルパ関連で忙しかったですから」
「そうか。せっかく計画してくれたんだから無下にするわけにはいかねぇな」
「そういえば、せんぱいに水着姿を本格的に披露するのは初めてですね~。アタシたちへの感想もどしどしお待ちしてます!」
去年は俺がいない間の季節イベントを体験するって名目で、家の中で水着になってたなコイツら。花帆たちとはナイトプールに行ったことがあるので、コイツらと夏イベントを実際に経験するのは初めてだったりする。コイツらが妙にテンションが高いのはそのせいか。
「先輩方はどうされますか? 一緒に遊ばれます?」
「あたしは食事調達係になるよ! あとから参戦するね!」
「ルリも後から参加しようかな。近くの釣りスポットになってる池があって、釣り道具も貸し出されてるみたいだからまずはそこに行ってみたいんだ」
「ではわたしは荷物の見張りをしていますね。あと花帆さんが食べ過ぎないように見張りを……」
「う゛っ、相変わらず食事のバランスに厳しい……!! と、とにかく! あたしたちは後で合流するから、みんなは遊びに行っておいで! 零クンにアピールするチャンスだよ!」
「違うね花ちゃん! 零がわたしたちに見惚れちゃうんだよ!」
「前から思っていたけど、零君と張り合おうとするその気概はどこから出てくるんだ……。まあ多忙の中でのひと時の休息だ。楽しませてもらうよ」
~※~
自分はあまり馬鹿みたいにはしゃぐタイプではない。中身は大人だからってのもあるけど、成熟して性格も落ち着いたからだと思う。学生時代は女の子の水着姿を見ただけでも興奮しっぱなしだったからな……。
ただ、今回はそれなりに楽しめた。そもそも海へ行くことなんてここ数年なかったし、やっていることと言えば各地の女子高へお邪魔して女の子絡みの問題を解決するくらいだ。だから旅行感覚で遠方へ遊びに行くこと自体がなかったから、仮想世界であろうともバカンスは久しぶりで新鮮で、いい休息になりそうな気がするよ。
しかし、柳田と桂城のスクールアイドル病の傷は見つけられていない。水着に隠れるほど局部ギリギリのところにあるのか。だとすると全裸になってもらうしか確認方法がなくなってしまう。やはり正攻法で脱いでもいい関係を作るしかないか……。
一通り遊んで身体を動かしたので、水を飲みにパラソルへと戻る。
すると既に瑠璃乃が待機していた。とても満足そうな笑みを浮かべているので、どうやら釣りの成果が良かったようだ。
「どうした? 大漁だったのか?」
「えへへ、分かる? 見てよこのクーラーボックス! 中身ぎっしりだよ! 今日の夜はお刺身パーティだね!」
「穴場ってのはあながちウソじゃないみたいだな……って、これって石鯛? お前さっき池に行くって言ってなかったか? どうして海の魚が釣れるんだよ?」
「さぁ?」
仮想世界だからそこのところ設定が曖昧なのか? つうかこの世界で釣った魚って持ち帰りできんのか? 仮想だけど水や食い物、遊び道具や砂や海水など何もかもが本物だから、どれが本物でどれが偽物なのか区別できねぇんだよな。冬にこんなバカンスを体験したら季節感覚がバグっちまうよ。
「そういや、花帆とさやかはどうした?」
「実は花帆ちゃん、食事を調達するついでにお土産にも目移りしちゃってね、買い過ぎて持ちきれないからヘルプを呼んでるんだ。さやかちゃんが向かってるけど、大変そうだからルリも手伝おうと思って」
「なにやってんだよアイツ……」
「とにかく、もう少し遊んでていいよ。ほら、みんな零くんのことを呼んでるから行ってあげて」
いったん休もうと思っていたが、俺を熱望する声に押されて結局戻ることにした。
合流すると、そこには柳田がビニールボートを膨らませている最中だった。
「次はそれで海に出るのか?」
「セラスはそう言ってますけど、6人全員で乗れると思いますか? 危うく転覆とか……」
「怖いこと言うね吟子。でも大丈夫じゃないかな。小柄な子が多いからね」
「いま徒町をチラッと見たよね!? でもでも、零先輩の方がちっちゃいから……」
「それはそれで失礼だなお前……。いや事実としてそうだけど」
「結構大きいボートだから大丈夫なんかじゃないかな~。浅瀬で乗って、危なくなったら即降りれば大丈夫だよきっと」
大丈夫派と心配派で意見が分かれているが、姫芽の言う通り危機を察知したらすぐに降りれば問題ないだろう。下手に沖合に出なければ大丈夫そうだ。
「膨らませたら、次はこれを取り付けます! じゃじゃーん、ジェットスクリュー! これで遊園地のアトラクション並のスピードが出るらしいから、みんなで体験しましょう!」
「え、それこそ大丈夫なの!? 遠くに流されたりしない?」
「吟子先輩、ここは海でも仮想世界なんだよ? 流されないように見えない壁で防御されるに決まってます!」
「そんなことあるのかにゃー。でも人工の海水浴場だとしたら、ある程度の危険は排除されてるかもね」
「だったら徒町はやってみたい! どうせならあの岩島まで行こうよ!」
「着実にフラグを乱立してるけど、成功前提の話は避けた方がいいんじゃないかな」
「いずみんのその発言のせいで運命が失敗に傾いてるかもね~あははっ」
そのやり取り自体がもう危険だよ……。コイツらは冗談交じりに談笑してるけど、変に不運を引き寄せなけりゃいいけどな。
不幸にも次から次へと事件を呼び込む俺じゃないんだから、コイツらが平和に過ごしていれば問題が起こることはない。自分が疫病神っぽくなっていることに関しては、もう事実を受け入れて諦めてるよ。
ジェットスクリューを取り付けたボートに乗り込む俺たち。
女子5人とガキ1人なので合計体重は軽めなこともあってか、ボートがしっかりしているのもあり意外とすんなり乗り込めた。そして腕力のある吟子と桂城でオールを漕ぎ、やや沖合近くに出る。そして柳田がジェットのスイッチを押した。
「おおっ! 思ったよりスピードが出る!」
「風が冷たくて気持ちいいね! 爽快感が凄いよ!」
「これ本当に大丈夫? 大丈夫なんだよね!?」
「吟子ちゃ~ん。怖かったらアタシの胸に飛び込んでもいいんだよ~」
「お断りします」
「ただ想像以上のスピードだ。好奇心を満たすのはいいことだけど、頃合いを見て引き返した方がいいかもね」
とりあえず沖合近くをぐるっと一回りして帰還することにした。最初はどうなることかと思っていたが、潮風も心地よくてアトラクションと考えればちょうどいいスリルだ。
ただ、海は一瞬でその姿を変えると言われている。つまりだ、事態は突然急変する。
「波が強くなってきてる。柳田、いったんスクリューを止めるんだ。吟子、桂城、オールを漕いで向きを浜へ向けてくれ」
「はい」「あぁ」
「どうしたのせらりん?」
「い、いや、ジェットのボタンが上手く効かなくて……」
「えぇっ!? 止まらないの!?」
急に波が荒れて来た。ちょうど浜からそこそこ離れたところだったので、ここで飛び降りて泳ぐのは危険だ。
ボートは次第にその波の強さに煽られて向きを変える。しかもジェットが止まっていない影響で、吟子と桂城が漕ぐオールの強さを振り切って別ベクトルへ強制的に進行してしまう。波の強さとジェットの暴走により、ボートの行き先は全くの予想外となってしまった。できるのは精々進路を少しずらすことだけだ。
「あそこだ! あの岩場まで行くぞ! 幸いにも波があっちに流れてる。ボートの向きさえ維持できれば上陸できそうだ」
「泉、オールを波に連れ去られたら私たちあっという間にどざえもんだから!」
「プレッシャーをかけてくれるね吟子! あぁ、任せてくれ!」
「アタシたちは何とかボートを引っ張って、変な方向に向かないようにしよっか」
「うんっ! セラスちゃんも!」
「は、はい……」
みんなが何とかボートの向きを調整してくれたおかげで、俺たちは波に浚われながらも無事に岩に囲まれた入江のような場所に上陸することができた。
ただ問題はこれからだ。
「あぁっ、ボートが! 岩にぶつかった時に穴が開いちゃって、使い物にならなくなっちゃったぁ~……」
「これだと波が収まってもボートで戻ることはできないね……」
「当然携帯も置いてきた。だから救助を呼ぼうにも私たちではどうすることもできない。花帆先輩たちが異変に気付いてくれればいいが……」
「動き回っても仕方ないから、ここで待っておいた方がよさそうだね。体力の消耗を抑えるって意味でも……」
「いや、待っている時間はなさそうだ」
「どういうこと?」
「海面が上がってきてる。満潮の時間が迫ってるんだ」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
まさか仮想世界の海で遭難してしまった俺たち。だが幸いにも浜からはそこまで離れているわけではないので、自力で戻れないかと言われたらそうではない。ただ満潮の時間帯になっているせいか、ここにいては全員が溺れてしまう。だからすぐに帰還ルートを見つけないと、留まるのはあまりにも危険だ。まさに絶体絶命の状況に身を置かれてしまったか……。
仮想世界によるゲームなのか、それとも現実を模しているから本当に遭難してしまったのか。
どちらにせよ、俺たちは無事にここから脱出することはできるのか……?
To Be Continued……
新章になるたびにたまにあるアドベンチャー回です。
今回は海で水着キャラを出したいので夏にしましたが、虹ヶ先編以降は夏を舞台にした話って中々できないんですよね。彼が参戦するのは大体が作品ごとの問題事がそれなりに解決した時期になることが多く、キャラ同士の関係も結ばれた状態であることが多いので、どうしてもストーリーが進んだ秋頃になってしまうというわけです。(この章に関しては、セラスと泉が瑞河復活の秋イベントを終わらせた後を想定)そのため夏を題材にした話を描きづらかったのですが、もう面倒なので秋葉さんになんとかして仮想空間にしてもらいました(笑) こういうときにやっぱ便利です!