その他言いたいことはすべて後書きで!
パーティステータス
れい レベル25
HP250 MP100
ほのか レベル25
HP150 MP230
ことり レベル25
HP180 MP150
うみ レベル25
HP300 MP30
俺たちは海未と穂乃果にやられた希と絵里を真姫のお城に引き渡した後、遂に最後の神殿が眠る場所へとやって来たのだが――――
「あっちぃ~~!!いくらゲームの世界だからって、気温まで現実のものにしなくてもいいだろ……」
「もう零君、暑い暑い言わないでよぉ~……余計に暑くなっちゃうじゃん」
あちこちから流れ出す大量の溶岩。その熱気のせいで目の前の視界すらも大きく揺らめく。
現在俺たちがいるのは火山の内部、その途中で休憩をしていた。そうは言っても、この暑さでは休憩どころかじっとしているだけで体力が奪われてしまう。ゲームシステム上のHPは余っているものの、このままでは目的地に着く前に俺たちの精神が焼き払われるぞ……。
「零くんの頭、熱いです……」
「俺の頭に乗るのはやめとけ。こんがりと妖精の丸焼きになるぞ」
「うっ……縁起でもないこと言わないでくださいよ」
でも亜里沙の丸焼きか……美味しそうだな。また一緒にプールや海に行った時にでも食べてもいいか拝み倒してみるか、亜里沙だったら承諾してくれそうだし。日焼けした太もも、ふくらはぎ、二の腕、耳たぶ、頬っぺ……こうしてみると女の子って食べ処がたくさんあるな。
「全く、この程度で音を上げるとは情けないですね」
「水着着てる奴に言われたくねぇな」
「鎧です!!でもこの破廉恥な鎧が役に立つ時が来るとは思ってもいませんでしたけど……」
もうちょっとやそっとのことでは恥ずかしがらなくなってきたな。初めはビキニアーマーを着ていることに触れただけでも、顔を真っ赤にして物の陰に隠れていたものだ。もしかして意外と気に入ってるんじゃないのか……?
強がってはいるが暑いことには変わりはないようで、俺たち同様目に見えるくらいの大量の汗をかいている。その汗が海未のうなじや太ももをなぞって垂れるのが堪らなくエロい。そしてその汗を拭う仕草もまた男の欲求を高ぶらせる。本当に海未は行動の1つ1つが絵になるな。
こんな鍋の具材のようになっている状況でも、相変わらず平常運転なんだな俺の脳みそは。自分で自分を褒め称えたいくらいだ。
「もう脱いでもいいかな……」
「ぬ、脱ぐだと!?ことり!!お前いくら野外だと言っても、火山プレイは難易度高すぎるだろ!?」
「これだけ暑かったら必然的に服を脱いじゃうから、いきなり本番ができちゃうよ」
「な、なるほど……じゃあ海未みたいに服をすぐ脱いでくれそうにない女の子を連れ込めば――――」
「ガードの固い子でもすぐににゃんにゃんできちゃうね♪」
「天才だなことり!!」
「えへへ♪」
「あなたたち、どんな状況でもブレないですね……」
ブレないというよりかは、ピンク色の妄想で暑さを紛らわせないと精神力を保っていられなくなる。
このゲームでの妄想はそのまま魔力に直結するから、魔法を使うプレイヤーは常日頃からの妄想力が物を言う。ここで欲求を高めておけば高めておくほど四天王戦も有利になるという訳だ。
「ほら、もう行きますよ。こんな溶岩地帯のド真ん中で休憩する方が疲れます」
「確かにそうだけどぉ~……零君♪穂乃果をおんぶして♪」
「可愛く言っても断る。誰が好き好んで暑苦しい思いをするかっての。湯たんぽを背負うようなものだぞ」
「ぶぅ~」
「じゃあことりをおんぶして♪おねがぁ~い♪」
「ヤダよ」
「!!!!!!!!!!!」
俺がことりの申し出を断った瞬間、火山の暑さを忘れさせるくらい周りの空気が凍りついた。ことりは目を見開いて、俺を絶望の篭った目線で見つめてくる。その眼球は小刻みにプルプルと震えていた。
ことりがこんな表情をするなんて……俺、何かマズイことでも言ったか?穂乃果たちもあんぐりと口を開いて驚いている。
「れ、零くんにことりのお願いが効かないなんて……そんな、そんな!!」
「零君……まさか偽物!?」
「この暑さで頭が狂ってしまったとか……」
「本物の零くんを返してください!!」
「失礼だなお前ら!!」
ことりは地面に手と膝を突いて哀愁漂う雰囲気を醸し出している。他の奴らもここぞとばかりに彼氏を偽物扱いしやがって……それに亜里沙まで。俺をいつまでも同じ手にやられる軽い男だと思ってもらっては困る。
でも……まさかことりがここまで落ち込んでしまうとは。俺が悪くないとはいえ心が痛むな。
「うぅ……」
「こ、ことり。その~悪かっ――――」
「これからどうやって零くんに洋服奢ってもらおうかな……」
「…………あ゛?」
「あっ!!今のなし今のなし!!きっと空耳か何かだよ♪」
「嘘つけ!!どう聞いてもマジトーンだったぞ!!俺の心配返せゴルァ!!」
「ひ~ん!!ゴメンなさ~い!!」
この前ことりが男を簡単に騙せそうと言ったが、まさか俺で実践されていたとは!?女の子と付き合うには甘い誘惑に負けない鋼の精神が必要だということか。ことりは彼女だから多少はいいんだけどさ……。
「零君ズルいよ!!ことりちゃんだけに服奢ってたの!?穂乃果の時は『自分で買え』ってうるさかったのに!!」
「うっ!!俺のお財布事情も考えてくれよ。そんなことを言ったら全員に奢らないといけなくなるだろ……」
「零君……」
「あ゛ぁああああもう分かったよ!!分かったからそんな悲愴感漂う目で見るな!!」
「やった♪ありがとう零君!!」
「はいはいどういたしまして……」
くぅ~~ズルい!!やっぱり俺、μ'sのみんなには勝てねぇのかな……特に穂乃果やことりのワガママは、何だかんだ言って最終的には聞いてしまう。俺が2人の扱いに慣れてきたのと同時に、穂乃果とことりも俺の扱いに長けてきたがった。
「そんな話はこのゲームをクリアしてからでもいいでしょう。早く行きますよ」
「そうだな。叫んだせいで余計疲れたけど……」
「それでは行きましょう!!最後の神殿は目の前ですよ!!」
「やけに張り切ってるな、亜里沙」
「へっ?げ、ゲームってあまりやったことなかったのですが、実際に体験してみると楽しいですね♪」
「あ、あぁそうだな」
なんかさっき亜里沙の反応、少しおかしくなかったか……?どこか咄嗟に考えた言い訳のような口調に……気のせいか。
そして俺たちはそこからはノンストップで神殿へと向かった。ここまで楽をしてきたせいで、俺たちのレベルは終盤のダンジョンにそぐわないのだが、穂乃果とことりの妄想力が爆発したおかげでむしろ今まで以上にサクサク進むことができた。まさにエロは世界を救う、だな。
~※~
「着いたね……ここが最後の神殿」
「火山の中にあるだけあって、かなり雰囲気出てるね……」
「でもどうやってここに神殿を建てたのでしょう?」
「そこはツッコんではならないところだぞ……」
ゲーム世界の事象にいちいちツッコんでいたらこっちがもたないぞ。例えばRPGには仰々しい姿のモンスターがたくさんいるが、そいつら私生活しづらそうとか、プレイヤーが家のタンスを勝手に開けても怒らないNPCとか、挙げてたらキリがない。
「まあいい、入るぞ」
俺は神殿の扉に手を掛けゆっくりと開く。ギィィと年季の入った扉特有の音と共に、遂に神殿内に侵入する。
神殿に入ってまず感じたことは、火山の中に建てられているのにも関わらず内部は暑いどころかかなり涼しい。怪しい妖気が立ち込めているせいなのか、俺たちが緊張して暑さを忘れているせいなのかもしれないが……。
穂乃果たちも先ほどの茶番の時のテンションとは違い、真剣な面持ちで神殿内を一歩一歩重い足取りで進んでいた。俺を先頭に、何故か今更RPGのパーティのように一列に並んで……。
そして俺たちが神殿に入って数歩歩いたその時だった――――
「な、なに!?」
「び、ビックリしたぁ~!!」
「後ろから音が!?」
「と、扉が勝手に閉まった……?」
俺、穂乃果、ことり、海未の4人は咄嗟に後ろを振り向く。そこには開けっ放しにしておいた神殿の扉が完全に施錠されていた。もちろん扉が閉まっていたことにも驚いたのだが、それよりも俺たちが驚いたのは神殿に入る前は小さい妖精の姿だった亜里沙が、入口の前に等身大で立っていたことだ。
「あ、亜里沙?お前どうして元の姿に……?」
「フフフフ……妖精というのは仮の姿です。本当の姿は、この神殿を守る四天王だったのですよ!!」
「な、なんだって!?」
亜里沙は妖精の姿から普通の人間へ、そして人間からヴァンパイアへと姿を変えた。
黒のタキシードに黒のマント、そして黒のシルクハット、耳は尖っており、口元からニョキッと牙が出てヴァンパイアの雰囲気としては申し分ない。だが亜里沙はどこまでいっても亜里沙、可愛さだけはしっかりと残っているので自然と怖さは感じられない。むしろ愛くるしくて抱き枕にしたいまである。
「ふっふっふっ、初めからこういう算段だったのですよ!!皆さんを騙してここへ閉じ込めるために、妖精の姿で誘導していたのです!!」
「『ふっふっふっ』とか……可愛いこと言うな」
「か、可愛い!?私はヴァンパイアなのです!!もっと怖がってください!!」
亜里沙は腕をブンブンと振りながら必死に俺たちを怖がらそうとしているが、どう足掻こうが子供のお遊戯回を見ているかのようでほっこりする。穂乃果たちも暖かい目でのほほんとした表情をしていた。
「亜里沙ちゃん、可愛いねぇ~♪ことりと零くんの子供にならない?」
「それだったら穂乃果と零君の子供でもあるよね!!」
「で、でしたら私と零の間の子供でも……」
「なんでそんな話になってるんですか!?私は四天王なんですけど!?」
「お前が可愛いのが悪い」
「うぅぅぅぅぅぅ!!」
頬っぺをふくらませ、顔を真っ赤にしてしかも涙目ときた。この表情に怖さを感じろと言う方が無理だろ。でもにこのようにあざとさMAXだったら容赦なく切り捨てられるのだが、こうも天然の可愛さというものは相手にしづらい。もしかしたら今までで一番の難敵になるかも……。
「怯んじゃダメだよ亜里沙。あなたはこんなところで立ち止まるにんげ……いやいやヴァンパイアじゃない!!お兄ちゃんたちを倒して、世界を我が一族の物に!!」
「次から次へと一体なんなんだ!?」
いつの間にか神殿の祭壇に、ド派手な赤いマントに身を包んだ女の子が突っ立っていた。
ソイツの顔を見なくとも分かる。俺のことを"お兄ちゃん"と呼ぶのは、人類未踏の地を探し回ったとしても世界中でただ1人。
「か、楓!?」
「嘘……じゃあ楓ちゃんまで穂乃果たちの敵!?」
「そうですよ。まさかここまで来られるとは思ってもみませんでしたけど」
「で、でも亜里沙が四天王の4人目ですよね!?それだったら楓はどの役割に……」
「フッ、私こそがこの世界を統べる者。つまりこのゲームのラストボスなんですよ!!」
「な、なにィ!?」
なんとなぁ~く想像していなくはなかったのだが、まさか本当に予想が当たっているとは……予想通りで驚いたというべきか、秋葉制作のゲームだからこれは妥当だと思うべきなのか。そんなものはどちらにせよ、このゲームをクリアするためには乗り越えなければならない壁だということは確かだ。
「私だけじゃないよ勇者諸君。もう1人、最後の四天王もこの神殿にいるんだけどね」
「何人四天王いるんだよ!?最後って、ソイツが来たら5人目だろ」
「四天王が4人だけとは誰も言ってないからね♪」
「ガキみてぇな屁理屈言いやがって……」
この神殿に侵入してからというものの、シリアスな空気ってものが一切存在しない。しかもラストダンジョンでもないのにラスボスが自らお出ましになる始末。神殿に突入する前の俺たちの緊張感を返してくれ!!
「でも5人目の四天王って一体……」
「穂乃果せんぱぁ~い、あなたに縁のある人物ですよ」
「ほ、穂乃果に!?まだ登場していないμ'sのメンバーって――――――あっ!!まさか!!」
「ですです♪それではご登場願いましょ~♪」
楓がパチンと指を鳴らすと、突然天井が2つに開いた。その瞬間、天井裏で渦巻いていたと思われる闇の瘴気が一気に神殿内へ吹き出す。同時に1つの人影が闇の瘴気の中から俺へ向かって落ちてくることに気が付く。だが、気付いた時には既に遅く、俺は受身の耐性を取ることだけで精一杯だった。
「れ~い~く~ん!!」
「ゆ、雪穂!?ちょっ、こっちに向かって落ちて――――――ぐばぁ!!」
「れ、零君大丈夫!?ゆ、雪穂どうしちゃったの!?」
俺へ向かって落ちてきたのは、恐らく四天王の最後の1人である雪穂だ。懐に思いっきりダイブされた衝撃で、一瞬正気を失ってしまったが雪穂のいつもとは異なる表情を見て立ち直る。
こ、コイツ……酒くさっ!!!!目もトロンと垂れてるし、呂律も回っていない。
「雪穂……まさか、酔っているのですか?」
「そうみたいだ……」
「えへへぇ~~零く~~ん♪」
「お、おい雪穂……」
普段の雪穂なら俺に抱きつくなんて奇行、絶対にやりたがらないはずだ。だが今の雪穂は身体の全体を押し付けるように俺の身体に抱きついてくる。いや、抱きついてくるというよりも絡みついてくるというのが正解か。高坂姉妹特有の和菓子屋の落ち着く匂いはいいのだが、同時に酒の匂いがプンプンするせいですべて台無しだ。
「さぁお兄ちゃんたち!!戦闘開始だよ!!」
「こ、この状態で!?」
『四天王のありさとゆきほ、魔王のかえでが現れた!!』
ありさ
HP∞
ゆきほ
HP∞
かえで
HP∞
………………は?
はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?
「む、無限って……あの無限ですよね?」
「え、HP無限って……これじゃあことりたちに勝目ないよ!?」
「穂乃果たちがいくら妄想しても無理ってこと!?」
「そうです!!先輩たちがどれだけえっちぃ妄想をしようと、私たちに傷1つ付けることはできないのですよ!!」
「そ、そんなぁ~……」
これはいわゆる負けイベントって奴か……?魔王と四天王2人が同時に現れて戦うなんて普通だと有り得ないことだ。でも俺たちが体験しているのは有り得ないRPG。この戦闘もにこ戦のように頭をフル回転させれば勝てるのか……?
「迷ってるねぇ~お兄ちゃん。しょうがないから、お兄ちゃんたちがこの戦闘に勝利する方法を教えてあげるよ」
「な、なんだって……どうしてそんなことを」
「フフフ……私たちが一方的でも面白くないからね。でもお兄ちゃんたち、いや、お兄ちゃんにしかできないことだけど」
「俺にしかできない、だと……」
楓は口角上がった憎たらしい笑顔で、祭壇から俺たちを悠々と見下す。その表情の陰に秋葉の殴り飛ばしたくなる笑顔もちらついて余計に苛立つ。
だが亜里沙は楓とは真逆で、顔を赤面させて俯いてばかりだ。さっきまでの威勢はどうした……?
雪穂は相変わらず俺の胸に頬を擦り付け、甘く酔った声で『零君零君』と俺の名前を連呼するだけだ。正直こんな状況でなければ、俺の理性が崩壊して雪穂の純潔はとっくの昔に失われていたぞ。
「そ、それは一体……」
「フフフ……それはねぇ~……」
楓は一呼吸置いて、再び口を開く。
今まで理不尽な戦闘を何度も切り抜けてきたんだ。今更どんなことを無茶なことを言われても驚かない――――――
「私たちとキス……」
「は…………?」
そう思っていたのはほんの僅かな間だけだった。穂乃果たちも口を開けたまま呆然と立ち尽くしている。
き、キス……?俺が楓たちと……?
「ま、待て、俺とお前は兄妹だぞ……?」
「どうせ将来男と女の関係になるんだから、今キスしたって問題ないでしょ」
「問題大ありだ!!」
「雪穂と亜里沙は兄妹じゃないでしょ?」
「そうだけど、2人共恋人ではない。そんなことできる訳が――――」
「いいですよ、私は」
「なに……」
今まで俯いていた亜里沙は顔を上げ、真剣な面持ちで真っ直ぐと俺の目を見つめてきた。決意を固めたその眼差しに、いつものおっとりとした雰囲気はない。
「元々、そのつもりでこのゲームを始めましたから」
「元々……そうか、秋葉だけじゃなくて、亜里沙も楓も雪穂もグルだったって訳か」
「雪穂も……?」
「あぁ、雪穂が楓たちのこんな提案に乗るとは思えない。コイツを酔わせたのは判断力を鈍らせるためか。自分たちがキスしたいからって、お前らよくも雪穂にこんなことを――――」
「そ、それは!!」
「それは違うよ、零君」
「ゆ、雪穂……!?」
突然俺に抱きついていた雪穂が口を開く。その声は先程までの呂律が回っていない声ではなく、いつも通りの声に戻っていた。酔いのせいでまだ顔は赤いようだが、正気は保っているようだ。
「違うって?」
「これは私から頼んだことなんだ。私って楓や亜里沙みたいに素直になれないから、こうしないと零君に甘えることもできない……」
「雪穂……」
「楓と亜里沙が零君のことを好きだってことは知ってるでしょ?それも友達としての意味じゃなくて、1人の男性として」
「あ、あぁ……」
「だから協力してあげたかったんだ。私が素直になれば零君も心が揺れ動いて、何か進展するかも……ってね」
雪穂は自己主張の激しい楓や何事にも前向きな亜里沙とは違ってかなりの引っ込み思案だ。そんな自分が素直になることによって俺の心を揺れ動かし、その反動で俺に楓と亜里沙の心とも向き合うよう仕向けたのか。しかもキスしないとゲームがクリア不可能という初回限定特典まで付けて……。
そこで亜里沙と楓が一歩前へ出る。
「私、零くんのことが好きです。お姉ちゃんたちのようにあなたの隣で、ずっと笑顔でいたい……」
「私も同じ。家ではいつも一緒にいるけど、それは兄妹としてだから…………もう一歩だけでもいい、私はその先へ進みたい」
「だから、キスをするのか……?」
「ここはゲームの世界。現実世界じゃないけど、見て触れることのできるものはすべて現実世界のような感触を味わえる。それだったらキスも、現実世界と同じ感触でできるでしょ?」
街も草原も森も海も火山も、まさに現実世界にいるかのようだった。自分の脳がこの虚構の世界を現実世界と間違って認識してしまうほどに。楓たちはゲーム世界だからキスしてもいいと、そう思っているらしい。
「私たちもお姉ちゃんたちと同じ愛を受け取りたいのです。あなたの暖かな愛を、この胸に……」
「私はまだ迷いがありますけど、でも楓と亜里沙の気持ちは本気です!!私のことは構いませんから2人には……」
「お兄ちゃん……」
「ダメだ」
「「「え……?」」」
楓たちは声を揃えて同時に驚く。
だが穂乃果、ことり、海未の3人は黙ったままだ。もしかしたら俺の答えが3人には分かっていたのかもしれない。
「だ、ダメって……どういうことお兄ちゃん!!」
「そのまんまだよ。お前らがゲームの世界だからキスしていいと思ってるのなら尚更だ。むしろ、ゲームの世界だからこそお前たちとこんなことはしたくない」
「零くん……」
「俺は決めてたんだよ。お前たちとキスするなら、お互いの気持ちを隅々まで知って、本気で好きになった時ってな」
「そ、それじゃあ……」
「そう、俺はまだお前たちの知らないところがたくさんある。半端な気持ちで女の子の恋心に近付くことが、どれだけの惨事を生むのかを俺は知っているんだ。だからもしこのゲームをクリアできなくとも、俺たちがこの世界から脱出できなかろうと、お前たちとキスはしない。絶対にな」
1年前、半端な気持ちで穂乃果たち9人の心に踏み込んでしまったが故に起きてしまった惨事。一寸先は闇、まさにそんな状況だった。一歩でも道を踏み外したら、今のμ'sは存在していなかっただろう。だからすべてが解決した時に誓ったんだ、もうあんな事態を引き起こす訳にはいかないと。
だが慎重になり過ぎてしまったがために、楓たちの心から離れ過ぎてしまい悩みを募らせてしまったこともあった。しかしそれも同棲生活中に新たな決意を立てることで払拭できたんだ。
そんなことがあったからこそ、こんな虚構の世界で中途半端な愛を捧げることなんて、できるはずもない。
「急がなくてもいい。俺はいつでもお前たちの隣にいる。だからもっとお前たちを見せてくれ。俺もお前たちにもっと好きになってもらえるよう、頑張っていい男アピールするからさ」
俺は楓たちの頭を順番に撫でる。もう3人の心は落ち着いたみたいで、目を瞑って気持ちよさそうに愛撫に浸っていた。
そして俺には聞こえなかったが、後ろでは穂乃果たち3人がこんな会話をしていたらしい。
「零君は本当に零君だね」
「支離滅裂ですが、自然とその言葉の意味が分かってしまいます」
「そうだね、なんとなくだけど。でもそれがことりたちの零くんらしいよ」
これですべて解決!!――――とはなっていない。さてはてここのゲームをどうやってクリアしようか……?ラスボスへの唯一の勝ち筋を自分で消してしまった訳だが、もしかしたらこのままこのゲーム世界で結婚式を挙げてハネムーンまでするはめに――――!?
「こ、これは!?」
「な、なにこの光!?」
「か、身体が……!!」
突然目の前にメッセージボックスが表示される。だがその瞬間、俺たちの身体が光に包まれ声を上げる暇もなく飲み込まれてしまった。一瞬だが、チラリと目に入ったメッセージボックスに書かれていた文字はこれだ。
『ゲームクリアおめでとう!!』
~※~
「ん……こ、ここは?」
目を覚ますと、そこは大学の教室だった。周りには穂乃果たちμ'sメンバー全員が気持ちよさそうに眠っている。どうやらRPGの世界から帰ってこられたみたいだな。
「おはよう零君♪お疲れ様ぁ~♪」
「秋葉か……」
「ありゃ?テンション低いねぇ~」
「本当はここに戻ってきたら地獄の底に送り込んでやるつもりだったけど、今はそんな気持ちじゃない」
正直に言って、そこまで悪い旅ではなかったとはコイツの前で口が裂けても言えない。穂乃果たちと一緒にRPGを体験できたことや、海未たちの際どいコスプレを見られたこと、そして雪穂と亜里沙、楓の心にまた一歩近付けたこと、むしろ旅ができて良かったと思える。
「聞きたいことが2つある」
「はいはい言ってみそ」
「俺はともかく、どうして穂乃果たちまでゲームに?楓たちの頼みを聞いてこのゲームを開発したんだろ?それだったら穂乃果たちは必要なかったはずだ」
「いや、このゲームは楓ちゃんたちに利用してもらっただけで、元々一般向けに開発してたものだから、そのデバッグも兼ねてたんだよ」
「なるほど……」
「それで、ゲームの出来具合は?」
「ツッコミどころしかなかったからまた後で言うよ」
黄金米おにぎり、激辛スパイスラーメン、壊れたカンテラとの融合、妄想力が物を言う魔力、適当なボス戦……挙げればキリがない。新感覚RPGとして話題になるか、早々にクソゲーのレッテルを貼られるのかどちらかだろうな。
「もう1つ。どうしてあそこでゲームクリアにした?まだラスボスは倒してなかっただろ」
「ラスボスのHPを0にしろだなんて誰も言ってないからね♪」
「お前も楓みたいな屁理屈を……」
「結局零君がラスボスである楓ちゃんを手篭めにしたんだから、それでいいでしょ♪」
「妹を手篭めにするとか言うなよ……」
そこで俺はふと、楓たちの寝顔を見てみた。3人共いい笑顔でぐっすりと眠っている。さぞかしいい夢でも見ているだろう。もしかしたら俺と一緒にいる夢でも見ているのかもしれない。
でもいつか夢ではなく、この現実の世界で恋人同士になれる、そんな時が来るといいな。
「おーおー憎いねモテ男♪」
「頭をガシガシすんな」
それに暴れたらコイツら起きちまうだろ!!全員の寝顔写真フォルダを更新するため、今から1人20枚ほど写真を撮らないといけないのに!!
だがそこで、秋葉の頭ガシガシ攻撃が急に収まった。
秋葉は真っ直ぐと俺の瞳を見つめる。
「…………しっかりと、向き合ってあげなさい」
そんなこと、言われなくてももう決まっている。
「当たり前だろ。絶対に幸せにしてやるからな」
――――と、俺は3人の寝顔を見ながら呟いた。
キスすると思いました?
そんな訳でラブライブクエスト編、通称らぶくえ編はこれにて終了です。初めはとあるラ!作家仲間の呟きを拾って、「適当に書いてみるかぁ」みたいな軽いノリだったのですが、書き始めてみるととても楽しかったです!
今までの『日常』『新日常』になかった雰囲気とストーリーだったので、かなり新鮮さを味わえました。たまにスパイスとしてこのような非現実的な話もいいかもしれませんね。
今回唐突に入ってきた1年生組との恋愛展開ですが、そろそろ何か進展させなければならないと思いつつ、あまりその手の話が構想できていなかったので思い切って今回らぶくえ編にぶっこみました。本当は海未ちゃんのくっころ展開が書きたかっただけなんですけどね(笑)
そして「らぶくえ編つまんねぇよ!!」という方も、「らぶくえ編面白かったよ!!」という方もお待たせしました、次回からいつも通りに戻ります。今回初めての長編だったので、らぶくえ編を書いている期間にらぶくえ編終了後に書きたいネタが出てくること出てくること!!
やっぱり自分は短編集が似合います(笑)
~次回からの予定(順番は未定、没の可能性アリ)~
『ツンデレでも恋がしたい!!』
真姫視点。人がいる部室で容赦なくイチャつく零君とにこを見た真姫は……
『凛の冒険』
凛視点。零君と花陽が何やら2人でコソコソと。調査隊凛が動き出す!
『愛妻キャラのμ's』
妹キャラ、子犬キャラに続き第三弾。○○キャラシリーズ。
『のぞえり回(タイトル未定)』
とりあえずこの2人と零君を絡ませたいというところまで構想中。
『コラボ回(タイトル未定)』
もうネタは決まっているので、あとは書くだけ。
遅れましたが、感想が遂に700件を突破しました。『新日常』を始めた当初からほぼ毎回感想をくださる方もいらっしゃるので大変嬉しいです!ありがとうございます!
一時期毎回感想を書いてくださった方もたくさんいらっしゃったのですが、その方はまだこの小説を読んでくれているのでしょうか……?いらっしゃいましたらこの機会(77話記念)に是非もう一度お声を聞きたいものです。まだやってたのか!?と言われるかもしれませんね(笑)
また評価ももう少しで60件に達しようとしています。この夏休み中にたくさんの方に読んでもらったようで、たくさんの高評価を頂きました。こちらもありがとうございます!
これからはらぶくえ編で足りなかったエロ成分全開で頑張ります!もう普通の恋愛であってもエロがないと満足できない体質なので(笑)
Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia