今回は金に目と欲が眩んだμ'sのお話。
ちなみに登場人物は3年生組であることほのうみを除いた10人。しかも部室に全員集合状態なので、誰が喋っているのかは皆さんの妄想力に委ねられます!(笑)
ではどうぞ!
「秋になったとはいえ、まだまだ暑いな……特に屋上掃除は」
笹原先生からの1週間屋上掃除命令と、海未から穂乃果とことりへの1週間禁欲命令から2日が経過した。
屋上掃除に関しては夏より多少涼しくなったとは言えども、そこそこ広い屋上を掃除するのはかなり大変であり、しかもその間ずっと太陽の日に照らされるので、半袖半ズボン+タオル+水分は秋になってもまだまだ必須のアイテムだ。正直な話、俺たち4人にとって屋上掃除の罰など日常茶飯事なので、今更文句を垂らすこともないしする気もない。
問題は穂乃果とことり、あの2人だ。
流石に2日程度なら我慢できると俺も海未も思っていたのだが、目論見は見事に外れた。
登校中も、授業中も、昼飯の時も、掃除も、生徒会業務も、魂が抜けたように呆然としていた。普段とキャラが違いすぎて、クラスメイトからも驚愕されるレベル。休み時間には海未にバレないよう欲求不満を改善するため、こっそり俺を校舎裏に連れ去るほどだ。
見るに見兼ねた海未は、勉学や生徒会業務に支障が出ることを最大の危機として捉え、1週間の禁欲期間を2日に縮めた。今はまだ耐えられなくても、徐々に禁欲期間を伸ばしていった方がアイツらの効率的にも精神的にも都合がいいしな。
結局俺の予想通り、2日も持たなかった訳だ。でもアイツらが放心状態になるのも分かるよ。俺だって毎日してるもん。あっ、野郎の回数なんていらない情報だったか。
近況報告は以上。どのみち穂乃果とことりの地獄が先延ばしになっただけなのだが……。
穂乃果たち3人はしばらく生徒会業務に従事するということで、俺は1人で部室に向かっている。ただでさえ屋上掃除で時間を奪われたのに、これ以上遅れると絵里たちが大学から来ちまうぞ。
急ぎ気味で部室に入ると、そこには2年生組と1年生組が既に集まっていた。何やら埃の被ったダンボールを出して――――
「お~っす、何してんだ?部室が埃臭いんだが……」
「あっ、お兄ちゃんいいところに!!このダンボール、部室の物置から見つかったんだけど誰のか分かる?」
「ダンボール?知らねぇな」
そもそもこのアイドル研究部の部室に置いてあったモノって、一度3月ににこが全部持って帰らなかったっけ?だったらにこのモノなんじゃねぇのか……?
「それにしても物置か、そういやそんなのもあったなぁ~。話題にすら上がらないから忘れてたよ。誰にも見向きもされなかったら、そりゃあ埃も溜まるわな」
「去年の大掃除はみんなが遊び過ぎて、結局部室と更衣室しか掃除しなかったものね」
「真姫も一緒に凛と騒いでただろうが」
「去年の大掃除かぁ~懐かしいにゃ~♪あの時の涼しさが恋しいよ」
去年の年末に、寒さに耐えながら部室の大掃除をしたっけ。あの時はGが出て阿鼻叫喚の図になっていたり、校舎内に誰もいないのをいいことに追いかけっこをしていたりと散々だったな。真姫の言った通り、ふざけていたせいで時間が押してしまい、物置だけは掃除ができなかったんだ。
「それにしてもどうして急に物置を漁ったりしたんだ、花陽?」
「新しくμ'sを結成してから、また部室にモノが増えてきたからそろそろ掃除をしようと思ってたんだ。それだったら去年できなかった物置の掃除もしようかなぁ~って。部長として、部室を清潔に保つのも私の役目だから」
「部長?あぁ、そういやお前ってアイドル研究部の部長なんだっけか。忘れてた」
「えぇ!?それはヒドイよぉ~!?」
今の今まで花陽が部長らしいことしてきたっけ?そもそも部長と公言していたのかすらも怪しいが。もしかして、始めて"部長"という肩書きを発揮した瞬間なのかもしれない。生徒会の部活会議には参加してるらしいけど、俺行ったことないから。
「とにかく、この中に何が入っているのか確かめましょう!!こうやって物置の奥にある得体の知れないモノを開封していくのって、とてもワクワクします!!」
「なんだ亜里沙、お前そんな冒険心に満ち溢れている奴だったっけ?」
「いつものことですよ。音ノ木坂やUTXのオープンキャンパスの時なんて、校舎の隅々まで引っ張り回されましたし」
「去年から苦労してんだな、雪穂……」
亜里沙は目を輝かせながらダンボールの口に手を掛けている。
何でもかんでも興味を持つのは結構なことだが、亜里沙ってどこか危なっかしいからハラハラするんだよな。怪しい男についていかないよう、お兄さんが守ってやらないと。
すると部室のドアが突然開いて、ダンボールに集中していた俺たちの胸が少しドキッと音を立てた。
「こんにちは、みんな揃ってる?」
「穂乃果ちゃんたちは……生徒会みたいやね」
「全くそんなもの、にこたちが来る前に終わらせておきなさいよ」
ここで大学生組のお出ましか。生憎だが今日全員が集合するのはもっと後になると思うぞ。教室で淫語を連発し過ぎて、その罰で屋上掃除をしてました~なんて恥ずかしくて言える訳ねぇな。
「あっ、そのダンボール!!まだあったんだ」
「にこちゃんこのダンボールの中身を知ってるの?」
「いや、知らないわ」
「どっちなんだよ……」
「存在自体は知ってたけど、中身までは知らないのよね。にこがこの部室に入り浸っていた時には既にあったものだし」
「そんな前からあったのかよ……まあいいや、とりあえず開けてみようぜ」
「私が開けます!!」
絵里たちに事のあらましを伝え終え、1人だけやけにハイテンションの亜里沙がダンボールの口を勢いよく開ける。
大きなダンボールだからどれだけ大きい荷物が入っているのかと思いきや、工具や小さな部品らしきものがたくさん入っているだけだった。
「なにこれ?もっと面白いものだと思ってたのに、ガラクタばかりでつまんないにゃ~」
「なにかの工具みたいやけど、見たことのない形のモノばかり……」
「ペンチとかやすりとかもあるけど、昔のアイドル研究部って何をしていたのかしら……?」
工具や部品と言っても、俺たちにとっては見慣れないものばかりだ。凛の言う通り、このままだとただのガラクタの集合にしか見えない。でもわざわざ物置の奥に大切そうに保管してあったということは、それなりに価値の高いものである可能性もあるな。
ダンボールの中身を取り出していくと、底の方に大きな黒い物体が見えた。
俺たちはその物体以外の工具や部品らしきものを全て机の上に並べ、ダンボールの底一杯を占める黒い物体を引っ張り出す。
「これってもしかして、ギターケースなんじゃないですか?」
「ギターにしては小さすぎるんじゃない?お兄ちゃん、これってもしかして――――」
「あぁ、ギターじゃなかったら恐らく……」
形状的にはギターケースのようだが、大きさはギターケースよりも一回り小さい。更にこのケース、かなり痛んで相当年季を感じられる。ここ3、4年前の……いや、恐らくもっと前からあったに違いない。
俺は適当にケースの埃を拭った後、留め金を外してケースの蓋を持ち上げた。
中に入っていたのは――――
「やっぱりヴァイオリンか。しかもこの古臭さ、かなりアンティークっぽいな」
「弦も痛んでるし、張り替えなきゃ弾けそうにないわね」
「でもどうしてアイドル研究部の物置にヴァイオリンが……?」
「そう言えば私が生徒会長をやってた頃に、昔の部活リストを見つけて眺めていたことがあったんだけど、その中にヴァイオリン部があったわ。中々オシャレな名前をしているから、印象に残ってるよね」
「じゃあこれはそのヴァイオリン部の部員か顧問の私物なのか……?」
「あれ?ケースの中に紙がありますけど……」
雪穂はバイオリンの下敷きになっていた、ヨレヨレでシワシワになっている2つ折りの紙を取り出した。そこには学年と出席番号と思われる数字と、名前が英字の筆記体で書かれているみたいだ。
「えぇ~と、これなんて読むんだろう……お願い楓!!」
「なになに……Autumn Leaf?"秋"と"葉"ってことだよね?あっ……このヴァイオリン、お姉ちゃんのだ!!」
「えぇっ!?秋葉さんのものだったのォ!?」
「どうして先輩のヴァイオリンが物置にあるのよ……そもそもヴァイオリン部だったっていうのが意外だわ」
「アイツがヴァイオリンを弾いてるところなんて見たことないんだけどな……とりあえず電話して聞いてみるか」
このまま、『ヴァイオリンが見つかりました、でも他人のモノなのでどうしたらいいのか分かりません、はいしゅーりょー』では面白くないので、このヴァイオリンの行く末を秋葉に聞くことにした。あの研究バカがヴァイオリンを演奏したことがあるなんて初めて知ったぞ……。
とりあえず秋葉に電話をしてみると、まさかのワンコールで出やがった。暇人かよ!!
『零君?急にどうしたの~?』
「アイドル研究部の物置でヴァイオリンが見つかったんだけど、これお前のだろ?名前が書いてある紙も一緒に入ってたぞ」
『ん?ヴァイオリン……?あっ、そう言えばそんなモノもあったねぇ~。もういらないからそっちで処分しちゃってもいいよ』
「あのなぁ~、処分にも手間が掛かるんだぞ」
『へへっ♪聞いて驚け!!通話をしながらそのヴァイオリンの買取価格を調べたんだけどね、実は――――――』
「え゛っ、ま、マジで!?!?」
秋葉から言い渡された売値は、文字通り目が飛び出るくらいの金額だった。思わず大声を出してしまったため、みんなの肩をビクつかせてしまうほど驚かせてしまったのだが、これは声を上げざるを得ない。
「零君どうしたんかなぁ~?急に顔色が変わったけど……」
「あの零が本気で動揺するなんて珍しいわね……」
「ヴァイオリンを凝視したまま硬直してますよ!?大丈夫ですか零くん!?」
周りは俺のことを好き勝手言っているようだが、どんな言葉も右の耳から左の耳を通り抜けていくため全く頭に入ってこない。秋葉の口から語られた衝撃の真実により、口をあんぐりと開けて固まることしかできなかった。
『それじゃあまたそのヴァイオリン行く末のこと聞かせてね♪バイバ~イ♪』
「あ、あぁ……」
最後はロクに応対もできず、秋葉の言葉をただただ一歩的に聞き入れるだけで通話が終わってしまった。
だがこんな事実を突きつけられたら、誰でもそうなるに決まってんだろ!!
「どうしたんですか?さっきから顔色が優れませんけど……」
「雪穂、みんな……このヴァイオリンだけどな、アイツは俺たちでこいつを売ってきてもいいと言ってきたんだ」
「なによそれ、どうして私たちがわざわざ行かなくちゃならないのよ」
「真姫、聞いて驚くなよ。どうやらこのヴァイオリン……"1000万"で売れるみたいなんだ」
「は…………?」
その瞬間、真姫だけではなくみんなの顔色が変わり、部室全体の空気が凍りつく。『一体この変態バカは何を言っているんだ?とうとう頭がおかしくなったか』みたいな顔で、一斉に俺の顔を凝視したまま動かない。
俺の頭がおかしいのは元々なんだけどな!!――――自分で言ってて虚しくなってきた……それはそれでいいとして、こんな状況で嘘を付くほど、俺は悪魔ではないぞ。
「れ、零。本当ならもう一度言ってくれる?にこたちの聞き間違いかもしれないし……」
「だからこのヴァイオリン……"1000万"で売れるみたいなんだ」
「「「「「「「「「い、いっせんまん~~~~!?!?!?!?」」」」」」」」」
「えぇい!!同時に叫ぶな頭に響く!!」
ただでさえ俺も気が動転しているのに、これ以上脳内に追い討ちを掛けないでくれ!!このままだと確実にショートしちまうから!!俺だって携帯を持っている手が震えて制御できないんだからな!!
「い、いいいいっせんまんって、どんな金額!?ご飯何杯食べられるのかな!?!?」
「GOHANYAで売っている、通常サイズの白米は1杯100円だ。つまり1000万あれば10万杯食べることができる。1日3杯食べるとしても、33333日連続で同じサイクルを繰り返せるから、年単位に換算すると91年、もう一生ご飯には困らないな」
「ぴゃあああああああああああああああああああああああああ!!すごいですすごいですすごいです!!一生ご飯を食べ続けられるなんて夢のようです!!」
花陽のテンションの上がり具合が異常過ぎて、このまま昇天してしまいそうなんだが……眼が完全にイっちまってるぞ!?飲酒して酔ったらこんなテンションになるのか……?今までご飯やアイドル関係のことでテンション爆上げになることはよくあったが、ここまで暴走するのは後にも先にももうないだろうな……。
「ねぇねぇ零くん!!ラーメンは!?ラーメンはどれだけ食べられるの!?凛たちがよく行く店で一番豪華な、こってり豚骨チャーシュー麺温玉付きはどうなの!?」
「確かそのラーメンは900円ぐらいだったから、1000万あれば11111杯。つまり1日1杯のペースだと11111日、年換算で30年といったところだな」
「にゃぁああああああああああああああああ!?!?30年もあの豪華ラーメンを食べることができるの!?今まで高くてあまり手が出せなかったけど、これからは毎日食べに行くにゃ~♪」
そんなこってりとしたラーメンを毎日食べてたら、30年に到達する前に高血圧で死んじまいそうだな。でも今の凛ははぁはぁと吐息が荒くなるほど興奮していて、俺の忠告など聞く耳持たないだろう。もうこれからずっとラーメン漬け生活を送るつもりだ、コイツ……。
「お前は冷静なんだな、真姫」
「まあ1000万のヴァイオリンなんて家にもあるし。さっき驚いたのは、この部室からこれだけ高価なヴァイオリンが発見されるとは思わなかったからよ」
「今だけはその余裕の表情が羨ましく見える」
「今だけはってどういうことよ!?今だけはって!?」
流石はお嬢様と言うべきなのか、真姫は腕と脚を組んで座りながら、暴走する俺たちを呆れた目で眺めている。そういや真姫の家のピアノも相当なお値段とお聞きしたことがあるな……100万の楽器でも恐れ多くて触れられないのに、1000万の楽器ともなれば俺の穢れた目で見ることすらも申し訳なくなってくる。
「「ハ、ハッ、ハラ、ハラ…………ハラショーーーー!!!!」」
「はい久々のWハラショー頂きましたぁ~」
「お、お姉ちゃん!!れ、零くん!!い、いっせんまんですよいっせんまん!!」
「お、落ち着きなさい亜里沙!!こ、こんなことで由緒正しき絢瀬の家系の人間が動揺しちゃ、だ、ダメなんだから!!あ、絢瀬たるもの、つ、常に優雅であるべきなのよ!!」
「で、でもいっせんまんあればどんなモノでも買えちゃうんだよ!?お姉ちゃんが大好きなチョコレートだって……!!」
「ハッ!!それは盲点だったわ!!」
「おいお前ら……」
「「ハ、ハッ、ハラ、ハラ…………ハラショーーーー!!!!」」
「もういいって!!2回もハラショーはいらん!!」
なにが絢瀬は常に優雅であるべきだよ……2人共ただのポンコツじゃねぇか!!絵里に関しては、こんな生徒会長でよく今まで学院の秩序が守れていたな!?今のコイツを見ていると、まだ穂乃果の方がマシに見えるレベルだわ!!亜里沙も亜里沙で気絶しそうなくらい目を回してるし……大丈夫かよ絢瀬の家系。
「フフフ……フフフフ!!」
「に、にこっちが負の方向に壊れ始めた!?零君に1週間以上会えなかった時と同じ顔をしてる……」
「にこも堕ちたか……頑張って家計を支えてるもんな、仕方がない。でも希は冷静なんだな」
「もちろん驚いてはいるんやけど、1000万って金額が大きすぎてイマイチ受け入れられてないって感じかな、ハハハ……」
「毎月これだけ家計に回しても、これだけのアイドルグッズを買うことができる。それだけじゃなくて洋服や人形、部屋のインテリアまで可愛くできちゃいそう。これって、天国?……フフフ、フフフフ!!アハハハハハハ!!」
「笑い方が完全に悪役だぞ!?」
「にこっちの黒い部分が全部表に出てきてる。にこっちがこうなったら、いつ暴れだすか分からへん……」
にこは携帯を見ながら高らかな笑い声を部室に響かせる。俺に会えない時も同じことしているのかよ……にこじゃなくてにこの周りの人に迷惑を掛けているみたいで罪悪感なんだが。
希は至って冷静に見えるが、凛同様息遣いも荒く目を丸くしたまま元には戻っていないため、それなりに1000万という高額に興奮を煽られているのだろう。まぁお金に興味がない学生がいない訳ないからな。
「1000万あれば、お兄ちゃんと私の部屋を1つにして、外に音が漏れないように部屋を防音加工して、ベッドはエッチ用に腰が痛くなりにくいフカフカなモノに変えて、照明はムード満点のロマンチックな――――」
「楓の中で俺の家が恐ろしい改装を遂げようとしているんだが……もうラブホテルじゃねぇか」
「家がラブホだったら毎日にゃんにゃんできるよね♪」
「毎日とか俺が持たねぇよ!!俺はそこまで絶倫じゃない!!」
「へぇ~ヤる気はあるんだねぇ~♪」
「お前なぁ……」
ああ言えばこう言う……例え1000万が手に入ったとしても、家をラブホに改装するのだけは絶対に阻止してみせるからな!!そういうのに興味がない訳ではないけど、近所の人に『お宅、ラブホなんですって?』って言われたら、なんて返していいのか分からねぇよ!?
「雪穂は1000万の使い道とか考えてるのか?」
「…………」
「雪穂?」
「えっ、あっ、す、すみません!!ぼぉ~っとしてました!!」
「お前、ここにいる誰よりも気絶寸前だったぞ……」
「私も希先輩みたいに1000万というスケールの大きさが把握できていなくて……いざそんな大金を手にしても、何に使ったらいいのか迷いそうです」
「確かに庶民派の俺たちにとってはそうなるかもな……恐れ多くて使えなさそう」
「無難に将来のために貯金ですかね」
欲に駆られない堅実さに惚れて、今にも雪穂を俺の嫁に迎えたくなったわ。今ここにはいない穂乃果とことりは確実に暴走するだろうし、海未も冷静そうに見えて気が動転すると絵里のように暴走してしまうからなぁ~。大金を安全に任せられそうなのは雪穂か真姫くらいしかいねぇじゃん……。
でも1000万かぁ~。流石に独り占めはできないだろうけど、13人で山分けをしたとしても1人約77万円を手にすることができる。とてつもなく高価なモノに手を出すことはできないが、学生にとっては十分すぎるほどの大金だ。
「零君は考えているんですか?お金の使い道を」
「そうだなぁ~俺もお前と同じく、まだ迷い中かな」
「なぁ~んだ。あれだけツッコミを入れてたのに、お兄ちゃんも全然考えてないじゃん」
「甘いな楓」
「ん……?」
「俺はな、1000万という大金よりも、お前らの笑顔の方が俺にとっての宝物なんだ。お前らがずっと笑顔でいてくれるのなら、俺はそれで満足なんだよ。1000万の喜びなんかより、お前らのキラキラした可愛い笑顔を一生見ていたいな」
さっきまであちこちで騒いでいたみんなが、急に黙りこくってしまった。
やはり俺の発言がイケメン過ぎたせいだな。でも実際にこう思っているんだから仕方がない。また俺のことを好きにさせてしまったかぁ~~魔性の女ならぬ魔性の男って奴だな。
だが楓は目を細め、ジト目で俺に目線を突き刺す。
「ふ~ん、じゃあお兄ちゃんは1000万いらないんだね」
「え゛っ!?」
「ホント!?じゃあにこたち1人1人の分け前も増えるわね!!」
「これでラーメンを食べ続けられる期間も増えたにゃ~!!」
「零君の分を貰ったら、ご、ご飯は何杯増えるのかな!?!?」
「「ハ、ハッ、ハラ、ハラ…………ハラショーーーー!!!!」」
「みんなまた壊れちゃったね……もうウチだけじゃみんなを制御できないかも……」
「はぁ~……」
「なにしてるのよ全く……」
こ、コイツら!!俺がどんな気持ちであんなクサいセリフ吐いたと思ってんだ!?俺は金に目と欲が眩んだお前らの薄汚れた心を、綺麗に浄化してやろうと必死になってたんだぞ!?
1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔…………
だ、だけど――――――
「俺だって1000万欲しいんじゃぁあああああああああああああああああああ!!お前らだけで豪遊しようたってそうはいかねぇぞ!!!!」
「わっ、零くんが壊れたにゃ!!真姫ちゃんどうしよう!?」
「放っておきなさい。いくら強がったって、1000万には敵わなかったようね……無理しちゃって」
そりゃそうだろうよ!!1000万なんて大金、人間だったら飛びつかない訳がないだろ!!指咥えて1000万を仲良く山分けされる様を見てるだけって、そんなもの我慢できるはずがない!!俺にも寄越せやぁああああああああああ!!
頭に血が上って暴走している最中、突然俺の携帯が鳴り出す。画面を見てみると、通話相手は秋葉だった。
なんだなんだ今忙しいんだよ!!1000万がコイツらに取られようとしているんだぞ!?
とりあえず無視をするのは悪いので、今度はみんなに聞こえるようスピーカーモードにして通話に出る。
『やっほ♪大金を目の前にした、みんなの反応はどうだった?』
「みんなほとんど暴走してたよ!!俺もだけどな!!」
『あはは♪やっぱり面白いことになってた』
「や、やっぱり……?」
『よぉ~く考えてみてよ。1000万もするヴァイオリンを、私があっさり手放したりすると思う?』
「な゛っ……!?」
その瞬間、すべてが繋がった。
もしかして、いや、もしかしなくてもこのヴァイオリンは……!!
『本当に馬鹿だねぇ~君たちは♪そのヴァイオリン、ただの安物だから♪』
「お、お前……」
『あははは!!みんなが欲に眩んで暴走している姿を想像するだけでも面白いよ!!』
「て、てめぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
もちろん怒りに震えているのは俺だけじゃない。ここにいる奴ら全員が、部室を包み込むような邪気を放っている。今までショタにされたり美少女にされたりスポンジにされたり……アイツの悪行に幾度となく苦しめられてきたが、今回だけは絶対に許せん!!
人間の欲に付け込んで、弄り回して遊んだ罪は重いぞ!!!!
『あははは!!ダメだ、笑いすぎてお腹が痛い!!それじゃあまた詳しい話を聞かせてね♪ばぁ~い♪』
「お、おい秋葉!?――――切りやがった……」
俺たちの心を弄るだけ弄って、大声で笑うだけ笑って、満足したから話を切ると。なるほどなるほど、如何にもアイツらしいやり方だ……。
だが今回だけはやられっぱなしじゃ終わらねぇえええええええええええええ!!今に見てろ、こんのクソ野郎がぁあああああああああああああ!!
「ちょっとアイツを討伐してくる」
「私も行くよお兄ちゃん」
「凛も!!」
「にこも!!」
「はぁ~……何やってるのよあなたたちは」
「「「「「………」」」」」
「花陽?絵里?希?雪穂?亜里沙?も、もしかして放心状態……?全く、もう勝手にして……」
唯一冷静な真姫に花陽たちを託し、俺たち秋葉討伐部隊は進行を開始した。
その途中で海未に捕まり部室に引き戻され、モヤモヤした気持ちで練習することになったのはまた別の話……。
秋葉……いつか絶対に仕返ししてやる!!
儚く散る1000万の夢……(笑)
今回は大金に目が眩んだμ'sのお話でした!
もしμ'sが大金を手に入れたらという仮定で、どのキャラがどのような反応をするのか想像して書いていました。作中での描写の通り、冷静でいられるのは真姫と雪穂くらいだと思うんですよね~、雪穂も雪穂で本心は気が動転してそうですが(笑)
次回は零君たち3年生組が、音ノ木坂学院に伝わる怪現象を解決するために、夜の学院を大冒険!
そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からを予定しています。参加人数は今のところ19人の予定です。真面目な回からえっちぃ回まで様々なネタを取り揃えています!
新たに高評価をくださった、
さんぼる@唐揚げ好きさん、TRUTHさん
ありがとうございました!
Twitter始めてみた。
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