「「「セット、アッ──」」」
「させねぇよ!」
デバイスを起動させようとした彼女たちを、十四は割り込んだ。
懐から取り出したのは三本に束ねたダイナマイト。しかもすでに導火線が点火しており、消し止めるにはもう間に合わない。
質量兵器。管理局の言い方をさせるならその呼称対象に分類される代物である、魔力を使用しない既存兵器。地球に存在する兵器の大半を占める武装である。
そしてそれを、十四は躊躇いもなく使ってきた。使い方次第では、魔導師ですら簡単に殺めることを可能とする兵器を。
爆発は止められない。このままなら起動は間に合う。デバイス持ちの彼女らはバリアジャケットの展開が間に合い、防御はできる。しかしその場合、アリサとすずかは爆発に巻き込まれる……。
一番反応が速かったのはなのはだった。デバイスの展開を即座に取り止め、一歩前に出て
爆音、爆風。ビリビリと衝撃が防御魔法の上から伝わってくるが、なのはの防御魔法を打ち破るには程遠い物であった。
そもそも質量兵器は、管理世界では魔法との戦争に淘汰された過去の遺物。使用者は限定されるものの、効果の上では魔法の方が上なのである。
ダイナマイトの爆発の衝撃を防ぎ切ったが、十四はすぐさま別の物を投げつけてきた。
M67破片手榴弾。通称アップル・グレネードと呼ばれるそれを、何個も。
「ランサー!」
「ブラッティダガー!」
しかしそれらを、一つ残らず金と白の弾丸が打ち砕く。
打ち砕いたのは、デバイスの展開が完了した、フェイトとはやて。なのはより左右に前に出て、プラズマランサーとブラッティダガーの掃射によって、爆発の影響を自分たちの方へと向けないようにした。
影響を逆方向へと向けられた十四は、とっさに
「なのはちゃん、今!」
「うん!」
その隙に、なのははレイジングハートを起動。バリアジャケット展開、起動状態へと持っていく。
この結界内における、全ての戦力が揃い踏みする。本当の戦闘は、ここから始まる。
「私が行く。なのは、はやて、援護お願い!」
「任せて!」
「行くで!」
フェイト得意の、高速移動魔法ソニックムーブ。それに追って、なのはのアクセルシューターと、はやてのバルムンクが彼女の周りを固める。
「ハァッ!」
『Haken form』
光刃の大鎌へと変えたバルディッシュで、以前の戦闘のように十四に斬りかかる。
回避は不可能。たとえ避けられたとしても、誘導弾が逃げ道を塞いでいる。
一発でも当てて動きを止めれば、殺到する誘導弾が全て当たる。
「
展開した全周囲防御。振るわれた刃を受け流し、全方位からくる誘導弾を受け止める。
しかし拮抗は長く続かない。十四のプロテクションはあちこちで罅が入り始める。
──十四の魔法の技量は、彼女たちには遠く及ばない。たとえ十四が全力でかかっても、魔法比べでは確実に十四が敗北する。
「
防御を崩壊させて、炸裂した爆風で拮抗していた誘導弾をかき消す。
「ぐふっ!」
しかし、全ての魔力弾を打ち消すことはできず、残った魔力弾が当たり全身に衝撃が走った。
「この、クソッ」
「させないよ」
反撃の一手にと右手に魔力スフィアを発現させるが、バインドで絡め捕られ、同じことをなのはに言い返された。
『Buster mode』
「まずは、この結界を壊す!」
レイジングハートを砲撃形態へと変え、砲口を結界の壁へと向ける。
十四を打倒することより、まずするべきことはアリサとすずかをここから出すこと。
そうしなければ、彼女たちが全力を以て戦うことなどできはしない。彼女たちの魔法戦は、魔力を持たない人を巻き込まないで行うには少々派手で、無理がある。
『Load cartridge』
カートリッジシステムにより、排出口から吐き出される空薬莢。それが二発。
収束されていく魔力。相当な魔力量であることはわかり切っていた。
高町なのは十八番の、魔力量に任せた大出力魔力砲撃。その威力がどれほどの物であるか、十四は身を以て知っている。
だからこそ、この結界を破ることができないと確信していた。
「……ディバイン」
「やめとけよ。そんなチンケな砲撃じゃ、この結界は破れないぜ」
バインドで縛れたままの十四はそう断言した。その言葉には真実味があり、確信が含まれていた。
しかし、なのははその忠告を頭に入れない。
やってみなければわからない。十四の付け焼刃の結界が、そこまでの効力を発揮するわけがない。
結界の規模がそれを表している。教室一つ分の広さだけを確保しているのは、それだけの広さしか十四は展開できなかったとなのはたちは考えた。
『Buster』
「バスタァァー!」
壁に照射される砲撃。結界と砲撃がぶつかり合う衝撃波は、強烈な物。
「…………な、無駄だろ」
嘆息して、十四は言う。分かり切った結果だと。
結界には、罅どころか傷一つない。
「硬い……!」
「結界強度には自信はある。展開と維持に半分以上魔力をブチ込んだんだ」
「……!なら、」
「
────それでもやりたきゃ止めないがな。
余裕綽々といった態度は全く崩れていない。
確かに、収束砲ほどの破壊力をもってすれば、この結界を破壊することもできるのかもしれない。なのは自身、結界破壊を付随する威力の収束砲の魔法を使うことができる。
だが、それはあまりにも威力が高すぎるもの。使えば、結界外……つまり、学校とその周囲にどれほどの被害をもたらすかなど容易に想像できた。
「十四。今すぐ結界を解いて」
「普通解くか?分かり切った質問するな」
今度は呆れ。フェイトの要求に、十四は笑いすら浮かべた。
「解かせたかったら、拷問でもなんでもすればいい。お前ら、魔力は有り余ってるだろーが。こっちはこの結界を展開するにあたって、魔力を結構使った。チャンスだ。ブラウニーを使える回数はかなり限られているぜ?」
安い挑発。だが、十四の言っていることは確かであると彼女たちは確信している。
ここまでの結界を、展開と維持には相応の魔力を消費する。十四も潜在魔力量はそれなりの物を持っているが、今はその約半分が削られている。
ダイナマイトや67破片手榴弾などの質量兵器を使ったのは、魔力の消費を少しでも抑えるためではないのか。それにさきほどの防御、以前のフェイトと戦った時のようにわざと攻撃を受けたのではなく、防御魔法を使って防ごうとした。このことから、十四がブラウニーを使いたがらないことがわかる。
チャンスだ。バインドで縛られ、魔力も少ない。十四を捕えるにあたっての攻略法、魔力を尽きさせるという手段が使える。
「で、できるわけがない!」
だが、はやては横に首を振る。同じく、なのはとフェイトもそうであった。
このまま十四を痛めつけ、結界を解かせるという手段。回復手段であるブラウニーがむやみに使えない状態で、その手段は恐ろしく有効である。
しかし、拷問は倫理観を大きく外れる行為だ。敵だとか、味方だとか関係なく、人としてやってはいけないことだ。
「だろーな。そう答えるだろうと思ったよ」
優しい彼女たちは絶対にしない。敵意が完全ではない彼女たちは、ここまでやらない。期待は全くしていなかった。
だからこそ、十四は敵意を芽生えさせるために、彼女たちに地獄を見てもらうことにした。
「……じゃ、仕方ない」
仕方ないからこそ、やりがいがあった。そうでなければ、この結界を張った意味がない。
十四は左足のズボンの裾を上げ、太ももに隠してあった軍用ナイフを素早く引き抜く。
そしてそのまま、切断力強化の魔法をかけ、躊躇いなく──。
「ヂェアッ!」
──バインドで縛られた、右腕に振り下ろした。
飛び散る血液。尋常ではない血量。四肢の一つを切り落としたという奇行は、彼女たちにとてつもない衝撃を与えた。
その驚きが、その気の怯みが、バインドにかかっていたプログラム構成を甘くさせる。
その隙をついて、ナイフを捨て、片腕で切り落とした右腕を取った。
斬り落ちた腕の断面を振りかぶり、血を彼女らに振りかける。
血という物は、死という物に近いイメージがあるため慣れている者でなければ、苦手意識を持つのが常である。彼女らも血が降りかかり、顔にかからないようにと両手で防いだ。
「『
その隙に付け込んで、回復に当てる。腕の断面をくっ付け、そこに数十体のブラウニーが集まって再生が始まる。再生速度は十四ができる最速。ものの一秒足らずで、骨、神経、血管、筋繊維、その他もろもろの接合が終了、通常時と変わらず動かせるようになった。
治療が終わると、周囲にいたブラウニーが消えた。常に従える余力もなくなり、十四の魔力が、限界に近づいてきた証拠である。
「な、なにをするの……!?」
「だったら、お前らを敵にする。俺を敵としか思わせなくさせてやる。ブラウニー!」
十四が新たに呼び出す『
それを従えて、十四は結界の壁へと飛び込む。
なのはの砲撃に傷一つつかなかった結界は、十四を受け入れるように波打って通りぬけた。
「……!そうか、この結界は使用者の魔力を鍵にするんだ」
十四は言っていた。認証さえ通れば誰でも通行は可能であると。
認証された者のみが通れる結界、という意味は使用者の魔力が鍵となっているという意味。ブラウニーは、その認証キーの代用品であるとフェイトは突き止めた。
「今更気付いたところで、終わりなんだよ」
声と共に、結界の壁の四方八方から投げられる、ダイナマイト、手榴弾。プラスチック爆弾、パイプ爆弾、果てはペットボトルにドライアイスを詰め込んだドライアイス爆弾まで。
爆発物のオンパレード。三人はアリサとすずかを守るように円陣を組んで防御魔法を発動させ、お互いを守っている。
数分もすると、弾切れなのか十四が爆弾を投げつけるのが止まった。
結界内は爆弾の煙で何も見えない。酸素がほとんど消えており、酸欠を防ぐために
「……アイツ、ヤケになったの?」
「わからない。けど……」
「このままじゃ、終わらないよ。経験として言わせてもらうけど」
模擬戦では、一対一で十四に勝つことができなかった彼女らである。その経験が警鐘を鳴らし続けている。
彼女らが十四のレアスキルだけで、負け続けてきたわけではない。それだけが原因だったなら、今頃模擬戦の戦績は勝敗数が逆の結果となっていただろう。
十四の性格は、とてつもなく負けず嫌いである。ただの負けず嫌いではなく、冠詞に、『とてつもなく』と付くくらい、相当なほどである。
彼が魔法と出会う前から、そうであった。道場に通って習っていた空手は、同じ道場で同年代では他に敵う者にならないくらい強くなっても、年上や師範が相手でも負けたら本気で悔しがり。サッカーにおいて、上級生に負けたくないという気持ちで猛練習して、レギュラー入りしたり。勉学で負けたくないからと塾でやる勉強の数倍をやって、学年でトップレベルの成績を記録したり。
魔法に出会ってからは、素人同然の時から模擬戦を繰り返し、倒れても倒れても立ち上がり、向かい続けてきた。恐れという物を、知らないのではないかと思わせてしまうくらいに。
とにかく、十四は負けるのが嫌いなのである。決して努力は好きではなく、努力家ではない。 勝つ手段があるのなら、躊躇いなく十四は使う。研鑽は、勝つための手段の一つでしかない。
だからこそ、その勝利の執念がどういう作用をするのか、彼女たちは警戒している。
その警戒心が働きすぎる心理を、十四は付け込んで容赦なく足をすくう。
「…………!?なのはちゃんっ!」
最初に気付いたのは、すずか。安全と思われた防御魔法の内側、なのはの足下にピンの外れた手榴弾が、三個転がっていた。
誰が転がしたのは、言うまでもないだろう。
完全な不意打ち。だが時遅く──。
──耳を覆いたくなるほどの爆音と、網膜を焼きかねないほどの閃光が、彼女らを襲った。
「……くっ、なのは、はやて、大丈夫!?」
「……あ、頭がガンガンする……!」
「み、耳が痛い……!」
彼女らは、無事ではあった。
しかし、状態は良いとはとても言えないが。
アリサ、すずかはまともに至近距離から光を浴びて失神し。
なのは、フェイト、はやての三人は魔法の恩恵を受けて失神はしなかったが、デバイスを手放し、視力と聴力が機能しなくなっていた。
十四がなのはの足下に仕掛けたのは殺傷性のない閃光手榴弾。視力と聴力を奪い、無力化する類の代物である。
殺傷する武器ではなく、十四は非殺傷の武器を選んだのは、確実に無力化する手段が欲しかったからである。
非殺傷の武器には殺傷の武器にはない長所がある。その長所を十四は認め、海外から持ってきた爆薬のほとんどを消費しながらも、決定打を決めることができた。
「……じゃあ、やるか」
悠々と、十四は結界から出て来る。
結界内に広がる火薬の臭いが、鼻をひどく刺激していた。
「ちょっと眠ってろ」
指を銃の形へと変え、指先に魔力が収束する。
立ちこめる煙の中、愉快そうに笑う十四の顔は、酷く歪んでいた。