高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンが目覚めたのは、放課後の聖祥の保健室であった。
カーテンで仕切られた他のベッドには、アリサ・バニングスと月村すずかがまだ眠っていた。
頭にひどい鈍痛が走るのは、あの閃光手榴弾の影響が残っているから。
そして、腹部に走った激痛は、恐らく……。
「……また、まただ……!」
また、十四に敗北した。また、十四を取り逃がしてしまった。フェイトにのしかかる後悔は、とても重く、とても苦い。
今度は一人ではなかった。なのはがいた。はやてがいた。勝てるはずであった。
だが、当然の結果だ。フェイトは今更ながら気付いた。あの十四が、必勝の策なしで私たちの前に姿を現すわけがないだろうと。
十四が負けず嫌いなのは知っている。手段を選ばないことも知っている。
しかし、質量兵器まで容赦なく用いるまでとは思わなかった。
「フェイトちゃん、ごめん……。私が……」
今度は私が、と期待させておいて、この結果。なのはにも大きく後悔がのしかかる。
「ううん、なのはのせいじゃない!」
「フェイトちゃん……」
「……もう一度、もう一度だ。もう一度戦う。それでも勝てなかったらまた戦う。私たちは、勝つまで戦えるんだ!」
敗北しても、また戦えばいい。ボロボロになっても、立ち上がって戦えばいい。
簡単なことだ。それをいつもやっていた男が、相手なのだから。
フェイトはすぐに、戦意を取り戻す。もう負けたくない。勝ちたい、と願った。
「……うん。私も、私もやるよ」
聞きたいことがまた増えた。十四が、どうしてそこまでできるようになってしまったのか。どうして十四は自分たちの敵になりたがるのか。自分の知っている十四は、本当の十四と違うのか。
聞かなければならない。それが高町なのはの、戦う理由になるのだから。
「……あれ、そういえばはやては……?」
他のベッドに、八神はやての姿がない。
もしかして、先に目覚めて保健室から出ているのだろうか。
「あら、目覚めたの?急にあなたたち四人がいきなり教室で倒れたって聞いたから、大変だったのよ」
保健室勤務の教諭が彼女たちが目を覚ましたことに気付いた。そして、彼女の言った言葉になのはとフェイトは目を見開く。
──四人、と言ったのか。
「あ、あの、はやてちゃんはいませんでしたか?」
「……?いいえ、倒れていたのはあなたたちだけよ」
それを聞いてなのはたちは唖然とした。
はやてが消えた。その事実に、なのはたちは混乱する。
状況を整理する。
自分たちは十四に負けて気絶し、結界が解かれてこの四人は保健室に運ばれた。
そして、ここにいない八神はやて……。
気絶していた間に、何が起きていたか。聞くことができるのは、己の
なのはは、首にかけたレイジングハートに触れようとしたが、触れたのは己の首だけであった。
「レイジングハートが、ない……!?」
「バルディッシュも……!」
ポケットに入っているはずのバルディッシュが喪失していることも、フェイトも気づいた。
彼女らは、デバイスを自分の半身と思えるくらいに大切に扱っている。肌身離さず持っており、なくすなんてありえないし、あってはならない。
考えられる可能性は、ただ一つ。十四がはやてを攫い、レイジングハートとバルディッシュを奪っていった。
そう考えるしかなかった。否定したかった。しかし否定できる材料がなかった。
デバイスという力を失ってしまえば、彼女らの力は十四以下へと落ちる。それほどまでに彼女らはデバイスに頼り、信頼していた。
最も信に置いていた武器を喪失し、友がさらわれ、失意の底へと落ちていく……。
再戦を願う心は、早々に、折れそうになる。
加添十四の拠点としていた場所は、大胆にも海鳴市の市街地のホテルの一室であった。
十一歳の少年が一人でホテルの一室を借りることなどできないので、変身魔法で大人の姿でチェックインしていた。
背負っていた大きめのスポーツバッグを肩に背負って、彼は借りていた部屋の鍵を開けた。
借りた部屋はなんの特徴のない、ベッドとトイレとソファとシャワー室があるだけの簡素な物であった。しかし、十四はこの機能重視のこの装いが結構好きである。
背負っていたバッグをベッドに下ろし、ファスナーを開ける。
バッグの中には、気絶していた八神はやてが入っていた。
彼女をベッドに寝かせると、十四もソファに座り休息に入る。
消費した魔力があまりにも多すぎた。心が、体が、安らぎを求めていた。
──程なくして、十四は眠りに入った。
八神はやてが目を覚ましたのは加添十四が眠りについて二十分後だった。
「……ふぇっ!?」
瞼を開けて、目に入ったのは知りもしない場所。いきなり自分が知らない場所に居たりしたら、それは驚くだろう。
そしてすぐに、自分が十四と戦い、そして敗れたことを思い出す。
「……んで、ここ……どこ?」
部屋を見渡すと、ソファに座る男性がいた。顔はよく見えないが、眠っているようであった。
はやてはベッドから起き上がって、その男の側へと近づく。
「……十四、くん?」
疑問符がついてしまうが、左目の眼帯が特徴を示しており、顔立ちもはやての知る十四の面影が残っていた。
その寝顔はブスッと無愛想で、夢の中で難しそうなことを考えていたようにはやては思っていた。
「……なんだ、起きたのか」
「ひゃっ!?」
ボソリと十四がつぶやき、顔を近づけていたはやてが思わず飛び退く。
「おはようさん。どうだ、調子は」
「え、ええ訳ないやろ。いきなりこんなところに連れて来て」
子供の時の姿よりずっと低い声は、今までになかった大人の色気が漂っていた。
着用しているワイシャツにデニムの姿も彼に非常に似合っており、もし十四でなかったらはやてはホイホイついて行っていったかもしれなかった。
しかし、それを呑みこんで、はやては気丈に振舞う。気概で負けてはならない。
「な、なんで私をここに連れてきたん?」
「理由は幾つかあるが、まず一つ。都合がいいから。お前は人質、捕らわれの
十四は律儀にも、はやての質問に答えた。
「
「えっと……ゲームの話?」
「お前の話だ。パーティ構成は結構強い。歴戦の強者で、在るべき主である姫君と共に揃った時は無敵の戦力とまで言われた、最強の
「まさかっ!」
ここまで言えば、さすがのはやても気付く。十四の狙いに、簡単に推測ができる。
「私を使って、あの子たちを誘うつもりか!?」
「アホ抜かせ。あんな連中、しかも連携の整った古強者とまともに戦ったら目に見えてるだろ。言っとくがな、アイツらにとっちゃ俺がお前らに使った策は、あの
忌々しく、そして呆れた顔で十四は嘆息する。何もわかっちゃいない。自分の保持している集団が、どれだけ怖いのかこの少女は何もわかっていないと十四は頭を抱えた。
高町なのはよりも、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンよりも、クロノ・ハラオウンよりも。そして、八神はやてよりも。十四が何よりも恐れたのはヴォルケンリッターという集団であった。
一対一なら負ける気はしない。烈火の将シグナムであろうと、鉄槌の騎士ヴィータであろうと、湖の騎士シャマルであろうと、盾の守護獣ザフィーラであろうと、不安要素はない。
しかし、十四が警戒しているのはその長い戦いの経験から培われた連携能力。数の暴力というのはそれだけで恐ろしく、特に彼らは質も段違いに違う。まともにぶつかったら、土を噛むのが自分であると十四は誰よりもわかっていた。
だが、だからこそ、敵に回す価値がある。
「けどま、お前の答えは半分当たってる」
十四の目的は、彼らに敵意を植え付けること。敵である十四を、容赦なく殺すことができる殺人機械へと変えること。
そしてヴォルケンリッターは、それを為すことが一番容易な存在だということだ。
「ここでお前を殺せば、アイツらは迷うことなく俺を殺してくれるだろ」
「なっ……!?」
「つっても、お前を殺したらアイツら消えちまうし、殺意を植え付けるつもりが本末転倒になっちまう。それはやめておこうと断念せざるを得なかった」
騎士というものは忠義に篤い。特にヴォルケンリッターは、主であるはやてに家族として愛されており、大切な存在である。
もし十四がはやてを殺めようとするなら、騎士たちは絶対に黙ってなどいない。即座に十四を殺すだろう。
だが、今はやてを殺してしまえばヴォルケンリッターも消えてしまう。それは避けなければならない。
……だったら八神はやてを生かしながら、ヴォルケンリッターに十四へ殺意を持たせればいい。
「アイツらは良い敵だ。俺を殺してくれるかもしれない。だからさ……」
「……!」
「ちょっとばっかり、