悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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拾う者、捨てる者

 八神はやてが行方不明となったその日の夜、彼女はあっさり見つかった。

 彼女のよく行く風芽丘図書館の卓上で、はやては寝入っていた。

 

「……はやて、はやて!」

 

 彼女を見つけたヴィータが、眠ったままのはやてを揺すって起こそうとする。

 なのはとフェイトからはやての行方がわからなくなったと知らされた瞬間、はやての騎士たちは行動速く、探索に当たっていた。

 十四がいきなり襲撃に来て、敗北して主であるはやてが消えた。そう聞けば、十四がはやてを誘拐したということは分かり切っていた。

 もし、はやてに何かしていたら、騎士全員は十四をただでは済ませないと怒りの沸点を超えていた。

 

「……う、ううん……」

 

 うっすらと目を開け、はやてが自分を起こそうとするヴィータを見た。

 

「大丈夫か、はやて!」

「……あれ?ヴィータ、ここどこ?」

「図書館だよ。十四のヤツがはやてを誘拐して、ここに置いて行ったんだ」

「……そや、私……十四くんにさらわれて……」

 

 ふつふつと、はやては自分に起きた状況を思い出した。学校で十四に襲われて、負けて、自分が攫われて、デバイスも取られていて、

 ──十四の本当の願いを、聞いた。

 寝起きで気だるい体に鞭を打ち、はやてはしっかり目を覚ます。

 やらなければならないことがある。行動は今のうちにやらなければならない。

 

「ヴィータ、ちょっとお願いやけど……おぶってくれへん?」

「ど、どうしたんだはやて?怪我でもしたのか?」

「怪我はしとらんよ。けど……」

 

 はやては、脚に力を入れようと、座っている椅子から立ち上がろうとするが、体が全く言うことが聞かない。

 この感覚は知っている。彼女にとっては、騎士たちよりもずっと長い付き合いだった、この症状。知らないはずはない。

 

「十四くんに、ちょっと呪いをかけられてもうた」

 

 困ったように笑うはやて。ヴィータにはその顔が、ある時のはやての表情に重なって見えた。

 夜天の書が、闇の書と呼ばれていた時。その時に呪いに蝕まれたはやての顔。

 少しずつ、少しずつ、死の足音が聞こえてきているのに、気丈に振舞う強い笑顔。

 

「それから、私の騎士たち(ヴォルケンリッター)に全員集合。伝えなきゃならないことがある」

「……だ、だけどはやて、呪いって……!」

「ヴィータ。お願いや」

 

 ヴィータに頼む、はやての真剣な目。歴戦の騎士である彼女を圧倒する、主としての威厳と覚悟。

 それがどういう種類の目であるのか、ヴィータは知っている。

 はやては、死を覚悟している。しかしそれに恐れることはなく、戦おうとしている。

 そんな目をされてしまったら、誰よりもはやてを慕う彼女には従う他ない。

 

「うん。わかったよはやて。だけど、みんなが揃ったらちゃんと教えてくれよ!」

 

 ヴィータは詳しくこれ以上は聞かず、はやてを背負って行く。

 主が戦いに赴こうとしている。なら騎士は黙って、それについていく。

 それが騎士の在り方。義に生き、忠に尽きる。

 言葉は、要らない。

 

 

 

 

 

 集合した場所はアースラのブリッジ。集まった者たちは、八神はやてとヴォルケンリッターだけではなく、高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、リンディ・ハラオウンもこの場にいた。

 

「……では、はやてさん。あなたは、十四さんに何をされ、何を聞いたんですか?」

「呪いと、彼の願いを」

 

 リンディの問いに、はやては簡潔に答えた。

 はやては、立てるようになる以前のように、車椅子に座っていた。

 それが十四がはやてにかけた呪い。

 はやての眼差しは、死を覚悟した眼であった。

 それが十四の願いを聞いた末の心。

 

「十四くんはレイジングハートとバルディッシュ、それと私のシュベルトクロイツを持ってました。多分、私たちにもう用はないって言いたいんやと思います」

 

 デバイスを持ち去るということは、彼女たちの戦力を削ぐということ。

 十四はなのはたちに、自分を殺すことができないと見切りをつけた。もしくは、殺すことができる殺意が膨れるまで、戦わせないつもりだというのが、はやての意見だ。

 だからこそ、狙いをヴォルケンリッターに絞った。はやてを誘拐し、呪いを残すことで。

 

「呪い、それはつまり、闇の書の……」

「十四くんはそれを再現したって言ってました。『機械仕掛けの妖精(メタリカ・ブラウニー)』がそこまで出来る物とは思いもしませんでしたけど……」

 

 はやてを蝕んでいるのは、紛れもなく闇の書の呪い。この集合がかかる前に、はやては精密検査を受けていたが、原因不明の麻痺で彼女の体を蝕んでいた。

 十四の『機械仕掛けの妖精』の本当の効力……生体への時間操作。

 主に使用しているのが生体の再生であるため、治癒魔法と勘違いしがちではある。しかしその真価は、生体の時間を操作しての再生。

 そのことを知っているクロノ、リンディ、そしてシャマルは納得する。十四なら、それくらいのことをするのは容易いだろうからだ。

 再生魔法の延長。肉体の情報を脳と細胞から読み取り、遡って現在の肉体に上書きする。十四の使う再生と同じ原理なのだ。

 

「十四くんは、私の残りの時間は一週間やと言ってました。それまでに十四くんに治させないと私は死ぬと」

「……そんな!」

 

 一週間以内に十四を捕まえて治させる。はやての生き残る術は、この方法しかない。

 散々煮え湯を飲まされてきた相手に、ここまでされた。

 怒るという感情どころではない。それすらも振り切れて、絶望している。

 殺し合いたい。それだけの願望のために、知り合いを手にかけることができる十四が、末恐ろしく感じた。

 

「……シャマル。お前は知っていただろう?ヤツのレアスキルの真価を」

「…………ええ……」

「なら、どうして教えなかった?」

「それは……」

「それは僕から止めておいたんだ。十四の能力は、非常に危うい」

「……どういうことですか、執務官殿」

「生体の時間操作の本当の真価は、こんな物では済まない。前にも言っただろう、アイツの危険度は闇の書の防衛プログラムと同レベルだと。実際、比喩でもなんでもないんだ」

「…………!」

 

 冗談と思われたクロノの発言。それが紛れもない真実だと、クロノは断じた。

 それほどまでの危険要素だと、事前に言っておいたのだ。詭弁と言ってしまえば終わりだが、シグナムにはそれができない。

 真面目な彼女には、心構えが足りなかった。そう思うしかできなかった。

 

「そ、そんなん詭弁じゃねぇか!なんで言ってくれなかったんだ!」

「じゃあヴィータ。もしだ。もし、大切な人(はやて)の寿命が尽きそうになるとしよう。そこに寿命すら巻き戻せる十四がいる。君ならどうする」

「……そ、それはもちろん……!」

「そう。君なら治してくれと頼むだろう。だが、それで終わりか?」

「そ、それで終わりかって……」

「十四はその気になれば延々と寿命を延ばせる。望むだけ、望んだだけ、若返らせる。それをなんていうかわかるか?」

「……あ」

 

 ヴィータも気付く。また寿命が近づけば、また十四に頼み込むだろうと。

 それは彼女だけじゃない。他の誰にも当てはまることであった。

 それは不老不死。永遠と生き続ける、人間の欲望の末。

 長く生きたい。死にたくないというのは、人間にとっての当然の欲望。なければならない欲望。

 だからこそ医療があり、寿命を延ばす技術が時代の経過と共に進歩している。

 しかし、十四の存在は反則である。巻き戻して延ばし続ければ、それは実質不老不死であると。

 あらゆる病も、怪我も、関係なく治す。彼の前には、医者など医療など必要ない。

 それを叶えられるというのなら、多くの者は十四を求めるだろう。

 ある者は金を積み。ある者は暴力を突き付け。ある者は弱味を握って従わせるだろう。

 最悪の場合……いや、当然のように十四を巡って戦争が起きる。『機械仕掛けの妖精』を持つ十四は、それほどまでに危険な存在なのだ。

 

「できることなら黙っておきたかった。一部の者だけが知り、墓まで持っていくつもりだった。だが……」

「こんなことが起きたのなら、黙ってられるのも限界でしょう」

 

 今回のはやての件、十四がその能力でもって、彼女を殺めようとしている。そうなってしまえば、一部の者だけで黙っているわけにもいかない。

 聞き耳を立てている者がいるかもしれない。この会話は第三者に、記録に残らないようにしてはいるが、それでも万全とは言えない。

 それでも、クロノたちに話す決心をさせたのだ。

 

「……じゃあ、十四くんの願いを言っていいかな?」

「ああ、頼む」

「……十四くんは戦って死にたがってる。私に呪いをかけたのも、シグナムたちを怒らせる目的や」

 

 はやては、十四の叫びを、願いを話した。

 壊すこと。殺すことでしかもう、十四は喜べない。そんなガラクタへと成り下がっていた。

 だから、壊される前に壊せ。殺される前に殺せ。

 それが叫び。それが願い。

 はやてだけに見せた、十四の弱み。十四の涙。

 それを、皆に語る。

 

「そんなの自分勝手だ……。そんなこと……」

 

 自分勝手で、悲しすぎる願い。

 フェイトは叶えたくない。叶えられない。手にかける者の気持ちを考えない、エゴに満ちた渇望。

 

「死に場所を探している……か」

 

 ザフィーラは、十四の心情を捉えた。

 戦って死にたいのではなく、戦わなければ死ねない。今の十四は、そういう存在であると。

 

「……もちろん、私は十四くんを殺しはしない。呪いで死んだりもしない。これは、十四くんとの勝負や」

 

 はやては気丈に、強く振舞う。

 魔法を使えなくても。車椅子に乗る生活へと逆戻りしても、変わらないモノが心にあるから。

 

「十四くんは命を捨てとる。なら、命を懸けて私はその命を拾う」

 

 これでやっと、対等になった。これでやっと、同じ土俵に立つことができた。

 勝負とは、秤に同じ物を乗せて、初めて成立する。

 ならば、ここからが本当の勝負といったところだ。

 

「お願いしかできへんけど……。みんな、十四くんを私の前に連れて来て」

 

 タイムリミットは一週間。それまでに、十四を連れてくる。

 厳しい注文、とは誰も言わない。できるできないではない。やるしかないのだ。

 

 誰も、目には怒りも殺意もない。

 

 大切な人を救おうというときに、迷ってなどいられないのだから。

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