「……なるほど。これが、夜天の書か」
十四ははやてを図書館に置いていく際、拠点としていたホテルを早々にチェックアウトしていた。もう戻ることはないだろう。
そして今いるのは、海鳴市内の取り壊しが予定されている廃ビル。夜風を凌げる場所として、一晩だけの拠点として選んだ。
「……さすがに、ベルカ式が多いな。近代式ならミッド式に近い物があるからまだしも、古代式なら一から習得しなきゃならねぇ」
そもそも、ベルカ式に適正があるのかどうかすら、十四にとって微妙なところであった。
師がミッドチルダ式であったから、自分もミッドチルダ式の魔法を習い、覚えていた。汎用性が高く、さらには十四自身に高い才能と適正があったためか、オールラウンダーの万能型の魔導師が完成しようとしている。
十四は今、はやての体の情報を読み取ったブラウニーから、内容を記憶していった。
その中の、リンカーコアの情報……すなわち、魔法の情報を重点的に、覚えて行った。
八神はやての持つ夜天の書、それは多くの魔法を記憶する大容量
そして彼女自身のレアスキル、『蒐集』によって古今東西数多くの魔法が記されたそれは、正に魔法の宝庫。
「……お、スターライトブレイカーまで……。これの収束術式は参考になる」
はやてから読み取った情報。そのブラウニーはそれを示すように、彼女の魔力光である白色に光っている。そこから魔法の情報を読み取り、頭に入れているのだ。次回、自分が使えるように。
『
それを完全に自分へと還元した時点で、十四は夜天の書の情報全てを手に入れたことになる。
この方法をしたのは、今回が初めてではない。
フェイトに対しても、そして自分を追ってきた武装隊に対してもこの方法をした。そして武装隊の隊員の一人から、本来十四が覚えていないはずの牢獄結界のデータを手に入れ、なのはたちに向けた。
「……まあ、使える魔法だけ覚えておけばいいだろう。即戦力になりそうなヤツだけな」
十四が求めたのは、ミッドチルダ式の大火力系魔法と次元転送系魔法。特に次元転送系の物は必須として求めていた。
前者は高町なのはの物と思われる魔法を手にし、後者は夜天の書に記述されていた魔法を手に入れた。
「これで条件は対等だ。殺意も植え付けられたし、一石二鳥だ」
火急の問題であった次元転送魔法を手に入れ、今のところは順風満帆。
今頃、あの連中はどんな顔をしているのかと、十四は薄気味悪く笑った。
どんなふうに怒り狂っているだろう。どんなふうに殺意をたぎらせているだろう。
それが楽しみで仕方ない。それが嬉しくてたまらない。
殺し合いこそ、十四の望み。戦争こそ、十四の渇望。敵と定めた者を殺し、敵と定めた者に殺される。
歪で壊れた願望。こんな願いを抱くというのは、人として壊れている。
だからこそ、自分は壊されなければならない。
しかし、十四は知らぬ誰かに壊されるのは死んでも嫌であった。
自分の恩人である、彼らに壊されるからこそ、この壊れきった生の終結に相応しい。
「明日あたり……早速来るだろうな」
十四は、管理局は自分の居場所を掴んでいるだろうと考えていた。
準備が整い次第、確実に命を刈ってくる。
十四がはやてに施した呪いという死神の鎌。それで刎ねようとしているのだ。あの騎士たちは絶対に黙ってなどいない。
命を狙われる緊張感。命を狙うという背徳感。このせめぎ合いが、心地よい。
「さっさと来いよ……待ちくたびれちまうだろうが」
十四は待つ。戦いの時まで、じっと待ち続ける。
──良い夜だ。こんな日は、決まって良い夢が見れる。
無人世界のどこか。雲一つない青き空と眩く輝く照りつける太陽と、地を埋め尽くす大森林。その森林をさらに覆う超巨大な大河。
森林は全てマングローブの一種の木であり、その根に動物と植物は住んでいる。
大河をさらに下ると、超巨大な滝がある。
……否、滝というには語弊がある。それは世界の終り、世界の断面と言った方が正しい。
流れ落ちていく水流。その行き着く先である滝壺が目視できないほど奥深くにある。滝幅も、地平線の向こうまで広がっており、海を真っ二つに割るとこうなるのではないかと、そう見えると思える。
次元転送でこの世界に来ていた十四は、来るべき敵を待っていた。
この世界は一度、来たことがあった。魔法の訓練の場として、模擬戦の場として。
十四が今までに見たことのある景色の中で、一番美しく、一番荘厳で、一番荒々しかった。
死に場所にするのなら、この場所にする。最期くらいは、綺麗な物を見て死にたい。そういう、我儘な気持ちからであった。
「十四」
待ち望んだ来客。聞き覚えのある声に、嬉々とした顔をして振り向いた。
「……まずはアンタか、師匠」
「……ああ。尖兵にしては、不満はあるか?」
「ねぇな。むしろアンタは、
──最初っから激しく燃えるってのも、悪くない。
クロノは、二つのデバイス──S2Uとデュランダルの二本の杖を起動させる。
師弟対決。お互いが手の内を知っている同士の戦い。
十四は心躍る。こんなにも、興奮するとは殺し合いは良い。
クロノは悲しくなる。こんなにも、自らの育てた弟子が歪むとは最悪だ。
十四とクロノの周りの空気が、不自然に歪む。
──舞台は移り、異界にて。
覇は、競われる。