十四とクロノの魔法戦闘は、基本に忠実な、教本に載っているような戦い方であった。
基本に忠実といっても、その動きは素人の物とは比べものにならないくらいに洗練されており、高度なものだ。高機動戦、射撃戦、接近戦、そのいずれも互角となっている。
師弟故か、戦い方が似通っているが、資質の差、もしくは経験の差が魔法の威力と性能に差異が出ている。
いくつもの経験を潜り抜けたクロノは、十四の一発の魔法の重さに顔をしかめている。
──強い。それは、両者が確かに感じた手ごたえ。一筋縄ではいかない相手だということを、認めざるを得なかった。
「「
同じ魔法を、同じタイミングで発動。
形成された魔力刃の広範囲攻撃。互いに、数百を超える刃を展開した。
「「
撃ち合う、赤錆色の剣と水色の剣。それぞれの剣が、容赦なく敵を串刺しにしようと殺到する。
ぶつかり合った剣は脆く砕け、割れたガラスのように地へと降り注ぐ。
彼らの間でぶつかり合う剣が、数本通り抜けてお互いへと飛んでいく。
赤錆色の剣をクロノはラウンドシールドで弾き飛ばし、水色の剣を十四はプロテクションで受け止める。
(……なんてヤツだ。こっちはデバイス込みだっていうのに、発動速度が全く劣ってない。やはり、天才か……!)
(地力じゃ勝ってるはずなのに、どうしても決定打を入れる隙がない。積み上げた経験を破るのは堪えるな……!)
互いが攻めきれず、膠着状態が続く。誘導弾、直射弾、砲撃、格闘、捕縛、防御、そのいずれの要素もほぼ互角の領域にある。
お互いが万能型の魔導師。似たような戦い方では、どちらも決定打に欠ける。
しかも、元は師弟。手の内がわかりきっている相手同士、均衡を崩すのは難しい。
((だったら、どうする!?))
均衡を崩すには、自分に優位に持っていくには、どうすればいい。
先に答えを得たのは、十四の方であった。
「
右腕に環状魔法陣を展開させて、手のひらに魔力を収束させていく。
高町なのはのディバインバスター。大威力の砲撃を撃とうと、十四の右腕には莫大な魔力が集まっていく。
それを何故十四が使えるのか、クロノはなのはの見様見真似と考えた。物真似にしては完成度は高く、まともに食らえば防御の上から撃墜されるのは目に見えていた。
しかしそれは、悪手。この状況で大技の砲撃を撃つことは、愚かでしかない。あまりにも勝負を急ぎ過ぎた。
なのはは持ち前の防御力で、スタンドアローンでの砲戦を可能としているが、十四は違う。似たようなタイプの魔導師へと育て上げられることはできるが、結局はデッドコピー程度の伸び代しかない。
「ストラグルバインド!」
魔力が収束する隙を狙い、バインドで縛ろうとする。
一度捕まえてしまえば、後はもう煮るなり焼くなり好きにできる。
クロノにはデュランダルがある。それによって一度捕まえた十四を凍結封印することで、無理やり連れ戻すことができる。以前クロノ自身が言った、十四に対する攻略法だ。
しかし、それは十四の読み通りであった。
隙を見せたらバインドで縛り、防御と反撃の出来ない状態にしてから叩く。そこから降伏勧告をするのが、執務官であるクロノのやり方。
教本通り。正に、教本通り。だからこそ、今の十四には──。
──通用しない。
ストラグルバインドが十四を縛り上げようとする瞬間、バインドは空振りに終わって消滅する。
十四が消えた。否、消えたように見えるほど、高速で移動した。
速い。その速さ、まるで音速。高速で十四は、真っ直ぐクロノの方へと向かっていく。
この速さにも、クロノは覚えがある。フェイトのソニックムーブのそれであった。
瞬きすら許されない内に、十四はクロノの懐へと飛び込んでいく。
「砲撃装填ッ!」
ディバインバスターの収束した魔力を、握りつぶし、右拳に魔力を爆発寸前まで集中させる。
砲撃の威力をそのままに、拳で打ち出す十四の
「
赤錆色に輝く右拳は、殺意の輝き。
殺傷設定の砲撃を、十四は迷いなくクロノに叩き込もうとしている。
避けられない。
まともに受けたら確実に死ぬ。殺される。輝く拳は、死の光だ。
「うおぉぉっ!!」
クロノはラウンドシールドを五層、連続展開。
できる限りの魔力を、魔力の盾へ注ぎ込む。あの死の光を、自分へ徹してはならない。
十四は構わず、叩き込む。シールドなど関係ない。この威力の砲撃は、シールドを関係なく破壊する。
一層目は容易く拳のみで砕かれる。二層目も一秒かからず砲撃で塵に返す。
三層、四層と滅塵に帰し、五層目でやっと拮抗する。
シールドを発動したS2Uが大きい負担によって悲鳴を上げている。
「砕けやがれッ!」
十四の一喝に応えるように、最後のシールドも砕け散っていく。
シールドが全て砕けても、砲撃は防ぎきった。吹き飛ばされながらも、クロノは反撃の布石を仕掛けていた。
「
十四の指先から放つのは、なのはの得意とする誘導弾。
同時に制御できる弾数こそ本家のなのはに劣るものの、誘導制御と威力に関しては同等クラスであると十四は自負している。
弾丸数十二発。それら全てを、十四は
「スティンガーッ!」
迎撃に、貫通威力の高いスティンガースナイプ。同じ誘導弾を六発放ち、自らを守るようにコントロールをする。
四方八方から高速で向ってくるアクセルシューターを、全て撃ち落とす。二発に対し、一発。
そして、デュランダルの杖先を、十四へと向けた。
仕掛けてくる。ならば、その行動を潰す。十四はまた、
──両手両足を、バインドで拘束されていた。
「なっ!?」
気付いた瞬間、やられたと十四は確信した。
ディレイドバインド。十四も使える、設置型の捕縛魔法。
砲撃に吹き飛ばされながらも仕掛けたクロノの、反撃の布石。
「このっ、クソッ!」
外れない。外そうと魔力を放出し、構成の解読に躍起になるも、一筋縄ではいかない。
十四も良く知っている。この魔法を教わった者だからこそ、知っている。外れないからこそ、バインドなのだ。無理矢理、力で引きちぎれるほど軟弱に作られているはずがない。
──クロノ・ハラオウンは、下手な才能や資質をものともしない技量を持っている。長い経験に裏打ちされた、積み上げた戦闘論理。どんな相手であろうと器用に立ち回れる、引き出しの多さがクロノの武器だ。
「この、野郎ッ!!」
ようやく、四肢をバインドから解放し、クロノへと接近しようとする。
おそらく間に合わない。クロノは恐らく、大技を撃ってくる。近づいたところで、その発射を止めることなどできはしないだろう。
しかし、それでもいい。防御を張り、そのまま突撃して、カウンターを浴びさせて終わらせる。たとえ防御が破れても、十四には『
──だが、それ以上に恐ろしいのは。
「──スティンガーブレイド」
足を空に踏ん張り、突撃に入ろうとした瞬間、十四の背中には魔力刃の剣が突き刺さっていた。
「な、にっ……!?」
「エクスキューションシフト」
──詰将棋のように。相手の行動を予測、制限、コントロールすることで、自分有利へと進めていく頭脳にあった。
そして次々と、上空から十四へ殺到していく水色の剣。
防御魔法を展開する暇もなく、十四はその魔法をまともに食らうことになった。
「い、いつの……間に……!」
いくらなんでも、この攻撃魔法の速度は速すぎた。エクスキューションシフトは広範囲を対象に放つ。S2Uの処理速度がレイジングハート以上だとしても、防御魔法が破壊されて処理がオーバーフローしていた。少しばかりインターバルがあるはずだと十四は踏んでいた。間に合うはずがない。
つまり、十四に気付かれず、事前に発動していた。しかし、それが何時なのか。
「僕と君が、今の魔法を撃ち合った時だ」
「んだ、と……」
十四が一つ、魔法を発動していた時に、クロノは同じ魔法をその倍発動していたこととなる。
そうなれば、使用する魔力量は倍。処理にかかる時間も、倍となるはずなのに。十四ほどの魔力量を持っていないクロノには、キツイものであったはずなのに。
「君と撃ち合ったのは
「デバイスの、同時使用……!」
「デバイスを持っていない君に、こんな手を使っては師としては失格かもしれないが……手加減もできる状況ではないからな」
使用する魔力は倍となっても、使うデバイスが別々であれば処理は分担される。特に、ストレージデバイスでは最高クラスのスペックを持つデュランダルは、十四に気付かれない距離での広範囲による展開を可能とした。
「では、君を連れて帰るとしよう。待っている人もいることだしな」
「ざっけん──」
「動きは封じさせてもらうがな」
ストラグルバインド。今度は四肢だけではなく、腕と脚の動きすら封じた。
この拘束は、魔法効果を打ち消す。つまり、十四のブラウニーの再生能力を、今ここで封じたということだ。
スティンガーブレイドによって、ハリネズミとなった十四にはまともな動きはできない。再生効果を失えば、十四はここから動くことはできない。
クロノは、流れる大河の水面へと立つ。足下にはミッドチルダ式の魔法陣が展開された。
「"獰猛なるみずち、醜悪なるおもてを上げ、邪悪なるものを噛砕け"」
詠唱と共に、クロノの周りの水流に変化が生じる。
それは、渦。一方向へと流れ出ていく大河に、巨大な渦が巻き起こっている。
その水流は隆起していき、一つの形を象っていく。
それは龍。それは蛇。それはみずち。水で作られたその怪物は、クロノの周りでとぐろを巻く。
「"暴れ狂え!"」
デュランダルの指し示した方向。それは、縛られた十四。
クロノの号令と共に、水の怪物は十四へと牙を剥き、呑みこまんとする。
「クロノォォォォォッ!!!」
殺せ。このまま殺せ。連れ帰るなど、考えるな。十四は叫ぶが、クロノがその言葉を聞き入れるはずがない。
動けない十四はそのまま、怪物の腹の中……つまり、水流に巻き込まれた。
「終われ、フローズンドラグーン」
魔法の名前を唱えると、水の怪物は瞬時に氷の彫像へと変化する。
そして当然、水流に呑みこまれた十四もまた、封印凍結されたのだ。
クロノの、吐き出す息は白い。輝く太陽が眩しいこの世界ではあるが、ここだけは一面、白銀の世界となっていた。
「……終わった、な」
弟子との戦いは、こんな形での、こんな決着はしたくはなかった。
それすら叶わないのなら本当、
「世界はいつだって、こんなはずじゃなかったこと、ばっかりだ……」