悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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不死、殺されたがり屋

 休憩室に向かうクロノは、すでに限界寸前であった。

 壁を支えにして、息絶え絶えとなっている。顔色も良くなく、足取りも悪い。

 十四の前では気丈な態度でいたが、それも見栄でしかなかった。

 本当なら、まだ十四の話を聞いていたかった。聞いていなければならなかった。

 しかし、この体たらくではもしもの際には足手まといになる。そして十四が真っ先に狙うのは、自分であろうから。

 

「……本当、僕もなのはみたいだったらいいんだがな」

 

 彼女の無茶を省みない、あの強い精神力は真似できるものではない。それでも、ああいう強さがあったらなと、クロノは思う。

 こんな、こんな未熟で、弱い自分が嫌になる。弟子の暴走くらい、鼻歌混じりで気楽に止められない自分が、本当に厭になる。

 

 それだけ、十四の著しい成長を嬉しく感じてしまうのが、師という立場にある故か。

 戦って理解した。魔法を撃ちあって、ようやく十四の本質へとたどり着いた。十四が最初から自分を殺す気がない、ということが確信できた。

 十四が殺傷魔法をクロノへと向ける時、クロノが全力で防御すれば死なない程度で済ませられるほどに、出力を抑えられていた。クロノと十四の魔力量は大きな差がある。十四の魔力量を考えるならもう少し出力を上げていても余力を残すことができたはずなのに。

 凍結魔法の封印を解いた瞬間に出したブラウニーの数が何よりの証拠だ。あの五十を超える数を出したとしても、まだ十四の魔力は底をついてなどいない。

 そして何よりも。十四はなのはたちに使った質量兵器を一切使っていなかった。魔法による真っ向勝負。そんなことをせずとも、十四は質量兵器を活用していればクロノを圧倒して、もっと簡単に容易く殺すこともできただろう。

 それをしなかった。あの殺されたがりは、人を一度殺めたことがあるからこそ、その感触の悪さを知っていた。

 彼はどうしようもないくらいに善にあり、自分たちと同類(おひとよし)であり、そして手のつけられないくらいに歪んでしまった。

 そんな己を、十四は許せなかった。こんな狂った自分を、終わらせたかった。だからこそ、親しかった者たちに敵意を向けさせて自分を終わらせてほしかった。

 

「……終わらせなど、させるか……!絶対に、死なせるものか……!」

 

 そのためにも、今は休む。一秒でも早く回復して、また再び前線へと立たなければならない。

 クロノは歩くが、足に力が入らなくなる。そしてそのまま倒れ、立ち上がろうにもできない。

 こんなにも。ああ、自分はこんなにも弱いのか。

 みじめで、無様。なんて、格好の悪い様だ。

 

「ほら、クロノ君。手を貸して」

 

 そんな時に、彼へ差し伸べる手があった。

 力を振り絞ってその手を掴むと、引っ張られて立ち上がる。

 

「……すまないな、エイミィ。ありがとう」

「どういたしまして。今日のMVPには、これくらいやってあげますよ」

 

 彼女……エイミィはそのままクロノの腕を肩にまわし、一緒に歩く。

 クロノが今日のMVP、というのは確かなものであった。逃げ続けた十四を捕まえたことは、なのはにもフェイトにもはやてにもできなかったことだった。

 その彼のアシストが貸すことくらいなら、エイミィにとって安いもの。むしろ名誉なことだ。

 

「こんなに頑張っちゃって。後は私たちに任せてくれたまえ」

「そうすることしかできない自分が、嫌になる」

「そういじけないの。ゆっくり休んで」

 

 クロノはいつも責任感が強すぎるところある、とエイミィは思っていた。

 口はいつも素直じゃないくせに、弟子のためと出張って体を張った。

 

「アイツは、自分が許せないんだ。歪んでしまった自分に、歪んだ願望を持ってしまった自分が、何よりも」

「クロノくん……」

「人間は闘争の生き物。まったくその通りだ。だが、アイツは死のうとして生きるという闘いを放棄しようとしている。言ってることが滅茶苦茶だ」

 

 そんなご都合主義(デウス・エクス・マキナ)、あってはならない。絶対に認めない。

 クロノの言葉を、エイミィは黙って聞く。

 どれほどクロノが辛く思っているのかエイミィは計り知れない。エイミィは支える者であって、戦う者ではないのだから。

 

「教えてないことが山ほどあるんだ。言わなきゃならないことがたくさんあるんだ。絶対に、僕が死なせない……!」

 

 それでも、弟子を想うこの気持ち。この強い気持ちだけは、守っていかなきゃと思う。

 エイミィ・リミエッタは支える者。隣に立つことは適わなくとも、支えのための寄り木くらいにはなりたい。そうでなければ、何もできない自分に嫌気が差してくるのだ。

 結局、クロノは休憩室に辿りつく前に眠りについてしまった。

 そんな彼を、仕方ないと思いながらもエイミィは背負う。せっかくのMVPだ。これくらい甘やかすのは正当な報酬だ。

 背が高くなった。体重も、重くなった。ちょっと過ぎれば身長が逆転されて、こんな風におんぶなんてできなくなってしまうだろう。

 それが少しエイミィは寂しく。そしてちょっぴり、嬉しかった。

 

 

 

 

 

「さて、今度は我々の番だ。主はやての呪い、解いてもらうぞ」

 

 バインドで縛られたままの十四は、シグナムからの拳の一発をくらっても、縛られたバインドを外そうと躍起になっている。シグナムの言葉など、耳にも入っていない。

 十四の頭にあるのは、クロノを殺すこと。それしか考えられなくなっており、理性もほとんどない。

 暴走したまま暴れまくっている。まるで、泣き叫ぶ子供のように。

 

「コイツは……」

「シグナム、どいてろ。こういうのは……」

 

 ヴィータはグラーフアイゼンを起動し、そのまま十四の頭へと振り下ろした。

 ガツンッ、と派手は音こそしたものの、ヴィータ自身はちゃんと手加減した。

 

「コイツで目ぇ、覚めただろ」

「ヴィータちゃん、ちょっとやりすぎじゃないの……?」

「んなわけねーだろが。灸をすえるには生温いくらいだ。オラ、もっとぶん殴るか?」

 

 倒れた十四は、無事なのを表すかのようにそのまま座り込む。

 流血もない。額で受け止めたのがわかるように、真っ赤な跡が残っただけだった。

 

「……んだよ。やるならもっと強くやれよ。じゃなきゃ死ねないだろーが」

「二言目にはそれかよ自殺志願者……!死にたきゃ勝手に死ねばいいじゃねぇか!アタシらを巻き込むんじゃねえよ!」

「……ああ、そうだな。実にその通りだ」

 

 頭が冷えたのか、十四は理性を取り戻した。過激な手段ではあったが、効果は覿面だったらしい。

 

「三十一回」

「……?」

「二十回」

「……え」

「それと今日含めて二回」

「なんの数だよ、それ」

「覚えたな?順に、リストカット、服毒、そんで高所からの飛び降りの回数だよ」

 

 その発言に、この場にいる全員が青ざめた。

 知らぬ間にしていた、自傷、自殺行為。

 そのド外れた回数に、現実味が薄い。

 

「ん、んなわけあるか!?そんなにやって、普通生きてるわけねぇだろ!?」

 

 ヴィータの反論はもっともである。そんなに繰り返し繰り返しやっているのなら、死なない方がおかしい。いや、それ以上に……自分たちの知らないところで十四が自殺を繰り返していたという言葉に皆が皆ショックを受けていた。

 十四は確かに、目を離せばふらっとどこかへ消えてしまっている。その間に、どうしていたのか知る者は誰もいない。

 まさか、と考えてしまう。嘘であって欲しい。これほど、嘘であって欲しい言葉はなかった。

 

「……おい、バインド解いてくれ。暴れやしねぇよ。暴れたところで一緒だしな」

 

 バインドをかけている者達は顔を見合わせ、お互いに頷く。少しでも変な動きをしたら、即バインドを仕掛ける準備は怠らない。

 結局のところ、はやての呪いを解かせる時にはバインドを解かなければならない。

 幾重にも重なった拘束が解けると、息苦しかったのか小さく息を吐いた。

 十四が少し手首を捻ると、袖口から手のひらに収まるように一本のコンバットナイフが飛び出てくる。

 刃先を魔力で覆い、ナイフを起点にして長剣と同じほどの大きさの魔力刃を作り出す。

 各々がデバイスを構えようとした瞬間、十四は逆手に持ち替えた。

 そして刃を、己の心臓へと向けて──。

 

「なっ!?」

「ば、馬鹿野郎!」

 

 

 

 

 

 そのまま躊躇いなく、十四は刃で心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

「……確か、自刃はこれで五十二……回目……だっけか」

 

 そのまま、十四は崩れ倒れる。十四の体を貫いた魔力刃が天井を指し、血が滴って流れていった。

 床に流れ出す十四の血液。この出血量は、危険すぎた。

 

「十四っ!!」

「早急に応急処置を!医務室へ連絡して!今ならまだ間に合うわ!」

 

 突然の自殺。その行動に、驚かなかった者は誰一人としていなかった。

 ……そしてその後、彼らはさらに驚くことになる。

 

 シャマル、そしてユーノと治癒魔法を十四へ施そうとした瞬間、彼の体が魔力光の色である赤錆色に淡く輝いた。

 そして迸る極光。まぶたを閉じようとも視界が真っ白になる光を放ち、あまりの眩しさに誰もが腕で光を遮ろうとする。

 発光がなくなり、視界が真っ白に塗りつぶされていたのが徐々に色づいてくる。

 

 

 

 

 

 そこに彼らが見た物は……突如このブリッジを埋め尽くすほどに出現した、十四の『機械仕掛けの妖精(ブラウニー)』であった。

 

 

 

 

 

 その全てのブラウニーたちが十四の側へと結集し、ブラウニーが一つ、また一つと隣にいるブラウニーを取り込んで少しずつ大きくなりつつあった。

 そして最後に残ったのは、成人女性ほどの大きさと姿をした、赤錆色の妖精であった。ブラウニーと異なっている点は、彼女の姿はドレスのような衣服をまとい、頭にはティアラを冠していたところであった。

 女王。そう、これはブラウニーたちの女王なのであると、この光景を見続けた彼らは確信した。

 ブラウニーの女王は、彼を貫いた魔力刃に軽く触れた。刃はガラスのように簡単に砕け、そして十四へと還っていく。

 すると同時に、十四の傷も眼で見える速さで消えていった。潰れた心臓は元から潰れてなどいなかったかのように鼓動をし始め、流れ出た血も止まり、傷口も完全にふさがった。

 役目を終えた女王は、十四を抱き起し、そしてそのまま十四のもとへと還っていった。

 

 

 

 

 

「……チッ、やっぱし心臓を潰しても同じか」

「…………い、今のは、なんなの……?」

「わかんねぇか?俺が何度も自殺を慣行しても死ねない理由だよ」

 

 ハァ、と大きなため息を吐いた十四は、手に持っていたナイフを放り捨てた。

 これでは自分は死ねない。こんなものでは死ぬことすらできない。生死の自由を、自分は奪われていた。

 

 

 

 

 

「…………俺はアレを、妖精女王(ティターニア)って呼んでる。これがある限り、俺は絶対に自殺で死ぬことができない」

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