悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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暴走、死にたがりの再生者

 突然の自刃行為。確実に潰された心臓。即死は免れないと思われていた。

 しかし、突然の『機械仕掛けの妖精(ブラウニー)』の変異。十四が『妖精女王(ティターニア)』と呼ぶそれが十四へ再生をかけ、死ぬと思われた状態から復活した。

 ……驚きの連続が続いて、この場にいる全員は、この状況を受け入れるには時間を要した。

 

「ティター……ニア?」

「ああ。これでわかったろ、俺に自殺なんて意味がないってな」

「ちょ、ちょっと待てよ!お前自身がアレを出すように仕向けたんじゃないのかよ!そうすりゃ……!」

「その意見はもっともだ。この状況を記録してんだろ。だったら後でバイタルを見ればいい。心臓を潰せば確実にショック死するってのにな」

 

 流れ出る血から失血死より、大切な人体の器官である心臓を失ったことによるショック死の方が避けられない。なのに、十四はその状態から生還した。生還されられた。

 

「ブラウニーどもに多少の自律性がある、ってのは知ってるか」

 

 それには各自頷いた。十四の『機械仕掛けの妖精(メタリカ・ブラウニー)』の能力は全員が知るところである。

 回復能力ではなく、生体の時間操作。それがどれだけ脅威で、恐ろしい能力で、幅広い応用性を持つことくらい簡単に予想ができた。

 ブラウニーには各自、各々で考える知能を持っている。それは主である十四の命令を効率よく遂行するためであり、基本は絶対服従である。そこらへんのインテリジェントデバイスの人工知能よりずっと考える能力は高い。

 しかし、その絶対服従を覆してでも、ブラウニーには守らなければならないことがあった。

 

「それが?」

「自律性があるってことは、考える能力があるってことだ。つまり、主である俺の命令にも反逆できるってことだ」

 

 同じ人間であっても、階級(カースト)が存在する。そして同じ人間だから、考える能力が同じく存在する。上に立つ者たちは、下の者たちが考えるという行為をすることを極端に恐れた。人間だから、同じように存在する武器であるから、それを同じように発揮することが許せなかった。

 奴隷に、考える知能は必要ない。奴隷はただ従っていればいい。漠然と、働く機械でなければいけない。上に立つ者たちはそう強制した。それが当然なのだと擦り込んだ。

 考える能力は、反逆の火種を生むのであるから。

 

「経験、あんだろ。お前」

「うっ……」

 

 八神はやてと、その騎士たちに言った。

 かつて騎士たちは、主を助けるためにと闇の書の蒐集を、主の命を裏切って行動した。今でこそ美談として語れるが、結局のところそれも反逆の一つである。

 

「ま、そんなことはどうでもいいが。俺は心臓をぶっ刺した時、ブラウニーどもに命令した。絶対に俺を治療するな、と」

 

 十四は冗談抜きで自殺する気であった。そしてその命令は、ブラウニーたちは遂行しなければならなかった。

 

「だが結局のところ、それができない。どんな状態であろうと、あの女王(ティターニア)が出て来てしまえば即再生だ」

 

 主へ反逆して、主への再生を施した。潰れた心臓を巻き戻して、失った血液も巻き戻して、何もかも元通りにしてしまった。驚異的過ぎる再生能力である。

 ティターニアはブラウニーたちの上位存在、と単純に十四は考えている。自ら命を絶とうとしてもそこから蘇生させるほどの再生力と主の命令に反逆することのできる強固な意思を持ち合わせている。自分のレアスキルの進化した先にあるもの、と難しく考えていないため詳しいことは十四自身すらよくわかっていない。

 十四の魔力のほとんどを使用し、役目を終える時は十四自身へ魔力となって還元される。消費はプラマイゼロになるため、何度自殺を繰り返しても同じなのである。

 

「……それはきっと、ブラウニーたちが十四くんが死んでほしくないって思ってるからだと思うよ」

 

 なのはは、純粋に、そう思った。そうであって、欲しかった。これは希望であったから。

 自分へ、そして人へ。どんなケガも病もたちまち元に戻してしまう十四のレアスキルは、優しすぎるほどと言っていいくらいに優しいものである。

 十四が、この魔法の世界(ようせいのせかい)へと足を踏み入れて、魔法の力と妖精を手に入れたのは、家族を失って何もなくなっても、生き残ってほしいという願いが込められている。なのはは、そう信じた。

 

「そんなもの、ただの幻想だ。ブラウニーどもは宿主……(オレ)がなきゃ生存できないことを知っている」

 

 唾棄すべき、甘い幻想だと切り捨てる。そんな女子供の夢物語と同一視などされたくない。

 生物が生き残ろうとする生存本能は高いものがある。自律行動を可能とするブラウニーは、十四の死亡こそ絶対に忌避すべき問題。

 十四は幾度も幾度も、自殺をしようとして、何度も何度もブラウニーによって黄泉路から引き返されてきた。

 ブラウニー自身が、消滅するのが嫌だから。そんな理由で、十四は自分の死すら自由に決められない。

 

「だったら生きようよ。つらいことなんて、あって当たり前なんだよ」

 

 フェイトは、十四にかつての自分を見た。母に存在を否定され、絶望の底へと陥っていた自分を。

 それでも今、こうして生きている。絶望に負けず、立って歩いている。

 辛いことが連続しても、それが人生。幸福が連続しても、それが人生。

 十四も同じだった。まだ始まってすらいない。このままでなんて、終わらせない。

 立ち上がれないのなら、いくらでも支えてあげよう。

 

「馬鹿言うな。生き死にを自由にできない時点で何が人間だ。戦えよ。戦って俺を殺せよ!でなきゃ、俺がお前らを殺すぞ!」

「馬鹿言っとるんはそっちや馬鹿ッ!」

 

 はやてには、十四の言っている言葉が悲しすぎた。死なない、死ねない、確かにそれは苦痛なのだろう。

 しかしだからといって、どうして今死ぬ必要がある。どうして自ら命を絶とうとするのだ。

 

「生き死にが自由にできない?それがどうした!殺してくれないから殺す?そんな言い訳が通用するか!アンタが死んで、私たちの誰かが死んで、泣いて悲しむのはどこの誰やと思っとるんや!!」

「泣く必要がどこにある!?俺がお前らの誰かを殺したらな、お前らは俺を憎めばいい!敵意をむき出しにしろよ!戦えよ!殺せよ!それで全部解決じゃねぇか!!」

 

 流す涙など不要。悲しむ情など不要。欲しいのは憎しみ、怨恨、殺意、敵意。それだけあればいいのだ。

 そうやって殺されて、時間が過ぎていけば風化して忘れられる。そう、なりたかった。

 

「戦えよ!戦って、俺を殺せよ!お前らは俺に殺されたくないだろうがっ!!」

 

 十四の嘆き、叫び。十四の中にくすぶる、親しかった彼らを殺したいという欲望は、まだ渦巻いている。今でも、この状況から何人道連れにできるかなんて考えている自分がいる。

 人間なんて、他者を憎んで生きている。憎んで憎んで、生き続けている。それが日ごろを生きる力になる。戦える力になる。

 

「簡単だろ、俺一人殺すくらい!なんてことないだろーが!!」

 

 ここにいる全員でかかれば、十四を殺すことなど容易いことだろう。不死に近い存在である十四を、殺めることくらいできるだろう。それが十四自身わかっているからこそ叫んだ。

 

「首を刎ねろよ、四肢をもげよ、頭を吹っ飛ばせよ、内臓を抉れよ、跡形もなく消炭にしろよ。焼き殺せよ殴り殺せよ斬り殺せよ撃ち殺せよ痺れ殺せよ刺し殺せよ抉り殺せよ絞め殺せよ!簡単だろうが!!」

 

 十四の狂気が膨れ上がるのと比例するように、発せられる魔力も増幅する。感情の揺れ動きによって魔力が変動することは多々ある現象であるが、十四の場合それが顕著であった。

 ゆらりと陽炎のように揺れる魔力は、なのはと同程度にまで達している。潜在的にある魔力を、無理やりに引き出そうとしていた。

 それは寿命すら削る無茶。魔力が身体の成長と共に大きくなるのは、体がどれだけ魔力に耐えることができるのか、その許容量をしっているから。それを省みず、十四はそのまま感情に己を任せるまま内にある魔力を爆発させるように吐き出していく。

 

 ユーノ、アルフ、シャマル、ザフィーラは再び十四へとバインドをかけた。ここで暴れさせるのは、あまりにも危険すぎた。

 十四はその場を動かず、あまりにもあっさりバインドにかかる。しかし、あふれ出る魔力の奔流は途切れることはなく、この空間を埋め尽くしそうになる。

 縛るバインドが、十四の魔力に中てられてガチガチと悲鳴を上げている。ただの魔力の放出のみで、魔法に干渉したていたのだ。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ!!!!」

 

 獣の咆哮より空気を震わせた、十四の絶叫。この場にいる全員が、鼓膜が破れそうになるくらいの音で、おおよそ人が出せるような物ではなかった。

 

「ガア゛ァッッッ!!!!!」

 

 魔力に紫電が伴い、バインドが粉々に砕け散る。

 十四の足下には、ミッドチルダ式の転送魔法の術式が展開している。狂気の中に残ったわずかな理性が、これを発動しようとしていた。

 

「させるか、レヴァンティン!」

「グラーフアイゼン!」

 

 騎士二人が、それぞれの武器を手に十四の転送を阻止にかかる。

 この、十四の危険な状態。下手したら魔力の暴走によって、このアースラに大きなダメージを残すかもしれない。

 不安定な精神状態での魔力行使は、あまりにも危険すぎる。

 

「消え、失せろッ!!」

「ぐぅっ!」

「うおっ!」

 

 しかし、十四の発せられた魔力が波動となって壁となった。魔法ではない、ただ魔力を叩き付けただけの稚拙なもの。しかしその密度は桁違いの域になれば魔法と寸分変わらない。

 暴風のような衝撃を、シグナムとヴィータだけでなく、十四の周りにいた全員に中てられて大きく吹き飛ばされた。

 

「ウ゛ガァァァァァアアッ!!!」

 

 そしてそのまま、誰にも繋ぎ止められなくなった十四は、転送魔法によってこの場から姿を消していった。

 アースラのブリッジに残された彼らは、吹き飛ばされた痛みをものともせずすぐに立ち上がる。

 まだ、救いがある。まだ、望みがある。

 ────諦めるには、まだ早い。

 

 

 

 

 

 善であったはずの少年は、認められぬ歪みを抱え、悪であることを運命づけられた。

 

 悪にならねばならなかった少年は、捨てきれぬ己の甘さを握り続け、半端なまま漂い続ける。

 

 願うは己の終焉(おわり)。誰も泣かず、誰も覚えられず、皆が忘れる結末。

 

 風化し、消えてなくなりたかった。ただ独り、波にさらわれた砂浜の足跡のように、跡形もなくなりたかった。

 

 それを許さぬは、己に住まうものども。存在するために生かされ続け、終わりの自由を奪われた。

 

 悪になりきれぬ少年は狂気に触れ、願いを託す。己を殺めよと、切に願う。幕引き(カーテンコール)の喝采を、聞かせてくれ。

 

 ────ああこの世が。この現実がどこかの舞台で。この世界が決められた筋書きがあったなら。

 機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)が降りてきて、己の何もかもを……壊してくれればよかったのに。

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