悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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亡失、資質の覚醒

 加添(かぞえ)十四(とし)は十一歳、小学五年生のどこにでもいる男子()()()

 空手を習い、サッカー少年団に所属し、塾通いに追われる、ただの小学生であった。

 ……過去形となってしまったのは、現在の時間軸から一ヶ月の時を遡った先に原因がある。

 端的に言ってしまえば、加添家は皆殺しにされた。加添家惨殺事件。メディアで大きく取り上げられ、連日お茶の間をにぎわせ、恐れさせた。

 その唯一の生き残りが十四であった。殺人鬼から運よく生き延びた男の子。世間の同情の視線に彼はさらされた。

 ここで話を終わらせてしまえば、平々凡々(ありふれた)とは言えないがただの事件の一つとして数えられていた。次第に人々の記憶から薄れていき、そして忘れ去っていく。その程度のことでしかない。

 しかし、話はそれで終わらせていない。終わらせてはいけない。

 本当の要点は、ここからである。

 加害者である犯人が、管理世界──魔法使いたちの世界からやってきた連続殺人鬼であった。その殺人鬼も、魔法使い──魔導師であった。

 その殺人鬼は管理外世界の住人を集中的に狙い、家族単位から村単位で皆殺しにする。警察組織であり司法組織である管理局から全次元世界へと指名手配された、特S級の札付きの犯罪者であった。

 魔導師と魔法を使えない一般人との力の差は絶望的と言ってもいい。単騎のエース級魔導師は一国の戦力と比肩することだってある。

 さらにその殺人鬼は魔法の腕も冴え、転移魔法の達人。短距離移動(ショートジャンプ)から次元跳躍まで使いこなし、管理局の手から逃れ続け、殺人をし続けてきた。

 そして第97管理外世界、地球の日本の、加添家に殺人鬼は標的を定めた。

 その日、日曜日であった。雨の日であった。仕事で忙しい父親も、家事に追われる母親も、部活動に熱心な兄も、偶然が重なったように休みが重なり、その日サッカー少年団の練習試合があった十四もあいにくの雨で注視となり、退屈にしていた。

 

 ──どこか食べに行くか。

 

 父からの提案。それを歓迎する母。そして、どこに行こうかと兄。

 

 ──どこに行きたい?

 

 父は息子たちに何を食べたいと聞いた。

 どうする、何が良い?と兄は、十四に決定権を譲った。

 十四はふと、赤身のマグロが食べたいと思った。

 

 ──寿司。回転寿司がいい。

 

 よしきた、と父は車のキーと財布を用意し、母は化粧をし、兄弟はいまかいまかと待った。

 支度が終わり、外へ出ようと家族全員が玄関へと向ったその時──。

 

 ────惨劇は、起きた。

 

 

 

 

 

 十四が自我を取り戻した時には全てが終わっていた。

 体にはいくつもの裂傷。骨折。座り込んだまま動くこともできず、全身から走る激痛が激痛でなくなって麻痺となり、吐き気を催すほどに苦痛であった。

 目がかすみ、気だるさに満ちている。どうしようもなく、体が重い。

 いつもより、視界が狭い。左目は潰れていた。

 なにも、音が聞こえない。鼓膜は破れていた。

 それでも、十四は生きながらえていた。

 何が起きたと混乱したが、白くかすんだ見まわそうとする。

 そして、すぐにわかり……思い出した。

 見慣れたはずの自分の家。それが今までにみたこともないくらいに荒らされていた。

 家具類は倒れているのは当たり前。壁に穴は空き、床はめくれ、壊れた家電からは火花は散り、天井は空をのぞかせていた。

 そして、ほとんど感覚のない両手に持っていたモノ──それは……。

 この惨劇を引き起こした男の首級と、両親と兄の命を絶った真っ赤に血塗られた殺人鬼のナイフだった。

 

 ────ああ、そういうことなのか。

 

 まるで他人事のように、冷静に、起きたこと、起こしたことを次々と思い出していた。

 それを頭が受け入れた時には、瞼を開いていることすら限界になり、疲れが誘う眠気に素直に従って少しずつ目を閉じていった。

 ────最後に覚えていた記憶は、白いロングスカートの少女の姿であった。

 

 

 

 

 

 加添家惨殺事件の三日後に、加添十四は時空管理局本局の集中治療室(ICU)にて意識を取り戻した。

 酸素マスクをし、点滴と輸血の針を刺され、全身を包帯で巻かれていた。

 記憶の混乱はなかった。

 家族が殺されたこと。家族を殺した男を自分が殺したこと。全てを受け入れていた。

 不思議と、悲しみは沸いてこなかった。悲観に暮れ、絶望に満ち、泣き叫ぶようなことはなかった。ただ、事実をありのまま受け入れていた。

 今自分がすべきことを己の体の回復と考え、また目を閉じて眠りにつく。

 …………このとき、十四自身は己の体に起きていた異変に、気付くことはなかった。

 

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