加添十四が転送していった世界は、十四が先ほどクロノと戦い、そして敗れた無人世界。日に同じ場所であったため、特定はすぐにできた。
彼を追い、ヴォルケンリッターが追跡として向かう。
そして彼を見つけた。この世界に大きく流れる大河の終わり。世界の断面。ワールドエンド。その底の見えぬ滝壺へ。
そこは暗黒の世界。光の届かぬ場所。水の飛沫と霧、そして闇と滝の轟音のみが支配する世界。
流れ落ちる滝の流水の飛沫に全身が濡れていた十四は、まるで泣いているようにも見えた。
「見つけたぞ、加添」
烈火の将シグナムを筆頭に、ヴォルケンリッター全員……否、シャマルを除いて、十四の前に姿を現した。
このほとんど暗闇と濃霧の中でも、十四を確認することはできる。
揺れ動く莫大な魔力反応。それがビリビリと肌を刺激し、眼で確かめなくともいることがわかるほど。
アースラの時よりは大分落ちついてはいるが、それでも魔力の奔流は凄まじいものがある。
感情の爆発によって、潜在的に眠っていた魔力を無理矢理目覚めさせた。これから何年、大人へとなっていき少しずつ覚醒するはずの魔力を、寿命を削りながらも今ここで発揮した。
その魔力量は、今の高町なのはを上回り、夜天の主である八神はやてに匹敵する。
「……んだよ、結局やる気か」
「言っただろう。貴様には、主はやての呪いを解いてもらわなければならない」
「解いたら、俺を殺してくれんのか?」
返答は、ない。
そのつもりは、毛頭ないということだ。
「……仕方ねぇな」
精神状態が安定したのか、垂れ流しになっていた魔力が落ち着いた。
十四の流していた魔力は、撒き餌に過ぎない。ならこれ以上の意味はなかった。
「一対三……いや、シャマル先生は後方援護か。シグヴィーザッフィーを同時に相手にすんのはキツイな」
ヴォルケンリッター三人を同時に相手。これは十四自身、経験したことのないケースであった。
一対一でも、十四にとって勝利数は多くない。敗北数はゼロといっても、ほとんど引き分けに持ち込むことが多かった。
さらには後方にシャマル。これが十四にとって凄まじく恐かった。
湖の騎士シャマル。普段は温厚な彼女で、自分の担当医務をしていた優しい人であったが、時々冷たい顔をするのが怖かった。
後方の援護があるというのなら、逃げることはできない。確実に自分は捕まるのだろう。
それでも、十四は笑っていた。
「じゃあ、同胞一人ぶっ殺せば、目の色くらいは変えるか」
静かな、魔力の流出。しかし、十四の体内で走る魔力はこれまでのとは違う。
魔力光が、桃色、金色、そして白。その三色が入り混じって漂っていた。
違う、魔力。明らかにそれは、十四の魔力ではない。
「
その魔力を、手のひらから一気に放出した。
ブラウニーを数百分となるだろう魔力は、成人女性の人型を象った。
その姿は、間違いなく見た
アースラで見た、十四の魔力光の赤錆色の
白。白に輝くティターニアであった。ドレスを纏い、ティアラを冠しているのは同じであるが、色が異なっていた。
さらにドレスの上に、白銀の甲冑が加えられており、手甲、具足と武装された姿は、姫騎士という姿にある。
「……テメェ、アタシらを馬鹿にしてんのか……!」
ヴィータが、その
無貌であった十四の赤錆色のティターニアと違い、その
その顔があまりにも、彼らの主である……八神はやてに瓜二つであるから。
「知るかよ。俺も驚いてんだ。これやるの、初めてだしさ。靴の裏でも舐めさせてみるか?」
十四本人も少し驚いていた。まさかこんな形を取るとは、思いもしなかった。
ちょっとした裏ワザ。それを十四はぶっつけ本番で試したところ、こうなった結果である。今の自分には、不思議と力と自信が溢れていた。
わからないことが、わかる。自分の中の自分の知らないことが、手にとるようにわかる。脈拍、呼吸のペース、ストレスの度合い、脳内麻薬の分泌量といった身体的面はもちろん、『機械仕掛けの妖精』の使い方も完全に理解していた。
今の十四は、十全である。本来、長く時間をかけて至る境地に立っている。己のことで己に知らぬことはない。そう、自負してもいい自信があった。
それが当然のことであるように。それが喜びであるように。意思能力があるはずの
「やめろ」
十四は、
顔に、不愉快だと表情にありありと見せている。
「所詮は
こんな魔力で作った偽物に靴を舐められても、嬉しくもなんにもない。人形遊びと変わらない。十四には元々、そんな趣味はない。
やるには本物相手にやった方が面白い。誰が相手かどうかはともかく、人間相手にやった方が嗜虐心も満たされる。
「能力に関しては期待していいんだな?」
その返答に、ティターニアはコクリと頷いた。
十四には絶対服従、自律能力を持つという点はブラウニーと変わらない。
知能そのものはブラウニー以上。人となんら変わらないレベルにある。忠誠度もまた、ブラウニー以上ということも証明された。
「じゃあ、やることは簡単だ。あの三人を足止めしろ。やり方は任せる」
親指で三人を指差し、ティターニアは再度頷いた。
手にするのは、武器。自らの巣である主を、お守りする力。
右手に金色。左手に桃色。それは間違いなく、リンカーコアであった。
右手の金色は、サーベルに。左手の桃色は、小銃に。それぞれ変化した。
命令を承った。武器を手にした。あとは、主からのゴーサインを待つのみ。
「やれ」
──瞬間、主の命を受けたティターニアは、戦場へと躍り出た。