右手の金色のサーベルでもって、
十四の号令とほぼ同時に、ティターニアは間合いを詰めていた。
シグナム、そしてヴィータ、ザフィーラにとってはほとんど不意を打たれたが、対応はできる。
──この速度、フェイトと同等クラスのスピードである。
凄まじく速い。しかしそれでも、シグナムはそのフェイトと幾度も剣を交えてきた。この速度域には慣れている。
ティターニアが繰り出してくる連続の突きに、シグナムは愛剣レヴァンティンで切り払う。
スピードこそ速い。しかし技量はそれほどでもない。性能に任せた、我武者羅な剣だ。
「ぶっ飛べっ!」
ティターニアの背後の上から、ヴィータがグラーフアイゼンを振り下ろしてくる。テートリヒシュラーク。ハンマーフォルムの一撃は、生半可なバリアで防いでもバリアごと破る。
ティターニアはブラウニーの上位存在。ブラウニーそのものの戦闘能力は非常に低かった。ティターニアも少しばかりは強度は増してはいても、大したものではないと考えた。
故に、攻撃を中てれば一撃で落ちる。
しかし、ヴィータの攻撃は空振りに終わる。ティターニアは、瞬時に十四の横へと下がっていた。
確実に当たるタイミングだと、ヴィータは確信していた。それを避けられたという事実。反応速度は人を超えているのは明らかであった。
ティターニアは次に、左手の桃色の小銃を一列に並んだ彼女らに向けた。
銃口から放たれたのは、桃色の魔力砲撃。極太の光が、容赦なく二人を呑みこもうとしていた。
その間に、ザフィーラが飛び込む。魔力障壁を張り、砲撃の光を食い止めた。
「テオォォアアアッ!!」
だが、砲撃の威力は重く、拮抗状態をなんとか保っている。凄まじき威力。並みの防御魔法であれば、防御ごと押し潰されてしまうだろう。
だが、攻撃を受けているのは盾の守護獣とまで渾名されたザフィーラ。障壁の魔力をさらに高めて、かき消した。
抜き打ちで、この威力。この砲撃を、彼らは知っている。
この機動力、この速度、この出力、この破壊力、そして金色と桃色の魔力光と魔力反応。
まさかと思いたかった。しかし、間違いなかった。
「十四、お前……!」
「『
ご明察、と言わんばかりにザフィーラの言いたいことを汲んだ十四は、はっきり物を言わずぼかしていう。
レアスキル『機械仕掛けの妖精』の全てを把握した今、単なる再生能力だけの運用から大きく発展していた。
「我々も馬鹿ではない。お前が一体何をしたのかわかっているのか?」
「できることをやっただけだ」
できたからやった。十四にとってはそれだけのことに過ぎなかった。
それがどれだけ困難なことなのか。それがどれだけ衝撃を与えるものなのか。
「ティターニア。やれるな?」
十四の命令に、ティターニアは頷く。
──私は主の奴隷。やれというのならやりましょう。
言葉は発しない。それでも、十四はティターニアの言いたいことはわかっていた。
奴隷というのなら、黙って死ぬのを見届けておけよと十四は思わずにいられなかった。
十四はそのまま、転送魔法の展開をする。この暗黒の世界を脱しようとする。
「じゃ、な」
「「「させるかぁっ!」」」
十四へと、殺到する騎士たち。
ここを逃がしてはならない。逃がしてしまったら、最悪の事態に直面する。
だがそれを、ティターニアが前に立ちはだかる。
小銃から放つ、莫大な数の誘導弾。数は五十以上。その全てを完璧に操り、三人の行く手を阻む。
その間に、十四は転移して姿を消す。
追わなければならない。絶対に。
十四の狙いなど、わかりきっていた。
「"シャマル!聞こえるかシャマル!アイツの狙いはお前だ!今すぐそこから離脱しろ!"」
念話を、ここにはいないシャマルへ飛ばす。逃げろと。十四がお前を殺そうとしていると伝える。
確実に殺すため、ヴォルケンリッターの中で直接的な戦闘能力の低いサポート要員のシャマルを狙う。理に適っている。十四の狙い通りに動くには、そうするべきだ。
同胞を殺す。そうすれば騎士たちに殺意を焚き付けることもでき、主であるはやてに、深い悲しみと憎しみを背負わせることができる。
『"──安心して、シグナム。私だって、自分が狙われることくらい予想できていたわ"』
十四が転移した場所は、後方にいるシャマルのところ。
後方から、転移と治療によって前線を支え、広い目で戦況を分析し、前線へと伝える。それがシャマルの役目。直接戦う力が弱い彼女の、戦う方法。
シマウマの戦い方は、ライオンと正面切って戦うことではない。肉食獣から逃げ切ることである。
そして彼女も、彼女自身の戦い方を熟知していた。
「……なるほど。自分がまともに戦えないってことくらい自覚してるわけね」
「これでも、私は夜天の騎士なんですよ。自分が真っ先に狙われるくらい、当然予想できていました」
戦い方を熟知しているからからこそ、自分が狙われた場合のケースをいつも想定している。彼女もまたヴォルケンリッター。夜天の主を守護する、歴戦の騎士の一人だ。
シャマルの周りには、ユーノとアルフがいた。
駆ってでてきたのはヴォルケンリッターだけではない。サポート要員は後方に位置し、十四の逃走を防ぐためにその二人はいた。
第一に恐れたのは、十四が誰かを殺害すること。第二に恐れたことは、十四が再び逃走すること。
その二つを封じ、アースラに連れ戻す。このまま勝手にさせれば、倒れる寸前まで戦ったクロノに申し訳が立たない。
シャマル、ユーノ、アルフ。この三人で十四を打倒するのは非常に難しい。直接的な戦闘に長けているのがアルフのみであり、二人は後方での支援に特化しているのだ。しかし、それは本人たちにもわかりきっていた。
しかし運用次第では、最も勝ち難い構成であると十四は思っている。逃走はまず不可能。広域探査で必ず追ってくる。ここで打倒しようとしても、搦め手を多用してくる彼らに時間を稼がれる。負けることはなくとも、ティターニアに相手を任せている彼らが到着したら面倒なことこの上ない。
「あのティターニア……あれ、フェイトのリンカーコアを使ってるね?」
「なのはのリンカーコアもだ。あのティターニアには、なのはとフェイトとはやての魔力が同時に存在している。どういうわけか、説明してもらいたい」
アルフとユーノは、後方から前線の様子を見ていて十四の作り出したティターニアに着目した。
魔力の源、リンカーコア。魔法を使う者には最重要なものであり、最も謎の多い物である。それだけ、扱いに非常に慎重さが必要となる。
あのティターニアのように、自分のレアスキルで作った魔力体にリンカーコアを核として埋め込むなどということは、高度な技術を必要とされる。十四ができるわけがないのだ。
そして何よりも、どうして蒐集されたわけでもないのに、十四があの三人のリンカーコアを所持しているのか。答えを知らなければならなかった。
「説明もなにも。ユーノさ、一応学者だろ。自分で考えられないか?」
「知っている人に聞くことは恥でもなんでもない。学者は学ぶから学者なんだ」
ふむ、と十四は納得する。学ぶからこそ学者。良いことを言う。
気分がいいので、十四は言うことにした。元々バレる前提で使っている物であるし、聞かれたら答える主義であるから。
「俺のブラウニーは生体の時間操作ができる。それは周知の事実だ。だが時間操作には、プロセスを踏まなきゃならん」
「プロセス?」
「……ユーノ、お前は本を読むよな?続きを読むとき、何を使う?ふせんか、しおりか」
「……なるほど。肉体の時間軸を設定するわけだ。再生魔法を使うなら、戦闘前の状態にするためにそこへ
「御名答。そういうことだ」
再生魔法として、肉体の時間を元に戻したいのならば、十四はいつも戦闘前に健康な状態の肉体であった時間に点を置いていた。その状態へブラウニーが再生させるために。
ユーノとシャマルは、そのことを理解していた。アルフも大体であるが、理屈はわかった。しかし、実行できるかはどうかは不可能としか思えなかった。
何せ、その目印となるものが人間の肉体の状態という、途方もない情報量を持っている物だ。記憶できる媒体など、存在するわけがない。
「ブラウニー一体には、体の設計図がインストールできるほどの記憶容量がある。肉体、人間の体のあらゆる全部、細胞の一片に至るまで全てがな」
「……つまり、条件はクリアしている」
ゆえに、
「再生、つーより上書きや更新だ。ということは、だ。
「……まさかっ!」
「フェイトたちを学校でアンタが襲撃した、あの時に!?」
「そういうこと。リンカーコアもまた、体の一部。俺がその気になれば……!」
十四は、大げさに両腕を広げる。見せびらかすように、括目させるように。
背中から、大量のブラウニーがぞろぞろとあふれ出てくる。十四の魔力光の赤錆色だけではない。桃色、金色、白と、色とりどりのブラウニーたちが十四の周りで踊っている。
「……それ、全部なのはたちの……」
「ブラウニーからリンカーコアの情報を摘出し、ティターニアの核として埋め込む。武装として使えることに関しては俺も驚いた」
はやての情報を写し取ったブラウニーを、ティターニアの核とすることによってはやての魔力量や魔法、才能を再現したティターニアが完成した。同様にティターニアに対応できる規格へと応用を加えたことによって、リンカーコアを武装とすることでその元の人物の魔法を
ケラケラと、十四は笑っている。可笑しい、ああ可笑しいと。
こんな力を持っていても、こんな使い道しかしないのに。誰かを泣かせることしかできないのに。
なんで自分が、こんな力を持っているのだろう。
「……君がクロノに向けたなのはやフェイトの魔法、付け焼刃にしては完成度が高すぎた。まさか、自分の体にも埋め込んでいるのか?なのはたちのリンカーコアを」
ユーノは、最悪のケースを想定してこの質問をした。
この答え、普通ならノーと答えるだろう。他人のリンカーコアを埋め込むなんて所業、体が拒絶反応を起こして壊死してしまうのが関の山であるのだから。
しかし、この男、十四なら別である。この男を、今更常識という尺度で測ったらいくら驚いてもキリがない。
「さっきのアースラでな。ようやくリンカーコア四基が同調したよ。一回ブチ切れてみるもんだな。アッハッハ」
その答え、肯定。笑いながらの返答に、ユーノたちは、絶望に満ちた顔をする。
なのは、フェイト、そしてはやての三人の魔力総量と魔法をそのまま、十四へ加算される。
今、十四の体内には赤錆色のリンカーコアに、衛星のように桃、金、白のリンカーコアが繋がり、同調している。サテライトコアと言うべきそれは、量・質共に破格の魔力を生み出すことができる。
単なる足し算。しかし、その桁が桁。削り切れる量では、決してない。
魔力切れという十四への攻略方法を、さっそく潰された。