悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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曲げられぬ心、男の意地

「こんなもんか、こんなもんかよ、テメェら」

 

 十四は嘆く。これで終わってくれるな。こんなもので終わってくれるな。

 この世界は、十四が有り余る魔力で思うように暴れたためか散々たる光景となっていた。

 マングローブの森は崩壊し、氾濫した大河の激流によって流されていく。

 幻想的な光景のこの世界は、一変して地獄に。強すぎる力を振るった、人為的な力によってこの地獄を作り出した。

 これが魔法だ。これが武力だ。人一人が振るえることのできる、規格外の能力だ。

 人の作り出す兵器と、何も変わらない。人を屠り、財産を壊し、世界を泣かせる。

 これが、人を殺す力以外の何だというのだろう。

 

「あ゛ッ、ガッ……!」

 

 倒れ伏している、アルフ、シャマル。その二人を守ろうと、ユーノは膝に手をつけてなんとか立ち上がった。

 立ち上がらせたのは、ユーノの意地だ。肉体はほぼ限界に達しており、痛みが痛みを超えて麻痺してしまっている。

 全身は血だらけ、折れている骨も少なくはない。満身創痍であった。

 それでも、決して諦めない。生きることを、勝つことを絶対に諦めない。それを信じて疑わない眼であった。

 血反吐を吐きながらも、双眸は空にいる十四を睨みつける。

 

「……まだ、負けてないッ!僕は、まだ負けてないッ!」

「嬉しいぜ、ユーノ。お前、大人しく本読んでる時の顔より、今の面の方がずっといい貌してる」

 

 強大な力を持つ者であろうと、決して諦めない姿勢を貫き徹すユーノの覚悟に、十四は心を打たれる。

 普段は理知的で争いを好まない性格のユーノが、闘志をむき出しにして、抵抗している。

 その念に、十四は最大限の敬意としてこの魔法を選ぶ。

 

「じゃあ、さよならだユーノ。さようならだ、親友」

 

 展開する、ミッドチルダ式魔法陣。

 空気中に漂う魔力素が、十四の前に収束されていく。

 それは、莫大な魔力となっていく。それが発射されたとなれば、この三人は絶対に助からない。

 その術式が、その魔法が、誰の魔法で何の魔法であるか。ユーノにはすぐわかり、はっきりわかっていた。

 ……だからこそ、今の十四が使うことが、我慢ならない。

 

「…………舐めるな」

 

 確かに、自分は弱い。攻撃魔法の才能はないし、長所といえば防御魔法と結界魔法が得意なくらい。戦いで役に立てることなど限られているし、なのはやフェイトのように、派手な魔法を撃つことなどできはしない。

 だが。だがそれでも。その魔法を、お前が使っていい理由などありはしない。

 

「お前が、なのはを騙るな……!」

 

 こんな弱い自分でも、自分はなのはの師匠だから。魔法を教えた者だから。

 正しい魔法の使い方を、後悔のしない魔法の関わり方を説いた者だから。

 その魔法を、なのはの魔法を、血で汚すわけにはいかない。

 その魔法で、なのはの顔を、涙で溢れさせるわけにはいかない。

 

「ユーノ、逃げろ……」

「ユーノ、君……!」

「大丈夫です。あれくらい、なんともありません」

 

 大丈夫という根拠はない。ただ、それでも逃げたくない。

 逃げられない意地がある。曲げたくない、心がある。

 こみあげてくるのは、怒り。理不尽に反逆する、憤激の炎。

 この絶望的状況、立って魔法を発動できるのはユーノのみ。

 だがそれでも、ユーノの顔は絶望ではなく、不敵な笑みを浮かべていた。

 死の寸前となって、恐怖が麻痺したか。そのことは、ユーノにとって僥倖であった。

 

「"堕天しろ、星の輝き。光で以て(あけ)に染めよ。灰塵に滅せ!"」

 

 ────収束魔力砲撃型(スターライト)星光滅閃墜(ブレイカー)

 

 手を振りおろし、容赦なく発射する。

 降り注ぐ破滅の光。ユーノたちには、避ける手段も逃げる手段もない。

 そのような選択肢は、始めから取っ払っていた。

 

「僕を……この、僕を……!」

 

 ふらつく足をしっかり踏ん張り、手を掲げる。

 翡翠色の魔法陣を広げ、塵も残さんとする光へ睨みつける。

 

「ユーノ・スクライアを、舐めるなぁっ!!!!」

 

 ────イージスプロテクション!

 

 アルフとシャマルごと守る、ユーノの守護の盾。神話時代の無敵の盾の名を冠する、ユーノの持つ最強の防御魔法。

 数あるミッドチルダ式の防御魔法の中でも、最高峰に位置するその魔法は高い防御力を持つなのはですら扱うことができない。防御に特化したユーノの才能があって、始めて起動が可能になる。

 大魔力収束砲撃と、最高硬度を誇る防御魔法の拮抗。その衝突に、ユーノは足を挫きそうになる。

 収束砲(ブレイカー)を真正面から受け止める。そんな無茶が、通るはずがない。

 だがこの程度の無茶、通さないで逃げて、何が男だ。

 ──意地を見せろよ、ユーノ・スクライア!

 

「うお゛ぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛ッッ!!!!」

 

 己の体に走る苦痛は、全て無視する。痛みなど、麻痺して感じなくはずだったのに。まだ自分には余裕があったようだ。

 痛くなんかない。痛くなんて、全くない。

 なのはが抱える罪悪感の苦痛は、フェイトが背負う責の重みは、はやてに迫る死の恐怖は、こんな痛みと比べものになりはしない。

 彼女らの重荷を自分が背負うことなど出来などしない。しかし、ほんの少しでも軽くするくらいできるはずだ。

 

 大河が割れる、大威力の砲撃。河の底がめくりあがり、隆起して惨憺たる光景となる。

 ……しかし、光に呑まれたユーノたちは生存していた。スターライトブレイカーに、耐えきった。

 

 意識は混濁、視界は朦朧として定まらない。だが、十四だけは見失っていない。戦うべき相手だけは、睨みつけて離さない。

 

「チェーンアンカー!」

 

 最後に残った、残りカスみたいな最後の魔力。翡翠の鎖を、十四へと伸ばす。スターライトブレイカーの反動が残っていた今、身動きができなくなった直後の隙を突き、呆気なく捕まる。

 ユーノの目は死んでいない。魔力を使い切っていても、十四を打倒するという心は折れていない。

 

「ぐっ!」

 

 捕まえた十四を、そのままユーノは引き寄せる。動くたびに体に軋みが走って、嫌な音が鳴り響いている。

 音は気にするな、無視をしろ。気にした時点で、何もできなくなる。そう知っているからこそ、ユーノは止まらない。

 

 思いっきり固めた右拳で、引き寄せた十四の面に、思いっきり叩き込んだ。

 パキリ、と右手に嫌な音が鳴る。殴り慣れない手で、人体を思いっきり殴ったせいで右手が折れた。

 そんなことはどうでもいい。痛みはとうに忘れ、肉体の限界を超えて精神(こころ)で動いている今、損傷に気を配っている余裕はない。

 

「アルフ、シャマルさんっ!」

「まか、せろっ……!」

「ここまでしてくれて、倒れたままなんていられませんっ!」

 

 殴り飛ばされた十四は、立ち上がったアルフとシャマルのバインドで、拘束。

 と、同時に、ユーノは倒れ伏した。

 もう、立てない。心は折れずとも、体の方が物理的に支えるのが不可能になってしまっていた。

 

「ユーノ!」

「ユーノくん!」

「……ごめん二人とも。ちょっと、無理しすぎた」

 

 ユーノはそのまま、魔力消費と体力の消費を抑えるため、フェレットの形態へと姿を変える。

 

「……なに言ってんだい。大活躍じゃないか」

「そうですよ。謝ることなんて、何もありません」

 

 スターライトブレイカーを、真正面から防ぎ切った。そうしなければ、ここにいる三人は消し炭であっただろう。それだけでも値千金の活躍だ。褒められて同然。

 生き残り、そして逆転の反抗をした功労者だ。

 

「……あーあ。捕まっちまったな」

 

 バインドに捕まった十四は、わざとらしく、ひょうひょうとした調子で言ってのけた。

 この程度の拘束、十四にとっては赤子の手を捻るように破ることができるだろう。

 

「まだ、やるってのか?」

「いんや、やらない。捕まってやるよ。ユーノの男気に免じてな」

 

 余裕を崩さない、十四の態度。その気になれば、いつでも出て行けるという余裕が、苛立ちを増す。

 十四にしてみれば、良い物が見れた。それが嬉しかった。生きようと足掻く姿が、こんなにも美しいとは思わなかった。

 

「俺はもう、そういう風に足掻くことなんざできないからな」

 

 生きたい、という欲望を全面に出して、生き足掻くことは十四はできない。『機械仕掛けの妖精(メタリカ・ブラウニー)』によって命が軽くなってしまった今、あっけなく消え去ることしかできなくなった。

 それが羨ましく、尊いものと感じた。これが人。これが生命であると、感動させられた。

 

「……今でも、間に合うわ」

「言っただろう。俺は、お前らを殺し、殺されることが望みだ。こればっかりは、絶対に変わらない」

 

 こうして今、見逃している時点で自分はつくづく甘いと思うしかない。結果的に、殺し切れていない自分が、情けなく感じる。

 クロノの言うとおりに、根本が善にある。それゆえ、非情になることはない。どうしても、甘い面が出てしまう。悪には、なれない。

 それでも殺意は収まらない。傷つけたいという欲望が、抑え付けられない。

 だからこそ、殺してほしい。こんな歪んだ自分が、誰よりも許せないのが自分であるから。

 

「連れてけよ。お前らの勝ちだ」

 

 十四、日に二度、二人の男に破れる。

 負けず嫌いの十四は、あっさりのその事実を受け入れる。いつもなら、泣き叫ぶくらいに悔しいはずなのに。

 その理由を、あっさりと思い当たる。

 もう、自分は十四の残骸だ。十四ではない。ならば、負けず嫌いではなくなるのも、当然か。

 

 ──さらば、加添十四。ようこそ、残りかすの俺。

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