地球時間で夜。アースラブリッジ。リンディとエイミィは、今日起こった事柄をまとめていた。
クロノが十四を凍結封印し、ブリッジで解放したが再び逃走。あの無人世界でヴォルケンリッターとユーノとアルフと交戦。結果──。
「十四くんは?」
「眠っています。いくら多大な魔力を得たとしても、魔力消費で肉体にかかった負担は大きいですし」
「そう……」
再び、十四がアースラへと連れ込まれた。今度は犯罪者用の、魔力封印の手錠をかけ、牢屋に放り込んだ上で。
十四の様子は大人しく、暴れるといった行動はない。
時折、暇を潰すために腕立て伏せや逆立ちをしたりとトレーニングをしていたが、それ以外の目立った行動はない。
「……それで、はやてさんの体の呪いを治すつもりはない、と」
「はい。なのはちゃんたちのデバイスも、十四くんは持ってませんでしたし……隠している場所も言いませんし」
はやてへの呪いの解呪、そして彼女たちのデバイスの在りかの場所。その二つについて、十四は絶対に口を割らなかった。
終始無言。何も語らず、何も聞かない。そのスタンスをこのアースラに居てから、貫いていた。
「……ユーノくんにアルフ、そしてシャマルの三人が負傷。特にユーノくんの怪我はかなり……」
「なのはさん張りの収束砲を真正面から受ければ、誰でもああなるわ。むしろそれを受け切って他の二人を守り切った。称賛されるべきだわ」
過ぎた無茶ではあるものの、ユーノの見せたガッツは評価されるべきだ。収束砲を防ぎきるほどの防御魔法は誰でもできるわけではない。
その代償として、極度の魔力消費と大怪我によって、ユーノはフェレット形態でダウンしている。しばらく、人形態に戻ることもままならないだろう。
アルフとシャマルの二名も、大きい怪我によってダウン。復帰の時期も未定である。
「凄まじい、ですね。魔力量が」
「あの三人の魔力がそのまま加算されていればそうなるわ」
同時に行われた戦闘の記録を見ているが、十四とティターニアに発せられた魔力量が桁が違っていた。
なのは、フェイト、はやての魔力量は若いながらも管理局のトップエースに比肩するほどのもの。それがまとめて合わされば、底なしと言っていいほどの魔力量であるだろう。
それを可能とした十四。リンカーコアの移植という偉業を為した十四の存在価値と危険性は、今までにないほど跳ね上がっただろう。
不老不死を完成させ、非魔法資質者を魔法資質者へとする業。それを唯一可能とする十四は、人にとって御せる存在であるのだろうか。
「……十四くんにとって、魔法の力は必要のないモノに過ぎないんでしょうね」
家族が殺されて、この魔法の世界に入るはめになって手に入った魔法の力。十四にとっては煩わしい物でしかないのだろう。
誰もが羨むこれほどの力を手に入れても、十四の飢えは潤うことはなかった。いや、潤うべき飢えがなかったからこそ、この騒動のきっかけである十四の失踪が始まった。
「私は違うと思うわ」
「え、どうしてですか?」
「たとえ、彼に魔法の力がなくても、彼は死のうとしていたでしょう」
そうであったなら、彼はもう死んでいた。
彼が語った自殺回数。それを考えれば、失踪前から自殺を繰り返していた。
家族の死をなんとも思わない非情な男、それは見せかけでそう演じていた。鉄の心を備えたつもりになっていた。
しかし実際は、誰よりも弱い男であった。
「ただ、死ぬ手段が殺されることしかなかった。それが彼にとっての不幸」
「……何が、いけなかったんでしょうか」
エイミィは、この男が、この少年が、十四がここまでさせた原因がわからない。
家族が殺されたこと?住む世界がいきなり変わったこと?魔法を得たこと?己に欲がなかったこと?親しい者を傷つけることに喜びを得てしまったこと?
何がいけなかったのか。何が悪いのか。何を憎めばよかったのか。
自分たちが、悪かったのか。
五日後。事態は進歩せず、十四ははやての解呪とデバイスの在りかの供述を拒み続ける。
十四は待っていた。はやてが死ぬことを。その死がきっかけとした、彼への報復を。
睡眠、運動、食事、そして聴取。十四のここでのやることはこれくらいしかない。
しかし、牢屋の生活に、十四はなんの弱音も不満も漏らすことはない。ここがいい。これがいい。孤独に居られるここが、何よりも安らげる。
──明日が、タイムリミット。はやての呪いが、心臓を止める時。
十四の体は、裂傷や傷がある。騎士たちに、解呪を要求されて受けた傷だ。魔力を封じられているため、ブラウニーによる再生ができずにそのままとなっている。
もっとも、殺すまでにはいかないと、十四は最初から頭に入っていなかった。
「……いるか、十四」
「……今日の聴取は終わったんだが、師匠」
地球時間では夜。トレーニングを終えて睡眠に入ろうとする十四に、クロノが出向く。
檻を境に、向かい合う。
「どうしても、はやての呪いは解かないのか?」
「俺を殺してくれるなら、今にでも解いてやる」
この時点で、話は平行線にある。十四を殺すことなど、できはしない。
「……どうしても、死ななければ気が済まないのか?」
「くどい」
十四の救いは、死。自分が終わらなければ、気が済まない。
この自分が何よりも許せない。死ななければ、解決しない。
悪になりきれなかった男は、業を背負ったまま消え果たい。
「……なら、いいだろう」
「あ?」
「取引だ、十四。お前の望み、僕が叶えてやる」