その翌日。地球、日本時間正午。
十四はクロノを伴って、海鳴市を歩いていた。
手に魔力封印の手錠。隠し持っていた武器暗器は全て取り上げられており、文字通りの丸腰状態。
十四は抵抗をしない。鼻歌を口ずさむほど、余裕を保っていた。
「……」
着いた場所は、八神家宅。ここが目的地。
ここに十四は、用がある。
インターホンをクロノが押すと、声が返ってきた。
『はい、どちら様でしょうか』
「クロノだ。昼時に済まない」
『いえ、上がってください』
出迎えた声はシグナムだった。声の調子がいつもより暗い感じがするのは、主であるはやての危機が、迫っていたという現実に直面しているからか。
ドアが開き、出てきたシグナムが十四の姿を見るとすぐさま待機状態のレヴァンティンを取り出す。
「待て。戦いに来たわけじゃない」
「クロノ執務官……しかし」
「はやてはいるか?彼女に用事がある」
十四を伴い、そしてはやてに用事。もしかしなくても、考えられることは一つ。
「ではっ」
「ああ。呪いを解きに来た」
絶望的とも思われた、はやての解呪。それをする気に十四はなったということだ。
どういう心づもりなのか、十四が何を考えているのかわからない。しかし今は、藁にもすがりたい。
「本当だな、加添」
「ああ」
否定はしない。実際その通りに、はやての呪いを解きに来た。そのためにここにいる。
シグナムの後についていき、そしてクロノの前を十四は歩く。挟むようにしているのは、もしもの時を警戒してだ。
シグナムに案内されたのは、はやての寝室だった。
「主、失礼します」
「うん、ええよ」
ベッドに寝ていたはやては、顔色が真っ青であった。表情こそ笑った顔であるが、どう見ても無理をしているにしか見えない。
側にヴィータとザフィーラ、そして包帯とギブスをしているシャマルがいた。少しでも主の側にいて、孤独感を紛らわせなければならない。主の不安を振り払うのも、騎士の務めだ。
そんな彼女が、十四の姿を見ると一変して、驚いた顔になる。思わぬ客。
「おや、珍しいお客やな」
「……!」
「十四」
「十四くん……!」
騎士たちの発する気が、急に鋭くなる。無理もない。呪いをかけた張本人がいて、絶対に呪いを解こうとしなかった男がここにいるのだ。
「……呪いを、解きに来た」
「…………へ?」
きょとん、としたはやての顔。
はやてだけではない。他の騎士たちも、茫然とした顔になった。
「事情が変わったんだ」
「ちょ、い、いきなりそんなこと言われても何が何だか……」
「なんだ、解いてほしくないのか?」
「と、解いてほしいに決まってる!そやけどどうして……」
はやてには理由が欲しかった。どうしていきなり、手のひらを返したかのように十四が呪いを解いてくれるのか。その動機が知りたかった。
ずっと拒んでいたことだ。解いてほしければ殺せ。この一点張りだった十四が突然解くなどと、かえって不気味に感じる。
「……ただし、条件がある」
「条件?なんや、殺すいうんは聞かんよ」
「言ったら死ぬだろ、お前。ま、違うがな」
ずっと言い張っていた要求を通せなかったことを今更するほど、十四は馬鹿じゃない。
そうしてくれた方が手っ取り早いが、もっと別にある。
「……言うてみい」
「簡単だ。お前ら全員で、俺と戦え。非殺傷設定同士で、全力でだ」
そう言って、十四は指先から一体
額へと吸い込まれたブラウニーは、三秒ほどするとまた額から出て来る。
ふと、シャマルは全身に走っていた痛みがすっと消えていたことに気付く。包帯を外してみると、そこには傷の一つも存在しなかった。
「お前らが勝ったら、俺は大人しくなろう。もう二度と、この件でお前たちを殺そうとも思わないし、自分が殺されようとも思わない」
この件を一戦だけ戦って、終わりにしようという提案。最後の一戦。誰も死なずに終わらす。
誰も死ぬことのない、誰も欠けることのないハッピーエンド。その可能性を、十四は提示した。
「……それ、本当?」
「嘘はない」
誓って、十四は嘘をつかなかった。もしも負けた場合、その通りに実行するつもりでいる。
「……じゃあ、俺が勝った場合、言うぜ」
「……殺せ、言うんはないよ」
違ぇよ馬鹿、と十四は返した。
「俺が勝った場合、俺のやることを一つだけ、目を瞑ってろ」
「……何する気や」
「教えない」
しぃ、と人差し指を唇の前に立てて何も言わない。
「これだけは誓おう。お前らには危害は加えない。絶対だ」
絶対、と言い切る十四の目は確信めいていて、他の者たちを納得させる力があった。
「だからさ、頼むぜ」
はやての手に、十四は握りこませる。
それは、三つのデバイス。レイジングハート、バルディッシュ、そしてシュベルトクロイツの三つ。
「俺に