悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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更地、さらば人であった思い出よ

 加添十四が最後の戦場として指定した場所は、海鳴市より出て車で三時間といった距離を持ったところにある、朱瀬(あかせ)市。

 十四がこの魔法の世界に触れる以前の……殺人鬼によって壊され、家族と共に住んでいた、日常の象徴であった場所。

 その市内にある朱瀬霊園。無数の墓石が立ち並ぶこの場所に、十四は一つの墓石の前にいた。

 その墓石には『加添家之墓』とあり、墓誌には祖父祖母の名前に連なり、父、母、兄の名前と享年と、同じ没日が刻まれていた。

 墓前には線香が供えられており、線香特有の臭いが鼻につく。十四は事件以来、この臭いがあまり好きではなくなった。

 

「……父さん、母さん、兄ちゃん……俺さ、そっちに行きたいよ」

 

 墓前へと、亡き家族へ十四は言った。

 天国があるというのなら、そこに家族が待っているというのなら行きたい。

 地獄があるというのなら、そこに家族が苦しんでいるというのなら共に苦しみを味わいたい。

 歓迎されなくてもいい。家族がいるのなら、そこに行きたい。

 自分はもう、この世界で生きたくない。死んでしまいたい。

 こんな歪んだ自分が生き続けるのが、何よりも許せない。

 

「……やっぱり、ここに居たんだね」

 

 右から聞こえたのは、知った声。

 居候先の娘で、愛しき敵である高町なのは。

 

「……なんの用だよ」

「今でも、私のこと恨んでる?」

 

 なのはが、現場に間に合わなかったこと。それは、なのは自身今でも強く後悔していた。

 あの時間に合っていれば。そう思って悔いなかった時など、事件以来一切ない。

 

「お前を恨んだことなんざ、一回もない。お門違いだ」

「でもっ、私が間に合っていたらこんなことには……!」

「高町なのは、少し黙れ」

 

 威圧的な言葉をかけ、なのはの口を封じた。

 十四はいつも呆れていた。高町家に預けられた時から、顔色ばかりうかがっていたその態度が、気に入らなかった。

 家族を奪われて、救えなかったことへの負い目だということはわかっていた。しかし、こうも卑屈だと十四もイライラが募っていく。

 

「お前は俺の敵だ。そんなこと考えてる暇があったら、勝つことだけを考えてろ」

「……」

 

 それは悲しすぎる。怒りも、悲しみも、恨みもなく、ただ敵と断定して戦うなど。

 もう、十四自身がこの戦う理由を変えられない。

 敵だから。敵と定めたから、戦う。親しかった人だからこそ、傷つけて悦ぶ欲望を得てしまった。

 こんな歪んだ望みが、止められない。

 

「……今日の十五時、三羽台の二十一の三。そこで待つ」

 

 十四の言った住所。……そこが、決戦の場所。

 十四の望む、最後の死に場所。

 

 

 

 

 

 十五時に、なのはやフェイト、はやてを始めとした者たちが十四の指定した場所へと集まっていた。

 朱瀬市の三羽台、二十一の三。そこは、更地であった。

 以前は一戸建ての家があった。しかし、ある日を境に取り壊され、こうして跡形もなくなっている。

 この場所へと来た管理局側の者たちは、ここがどういう場所であるのか理解していた。

 

「……ここって」

「加添の家があった場所……か」

 

 加添家。十四の日常の象徴であった場所。非日常(まほう)に関わるまえの、当たり前であった、今は存在しない場所。

 

「俺の家があった場所だ。俺はここで育って、ここで死にたかった」

 

 転移魔法。と同時に、この朱瀬市全域を包む結界が展開される。

 魔法陣から現れた十四は、複数の妖精(ブラウニー)を従えていた。全て赤錆色のブラウニー。十四の魔力から作られたモノだけで構成されていた。

 

「あの雨の日は、父さんも母さんも兄ちゃんも俺も、みんなが揃ってた。昼時になったら寿司を食いに行こうって楽しみにしてた」

 

 ふつふつと、十四はその日のことを思い出す。昨日のことのように、ついさっきのことのように。

 

「……けどさ、今はもうなんもない。なんもねぇんだよ。ただの更地になっちまった」

 

 ここにある、石と砂で敷き詰められただけの更地のように、十四の心も平坦な空虚であった。

 

「頼むからさ。ここで俺を、死なせてくれ」

 

 ──妖精女王(ティターニア)

 

 ブラウニーが集まり、集合体で進化体であるティターニアが十四の傍らに出現する。

 しかしその色は、十四の魔力光の赤錆色ではない。

 紫。黒に近い、淀んだ紫色。その魔力は非常に禍々しい。

 

 

 

 

 

「目覚めろよ、悪意!俺に終焉(おわり)を寄越しやがれ!」

 

 願いを、叫ぶ。

 

 願いを向けたものは、悪意の塊。

 

 呪いと、怨念の集合体。

 

「"ここに劇は幕を上げる。さぁ演じろ役者(キャスト)共!脚本家(オレ)の手のひらで踊りやがれ!!"」

 

 傍らにいたティターニアは鈍く輝き、バチバチと全身に紫電を走らせる。

 ティターニアから発せられる闇の波動。それは結界を塗りつぶし、昼であった世界を夜へと変える。

 結界魔法に、さらに結界を塗りつぶす。

 なのはたちは、この結界がただの結界ではないと本能で察した。

 ここにいるだけで、体の震えが止まらない。鳥肌が立ちっぱなしで、不気味な寒さが背中を走る。

 

「"妖精の主(オレ)の名の下に命令する!兵どもに剣を!槍を!銃を!馬をあたえ給え!"」

 

 

 

 

 ────妖精大王(オベロン)!!

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