「
十四の両腕に、環状魔法陣が展開される。
拳から放たれる砲撃魔法。十四得意の
空手の型、正拳から放たれる砲撃は、十四の主力の魔法。それを両腕に装填するとなると、連発してくることは簡単に予想できた。
出鼻を挫く。人数差に大きく開きがある十四には、早く撃てる大きい一発を撃って、先手を打って優勢に運びたい。
だが、そのことを考えるのは管理局側も同じ。
「ユーノ!ザフィーラ!」
「「任せろっ!」」
クロノの指示で、その二人が十四の前へと出る。
ザフィーラがクロスレンジで格闘戦闘を挑み、ユーノがその援護。
二人とも高い防御の技能を持つため、先鋒に出て後方の主力の火力を守るための役割も持つ。
「その砲撃、撃たせはせん!」
「ちっ」
出鼻を挫かれたのは十四。ザフィーラの前進によって、砲撃が効果的に撃てる場所を埋められた。
たとえ片腕の一発を撃ってザフィーラをどかしても、その後ろにはユーノがいる。ユーノの防御力の高さは先日に身を以て体験している。集束砲を一人で防ぎきるだけの堅牢な防御魔法を持つユーノに、ただの砲撃魔法が通用するわけがない。
集団戦闘は陣地の取り合い。特に、航空戦力である空戦魔導師にとっては、それは顕著。地上の魔導師を絡ませたら、制空権の取り合いにも発展する。
戦術、戦略には十四は明るくない。今戦っているメンバーでチェスの総当たり戦をやった場合、下から数えた方が早い順位となるだろう。
だからこそ、十四は戦術、戦略に頼らない戦い方をする。
普通のルールなら
「ティターニア!」
十四の後方から、桃色の小銃を向けて誘導弾をいくつも放つ。
援護の弾丸。それらでザフィーラとユーノを狙う撃つ。
……しかしその魔力弾も、彼らに届く前に消える。
「!?」
「援護は私たちもあるんだよ」
「私たちを、ベルカの騎士を舐めんじゃねぇ!」
高町なのはのアクセルシューター、ヴィータのシュワルベフリーゲン。この両者の誘導弾が、ティターニアの撃った誘導弾を掻き消した。
そのティターニアも、フェイトに背後を回られ、シグナムに剣を向けられて十四の援護に手が回らない。
「デリィアアアッ!!」
ザフィーラの、重い拳。それをなんとか十四は腕で防ぐものの、大きく吹き飛ばされる。
「この野郎っ!」
────右拳、解放!
「
反撃にと、右拳の砲撃を解放。ザフィーラへと発射する。
その砲撃も、ザフィーラが防御魔法で難なく防ぐ。
守護の獣、ヴォルケンリッターの守護獣の名は伊達ではない。
「だったらっ!」
────左拳、解──。
「ぐっ!?」
「ラケーテン、ハンマーっ!」
左拳の砲撃を解放する前に、ラケーテンフォルムで加速力をつけた一撃を、ヴィータが十四に見舞う。
そのまま吹き飛んで地面を滑るように転ぶ寸前、翠色の魔法陣が十四を中心に四方に現れ、そこから鎖で十四を縛り上げる。
「コイツは、ユーノか」
「そうだよ。前はよくもやってくれたね」
ユーノのチェーンバインド。この拘束を解くには十四には大した労力と時間は必要としないだろう。
気にしていたのか。コイツ、やっぱり治療しなければよかったかと十四は不意に思ったりもしたが、ユーノにはいい物を見せてもらった借りがある。この男も、いなければ始まらない。
拘束した鎖は徐々に綻んで砕けていくが、次の攻撃を避けるにも防ぐにも遅すぎる。
「十四くん……」
「……とっとと、やれ。手加減すんな」
十四の真上には、なのはが砲撃のチャージを済ませていた。いつでも撃てる状態となっており、引き金一つで十四へと全力の砲撃が撃てる。
レイジングハートの形態はエクセリオンモード。最初から全力全開、手加減はない。
わき目には、ティターニアがフェイトとシグナム、そしてアルフによって倒されており、粒子となって消えていたのを十四は見た。
学習するティターニアであるが、短期決戦をしかければ魔力だけの技術の拙い相手でしかない。近接戦闘の技量では随一のシグナムを筆頭に、フェイトとアルフの主従のコンビネーション。最初からトップギアを踏んでいる全員が、負ける理由が存在しない。
やれ。ものの数分もかからずにノックダウンか。笑えない。
「エクセリオン、バスターッ!」
『Excellion Buster』
レイジングハートの、エクセリオンモードで放たれた誘導型砲撃の一射。それは容易く、桃色の光が十四を呑みこんでいった。
砲撃の余波が、風のないこの夜の丘を巻き起こし、地に咲いた勿忘草が靡いていく。
普通なら、これで終わる。防御もまともにできず、避けることもできなかった。なのはクラスの砲撃をまともに食らって、無事に済むわけがない。
だが、この場にいる誰もがこの程度で十四が終わったとは思っていない。誰もが警戒を解かず、砲撃の照射点をじっと見続けていた。
この程度で終わる相手であったなら、自分たちはここまで踊らされていなかった。
そう。所詮、自分たちは乗せられていたに過ぎない。
この決戦に持ち込んだのは、十四自身からだ。あくまで、十四の手のひらに踊らされていたに過ぎない。
この戦いの舞台を用意したのも十四。ここに、何を仕掛けていても不思議ではない。
十四はまだ、何も見せてなどいない。
ウォーミングアップにすら、なっていないのだ。
「……本当、容赦ねえな。治るっつっても、痛いもんは痛いんだぞ」
倒れた十四に、多数のブラウニーがダメージを受けた部分を再生していた。
痛い、と言いながらも十四の顔には笑顔が浮かぶ。
「随分と、嬉しそうだね」
「ああ、嬉しいね。お前らがこうやって、全力でぶつかってくれる。だからこそ……!」
十四はゆっくりと起き上がり、そして右足を思いっきり踏み抜く。
その瞬間、十四の体が大人の姿から子供の姿へと変化する。
一番馴染んだ、十四のベストスタイル。喪服姿はそのまま、子供のサイズへとダウンサイズした。
「本気で蹂躙できる!」
十四の戦い方は、定説通りではない。再生能力を使い、倒れては立ち上がり、倒れては立ち上がりを繰り返すのは戦術とは呼ばない。
しかし、十四は常識や定説では測れない能力を持つ。故に、定説では語ることなどできはしない。
心さえ折られなければ、十四はいくらでも立ち上がる。死を望む限り、いくらでも、何度でも。
つまりこの決戦の勝敗を分かつのは。魔力切れやノックダウンで決まるものではない。
心が折れた方の負け。我慢比べなのである。
「さあ、かかってきやがれ!俺の全部を見せてやるから、俺に全部を見せてみろ!」
加添十四の全存在を賭けた、この一戦。
まだ、序幕すら終わってすらいない。