悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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劇場、作られた舞台

「生体時間停止。まぁ、今の俺の持つ能力じゃ、一番のキワモノだ」

 

 堂々と自分の切り札を言ってのけた十四は、余裕の態度を見せつけた。攻略できるものならしてみろと。

 レアスキル『機械仕掛けの妖精(メタリカ・ブラウニー)』が持つ能力は生体時間操作。時間の巻き戻しによる再生によって、驚異的なタフさを得ているのはこの場にいる誰もが知っていることだ。そして、その応用として人体の記憶を遡って病気や怪我を再発、寿命の引き伸ばしすらさせることもできる。

 ならば、時間停止が使えない方がおかしい。

 

「ただ、コイツは相当に魔力を使うんだ。前までの俺なら、一回使っただけで一週間はロクに動けなくなる。それがわかってたからこそ使わなかったんだが」

 

 戻すことより、止めることの方が難しい。時間の巻き戻しは実際に巻き戻しているのではなく、過去の情報を読み取って上書きしているに過ぎない。だが時間停止は、時の流れを塞き止めているのだ。限定的ながら、『世界』というものを相手に喧嘩を売っている行為であり、修正力が働いて多大な負担がかかる。

 たとえ素のままで魔力量が限界値まで成長しきっても、戦闘時に時を止めることは不可能だ。

 

「……だが、今のお前なら」

 

 十四から発せられる、禍々しいほど揺らめく強力な魔力。前代未聞の、リンカーコアの移植の成功者にして同調運用を可能としている。

 『機械仕掛けの妖精』がリンカーコアの移植が前提で初めて全力運用が可能としている。

 莫大な魔力を得た今の十四なら、その強力な能力を扱えるほどの魔力を有している。

 この最終決戦において、十四は出し惜しみをするつもりはない。故に、この場で見せつけた。

 

「いや、それでも同じだ。強力な能力には制限がある」

「自ら、手の内を晒すのか?」

「言わなきゃフェアじゃねぇよ。もう、一対一(タイマン)じゃ俺に絶対に勝てないぜ。この人数差でも、あっさり勝っちまうかもよ?」

 

 強力な能力の制限を、自分から言う。それは慢心か、それとも十四の言うとおり、公平さからか。

 しかし、それは馬鹿にされたと受け取ったヴィータが激昂し、十四へと単騎で駆ける。

 

「馬鹿にすんじゃっ──!」

「してねえよ」

「っ!?」

 

 十四はヴィータの真横にいて、ディバインバスターが装填されていた左拳を突き付けていた。それは、他の全員が気づかない内に移動していた。

 誰も気付かない。つまり、全員の時間を止めていた。止められる人数制限は十人以上、というヒントを与えたことになる。

 そのまま撃てば、ヴィータの防御が間に合わないで確実に撃墜させることができる。

 

「制限その一。さっき言ったようにクソみたいな魔力消費量。この中で一番魔力を持ってるお前(はやて)ですら、二回やったらバテるぜ」

 

 この面子で、屈指の魔力量を持つはやてですら二度しか使えないと言い切るほどの時間停止。それほどにまでリスクが高い能力である。

 

「制限その二。コイツは実演した方が早い」

 

 そう言って、十四はまたヴィータの時間を止める。

 そして、足下のミッドチルダ式の魔法陣を展開し、装填された左腕を引き、

 

 ──神威之息吹装填正拳(ゴッドハンドバスター)

 

 容赦なく、ヴィータへと砲撃を加えた。

 時間を止めたまま攻撃をしてしまえばそれこそ無防備。

 間違いなく直撃し、爆炎と爆風が広がる。

 

「貴様っ──!」

「まぁ、待てよ。よーく見ろ」

 

 同胞を落とした十四にザフィーラが襲い掛かろうとしたが、それを時間停止によって背後に回られる。

 十四が指を差したヴィータが撃たれた場所。煙が晴れて、紅い騎士の姿がまた姿を見せた。

 彼女は、時を止められたまま何も変わらない。そう、何も変わらない。

 ──砲撃を受けた時のダメージなど、何一つなかった。

 

「時間停止、解除」

「──うんっ?」

 

 ヴィータが、動く。時間停止を解除された彼女は、自由に動けるようになる。

 近くにいた十四が、また気付かない内に移動していた。今度はザフィーラの背後。

 

「てめっ、また時を止めやがったな!?」

「……な、わかっただろ?」

『…………!!』

 

 ヴィータ以外の全員が、驚愕していた。ディバインバスタークラスの砲撃を受けて、無傷でいるなど考えられない。防御の上ですら、あの砲撃は効果を得られる。

 ヴィータには何もできなかった。何もできるはずがなかった。時間を止められ、無防備に砲撃を受けていたはずだった。

 だというのに、彼女自身は何の傷はない。そして彼女自身、砲撃を受けたという自覚すらまったくない。

 

「制限その二。時間停止中の生体は、時間凍結されている。つまり……」

「どんな攻撃を加えても、全く意味のないということか」

「正解だ」

 

 時間停止状態は最強の防御状態と同義である。つまり、時間を停止している間に、攻撃をいくら与えても全く意味はない。

 時間という壁は、非常に硬い。どんな魔法ですら、それを貫くことはできない。

 確かに時間が停止された状態はあまりにも無防備で全ての行動を封じられたも同然。

 しかし裏を返せば、時間停止は世界にある絶対法則に守られた最強の防御であった。

 

「そして最後の制限。この時間停止は、"対象となる生体が休眠状態でなければならない"」

 

 そしてこれが、十四の生体時間停止最大の制限。

 しかしその発言に、クロノは反論を掲げた。

 

「待て、十四。休眠状態というのは、睡眠状態やそれに準ずる状態のことを言うのか?」

「肯定だ、師匠(クロノ)。それで相違ない」

「だがそれでは僕たちがこうやって止められている理由には…………っ!?」

 

 クロノは自分で言って、そして自分で回答に行きつく。

 休眠状態という前提。それを十四は事前に覆していた。

 

 この、戦闘をしている幻想世界。十四が思い描いた理想の死に場所。この場所は、一体なんだ。

 闇の書の闇が作り出した、夢の世界。それを十四が自分で言っていた。

 フェイトも経験したことのある、幻の迷宮。あり得ない幸せの微睡に浸れることのできる、安らぎの空間。

 つまり、十四の作り上げた、幻。

 そしてこの幻の世界にいる自分たちは──。

 

「…………なるほど、やってくれたな」

 

 やられた。クロノの率直な思いは、まずそれであった。

 最初から勝負は決められたような物。しかし十四は余興のように、この舞台を用意した。

 戦争とは、実際の戦闘ではなくその準備段階で勝敗が決まっているようなもの。戦術は決して戦略を凌駕しない。十四はその定説通りに、動いていたに過ぎない。

 

 

 

 

 

「ここにいるお前たちは、精神状態……つーより、妖精女王(ティターニア)に意識と生体データを入力して具現化しているに過ぎない。本体である生体は寝てるよ」

 

 

 

 

 

 クロノが行き着いた答えを、十四が言った。

 その言葉に、彼らはゾクリと背筋に悪寒が走った。

 一人の例外はない。誰も彼も、十四という少年に恐れを抱いた。

 

 

 

 

 

「その妖精女王(ティターニア)は、休眠状態の本体とリンクしている。つまり、休眠している本体に時間停止をしている間、誰一人の例外なく端末であるお前たちの時を止められる」

 

 

 

 

 

 勝負はすでに決していたと同然。ここに立っているという現状ですら、十四の手のひらに踊っていたに過ぎない。

 

 

 

 

 

「俺を含む本体(からだ)全てこの外に存在する巨大妖精(ブラウニー)妖精大王(オベロン)の腹の中。つまり、何をどうしようと俺のこの空間から出ることなど出来はしない」

 

 

 

 

 

 最初の結界の展開の時点で、全ての勝敗は終わっていた。

 その気になってしまえば、本体へ直接手を下してしまえる。

 既にもう、生殺与奪を握られていると同然。

 

 

 

 

 

「それでもやるか?魔法使いども」

 

 

 

 

 

 無駄だとわかりつつ足掻くか、無駄だと認めて諦めるか。

 

 非情なる二択を、十四は突き付けた。

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