地球衛星軌道上、アースラのブリッジ。
朱瀬市に展開されていた結界内の様子を、リンディ・ハラオウンはモニターで見ていた。
黒く汚染された結界の内には、巨大な
全長は数十メートルはあるそれは、結界の展開と共に意識を失った彼らを呑みこんだ。
頭には王冠が乗せられたその妖精は、まさしく
「……なんだというの、アレは」
朱瀬市に集結した決戦メンバーが、全員あの中にいる。
────"『
「……!」
リンディに届いた、突然の念話。
間違いなく、その声は……。
「なんのつもりかしら、十四さん」
────"指揮官ってヤツは退屈だろう。せめて話し相手になろうと思ってね"
念話の発生源を調べさせ、そして見つけた。
「……あなたは、その大きなブラウニーに呑まれたんじゃないの?」
十四から発せられたその巨大な妖精は、真っ先に十四を呑みこんだ。いや、もしかしたら発動者である十四だけは出入りが自由である可能性の方が高い。
『頭の悪い質問だ。リンディさんらしくない。まぁ、わからなくはないけどさ』
「言いなさい」
『呑まれたさ。この体は
つまり、この十四は生身の体ではなく十四のレアスキル『
ティターニアの用途は、ブラウニーの上位存在というだけではない。再生能力が強力になる以上に、ブラウニーとは比較にならないくらいに記憶容量が激増する。
その大きい記憶容量で可能としたのは、魔力体による疑似生体形成。遺伝子データと精神データを入力し、使い魔などの魔法生命体に準ずる形になることを可能とした。
疑似的なクローン。あくまで端末という形に収まるが、本体と謙遜ない能力行使を可能としている。
『今、他の連中は俺の別の端末が相手している。本体は寝ててなんの異常はない。実際に戦っているのは、データを入力したティターニアだ』
「……つまり、今のあなたと同じように、彼らもその体というわけ?」
『正解だ』
かつての十四は、ティターニアを出すことのできる数は限られていた。一体出すだけでほとんどの魔力を使い果たし、そして還元していく。そういう使い方しかできなかった。
しかし今の魔力量は、ティターニアで最大一個大隊を編成できるほど十四は有している。その気になれば優秀な魔導師のデータをブラウニーでコピーし、そしてティターニアにコピーという形で自前の軍勢を編成することすら可能とする。
一個大隊は約千人。その全てがAAAランク以上のエースクラスの魔導師という編成は、管理局でもあり得ない。管理局が有しているAAA級魔導師が5パーセント以下という数値もあるが、十四の場合はそれを自在に引き出すことができるという利点がある。
高町なのは級、フェイト・T・ハラオウン級の魔導師が千人いる魔導師軍団。正直、悪夢でしかない。数の差というアドバンテージなど、無意味にひっくり返すことができる。
……十四は、若年ながら最凶の魔導師軍団の編成を可能としていた。
それを、リンディは己の勘と洞察力でそれを導き出した。
まだ十一歳の少年が、それほどの軍勢を操ることができる。
幼すぎる。その力を有するには、あまりにも十四は幼すぎた。
「私は職業柄、単純な力という物に畏怖したことはよくあるけど……あなたほどの物は今までに久しくなかったわ」
そしてなお恐ろしいのは、これがロストロギアなどの遺失物、核弾頭などの質量兵器に頼らない十四自身の実力で得た力ということ。レアスキルを最大限に利用、活用した結果として得られた物だった。
リンディが恐れたのはその事実。己を磨き、そして競い得た力はかくも美しい。
だが十四は違う。奪い取り、踏み越え、食い漁り、そして己の物にした。
人間の身にして、人間を超えた力を得た。それがどれほどの恐怖を呼ぶか。
『それでも、俺と戦うんだろう?』
突きつけられた圧倒的な戦力差、驚異的な暴力を前にして、リンディを始めとしたアースラの乗員は十四にまったく怖気づかなかった。
「ええ。私たちはそれが仕事……いいえ、」
────そうしなければ、自分が許せないから。そうやって生きてきたから、自分を誇れるから。
毅然とした態度で、堂々と圧倒的戦力を前に啖呵を切ったリンディ。アースラに居る者たち全員の、叫びを代表した言葉であった。
その姿に、十四は強烈な憧れを抱いた。羨ましい。そう、素直に感じた。
親しかった者たちを殺さなければ、傷つけなければ生きていけない性根。そんな歪んだ自分が許せないからこそ、自分を終わらせたかった。
だが、リンディたちはそんな相手だろうと真正面から立ち向ってくる。そうしなければ自分が許せない。だからこそ行動する。
羨ましくて、眩しくて、憧れた。
そして、自分を恨んだ。どうして自分はこんなにも歪んでしまったのだろうと。
『……カッコいいよ。羨ましいよ。俺も、そうなりたかった』
なれるものならなりたかった。彼女たちが眩しかった。
今の十四にとっては憧れの対象。絶対になることは叶わない、憧憬の存在。
だからこそ、十四は
「遅すぎるということは、ありませんよ」
『……いーや、俺はもう間に合わない。だからさ』
手を銃の形に変えて、指の先に魔力弾を形成する。
向けた先は、通信先であるサーチャー。
『さよならだ。生まれ変わったら、また会おう』
その言葉を最後にサーチャーは魔力弾によって破壊される。
アースラに映った映像は砂嵐へと変わる。
──それがリンディ・ハラオウンへと向けた十四の最後のメッセージだった。