「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!」
命を削り、血を流し、魔力を垂れ流して絶叫を上げながら、十四は拳を固めた。
駆けだして、一番近くにいたクロノへと、拳を振るった。
空手をやっている者がするとは思えない、拙いテレホンパンチ。独自魔法である砲撃装填などない、魔力もクソもない、腕力だけの力任せの攻撃。
そんな攻撃をクロノが避けられないわけがなく、容易くかわされて、すれ違いざまに足を出して突っかけさせた。
呆気なく十四は躓いて転び、十四は管理局の面々に囲まれる。
「……もう、やめろ。僕たちの勝ちだ」
「ざっけんなっ……!ここまでされてよ……負けられるかっ……!」
立ち上がるのも、やっとというところ。
足腰はガクガクで、息も絶え絶え。戦闘ができる状態ではない。
「……知ってんだろ、俺は、負けず嫌いなんだよ」
それは単なる言い訳でしかない。加添十四の残骸であると自認した今、そんなのは関係のない話だ。
負けるわけにはいかない。終わるためにも、負けるわけにはいかない。
これが最後の機会。最期への願い。
このまま負けを認めれば、その先に待つのは惰性の生。ずるずると醜く生き、そして永遠と死ぬことのない無様な姿をさらすこととなる。
嫌だ。絶対に、嫌だ。
「このまま……このまま、生きていくのが、我慢ならねぇんだよ!」
「それはただの弱音でしかない。逃げているだけに過ぎない」
「弱いのがいけないのかよ。弱いのが、何が悪い!」
「弱かったら、強くなればいい。なれるだろう、お前なら」
「強者の言い訳だ。シマウマがライオンと戦えってのか。シマウマの闘争は、逃げることだ。違うか!」
「お前は人間で、僕たちも人間だ」
「……いいや、違うな」
右腕を縛った封印が、バチンと音を立てて弾けて外れた。
続いて右腕部分のバリアジャケットがボロボロと崩れていく。素肌を晒した生身の腕も、顔と同じように亀裂が赤い線となって走っていた。
「俺は、化け物だ」
肘から先が崩れ落ち、その先から赤い龍の頭が生えた。
それだけでなく、両肩からは大蛇ともいえるほどの大きさの黒い蛇が十四の皮膚を突き破って姿を現した。
突如として異形の形を取った十四。まさにその姿は、怪物と言っていいだろう。
「それ、は……」
「闇の書の生体部分を取り込んだんだ。直に俺は呑みこまれて、怪物になるだろう」
そうなることを、そうなってしまうことは十四は覚悟していた。むしろ、そうなることを望んだ。
理性は消え、姿は怪物と成り果てる。そうなればもう己は破壊の権化となるだろう。
ならば彼らは、己を殺すしかない。壊すしかない。
放っておけば、何の罪もない者達を殺すだろう。ただ破壊をもたらすだけの災厄になるだろう。
十四が望んだ、悪になれる。
「選べよ……。俺を殺すか、お前らが死ぬか」
終わるためなら、怪物に成り果てようと構わない。人であることなど、今更拘らない。
一度死んだような身。怪物になることなど、抵抗はない。
十四が持ちかけた総力戦は、ブラフ。幻の世界で、十四が勝とうと負けようと、最終的にはこうなる運命だった。
勝者なし。チェスの盤面をぶん投げてしまえば、勝った負けたは存在しない。十四の目論見は、今果たされた。
元より、誰も勝たせるつもりはなかった。目先の勝ち負けなど関係ない。目的さえ果たせれば、過程はどうでもよかった。
怪物に成り果てて、正義に討たれる。望んだ、悪になれる。
体が滅びていく激痛すら、喜びに感じられる。
「そんなのって……そんなのってないよ!」
残酷すぎる選択に、なのはは慟哭した。
怪物になって、怪物として倒される。本当に、本当にそれでいいのか。
この時。この時ばかりは、なのはは本気で神というものを恨んだ。
────どうして、どうして十四くんをここまでしたの。かみさま、十四くんは、あなたに何かしましたか。
虚空に祈っても、神は応えない。
神というのはいつだって、無関心を決め込む。
「人でいられなくなった怪物だ。良かったな、その手を血で汚さなくてもいいぞ。神話の英雄はいつだって、怪物を倒してきた」
怪物は人より弱い。弱いからこそ、強くなりたくて怪物に成り果てた。
怪物はいつだって、力を振るって壊してきた。殺してきた。
そして最期はいつだって、英雄に殺されてきた。
そんな最期が、十四は欲しい。
他の部分の封印も、限界に近づいている。赤いベルトが、ギチギチと嫌な音を出している。
完全な怪物へと姿を変えるのは、時間の問題である。
妖精を統べる者は、人を捨て、化生の身へと魂を売る。
全ては倒されるために。全ては破滅のために。全ては己に終焉を迎えるために。
少年は、怪物になることを望んだ。