変わり果てた十四の姿は、二足歩行の
右腕は赤い龍の頭、その鋭い牙と顎は全てを噛砕き、時折吐き出される炎は鉄も溶かす。左腕は二つに分かれた異形の腕となり、その爪は人の肉を容易に引き裂くことができるくらい鋭い。
両肩からは新たに一匹ずつ大蛇が生え、計四匹の黒い大蛇が舌を出して、周りにいる魔導師たちに威嚇する。
背には烏の翼。巨鳥の黒い羽を三対生やし、飛行能力の強化をはかる。その羽の一枚一枚は、藁のように軽く、石のように硬い。
脚部は変わらず、人の足のまま。しかしそれがかえって人であった名残が残り、二足歩行の合成獣という非現実的なものが存在する不気味さを感じさせる。
「────"iksdfgnuangjoawnfiosdmfisdkngjunhjnbujasbbfyuasbufcbawsuf"!!!」
もはや人語ではない、絶叫のような高速詠唱。
それに応じて、彼の周りには数々の魔法陣が展開される。
ミッドチルダ式、古代ベルカ式、近代ベルカ式、そして見慣れぬ数多くの術式。歴史から消え去った、貴重な術式すらこの場に表れている。
その一つ一つが、強大な魔法である。
今の彼は魔力タンクと化し、破壊をもたらす悪鬼でしかない。
「……冗談……だろ」
ユーノが、十四が繰り出そうとする魔法の規模を肌で感じ取った。
その魔法群は、ここら一帯を消し飛ばす程度では済まない……最悪、この日本という島国が沈没しかねないくらいの規模。
そんな魔法を出されてしまったら、間違いなく終わる。
「させないっ!」
フェイトは、魔法の発動の直前に割り込む。
ソニックフォーム。彼女の出せる最大速度を、惜しみなく投入する。
手にはザンバーフォームのバルディッシュ。彼女の出せる最速の最大攻撃。
「────え」
ふと、彼女の体感時間がゆっくりと感じる。超高速で動いているはずなのに、流れる時間はひどく緩慢。
そして、彼女の頭のすぐ横に、怪物の爪が迫っていた。
それは死。確実に逃げられない、迫りくる死。
これが死に迫る一瞬。動く物全てがスロウになる、殺気の籠った灰色の刹那。
「ぐっ!」
それを、なんとかシグナムがレヴァンティンで受け止めた。
緩慢な刹那の風景が解けた瞬間、死に晒されていたことを体が漸く自覚し、フェイトの全身を恐怖に震えさせた。
たった今、死線に触れた。全身に鳥肌が立ち、冷や汗を流して泣き出したいくらいだった。
「迂闊だぞ、テスタロッサ!」
「あ、ありがとうシグナム」
とはいえ、このままでいるわけにはいかない。
時間がもうない。この魔法が発動された時点で終わりである。
「ぶち、抜けぇぇえッ!!」
空から、ヴィータが巨大化させたギガントフォルムのグラーフアイゼンを振りかぶり、そして十四へと叩きつけた。
なんの抵抗もなく、十四はその鉄槌に叩き潰される。
「行くよ、十四くん!目を覚まして!!」
『Divine Buster』
そして追い打ちに、そこからなのはの砲撃が加えられる。
接近していたシグナムとフェイトは後ろに引き、なのはとヴィータもその側に寄る。
「……なるほど、『
「それでもタフなのには変わりねぇ。まったく、迷惑ばっかりかけやがって」
なのはとヴィータの攻撃で、術式の発動の妨害は成功。
しかし、それでも合成獣は顕在。大きなダメージを受けた様子もない。
「テスタロッサのスピードについてきたのも考えると、単純な性能は圧倒していると考えていいだろう」
「その分、思考が獣並になってやがる。アイツならこうはいかない」
シグナムとヴィータは、冷静に戦力分析をしていた。
レアスキルは使えない。莫大な魔力を獣のように使っていることから十四自身の理性は一切ない。
思考能力が欠如していることから、行動パターンは獣のそれ。しかし、フェイトのスピードについていくことのできる反応速度を持ち合わせているため、油断は決してできない状況。
「なら、勝てる。十四の強さは魔法じゃない、あの負けん気の強さだ」
あの十四だったから。望みを叶えるためなら手段を選ばず、その上負けず嫌いなあの少年だったからこそ、自分たちはここまで追い込まれた。考える知恵を持たない獣に、負ける道理は存在しない。
「取り戻すんだ、絶対に。約束したんだ!」
側にいると、約束したから。
責任をとると、約束をしたから。
その約束を、叶えさせて──。