──ああ、ちくしょう。
それは、瞼を閉じても眩しいくらいに輝くもの。手で遮ってもも、遮った手を透過してしまうくらいに、暖かく、そして美しい光であった。
──きれいだ。きれいで、まぶしくて、あったかくて。
十四が、家族を失ってから欲したものが、全てここにはある。
優しくて、眩しくて、あったかい。
そう、直視できないくらいに。
その優しさに甘えたままになったなら、生きる価値、生きる目的を見失ってしまいそうになってしまうくらいに。。
故に十四は姿をくらました。孤独を欲した。
優しすぎた光から逃げて、冷たい孤独の冷水に浸って逃げて。
それが全ての始まり。この一連の事件の発端。
──けっきょくのところ、おれは。
甘えたままが、嫌だっただけ。意地を張っただけだった。
どうしようもない、下らない、つまらない意地。それだけを張って、姿を消しただけ。
──このけっかが、このざまか。
歪んだ欲望を自覚して。それが認められなくて。
恩を仇で返すことが、至上の喜びとなった。そんな悪鬼の如く願望が、許せなくて。
己自身が、なによりも許せなくて。
偽悪の鎧で覆い、清算させるために悪を目指し、敵となることを望み、死すことを願った。
不死身の体など、どうでもいい。不死をもたらす妖精どもも、使えるから使っているだけ。
悪となるべく得た力は、倒されるために得たにすぎない。殺すしか己を止める手段がなくなるくらいに。殺す方法しか己を倒せないところまで追いつめるために。
──いまとなっては、みもこころもかいぶつか。
望んでなった、この姿。この心。後悔はないが、自嘲せずにはいられない。
死を願うのは変わらない。ただ、こんな姿になってまで死にたがる自分の在り様が、滑稽に見えた。
──ばからしい、な。
十四という男は、かなりのバカだ。大馬鹿者だ。
たかだか一つの命を絶とうとするのに、ここまでするのだ。自分のことでありながら、自分で笑えてしまうくらいに愚かしい。
意地を張って、優しさから逃げて、一人になって、差し伸べられた手を振り払って、傷つけることに悦びを知って、それが許せなくて、己を悪と断じて偽悪を演じ、それでも甘さを捨てることができず、殺されることを願って怪物と化して……。
どこの喜劇の役者だ。
ひどく哀れで、ひどくみじめで。
なんて、無様。
──ああ、わかってる。わかってるさ。
このままずっと傍観していれば、間もなく彼らは怪物と化した己を程なくして倒すだろう。殺さずに、闇の書の闇の部分のみを壊して、この決着を付けるだろう。
獣と化した己に、
そういう相手ではないのだ。圧倒的な魔力量?大火力魔法?時間を操る?それだけで終われたなら、こうやって悪意に魂を売り渡してなどいない。
現に、彼らは合成獣を相手に完璧に立ち回っている。何もさせず、何もできず、一方的に嬲られ続けている。これではだめだ。勝てるはずがない。
未熟な己は、知略を巡らせて、倒れても倒れても立ち上がり、
罠、質量兵器、逃亡、拉致、人質、なんでもやった。それだけやっても、勝てるかどうかわからない相手なのだ。
黙ってやられる。そしてそのまま、約束通りに死ぬのを諦めて、生き恥晒して生きるのも存外悪くない。責任は取る。あの少女が、そう言ったのだ。約束は守られるだろう。
こんな自分の歪みを正して、もっと良い自分の生きる理由を見つけることができるだろう。根拠はないが、そんな確信がある。
しかし、何もかもが頼りっぱなしというのは……癪に障る。
それでいいのか。自己に問う。お前は、それでいいのか。
お前は、何がしたい。
答えろよ、加添十四。
──いいわけ、あるか。
反抗の意。このまま停滞するのは、十四の気が済まない。
戦う。戦おう。
今度は、自分自身が戦う番だ。
敵は誰だ。
敵は加添十四──否、加添十四のなり損ない。愚かな化外だ。
心臓は動いている。肺も臓器も問題なく動いているし、体内に巡っている血管の中の血の熱さは感じ取れるし、神経が伝っていることもわかる。
眼が見える。耳が聞こえる。鼻がきく。肌に伝わる。舌に口の味がわかる。
呼吸ができる。手足が知覚できる。動かせる。体内に感じるリンカーコアも魔力があるし、それを放出することもできる。
頭の中は多少ごちゃごちゃしてはいるが、魔法の術式を組み立てるには何の不自由はない。
戦える。戦おう。
──いくか。
ああ、行こう。
「"djfiafnunenujgigfn──"」
「させると」
「思うな!」
大魔法と呼ばれるそれを、ほぼワンアクションで繰り出す怪物と化した十四。
闇の書の闇に蓄積された魔法の数々。それを大魔力でもって次々と発動させ、処理速度も尋常ではない速度で行えるようになっている。
だが、それで管理局の者たちが負ける理由になりはしない。
彼らには、数の利がある。互いの行動の隙を埋めあうことができる。
さらには相手にしているのは獣の類。知能は低く、力で押し通すことしか考えていない。
人であった時の十四であったなら、こうはいかない。
十四にとって戦いとは、事前に勝つための策と術を巡らせて勝利を確実にするもの。実際の戦闘の時点でもう結果に過ぎない。
それは先のフェイト戦、学校での不意打ち、そして先ほどの幻想世界での戦闘が証明している。そのどれもが十四が優位に立っており、そして勝利している結果も存在している。
魔法戦闘の経験に劣るからこそ、十四の強みがある。手段を択ばない、常識・定説を考えないからこそ、十四は数の利、戦力の差を超えて、管理局の面々と渡り合うことができた。
だからこそ、強力な魔法を繰り出そうにも行動を潰されれば意味がない。懲りずに大魔法を発動しようとした怪物は、ザフィーラとアルフの連携格闘によって妨害された。
さきほどの戦闘に比べたら、なんと容易いか。危険ではあるが、難易度は大きく下がっている。
勝てる。そう、確信していた。
「いい加減、目を覚ましたらどうなんだい……!」
「獣と化しただけ、その分タフなのだろう」
しかし、それでもその耐久力には手を焼くほかなかった。
攻撃しても攻撃しても、一向に堪えた様子がない。
長い戦闘は集中力を切らし、危険度を増す。早急な決着が望まれた。
「なのは、フェイト、はやて。魔力ダメージのみで、闇の書の闇のみを破壊する。大威力砲撃、できるか?」
クロノが提案したのは、かの闇の書事件の再演。魔力によるダメージで十四の中に巣くっている闇の書の闇のコアを剥がし、宇宙へと転送させてアルカンシェルで蒸発させる。
アースラは衛星軌道上に待機済み。いつでも撃てる状態にある。
「「「当然!」」」
「よし、なら────っ!」
陣形を組み、十四へと最大砲撃を撃とう準備を進める直前、十四から発せられる魔力に変化が生じる。
暴力的と形容できた、十四からの魔力が一変して大人しくなる。
「fhgubsighrfung7engurnenbhortinbhefsad olnb834g5hgerngjdsf p;vdfunvudb iupab guerb vuiewb ip ;vbefin !!!!」
「何を……?」
詠唱ですらない、単なる絶叫。意味不明で意思疎通は不可能であるが、様子からして苦しんでいるようにも見えた。
何が原因で、何が起きている?
「うza……っteぇ!」
十四の目の前に、
使えないと考えていた『
「ティ……ター……ニアッ!!」
それらのブラウニーが集まり、一つの人型を作り出す。
十四側の戦力が増えた。割かなければならない人員が最悪半分に分けられる。この状況でそれは、最悪であった。
「ロクでもねぇ格好だな、我ながら」
そのティターニアは、自らを作り出した十四へ向けて思いっきり蹴り飛ばした。
見事と言うべき前蹴り。当たり所も良く、よく吹き飛んだ。
基本、ブラウニーやティターニアは十四に服従している。戦えと命令すれば戦い、潜んでいろと命令すれば見つからずに潜伏し、靴を舐めろと言われれば舐める。主である十四の自決こそ封じられるが、それでも絶対服従には違いない。
しかし、宿主である十四を蹴り飛ばすティターニアというのは非常識である。
「
バチバチと、紫電をまき散らしながら無貌のティターニアに変化が生じた。
背丈は少し低くなり、容貌は少年のそれ、服装は少し不釣り合いな喪服とトレンチコート。
目の前の怪物と共通点は多い。というより、人の部分だけを比べればそのものであった。
「よう、俺。決着つけんぞ」
真に終わらせるのならば、自分の手で。そう願ったからこそ、この場に来た。
全てに決着をつけるべく。己の手で始まったそれを、己の手で終わらせるべく。
──加添十四、帰還す。