悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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渇望、籠を壊して

 加添家惨殺事件から四日後。また、加添十四は目を覚ました。

 ICUではなく、寝ている間に一般病棟の病室へと移されていたことは大して気に留めなかった。酸素マスクも外され、点滴も一つしかない。

 掛布団をどかし、いつものように起き上がる。

 痛みがない。完全に治っていた。

 腕に巻いてあった包帯を解くと、傷跡は綺麗に消えていた。

 あの重症が寝るだけで治った。そんなわけがない、と十四は首を横に振った。

 状況を知るべく、十四は枕元のナースコールのボタンを押した。

 

 

 

 

 

 十四はナースコールのボタンで来た医師、シャマルから大体の事情を聴き、そして己の記憶と齟齬がないかを確かめた。

 家族が殺されたことは現実であること。今は事件から四日経っていること。ここが時空管理局本局という次元世界の平和を守る司法組織で、地球ではない次元の海にある場所であること。家族を殺した男は殺人鬼で、男もまた魔法使いであったことを知った。

 自分が殺人鬼を殺したこと。自分もまた魔法使いの資質があったこと。自分の怪我がこんなにも早く治ったのは、無意識下で魔法を使って体を治していたということを確かめた。

 知りたいことを知り、確かめたかったことを確かめられた十四は、自分が何をするべきかをシャマルに聞いた。

 

「俺にはもう身寄りはありませんし、国からの補助金や親の保険金だけで生活できるとは思いません」

 

 聞く相手を間違えている、とは十四はわかっている。それでも聞かずにはいられなかった。

 生活水準を変えずに生活をするのは十四はもう無理と判断した。この小学生の身で独り暮らしをするのには資金的な問題が直面せざるを得ない。

 さらに言えばここの治療費もある。加添家は貧乏ではないが裕福でもない。ごくごく普通の、中流家庭であった。管理局という得体の知れない所では日本の保険証が使えるとは思えなかった。

 淡々と自分の今置かれた状況を述べる十四に、シャマルは異常性を感じ取った。

 冷静過ぎる。落ち着きすぎる。これが家族を失ったばかりの少年の顔なのか、と疑うほどであった。

 シャマルの周りにも、彼と同年代の子供で大人びた、できすぎたと言っていいくらいの子をよく知っている。そのうちの一人は、自分を家族として受け入れてくれた敬愛すべき主である。

 だが、そんな子でも最愛の家族を失った時には涙を流した。大いに悲しんだ。子供は、所詮子供であった。

 しかし、十四にはそれが感じられなかった。動揺も、悲しみも、何も。ただ純粋に、これからの身の振り方を案じていた。

 まるで、テレビで殺人事件が起きて赤の他人が死んでも、何も感じないように。死んだのか、と事実を受け止めるだけのように。

 

「ショックじゃないの?」

「ショックを受けている暇があるとは思えませんがね。敵討ちは……とっくに終わってますし、これからのことを考えていた方が有意義です」

 

 平静な態度は崩れていない。十四は本当に、何も感じることはなかった。

 まるでロボット。まるで機械。シャマルは無機質な冷たさを感じさせた。

 ──否、そうならざるを得なかった、という推論をシャマルは立てた。

 受け入れがたい現実を受け入れるには鉄の精神(こころ)になるしかなかった。別のことを考えるしかなかった。

 シャマルにはそれが、何よりも痛々しく、悲しかった。

 

「では。偉い人に会いましょう」

 

 淡々と、冷たく、氷のように。

 当然のように、十四は点滴の針を抜き、絡みついた包帯を取り払った。

 取り払った点滴の管と包帯は、彼を縛っていた冷たい鎖のようだった。

 

 

 

 

 

 十四の身の振り方は着々と決まった。かかった時間は一週間程度。

 一部を除き、傷跡を残さず完治した十四は、また再び学校に復学した。

 だが、通う学校は彼の通っていた市内の学校ではなく、海鳴市という彼の聞いたこともない知らない土地にある私立聖祥大付属小学校。そこからの再スタートだった。

 住む場所も変わった。同じく海鳴市の高町家に、十四は居候することになった。

 そのことについては、高町なのはの強い希望があったことも大きな要素にある。

 彼女の家族はとても優しく、身体的にも精神的にも不自由なことは全くなかった。

 大きく変わった生活。変貌した環境。

 魔法使いとして覚醒したと同時に、十四の目から見る世界もまた大きく変わったのだった。

 

 

 

 

 

 十四には何かが物足りなかった。

 充実した新しい生活。暖かい食事。優しい人たち。生きることには何一つ不自由していない。

 そこに過不足を感じるところがあるというのか。

 

 

 

 

 

 どこか違和感があり、どこかが欠落している。

 否、欠落などない。寂しさ、孤独感もない。

 空白は満たされ、埋められていた。隙間なく完全に。

 

 

 

 

 

 そう。空白も、欠落もない。

 埋められていた。残らず。凹凸なく、穴もなく、平坦な地平線。

 

 

 

 

 

 それが、何よりも、我慢ならず、疼き、痒く、渇いた。

 

 

 

 

 

 だから十四は動いた。

 窮屈ではなかった。居心地は悪くなかった。ずっとそこに居てもいいとさえ思った。

 しかし、十四はそれらを取り払った。それが自分を縛る鎖と見なして。自分を守る鳥籠を壊して。

 

 

 

 

 

 自分にとっての渇望を、飢えを、渇きを、願いを、欲を……。十四は探すため、忽然と、前触れなく姿を消した。

 それが加添家惨殺事件から一ヶ月後。高町なのはの慟哭から始まった物語である。

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