速い。彼ら管理局の者たちが見た十四の動きは、尋常ではなく速いものであった。
ただスピードが速いのではない。無理に速度を高めようとすると、動作の一つ一つの制御が困難となり無理が出て来て逆に隙を作る原因となる。高機動型のフェイトはそれをよく理解していた。
しかし、十四にはそれがまったくない。普段の動作をそのまま加速させて、無理なく行っている。
生体時間加速。時間停止に並ぶ、十四の奥の手、秘奥。
大魔法を発動しようとする怪物相手に、それをさせずに一方的に攻撃して優位に立ち続けている。
終始
十四が蓄積した空手の技の数々。それを容赦なく使っている。
「……見えるか、テスタロッサ?」
「なんとか。正直、結構ギリギリですけど」
高速戦闘に強い二人、フェイトとシグナムは十四の動きをなんとか目で追っていた。
通常速度でも、十四の近接戦闘の空手の技は中々のもので、素手同士であったならザフィーラかアルフのどちらかでなければ勝負にならないくらいの力量を持っている。
それが三倍の速度で動いている。十四にとってみれば、今の時間速度はかなり遅く感じているに違いない。
蟻と像の流れる時間は違う。そういう話を聞いたことはある。
寿命の長さがそのまま時間の流れる速度に関係する。
命を削る速さを三倍にしている十四に、誰よりも命を削っているこの少年に、敵う者などいない。
「だが、あの術にも欠点はある。いや、欠点というには大した要素ではないが」
「……魔法を使っていない……使えないというのが正しいですね」
生体時間加速を使ってから、十四は一度も魔法をまともに使っていない。
使えるには使える。しかし、加速の対象は生体であって魔法ではない。つまり、魔法そのものが通常の時間速度で運用せざるを得ないため、加速された時間で使うには遅すぎた。
しかし、シグナムの言うとおり、それは時間加速という利点にしてみれば欠点にもならない。
度が過ぎるほどの速度で、その速度で自由に動けるという利点は、魔法が使えないという欠点は、欠点にならない。
「……勝てると、思いますかシグナム?」
「それはあの怪物がか?それとも、我々か?」
「私たちが」
歴戦の騎士であるシグナムに、あの十四を相手に勝てるかどうか聞いてみた。
私たち、とフェイトが聞く限り、フェイト自身が単身で十四に勝つことができないと認めていた。
「主はやての騎士として……こんなことは言いたくはないが……正直、難しいだろうな」
シグナムですら、この全員で挑んでも勝てる見込みは僅かであると納得しなければならなかった。
あの十四。動きからしてまだまだ余力がある。三倍速と十四は言っていたが、まださらに速度を上げることはできるだろう。
十四は、レアスキルそのものを成長させた。何度も何度も使い続け、使い方を熟知して、それに適応できる体に作り替えて、さらに洗練させて、進化させた。
凄まじいほどの成長速度は、己自身の体を作り替えた結果にある。魔法戦闘に最適な形へと組み換え、自己を向上させた。
死にたい、終わりたいという願いから来た力。
その力は今、自分へと向けていた。
「テメェを殺したら……どうなるんだろうな」
「nfgfikjgb nfijguiosn iorfg」
怪物は十四を恐れていた。たった一人で、素手で己を圧倒するこの怪物以上の怪物に。途切れ途切れの声にならない声で、悲鳴を上げていた。
肩から生えていた蛇は頭はなく垂れさがり、背中の羽も毟り取られ、異形の左手の爪もへし折られ、右手の龍の頭も下顎が喪失していた。
もうまともに動くことはできない。コンクリートの地面にのた打ち回っている。
言葉は通じないが、何を言いたいのかはわかる。やめてくれ、悪かった、痛いのはいやだ。
……だが十四は、その言葉を耳に入れない。
そもそも十四にとって遅い時間の流れで喋っていても、何を言っているのか遅すぎてわからない。
「テメェを殺したら俺も消える……まぁ、わかりきったことか」
十四の本体は、あの怪物であるのだ。いくら精神が
なんと都合の良いことか。やっと、自分を終わらせることができる。終わらせる方法が、やっと見つかったのだ。
頭を潰せば全て終わる。三倍速の時間速度から通常の時間速度へと戻し、
この時間加速。やり過ぎると時間停止より魔力消費が大きい。なにより体そのものの消耗が大きく、腹が減り喉が渇く。あまり長くは続けたくないのだ。
だからこそ、先ほどの戦闘では時間加速より時間停止を選んで使った。敗北の危険性は高まるが、使用時のリスクは低く抑えられるためである。
もし、あの幻の世界で時間加速を使っていたのなら。それは間違いなく、己自身の自滅を意味していた。休眠状態の本体でも闇の書の闇に浸食され続けられた。それを加速してしまえばどうなるかなど火を見るより明らかである。
潰れていた目……爬虫類のような目で、合成獣は己の死神を見上げた。
しかしその間に、割り込む者がいた。
「なんだよ」
「……ダメ」
その者は、なのはであった。
その怪物を十四は殺す。そう、させるわけにはいかない。
「ダメか?」
「うん、ダメ」
はぁ、と大きく十四はため息を吐いた。
この時点で、なのは相手に手を煩わせることはない。無視して、そのままその怪物に引導を渡すこともできる。
「……わかった、俺の負けだ。責任取れよ、なのは」