「……まーた、懐かしい場所だな」
管理局本局、病室のベッドの上にて加添十四は、ついこないだ同じようにベッドで寝ていた時期を思い出していた。
全身が包帯で巻かれており、彼の両腕は喪失していた。異形と化していく過程で崩れ落ちた腕は、喪失したまま今はまだない。
しかし、十四の顔には失意の色は見えない。むしろ、スッキリした……憑き物が落ちた、晴れやかな表情であった。
あの最終決戦が十四の敗北で終わって、五日を過ぎていた。
十四が彼らへと謝罪した後は、彼らの最大出力攻撃によって、十四の体を怪物としていた闇の書の闇を打ち倒し、
十四は両腕を失い、そして闇の書の闇に侵食されていた影響からか肉体とリンカーコアに深刻な負担がかかっていたことによって、一時的に立って歩くこともできず、魔法もまともに使えない状態にある。よって、『
医療技術に頼らないでいられる十四だが、頼みの綱であるレアスキルを使えないのであれば医療技術に頼るしかない。
退院後、彼の両腕はティターニアで復元され、裁判へとかけられた。
この一連の事件は『妖精事件』として後の記録に残る。
当事者である十四は無罪放免というわけにもいかず、来歴とレアスキルの有用性から、四年間の管理局への無償奉仕活動という破格の処罰となった。
殺人未遂、障害、拉致、軟禁、器物損害、管理外世界での無断魔法行使など多くの罪状があるが、被害者にあたるなのはたちが弁護の主張をしたため、その処置は寛大なものであった。
当然、十四の能力を危険視する声も多く、魔力封印、もしくは永久凍結にすべきという意見もあった。
クロノは「周りの声は気にするな」という言葉をかけていたが、十四自身はそういう手があったかという考えもあった。
魔法を捨て、今の新しい日常に戻るか。
偶然得た魔法を持ち続け、非日常へ浸り続けるか。
その答えは、今ではなくこれから出すことに決めた。
今出ない答えを今考えても仕方ない。とりあえずは、じっくり今を生きよう。
十四にとっては四年間の無償奉仕、上等。むしろいい機会で渡りに船といったところである。
この四年で、見極めていけばいい。己を、見続ければいい。何がしたいのか。何が欲しいのか。それをじっくりと考え続けるには都合がいい。
己が腐っていく?生きたいという渇望がわからない?結構なことだ。それらを含めて、頭を抱えていけばいい。
今までは少し焦りすぎた。生き急いでいた。そんな簡単なことに、気付けないくらいに。
馬鹿だ馬鹿だと、自嘲するのはこれで何度目であろう。しかし、自分という人間はこういうものなんだと十四は納得した。
誤って、後悔して、己を嘲る。それを繰り返していく。
クロノは十四を根っからの善人と称した。潔白で、病的なほどの潔白症の十四は、己の抱いた歪みが我慢できなかった。
言うなれば愚かしいほどの聖人。善は善、悪は悪と、幼い二元論でしか切り分けられなかった。己の悪を認めたくないが故に、悪を装って、悪であろうとした……。
それを気付けただけ、今回の事件は価値があった。
善と悪の中間を、秩序と歪みの間をふら付きながら歩くのもいい。そのままでいいんだと知った。
「……で、何か弁解はあるかしら」
「何もないよ、バニングス」
「じゃ、一発殴るわよ」
「それで気が済むなら勝手にしろ」
腰の入った、アリサの鋭い拳の一撃が、十四の顔に入る。
それを防がず避けず、まともに食らった十四は、微動だにしていない。
逆に殴った方のアリサが手を痛がっていた。
「殴り慣れてない人が顔を殴るのはおすすめしない。おすすめは鳩尾だ」
「先に言いなさいよ!」
そんな理不尽なと十四は思うのだが、全面的に非があるのは自分なのだから忘れることにした。
聖祥大付属小学校の、屋上。各自弁当を持ち寄って、昼食を食す昼休み。十四が復学して最初の日に、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの五人に混じって、途中から登校した十四がそこにいた。
十四を見て合口一番、アリサの殴らせろの一言。彼女にも大いに迷惑をかけたため、その一発を十四は甘んじて受けた。
「だけど、本当に良かったよ。十四くんが戻って来てくれて」
すずかは、本心からそう思っていた。
戻ってこなかったかもしれない。このまま、十四が消えてしまっていたかもしれない。そう考えただけでゾッとしていた。
「……今度はどこに行こうか……」
「こらこらこら、また行方をくらます気か前科もち。旅行に行くんなら一言言っておくもんやで」
「そうだよ十四。そういうことされると心配するから」
「……なーんだろ、どうしてかこの二人には言われたくねえ」
前科もちなのはこの二人も同じく。はやてとフェイトに言われて、ブスッと不機嫌な顔になる。
そして別に、旅行に行きたいわけではない。旅行そのものは好きではあるが、別に今すぐ行きたいわけではない。
「旅行に行くなら、なのはちゃんと一緒やな。二人っきりで……婚前旅行みたいなどうや、なのはちゃん?」
「ふぇっ!?ど、どうして私!?そしてなぜ婚前旅行なの!?」
「……へぇ。はやて、詳しく教えなさい」
「はやてちゃん、私にも」
「お、二人とも聞きたい?それはな……」
はやての話に、食いつくアリサとすずか。彼女たちの知らないところで、なのはと十四が何が起きたのか、興味がないわけがなかった。
「ふぇ、フェイトちゃん!た、助けて!」
「ごめん、なのは。私には止められない」
親友へと助け舟を出すも、見事にかわされる。
というより、フェイト自身も興味があった。
年頃の女の子だ。恋愛に対する嗅覚は、かなり発達している。それが親友のことなら特になおさらだった。
高町の家の同棲している十四と、そしてなのはとの関係。あのプロポーズ同然の発言から、どこまで進展しているのか女子の一人として興味が尽きない。
「……と、十四くん!」
「俺がこの手の話が苦手なの知ってるだろ。というより、男女比一対五のこの状態ってのは非常に辛いんだぞ」
クラス内の十四の呼び名は『ハーレム野郎』である。それは違う、それは違うのだと声高に叫びたい。
大きくため息を吐いて、恥ずかしさに顔を手で隠す。
……どうしてあの時、あんなことを言ったのだろう、と今更ながら考えていた。
危機的状況だったから、とんでもないことを口走っていた?だが、あの時真に言いたいことはあの言葉であったことも事実であった。
少し、考える。
こういう時こそ、立ち止まって考える。先の事件で学んだ経験を今活かす。
何が原因で、何が根源であったのか。
ふと、思い出したのはあの時。
あの雨の日。非日常の世界へと飛び込んだ、あの事件の日。
知らぬうちに家族を殺めた男を殺し、ボロボロになって意識を失う直前に見た光景。
白いロングスカートの少女の、涙で溢れて泣いていた顔。
「……なんだ、こんな簡単なことか」
その顔を、そして彼女を、独占したかった。一目見て、そう思ったんだろう。
──泣いてくれるのか。こんな自分を見て、同情してくれるの。
それがたまらなく、嬉しかった。なにもかもを奪われて、みじめな様な自分が救われた気分になった。
本能の底で、惚れてしまった。絶望の底で見た、天上から来た天使の姿に十四は見えていた。
彼女の泣き顔が、また見たかった。だからこそ、彼女の親しい者たちを殺めようと、困らせてやろうという衝動に駆られたのだろう。
ああ、本当。自分と言う男は救えない。馬鹿で馬鹿な馬鹿が極まっていた。
「随分と遠回りしたが……気付けただけ、マシか」
また一つ、心の重みが取れた。そして、本当の本心に気付くことができた。
彼女の泣き顔だけでなく、笑顔、怒り顔、照れ顔、色んな表情が見たい。
それが十四に根付いた渇望。それが十四の、これからを生きる理由。
「行くか、なのは?婚前旅行」
「えええええっ!?」
ほらまた、新しい
──────Encore?
投稿から一週間。無事、移転というか完結しました!
ここまでのご愛読、ありがとうございました!!
……てなわけで。長ったらしい文句はいやなので簡潔に。完結なだけに。
アンコール……つか、続編。これ、見たい人いますかなー?
いや、別に完成しているわけじゃありません。今までみたいに一日数話投稿なんて無理だし、にじファン時代にやってた一日一話投稿も……うん、無理だ。
てなわけで、アンケート。続編の内容を決めたいと思います。
以下、三つの選択肢より選んでください。
①【スタンダードコース】この本編の正統続編。ぶっちゃけると、StrikerS編です。途中の空白期も挟んだりします。なのはさんと十四くんのイチャコラが見たい人はこちらへ。
②【IFルートコース】もしも、のIfルート。9999/10000の起きるはずであった確率のルート。ぶっちゃけ、一万分の一はこの本編。初期プロットではこれが第二章になってました。なのはさんの主人公補正半端ねぇわ……。
③【立つ鳥跡を濁さずコース】もう、この先なんて見たくないという人向け。そんなの妄想でいいじゃない。ぶっちゃけ、打ち止め。もう素直にISを持ってこいと。にじファンで投稿していた『雷神を背負いし先陣を往く者』が見たいという人向け。
以上、三択。
期限はちょうど良いので年明け、12月31日23時59分に投稿された感想まで。感想に番号を入れてもらえれば投票となります。
長々と続きましたが、ありがとうございました!
--追記(12/18)--
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--追記(1/1)
投票を締め切らせていただきます。
続編は今月中に投下を予定しております。