悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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理由、知りたくて

 加添十四が失踪したという報は、瞬く間に広がった。そして捜索隊の編成も、素早い時間で完了していた。

 日本の治安維持組織、日本警察と数多の次元世界を束ねる時空管理局、二つの組織による捜索。近い場所にいるのなら警察、次元世界または海外へと発っているというのなら管理局の手による捜索ができる。

 たちまち包囲網は完成し、十四の発見も時間の問題とされた。

 

 十四の捜索を急ぐ理由。それは十四の魔法資質において問題があった。

 高町なのはに劣るものの、保有魔力量はそれに迫る物を持ち、出力も高い。魔法に関しては高い能力を秘めた才能を持っていた。攻撃、防御、補助全てに万遍なく、魔導師にとって理想像と言ってもいいほどの。それこそ、成長すればなのはのレプリカのような資質の伸ばし方もできた。

 しかし、いかんせん十四は魔法に目覚めたばかり。暴走する可能性は高く、もしも暴走してしまった場合街一つが消し飛ぶ危険性があった。

 それをさせないためにも、一刻も早い十四の確保が重要視された。

 

 

 

 

 

 十四失踪から二日後。九州のとある街。日に数度、日本と韓国を往復するフェリーを使えば数時間で海外へと渡れる場所。そこに十四はいた。

 旅行用のキャリーバックを引きずり、大陸へとつながる半島へと向かうフェリーに乗り込もうとしていた。

 パスポートは自分用の物を持っていた。加添家が二年前、家族でハワイに行った時に取得した物である。

 完全に潰れて再生のできない左目は医療用の眼帯で隠し、年端もいかない少年が一人キャリーバックを引きずって歩く様は、フェリーに乗り込む客の中で大いに目立った。

 だからこそ、十四は呆気なく簡単に見つけられていた。

 

「見つけたよ。探したんだから、トシ」

 

 少女が、十四に声をかける。

 その声を無視をしてそのままフェリーに乗り込むための階段を上ろうとするが、列をなす周りの視線がまとわりついた。

 鬱陶しく思いながらも十四は後ろの客に前を譲り、列を外れた。

 声をかけてきた方に目を向ける。

 そこには、金髪のツインテールの少女……十四の見知った私立聖祥大付属小学校の制服を着た、見知った顔。

 日本人ではないながらも、将来はとんでもない美女になることがわかりきった美少女に、十四と同じくらいに目を引いた。

 

「どこに行くの?黙っていくから、みんな心配してたよ」

 

 当たり前だ、黙っていったからこそ意味があった。心配など関係ない。十四は自分のために誰にも黙ったのだ。

 しかし、追ってきた少女、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンはどこかズレていた。

 海鳴にいた人たちは人の言うことを信じやすい。なかでもとりわけ、彼女は優しすぎた。十四にとってみれば、穢れの知らない純粋無垢な少女と見て取れた。

 そして誰よりも、十四にとって付き合いが面倒くさかった人物だった。

 十四を追って管理局が人員を編成することは十四自身も予想できたことだった。しかし、かち合うのはアースラ武装隊の誰かとは思っていた。

 追手としての戦闘能力も、追ってくる者の人間性も、彼女を十四は厄介としか思えなかった。

 

「あっちに用事がある。用件聞いたいならあっちで聞く」

 

 転移魔法を使えば、フェリーで隣の大陸の半島につくまでに比べればお釣りが出るほど。普通に飛行しても全く問題はない。

 居場所がわかった。行先もわかっている。先回りができる。ならばここで引き止める意味も薄くなる。

 

「で、でも、」

「用事があると言った」

 

 フェイトを置き去り、十四は列の最後尾に並んでフェリーに乗り込む。

 しかしフェイトはよくよく考えると、その方が都合がいいと考えた。

 フェリーの行先は釜山。行先はわかっている。なら、そこで捜索に関わっているなのはたちを集めればいい。

 フェイトは十四が釜山行のフェリーに乗っているという情報を、捜索に関わっている全員に伝えた。

 

 

 

 

 

 追手が来る。それ自体は十四も当然の如く予想ができていた。それも魔導師……管理局の中でも戦闘のプロが集まる武装隊で構成された、暴力的というほどの戦力で構成された捜索隊が、自分を探しにくると。

 自分にそうするだけの重要な価値がある。その原因が自分の内にある、魔法の才ということも十四は理解している。そして方向性を違えば、破滅的な結果に繋がることも教えられた。

 しかし、十四はそんなことは知ったことではない。追ってくるなら逃げる。十四は決めた。もう変えない。変えたくない。

 予想ができていた。なら予測もできていた。そして対策も立てた。

 失踪してからの二日間、十四は移動手段を公共の交通機関のみを手段として使い、魔法という超常の力には一切頼らなかった。

 魔力反応というものは、個人を特定できる。魔力の波長、特性を読み取れば一発で判別がつき、管理局という組織はその手段のスペシャリストの集まりであった。

 十四は魔力の一切を殺し、電車で乗り継ぎ、ここまで来た。

 海鳴市からこの港町までは真っ直ぐ行けば一日足らずで辿りつくことができる。それでも二日という日数をかけたのは、日本の警察機関による追手を警戒してのことであった。

 そして最大の鬼門が、このフェリーであった。

 ここで十中八九、管理局の追手に尻尾を掴まれる。渡航記録を閲覧すれば、加添十四が釜山行のフェリーに搭乗したという記録が残る。

 管理局には、転移魔法(はんそく)がある。行先がわかっているのなら、先回りされてしまい、そこでゲームオーバーという結末に終わる。

 十四が最初から空路を選ばなかった理由が、それにある。空港であるなら、尚更記録は整頓されて残るからだった。

 密航という手は問題外であった。発覚したときのリスクは非常に高く、追手を増やす結果となってしまう。実行は可能ではあった。この自分には重火器では遠く及ばないほどの武力を生身で持っている。それでもいくら魔法と言う手段があろうとも、暴力的対応は論外である。本当の最終手段だった。

 苦渋の二択。どちらもどうせ跡がつくなら、十四は海路を取った。

 海路には、空路にはないメリットがあった。

 

 出港して一時間半。キャリーバックを引き、船内の船尾へと十四は来ていた。

 柵で隔てた、船と海。見下ろすと、船が海を割って進んでいるのが海面に流れる海流が見せていた。

 結構な高さだ。近くには、もしも落ちた時のためか、縄のついた浮き輪が常備されていた。

 ざっと、十四は見まわす。

 船尾に他の乗客はいない。船員もいない。それだけで十分であった。

 柵に身を乗り出し、そしてそのまま何のためらいもなく頭から一直線に海へと落下した。

 

全周囲防御膜(オーバルプロテクション)、展開」

 

 魔力で構成された膜、防御魔法プロテクション。ミッドチルダ式の基本的な防御魔法で十四の使ったのはその応用、全身を守る球体の防御。

 海中へと入る寸前、十四の展開した赤錆色の防御が海面に叩きつけられる衝撃を殺し、海水にも濡れなかった。

 フェリーが去っていくのを見届けるまで一時間。ずっと、十四は海中で大人しく待っていた。

 海面から顔を出し、十四はプロテクションを解いた。

 そして手を拳銃の形を作り、真上へと人差し指の先を向けた。

 

直射型光子銃弾(フォトンバレット)射出(シュート)

 

 撃鉄(ハンマー)で叩くように、狙いすました照準の親指を銃身(バレル)に見立てた人差し指に倒した。

 乾いた音が響き、指先から高速で魔力で構成された弾丸、魔力弾が放たれた。

 貫通力と速度に優れた直射型魔法は、誘導性は存在しないものの、速度がかなりのため回避は困難。ましては不意を打たれ、何の躊躇いもなく放たれたそれは、弾丸の飛来先の目標物は回避する術を持たない。

 

「!」

『Round Shield』

 

 フォトンバレットは発生したミットチルダ式の魔方陣が描かれた魔力の盾によって威力が逸らされた。

 魔力の光は金色。纏うバリアジャケットは黒のレオタード。手にした戦斧(バルディッシュ)は彼女の愛機。

 十四にとって、十分既知の人物であった。

 

「気付いてないとでも思ったか、テスタロッサ」

 

 十四が見上げた場所にいたのは、先ほど港で出会った少女、フェイトであった。

 格好が違うのは、彼女も魔導師で、ミッドチルダ式の魔導師の戦闘衣服(バリアジャケット)を纏っているからである。

 

「トシ、うっかり落ちたんじゃ……ないんだよね」

「そういうお前こそ、あっちで待ってるんじゃなかったのか」

 

 十四にとってみれば適当に取り繕った軽い嘘であったわけだが、そんなものでもフェイトの心に傷は与えられるほど彼女は純粋である。

 しかし、当の彼女にはどこ吹く風。なんの堪えた様子もなかった。

 

「……やっぱり、黙ってどこかに行くつもりだったんだね」

 

 フェイトを始めとした、十四の捜索に当たっている全員は、彼がちょっとした小旅行のつもりで姿を消したとは思っていなかった。そのつもりであったなら、行先を告げ、一人で行くという旨を伝えているはずであるから。

 彼女にしてみれば、いきなりのことだった。唐突すぎた。悲しむことより、驚きが勝った。

 理由が欲しかった。十四がいきなり姿を去ったその理由。十四の胸の内だけにある、失踪の原因。

 彼のせいで、今、泣いている親友がいるのだから。

 

蹴球形成(メイク・フットボール)

 

 魔力が収束し、十四の足下に赤錆の魔力のサッカーボール大の砲弾が形成される。

 それを蹴り上げ、器用にリフティングを始める。サッカー経験者であって、足、腿、肩、頭と巧みに操り、ボールと戯れる。

 何も言うつもりも、何も聞くつもりもない。そういう意思表示であった。

 

「教えて、トシ。どうして黙って行こうとするの。どこか、行きたいところでもあるの?」

 

 協力できることなら、フェイトは手伝うつもりであった。力になりたかった。

 家族を失った十四の気持ちは、フェイトは痛いくらいに理解できていたつもりであった。フェイト自身も、母を失った身であるから。

 孤独に満ちた目。悲しみを帯びた目。かつての自分と同じ目を誰かが見るのはもう、嫌だったから。

 

蹴撃(ストライク)

 

 ──しかし、十四の返答はフェイトへと蹴り出されたサッカーボールの砲弾であった。

 先ほどのフォトンバレットより高威力ではあるが、速度は劣る。だが、フェイトは微動だにせず、砲撃は当たらず彼女の耳側を通りすぎ、彼方へと消えていく。

 

「本気、なんだね」

 

 邪魔をするなら、ブッ飛ばす。それが十四の返答。

 できることなら、フェイトはこのバルディッシュを構えたくなかった。事を荒立てたくなかった。

 そうはいかないのなら。フェイトは力を使う。この力を、魔法の力を。

 話を聞いてくれるまで、戦う。親友がかつて、自分にしてくれたように。

 彼女もまた、そのために力を振るう──。

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