『Load cartridge, Haken form』
「ハーケン、セイバー!」
先制したのはフェイト。デバイスに搭載された、カートリッジシステムによって魔力を増大させた。
フェイトのデバイス、閃光の戦斧バルディッシュ・アサルトの大鎌形態ハーケンフォーム。そこから放たれた金色の鎌の刃は十四を追尾して迫る。
自動誘導系の魔法。さらに切れ味も鋭く、切断力は甘く見れない。十四は、身をもって知っている。
──だからこそ、十四は避けない。
「……!」
円形の刃をまともに受け、彼の着ていたジャージは切り裂かれる。魔力による補強なども一切していない普通の服は、非殺傷設定とはいえ簡単に散っていく。
追撃の手をフェイトは止めない。
十四との模擬戦闘を一度経験したことのあるフェイトは、十四の怖さをよくよく知っているからだ。
初っ端から全力。一切の手加減はない。
「プラズマランサー、フルブラスト……」
発射台であるプラズマスフィアを六基配置。照準は全て十四。誘導性は全て殺し、威力と速度にリソースを全て振る。
「ファイア!」
電撃の投槍。目にも止まらぬ速度で十四に殺到する六発の矢は、防御も回避も間に合わぬまま直撃する。
ハーケンセイバー、プラズマランサーを一度に食らって、大きくのけ反り吹っ飛ばされた十四。しかし、飛ばされた先には、すでに超高速で回り込んでいたフェイトがいた。
バルディッシュの形態はハーケンフォーム。その大鎌を振るい、十四を容赦なく刻んでいく。
一撃。
二撃。
三撃。
四撃。
五撃。
──六撃。
怒涛の連続攻撃から大きく打ち上げられ、十四には慣性に従って落下していく。
それでも。それでも、フェイトは手を止めない。容赦をしない。
フェイト自身、こうまで徹底して攻撃することに心が痛かった。しかし、こうまでしないと十四は止まらない。止められない。
『Load cartridge』
「プラズマスマッシャー」
バルディッシュから、二つカートリッジが排出される。
左腕に発生した環状魔法陣によって砲身の役目がなされている。手のひらには魔力を極限に溜め、溜め、溜め……砲撃魔法、プラズマスマッシャーを放とうとしている。
泣きたい。怒りたい。フェイトは、ここまで非情に徹することができる自分が恐ろしく、そして悲しかった。
後で謝ろう。十四には、許してくれとは言わない。許してくれなくていい。
だがまずは、引きずってでも海鳴へと連れ戻す。
「ハァアッ!」
雷撃を伴う貫く魔法は、落下して海面へ叩きつけられようとしている十四を襲った。
海を割り、十四を海の奥底へと押しつぶした砲撃。巨大な水柱を立て、海は大きく波打った。
終始圧倒。フェイトは力を見せつけた。
魔法のキャリアが違い過ぎる。フェイトは幼い頃から魔法に触れており、長く連れ添った相棒もいる。一方十四は魔法に触れてまだ一ヶ月弱程度。しかも自分用のデバイスを所持していない。
単純な地力では、十四がフェイトに勝てる要素はない。まともにぶつかり合えば、十回戦って十回勝つのはフェイトの方である。
──しかし、十四は最初から、まともに戦うつもりは最初から皆無であった。
そして自分が得意とする戦い方は、明らかにまともではない。十四はそれを自覚しており、戦いにおいては手段を選ぶつもりはない。
十四が上がってこない。やりすぎた、とフェイトは顔をサッと真っ青になる。
非殺傷設定といえど、魔法は万能ではない。勢い余って大怪我をすることもある上、今の十四は海中。気絶でもしてたら、溺れてしまうに決まっている。
「トシッ!」
十四を助けるべく、フェイトも海中へと潜る。
もしも、もしも十四に何かがあったなら。
それこそ、なのはに顔向けできない。
「どこ、どこにいるの、トシ!」
バルディッシュの生体探索を全開にして、海に落ちた十四を探す。
十四を見つけるのは簡単であった。海底にて、倒れている彼がいた。
十四から微弱な魔力反応があり、体が勝手に水圧から守っていた。
フェイトは安堵する。大した怪我はなさそうで、少し経てばすぐに意識は目覚めるだろう。
海面から出ようと、十四の腕を取ろうとしたとき──。
──フェイトの首を、十四の手から繋がっていたバインドで縛っていた。
「くっ!?」
設置型のバインド。赤錆色の鎖は、、間違いなく十四の物である。
対象者を縛るバインド魔法。得意とした魔導師が身近にいて、そして十四が師事した人物。
フェイトの義兄、クロノ・ハラオウン直伝の
「な……んで……」
どうして魔法が使える。あそこまで魔法を叩き込んでおきながら、どうして意識を保っていられている。
いや、フェイトにはわかっていた。動ける理由が。十四にとってみれば、いくら魔法を食らっても、動けない理由にはならない。
「……
十四の体に刻まれた、大鎌の攻撃、射撃魔法の攻撃、砲撃魔法の攻撃、その全ての攻撃痕が目に見える速度で再生が始められている。
傷跡には全て、背中に羽の生えた小さな人型をした妖精が、十四に治癒魔法を施していた。その妖精は十四の魔力光と同じく、赤錆色をしていた。
これがフェイトを始めとした、管理局の人間が十四を恐れられる理由。
名前の通り、レアスキルを持つ人間は非常に少ない。そしてそれだけ、重宝される存在である。
十四の『機械仕掛けの妖精』の能力は、“生体の状態の時間操作”である。今、傷を治しているのは戦闘前の体へと時間を巻き戻している。
応用性が非常に高く、限定的とはいえ時間操作という反則的能力。
十四が魔法に覚醒した時、この能力も共に目覚め、殺人鬼を返り討ちにした。
倒れても、倒れても、倒れても。傷を治して治して治して。立ち上がり続けた。
魔法を本格的に学んでからの模擬戦もそうであった。ヒットポイント制でなければ、十四は絶対に負けることはない。
どれだけ相手が格上であろうと、立ち上がる気力がある限り、十四は負けない。
現に、十四のフリースタイルの模擬戦の戦績に、敗北のカウントは一つも存在しない。
「こ……のっ……」
なんとか、このバインドの拘束を解こうとするが、構成がかなり強固にできていた。クロノに教えらえたこのバインドは、クロノ本人の物と比較しても謙遜ないほどの出来である。
十四はフェイトの髪を乱暴に掴み、仰向けに倒す。腰をどっしりと深く下ろした構えで、右手で拳を作る。
フェイトが砲撃の時にしたように、十四もまた右腕に環状の魔法陣を展開する。
空手の構え。そしてその型から、打ち出されるのは空手の技の代名詞。試し割にも使われ、生身の拳でコンクリートブロックを破砕することも可能。基本にして必殺。最強の技。
────
滑車の如く左手は引き、右手は突き出す。腰と腕から繰り出した必殺の拳は、フェイトのバリアジャケットを容赦なく貫いた。
海底が割れるほどの下段突き。コースクリュー・ブローと同じように捻じりこんだ一撃は、強烈の一言に尽きる。
フェイトは、バリアジャケットの防御力を控えめに設定してある。防御を軽くすることで、自身の移動速度の高速化を図っている。
逆に言えば、速度のために防御力を犠牲をしている。
そこに何もかもを詰め込んだ一撃を当てれば、一撃で落ちる。当然の理屈であった。
それを知っている十四は、これ以上フェイトが戦えないことを察していた。
「……」
勝者となった十四は、砲撃を撃った自分の拳を見た。
骨折していた。皮膚から折れて尖った骨が突き出て、鋭い痛みを発している。
下段突きが当たる直前、バルディッシュは出力を全開にして防御に徹した。
その防御は突破されはしたが、一矢報いて十四の拳を壊した。
『
ふと、十四は自分の口元が釣りあがっていることに気付いた。そう、笑っているのだった。
何故、自分が笑っている?何か、嬉しいことでも起きたのか。それとも、今楽しいのか。
──ああ、わかった。そういうことだ。
これこそ、求めていた渇望。自分の生きる理由。
「おい、バルディッシュ。伝言だ」
見つけた。見つけてくれた。フェイトが身を挺して教えてくれた。生きる理由。そして、これからの身の振り方を。
ああ、感謝しなければ。本当に、彼女らには世話になりっぱなしだ。恩を数えたらキリがない。
ならば言わなくては。彼女らにも。
十四は、喜びに打ち震えながらもバルディッシュへ向けて……そして、自分を追う者たちへとメッセージを託す。
──この行動こそ、十四の運命の岐路を選択した瞬間であった。