悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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所望、敵となれ

「フェイトちゃん!」

 

 波間に浮かぶ金髪の少女を高町なのはは見つけた。

 フェイトが加添十四に接触、戦闘となったと聞き、なのはは飛んでここまで来た。

 どうして唐突に姿を消したのか。どうして理由を教えてくれないのか。

 話がしたかった。面と向かって、話を聞きたかった。

 なのはの望みはたったそれだけ。たった、それだけだというのに……。

 

 彼女の黒衣のバリアジャケットはボロボロ。バルディッシュは待機形態で手で握らせて胸に置いてあった。

 十四はいない。すでにもう、去った後だ。

 そして目を引いたのは、彼女には赤錆色の羽の生えた小人……『機械仕掛けの妖精(ブラウニー)』が取りついていたことだった。

 

「ブラウニー……?」

 

 見覚えのある、魔力で象った妖精。それは間違いなく、十四のレアスキルによって作り出されたものであった。

 それがフェイトに取りつき、怪我の治療を行っている。『機械仕掛けの妖精(メタリカ・ブラウニー)』は使用者だけでなく対象を定めれば、生物であるならば誰にでも施せる。しかも多少の自立行動を可能とし、簡単な命令を下すこともできる。

 再生が完了したのか、役目を終えた『機械仕掛けの妖精』は魔力素となって散っていく。

 

「んっ……」

「フェイトちゃん、大丈夫!?」

「なの、は……」

 

 意識を取り戻したフェイトは、外傷の一つもなかった。

 戦闘前の状態へと再生をした現在の体調に、問題は一切ない。このままバリアジャケットの再構成をして、飛行することくらい問題なくできる。

 

「ごめん、なのは。トシを、止められなかった」

 

 フェイトは、謝らなければならなかった。十四を前にして、止めることができなかった。

 知っていた。フェイトは、なのはが十四に対して罪悪感を抱いていたことを知っていた。

 なのはは十四の力になりたがっていた。それはなのは自身の自己満足による償いに過ぎない。しかしそれで彼女自身の心が癒えるというのならフェイトは止めなかった。

 不甲斐なく、フェイトは十四を取り逃がしてしまった。模擬戦で戦ったことのある相手であり、手の内をお互い知っている相手だというのに。

 

「大丈夫だよフェイトちゃん。今度は、一緒だから」

「なのは……」

 

 大丈夫、と言ってもフェイトはその言葉を鵜呑みにしない。なのはの大丈夫は、信用できないものであるから。

 必ずどこかで無理をしている。それは一目瞭然であった。

 

「一旦、戻ろう。十四くんなら、すぐ見つかるよ」

 

 ──笑いかけてくるこの顔の裏に、なのははどれだけ悲しんでいるか……。

 

(それを、わかってあげてよ、トシ……)

 

 

 

 

 

 テスタロッサ家の住むアパートでは、作戦会議が行われ、主要メンバーが全員集められていた。

 高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、八神はやて、クロノ・ハラオウン。

 八神はやてを守護するヴォルケンリッター、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。

 フェイトの使い魔であるアルフと、なのはの魔法の師であるユーノ・スクライア。

 アースラ艦長リンディ・ハラオウンとオペレーターエイミィ・リミエッタ。

 以上のメンバーが集まり、対策会議を行われていた。

 

「フェイト、大丈夫?顔色あんまり良くないよ」

「大丈夫だよ、アルフ。十四が治療してくれたから、怪我は何もないよ」

 

 体には異常はない。十四の『機械仕掛けの妖精』は戦闘前の状態に巻き戻しただけで、他に何もしていない。

 不調に見えたのは、フェイトの心が原因だった。

 

「フェイト。十四を逃がしてしまったのは君の責ではない。この場にいる誰が対応したとしても、一人では彼を捕まえることはできなかっただろう」

 

 クロノの言葉は十四をそれだけ高く評価していることを表していた。

 決して、自分たちを過小評価しているわけではない。この、自分たちの戦力は管理局内にも比肩するモノがないくらいの大規模戦力である。

 ミッドチルダ式から古代ベルカ式の魔法のエキスパートたちが結集したこの集団は、打ち崩されることは滅多にない……いや、あってはならない。クロノはそう考えていた。

 だが、十四はそれを出来る可能性と能力を持った男である、とクロノは確信していた。

 

「ちょっと待ってくださいよ。アイツは高々魔法を覚えて一月程度のヤツじゃねーですか。そりゃ、滅多にないレアスキルを持ってるとはいえ……」

 

 守護騎士の一人、ヴィータがたどたどしい敬語でクロノに意見する。

 

「もっともな意見だ。確かに、魔法については高い才能を持ってるとはいえ、十四はまだまだ未熟だ。デバイスも持っていない。魔法を教えていた僕が断言する」

「じゃあ……」

「ではなぜ、彼はフェイトから逃げられた?」

 

 高機動戦闘を得意とするフェイトから逃げられるほど、十四はそんなに速くない。それどころか、この面子の中でもフェイトで速さに勝てる者はいない。

 戦闘になったとして、彼がフェイトに勝てる確率など万に一つはない。それだけの実力差があったということだ。

 だからこそ、十四は騙し討ちをフェイトにした。避けられた攻撃を受け、防げた攻撃を受け、なすがまま海底に沈み、フェイトをおびき寄せていた。

 勝てぬなら勝てる方法を使う。当然の選択である。たとえそれが、相手の善意に付け込んだ術であってもだ。

 

「『機械仕掛けの妖精』によって、考えられないほどのタフネスを持っているんだ。それこそブラウニーを出せるほどの魔力があれば、無限に立ち上がれる」

 

 それは誰もが模擬戦で経験しているじゃないか、とクロノは続けた。

 十四は模擬戦で負けたことは一度もない。彼自身、負けず嫌いな性格もあってか、敗北のカウントを付けることは許したくなかった。

 対戦相手の魔力切れ。その結果で、十四が勝利した内容と、時間制限の関係もあって引き分けがほとんどという結果になっていた。

 

「狙うなら、十四くんの魔力切れ」

 

 十四の戦術は必要以上に魔力を節約するような戦い方であった。魔力消費の少ないブラウニーで回復に努めつつ、攻撃のチャンスになったら一撃で仕留める。そこから十四が魔力を使いたがらない戦い方をしたがることがわかってくる。

 それだけ、魔力切れによるブラウニーの使用不可を恐れている。魔法技術の拙さをレアスキルで補っている戦い方をしていた。

 

「攻略方法が見つかったんなら、それなら」

「いや、攻略法ならもう一つある」

 

 魔力切れ以外に、クロノが提示する攻略法は、ポケットから取り出した一枚の白いカードにあった。

 氷結の杖、デュランダル。その、待機形態であった。

 

「これで、十四を一旦封印して、こちらで解放する。これが一番手っ取り早く確実な手段だ」

「よ、容赦ないなぁ、クロノ君。それ本気かい」

「本気だ。正直僕は、彼を闇の書の防衛プログラムレベルの危険要素とも考えている」

「そ、それはさすがに言い過ぎちゃう?」

 

 闇の書の防衛プログラム、とまで評価にはやては戸惑う。かつて深く事情に関わっていた彼女だからこそ、その評価は些か冗談がきつすぎた。

 存在するだけで世界を壊しかねない。そんなレベルの相手とまで十四は判断されてしまっている。

 

「アハハ。クロノ君、可愛い義妹(フェイト)を傷つけたのが自分の弟子だからムキになってるんじゃない?」

「うるさいぞエイミィ。まあ、それだけの警戒心を持っていれば危うからずということだ」

 

 相手は魔法を使い始めて一月の素人と思ってはならない、というクロノの発破。一人前の、恐るべき脅威を持った相手だということを肝に命じろという、クロノなりの呼びかけである。

 

「……では、フェイト」

「はい」

 

 フェイトは、バルディッシュを取り出してデータ内部に保存してある映像データを再生する。

 十四が残した、このメンバー全員へと宛てたメッセージ。それには、十四が失踪をした理由が、十四自身の口から聞くことができる。

 ──映像が再生され、表示されたのは十四の顔。

 その顔は、多少の笑みを湛えていた。

 

『──加添十四だ。いきなり消えたことには……まぁ、悪いとは思ってる。それは許せ』

 

 映像に映っていた十四はいつになく饒舌で、嬉しそう。そして一切、やったことに関して自分が悪いとは思っていないと言葉の口調からわかる。

 

『俺が出て行った理由は、なんてことない単純なものだ。……我慢ならなくなった、それだけだ』

 

 我慢?十四は、何を我慢していた?

 自分たちの知らぬところで、我々は彼に何を強いていた?

 

『寂しさはない。飯は美味い。学校にも通って、魔法なんて面白おかしい代物の扱い方も教えてくれた。これだけのしてくれたことに、恩を感じてるし感謝している』

 

 嘘は言っていない。十四は、本当にそう言っている。

 なのはたちと共に、学校に通って、魔法の訓練をして、なのはにとっては家族のように接した。そしてそれが、十四にとって幸せだった。

 

『……だが、な。気付いちまったんだよ。何もかも与えられて、お前はそれで満足なのかってさ』

 

 巣にいる雛鳥が親鳥からエサを与えられるように。何もしていないのに、ただ与えられて。

 ……気付けば、十四には欲望というものがなかった。幸せという微睡に漂い続けて、いつかは腐り落ちていく。そういう存在に成り下がっていないかと。

 欲望は生きる活力。渇望は潤いを求める源。そういう物が、なにもかも、十四には欠落していた。

 生きながら死んでいるなど、十四には我慢できなかった。

 叶えるまで死んでたまるかという欲望を、十四は持ちたかった。

 

『見つけたかったんだ。俺の欲を。渇望を。飢えを』

 

 金でもいい。名誉でもいい。女でもいい。俗物的な物でいい。生きたいという衝動が、欲しかった。

 欲望を見つけたいという欲望。それが十四を海鳴市から姿を消した、衝動であった。

 

『けどま、案外早く見つかって良かったよ。テスタロッサ、お前が教えてくれたんだ』

「私が……?」

『お前と戦って、ぶちのめした。そん時わかったんだ』

 

 フェイトと戦い、そして気付くことができた。十四の欲望。十四の望む、これからを。

 

『──俺は、(ワル)になりたがってる』

「悪……に?」

『親しかったヤツをぶちのめして笑ってんだ。悪以外に言うことはない』

 

 ニカニカ笑いながら、十四は自分の欲望を語る。

 戦って、勝って嬉しいとか、そういう類の笑みではない。どうしようもない、ろくでなしの、悪の笑み。

 

『だからさ。これは俺の最後の我儘だ──』

 

 ────悪に対する正義のように、俺の敵となってくれ。

 

 懇願するように、祈るように、告げられた言葉は宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

「戦おうぜ、正義の味方ども」

 

 同時刻、妖精(ブラウニー)たちを付き従えて十四は知らぬ山間を歩く。空気の薄い、標高五千メートルの異郷を、平気な顔をして。

 彼の背後には、彼を追い、捕まえようとしたアースラ武装隊の面々が倒れ伏せていた。

 

 ────ああ、楽しみだ。楽しみすぎて、涙がでそうだ。

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