悪になりたがりの再生者   作:Soul Pride

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攻勢、モンスターがあらわれた

 八神はやては、つい少し前までは自分の足で自力で歩くことができなかった。原因不明の足の麻痺で、その麻痺は着々と上半身へと向い、最悪の場合心臓にまで麻痺にいたっていたという。

 その原因については、彼女自身の魔法そのものの由来であるため、長くなるので省略する。ただ、彼女を巡って多少の荒事は生じてはいた。

 昨年から始めていたリハビリを経て、今現在は立ち上がり、走ることもできる。そこまで回復していた。

 現在は定期的な検査と通院だけで、何の症状もない。じき、検査もしなくなるだろうという。

 …………それが、加添十四の知る、八神はやての病歴だった。

 

「使える」

 

 十四が考えたのは、どうやってあのお人よし集団を、自分に向けて敵意をむき出しにするか、だった。

 バルディッシュに残した宣戦布告では、威力不足だ。それは十四が重々承知している。

 本気である、と証明する方法。躊躇いなく、自分を殺しにかかってくれる、最適な作戦。それを考え出した。

 十四が思いついたのは、非情で、残酷で、人を貶める最悪な手段。彼女と、彼女を大切に思う者の尊厳を、徹底的に踏みにじる考え。

 

「失敗すりゃ、死にかけるだろうが……」

 

 どうせ、一回死にかけたのだから二度も三度も同じだろう、と十四は気にしなかった。

 死は怖くない。いや、死ぬことこそ、十四自身の本望なのかもしれない。

 敵と認めた者を殺し、敵と認めた者に殺される。それこそが、十四の望み。

 追ってきたフェイトは、望みを気付かせたきっかけを作ってくれたから殺さなかった。追ってきた武装隊は、敵とみなすには貧弱であったから殺さなかった。

 

「……じゃあ、やるか」

 

 敵意を漲らせ、十四は笑う。

 敵と戦うとは、ああ、なんて楽しいのだろう。

 

 

 

 

 

 私立聖祥大付属小学校の、五年生のクラスの一室。その、昼休み。各自昼食を持ち寄って、机を寄せ合って食べる少年少女たちの集団に、大きな叩く音が響いた。

 音を出した主は、アリサ・バニングスという少女。硬く握った握り拳で、自分の机を叩きつけたのだ。

 

「敵になれ……なんてふざけた理由で、アイツいなくなったの!?ふざけんじゃないわよ!!」

「あ、アリサちゃん声大きいよ」

 

 クラスの視線が集まっても、アリサはまったく気にした様子はない。元々仕切り屋気質であるため、目立つことに抵抗はまったくない。

 彼女はそれはそれは、激怒していた。突然失踪した加添十四の失踪原因を聞き、一気に怒りの沸点を超えたのだ。

 家族を殺され、なのはの家へと居候してきた十四には、アリサも同情した。憐憫の思いを抱いた。

 十四への印象そのものは、アリサは悪いものではない。むしろ、家族を失ったショックを他人には見せない気丈さは好感であった。

 だが頻繁に、目を離すといつの間にかふらりと消えていて、一人孤独でぼーっとしていた癖はあった。そして何を考えているのかわからない、薄気味悪さもあった。

 この失踪騒ぎも、いつものようにふらっと消えて、そのままどこかへ行って起きた物であった。

 

「なのは、フェイト、はやて。私が許す。アイツを叩き潰しなさい」

「あ、アハハ……アリサちゃん、それはちょっと……」

「アイツはね。何考えてんのかまったくわかんなかったけど、これでようやくハッキリしたわ。あのマゾ野郎を徹底的に、もう敵になりたいなんて言わせないくらいにボコボコにすれば、万事解決、なんの心配はないわ!」

 

 ギリギリと握った拳は、そのままアリサの怒りを示していた。

 彼女がもし、魔法を使えるのなら言った言葉通りに実行するだろう。消えた十四を探し出して、ボコボコにして、引きずってでも海鳴市へと連れて帰る。そう確信させる物があった。

 しかし彼女自身が一番悔しいのは、自分が魔法を使える資質がないからである。自分に力がないのである。それが何よりも惨めで、神という物に呪いたくなるくらい悔しかった。

 こうやって、親友たちに自分の無力さを言うくらいしか、彼女の溜飲を下げる物はないのである。

 

「十四くん……やっぱり、どこかで無理してたと思うよ」

「すずか……」

「だって、いきなり一人になったんだよ。私だったら、どうにかなっちゃいそうだよ」

 

 月村すずかは心優しい少女である。そして、優しいからこそ心に負った傷の深さが良く理解できた。

 もし、十四に置かれた状況を自分に当てはめれば、どれだけ苦しむことになるのか、想像できないくらい想像できた。気の一つや二つ、狂っても不思議ではない。

 敵になりたい、というメッセージの裏に隠された真意を、自分たちは知らなければならない。

 

「……どうして十四があんなことを言い出したのか、わからない。だけど……」

「話せばわかることだってある。私は、私たちはそう信じとる」

「…………そのために戦わなきゃいけないなら、私たちは躊躇わない」

 

 力を持つ少女たち三人は、必ず十四と話すと誓った。話し出して、本当は何がしたいのかを聞き出す。

 誰よりも心が痛いのが十四だということはわかっている。だからこそ、その心の痛みを教えてほしい。そしてその心の痛みを、自分たちが癒したい。

 できることなど限られている。だけどできることならやろう。

 いつまでも、痛くて泣いている子など見たくはないのだから。

 

 

 

 

 

 ──"だったら、やってもらおうか。戦おうぜ、正義の味方ども"

 

 

 

 

 

 ピクリ、と魔法を使える彼女たちが、聞き覚えのある声で頭に響く声を聞いた。

 念話。声を使わず、顔を合わせずに思念で話す魔法の通信手段。難易度の低い魔法であるため、当然彼も使える。

 近くに、いる。そしてこの会話を聞いていた。

 

「っ!すずか、肩!」

「えっ!?」

 

 すずかの長い髪に隠れるように、肩に『機械仕掛けの妖精(ブラウニー)』が座っていた。ここにいるのが当然、というくらいにふてぶてしく、羽のついた赤錆色の妖精は堂々といた。

 それをアリサは平手で追い払う。確かな手ごたえと共に、ブラウニーは呆気なく消滅した。

 『機械仕掛けの妖精』そのものの耐久力は、非常に低い。それこそ、何の力もない少女の張り手で消滅してしまうくらいに。

 しかし、その隠密性。いつの間に肩にいたという結果をもたらすほど、気配を断つことにに長けていた。

 魔力反応はなかった。魔導師が三人いて、それぞれがデバイスを持っていても気付くことができなかった。

 

「今のって……」

「十四の、ブラウニー。近くにいるってこと?」

 

 十四の使えるレアスキルは、アリサとすずかも知っている。どんな能力であるのかはうろ覚えであったが、たくさんの妖精を従えていた十四の姿を見た時は、とても幻想的であったという印象だった。

 その十四の能力の断片を、すずかに忍ばせていた。いつの間に、と考えても仕方ない。

 重要なのは、十四がすぐ近くにいるのかもしれないということだ。

 

 ──"出てきて、十四くん!近くにいるんでしょ!?"

 

 オープンチャンネル全開で、なのはは何処とも知れない場所にいる十四へと念話を送る。

 いるのなら返事をしてほしい。いなくても返事をしてほしい。

 話がしたい。顔を合わせて話がしたい。

 

 ────乖離型牢獄結界(デダッチメントプリズンエリア)、展開

 

 突如、彼女たちのいた教室が、別の空間……コンクリートで敷き詰められた、窓のない部屋へと変わった。

 

「これって、結界!?」

 

 範囲は教室と同じ広さ。結界というには小規模。だが広範囲に渡る結界をここまで縮小させる代償に、頑強さに重きを置いている。

 コンクリートに見えるのは、魔力の壁。しかもパッと見ただけでもわかるほどの強固さ。

 ここまでの結界を、十四は発動できたかとなのはたちは驚く。万能型のオールラウンダーとはいえ、本職の結界魔導師に比肩するほどの代物である。

 魔法に師事したクロノでも、十四に教えたのは魔法練習用の封時結界くらいである。十四が使うには、上級過ぎる結界であった。

 

「牢獄結界。用いる用途は対象を外から閉じ込める時とかに使うらしいが……」

 

 一面の結界の壁が波打つ。結界を通って、誰かが来る。

 誰が来るなどと、そんなことは分かり切っている。

 ただ、逃げていた彼が、こんな不意打ちめいたことをするなどと、彼女たちは予想だにしていなかった。

 

「認証さえ通れば、誰でも通行は可能だ」

「十四……!」

 

 妖精(ブラウニー)を引き連れ、この牢獄の主である加添十四が、中に現れる。

 

モンスター(てき)があらわれた。さあどうする魔法少女(ゆうしゃ)ども。選択肢(コマンド)は?たたかう?まほう?それともにげる?」

 

 ────誤れば、(ゲームオーバー)だ。

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