――貴方はどうしたい?
そんな言葉が頭を掠めたような気がした。
夢の中に居るようなふわふわとした感覚に包まれながらに私の中に声が響く。
あの時、理由も理屈も無くただ確信した想い。
私の中にある想い、あるいは力とも呼べるそれ。
世界に華を咲かせましょう。
そんな言葉とともに世界を覆ったあの光景を造りだしたのは――私。
ただ霊力を捏ねたのではなく、もっと別の……根源的に全く別種の力の発露を経て。
けれど、それが何なのかを私は未だ理解していないのだと分かっていないけれど。
けれどもあの時響いた声は、今もまた響く声は、そんな私の中にあるモノからの声なのだと思うからこそ。
――貴方はどうしたい?
私は声が問う意味について考える。
どうしたい? 私はどうしたい?
そんなことは決まっている。私は紫のモノになりたいと――。
――本当に?
――? なぜそこで疑問の声が上がるのだろうか。
私はあの日紫様に出会った日以来、ただ紫様のモノになるためだけに――。
――本当に?
……。私は琥珀。八雲琥珀。だからこそ、私の進む道なんてたった一つしか――。
――本当に? 本当に貴方はそれで満足できるの?
四度目の問いに――。
満足? それは当たり前じゃないかと、今まで以上にはっきりと思うのだけれど。
だって私は紫様のモノになるだけに今まで努力をしてきたのだから。
今まで私はそうやって生きてきた。八雲琥珀として生まれ落ちたあの日から。
紫様と出会ったあの夜から、私はただ紫様のモノになるためだけに生きていたからこそ。
だからこそ、私が紫様のモノになれるだということ以上に私が望む事なんてありはしないのだと……そう
思うのだけれども。
声に――。私の中に響く声に――。自身でも認識できないほどの奥にまで導かれるように思考を重ねていく内に……。
何処かで感じる僅かな違和感を――。遠い場所で、あるいは最も近い場所で、感じるほんの些細な想いが。
それはまるで、本当に小さな違和感のようでありながも。けれど、決して無視しえない堰のようであるかのように。
私の内にある激流を止めている最後の想いであるかのように感じるからこそ。
感じてしまったからこそ。
思わず問い返そうとしたとろこで――。
――そろそろ時間みたい。また……ね。
そんな言葉が響くと同時に、すぐ近くに感じていたソレが遠くに離れていくのを感じた。
待ってと言おうとしたけれど。
私の意識もまた抗うことなく下に落ちていくように。
あるいは下に落ちていた意識が上に上がっていくように流れて行った。
それは一時の夢のようであったかのように消えていく。
何かに包まれていたような感覚も。
そこで私の中に響いた声も、それに問われた意味も、そこで感じた想いも。考えた内容も。
きっと泡が消えていくように夢と共に忘れていくのだろうとそんな気がする。
だけどここで聞いた声も、問われた意味もそこで感じた想いも、けれど確かにそこにあったという――
ただその事実だけはきっと残っているから。
だから今は目を覚まそう。夢から常世へ。幻想から現実へと。
「………………ん」
体が重い――。
目が覚めて最初に感じたことがそれで……。
目が覚めて?
あれ……?
そもそも私はどうして寝ていたんだろうと……というより此処はどうだろう?
見覚えのない部屋に全く記憶にない天蓋付きのベッドに横になっているという今の状況はなんなんだろうと、そう思い体を起こそうとしたところで。
「おはよう。よく眠れたか?」
そんな声をかけれて。そちらに顔を向けるとそこに居たのは吸血鬼レミリアであった。
そして、笑みを浮かべながらこちらを見つめるレミリアと目が合えば、その時になって自分が先ほどまで何をしていたのかを思い出した。
あぁ……そうだ。私は彼女と戦って。それでその後に――。
「気をうしなってた?」
「あぁ。霊力を枯渇してな」
「……レミリアがここまで運んでくれた?」
「そうだ。ここは私の寝室だからな」
「……ん。ありがと」
「なに気にすることはないさ」
とりあえずレミリアに礼を告げた後に体を起こそうとするけれど。
その前にレミリアの隣に座っていた女性から声をかけられた。
「一応貴方を治療したから忠告するけど、もう少しそのまま横になっていることをおすすめするわよ」
「…………?」
声をかけてきた女性は紫の髪を持つ、何とも言い難い雰囲気をしていた。
人でないことは理解できるけれど、かといって隣に座るレミリアのように妖気を纏ってるわけではなかった。
少なくとも今まで見た来たどのような存在にも該当しない彼女に、とりあえず顔を横に傾けながらに見つめ返してみる。
「あぁ……。自己紹介がまだだったわね。私はパチュリー・ノーレッジ。魔法使いよ」
魔法使い……。
パチュリーという名前の女性が名乗ったその言葉は、だいぶ私の興味を引いた。
それは魔法を使う者という意味なのだろうか。
それとも魔法使いというそれそのものが種族という意味なのだろうか。
魔法……魔法か。確か仏教用語における外法としての言葉がその由来だったろうか?
あぁ……いえ。この場合は西洋の神秘としての魔法として捉えるべきが正しいのか。
けれどそれはあくまで幻想の発現方法の手段としての言葉である以上は、魔法使いとはあくまでも魔法を使う者としう意味であった、それ自体が種族としては成り立たないような。
陰陽術を使う者を陰陽師と呼ぶけれど、彼らはあくまでも人であって陰陽師は陰陽術を使う者としての呼称でしかなかったはず。
ならばやはり彼女は人間で、あくまで魔法を使う者として言ったのだろうか。
いえ……けれど。やはり彼女の纏うソレは人ではなく――もっと別のモノのもの。
妖ではないけれど妖と同等にまで神秘に近い存在であるからこそ。
やはり彼女の種族を言い表すならば魔法使いこそが正しいのか。
なればこそ、そのあり方に俄然と興味が湧いてきたからこそ。
私はそのまま彼女を見つめ続けているど。
「あら……。思ったよりも面白そうな目で私を見るのね。貴方は私を見て何を考えているのかしら?」
そんな風に彼女に問われれば。
確かに色々と聞いてみたいことはあったけれど。
私が本当に聞きたいことは一つであったからこそ――。
「ん……。魔法を覚えれば……私も神秘に近づける?」
私のそんな質問に、彼女はそれまでの無表情だった顔に僅かに笑みを浮かべながらに言葉を返してくる。
「…………へぇ。ちなみに質問に対して質問で返すようで悪いけれど、貴方はどうしてそんな風に考えたのかしら?」
「……貴方が内包している幻想……神秘がまだ流れているから。妖は――内包した幻想が自身の中で留まり続けるだけだと、でも貴方はまだ止まっていないから。だから……魔法を、魔法を使う存在はそれを使い続ければ――妖と同じだけ、もしくは妖よりもなお神秘に近づけるのかな……って思ったから」
言葉にするのは難しいその概念を何とか思ったがままに伝えてみる。
妖とはつまり生まれ落ちたその瞬間から幻想へ至った存在……なのだと思っている。
故に退化もしなければ進化もしえない。
もちろん感情も知識も思考もする存在であるからこそ、時間を重ねた結果の経験という意味での成長はあるのかもしれないけれど。
妖とはつまり妖として生まれた時に既に完成した存在であるからこそ。
より根源的な存在としての成長は、きっとしない。
けれど――彼女は違う。
先ほどまで感じていた彼女が纏うモノに対する違和感。
それは僅かに……本当に僅かにだが流動しているソレ。
決して流れていかない――人でないモノが内包する神秘が、けれども彼女の場合は確かに流れていく。
だからこそそれは――より成長する可能性を表しているようでもあるからこそ。
そしてそれを行っているモノが魔法であるとするならば。
魔法という過程を経て今の彼女があるとするならば――。
「ふふ。あはは。面白いわね。貴方のその紅い瞳に一体何が映っているのか――本当に興味が湧いてきたわ。いえ、むしろそれを含めて貴方という存在なのかしら……。だとすると……やはり貴方自身に対する興味が尽きないわね」
魔女が声をあげて笑いながらに、一歩こちらへと近づいてきた。
私の言葉に興味が湧いたのか。
あるいは彼女が言う通りに私自身に対して興味を抱いたのか。
まぁ――この場合はどちらでも言いことだけれど。
そうしてベッドの脇まで近づいてきた彼女が私の目を見つめながらに面白そうに問うてくる。
「それで――。先ほどの質問に対して私が
私はその質問に対して――。
ほとんど反射的に……魔法を教えて欲しい――と答えようししていた。
私の目的が紫様のモノになるということであるならば。
より紫様と同じように神秘に近づく手段があれば、それがどのようなモノでさえ利用しようと思っていた。
人を捨てる覚悟など遥か昔に出来ていた。その程度のことで紫様に近づけるというならば迷う必要などどこにもありはしなかった。
紫様という遠い遠い――遥か遠い望月に近づく為ならば、紫様のモノになる為ならば――どのようなことでもしてみせると誓った。
だからこそ――魔法。
まさに予想外の出会いであったけれど、それが少しでも有効ならば私はそれを利用するつもりであった。
けれど……。
どこかで……。遠いどこかで。あるいは最も近い場所で。
それは違うと――。そんな声が聞こえたような気がした。
それを学ぶことに意味はなく……私が望む世界はそこではないと告げる声――あるいは想いが届く。
それは聞いたことのない……けれどどこかで聞いたようなような声であり。
そして予想のようで、けれど確信に満ちたような想いであったからこそ――。
「……どうかしたかしら?」
思わず黙り込んだ私にパチュリーのそんな声が届いて。
そこでそれまで目を逸らしていたのを、もう一度見つめながらに私が口にした言葉は――。
「……ん。何でもない」
そんな否定の言葉であった。
ある意味にそれまでと真逆の態度に、パチュリーは僅かに目を開いて問い返してきた。
「……あら。貴方は魔法に興味があったんじゃないのかしら」
「……あった。確かにあったけれど。でもそれは――私の求めているものとは違うような気がしたから」
「どうしてそう思ったのかしら?」
「――分からない」
「……そう」
何故そのように思ったのか、私自身その答えが分かっていないから。
確かにそう想う気持ちに間違いはないような気がするけれど――。
なぜそのような結論に至ったのかは何も分からないから。
だから確かなことは言えないけれど。
けれど――。
「でもきっと……それが東洋の神秘でも西洋の神秘でも……既に編込まれた術式では――」
――私には意味がないような気がしたから。
そんな感じがした。それも何か理由があったわけではないけれど。
けれど私は私の想いに従うことにしたからこそ――。
「……ごめんさない。私の方から聞いておいて――」
「いいわ。でも……そうね。私はこの屋敷の図書館に住んでいるから貴方が何か知りたいと思ったのなら、いつでも来ると良いわ。私が知っていることなら、可能な限り教えてあげる」
自分の方から聞いておいえ、意味がないなどと――彼女に対して悪いことを言ってしまったと思い謝罪をしたのだけれど、けれど彼女は気を悪くすることなくそんな風に私にとって魅力的な提案をしてくれた。
「……ん。ありがとう」
そこにどのような思惑があるにせよ、彼女のその提案は私にとって価値のあるものだから。
きっと私は未だに多くの知識が不足しているから。
何かを知るというこは、それだけ多くの意味を持つだろうからこそ
だからこそ私は彼女に対して素直に礼を言う。
「別に気にしなくて良いわよ」
そう言うとパチュリーはそのまま部屋を後にしてしまった。
そうして、そんな彼女を私が見送っているいと……隣からレミリアが声をかけてきた。
「ふふ。本当にパチェはお前が気に入ったようだな」
「……そうなの?」
「あぁ。あいつが自分から図書館に招き入れようとするなど、少なくとも私はお前以外には一人も知らんよ」
「……そう」
「まぁ……あいつ自身も言ったがお前はいつでもこの屋敷を訪れると良い。図書館だろうと何処だろうと私もまたお前を歓迎するさ」
「……ん。ありがとう」
「なに……私の方からお前を招いた上で多少強引に決闘を申し込んだようなものだからな。その詫びだと思って貰えれば良いさ」
「……分かった。私の方も言い過ぎたことがあったと思うから――だからごめんなさい」
「クク。妖怪にわざわざ謝罪するなど――。お前は本当に面白いな」
そんな風に互いに謝罪するような感じで会話が始まり。
そしてその後は咲夜が体に良いという薬膳茶を持ってきてくれたりしながらに、レミリアと二人でお茶を飲みながらに軽い雑談を続けていた。
そしてそれからしばらく経った頃に、互いの雑談が一段落したところで。
レミリアがその時を待っていたかのように、突然と問いを口にしてきた。
「それで……。貴方はどうするつもりかしら?」
「どう……?」
いきなりの疑問であったからこそ、私はこちらも疑問で返すしかなった。
しかし、それが今までの雑談の延長の問いでないことは一目瞭然であった。
なぜなら……こちらに問いかけてくるレミリアの口元は隠し切れない笑みを浮かべている。
それは何とも吸血鬼らしい笑みであったから。
「ふふ――。琥珀は私との戦いに勝利した。ならば勝者として私に願い事を言うと良い。私は勝ったときに琥珀の身を欲した。ならばそちらも何か願い事を言わなければ不公平と言うものでしょう?」
話している内容自体はある意味理屈染みてはいるのだが、その口調はこちらに対して気を使っているというよりも私がそれに対して何を口にするのか楽しみで仕方ないと言った感じで。
それは実に娯楽に飢えている妖怪らしいと言った雰囲気だ。
吸血鬼に対する願い。
彼女自身があえてそう口にするのならきっと最大限私の願いをかなえてくれるだろう。
彼女は傲慢で唯我独尊でありながらに誇り高い。
こ
の短い時間のやりとりしかしていないがそうはっきりと思う。
ならばきっと私が願いを口にすれば必ずそれをかなえてくれる。
そんな彼女に私は何を願うだろうか。
私は短い時間考えてみたが、答えは一つしかないような気がしたからこそ。
気が付いた時にはそれを口にしていた。
「なら――私と友達になる?」
そんな余りに単純な言葉に。
レミリアは流石に予想外であったのか、笑みも忘れて呆然とした感じでこちらを見つめ返してきた。
その後に苦笑とも言えるような笑みを浮かべ直してこちらを見つめてくる。
「ハハ……。本当に。お前は何を言うのか予想が付かなくて面白いな」
それは今までとは違う、どこか呆れを含んだかのような言葉であったからこそ。
……自分でも何か間違っているような気がしないでもないのだから……そんな普に笑われるのは不本意なのだけれど。
「……貴方が睨んでも可愛いだけよ。それで、どうして私と友になりたいと言うのかしら? 私は妖怪で貴方は人間なのだけれど?」
「別に私にとって妖とは人とかの違いは……どうでも良いから。それよりも貴方は……綺麗だったから。貴方の姿は荘厳で――貴方が造りだした世界は美しかったから。だから……そんな貴方と友になるこは……私にとっても意味があると思ったから」
呆れたように見つめてくるレミリアに対して思うことはあるけれど。
けれど私は、自分が思ったことを素直にレミリアに告げる事にしたのだった。
そしてそんな風に告げた言葉が、これも予想外であったのか、驚いたように目を開いた後に答えてきた。
「…………………そういう風に褒められたことはなかったわね。ふふ……悪くないわ。だけど……意外ね。貴方は八雲紫の信奉者だったと思うのだけれど、私に浮気なんてしていて良いのかしら?」
「私にとって紫様は絶対……だよ? 紫様は私にとっての望月だから。その美しさは他者と比べるまでもなく世界に――燦々と光輝いているから。でも……それでも。いくら闇夜に光り輝く月が美しくても――」
――月の周りにある星々が醜いわけではないでしょう?
そんな風に私がレミリアに告げる。
そして告げられた方のレミリアは……笑みを。それまでの苦笑のような笑みではなく、声を上げて笑いながらに声をだす。
「……ふ……くふふ。くふふははははははは。星。私が星か。これは……くく。流石に予測できなかったわ」
「……貴方が綺麗なのは事実……だよ? だからそんな貴方の美しさを学びたいと思ったのだから」
「……クク……私を踏み台に使う気か。八雲紫のようになる為に、その為に私をその足場にするつもりか。その為に私と友になりたいと。そういうことか八雲琥珀! はっ! 見た目と違い実に強かではないか。強欲で傲慢なそのあり方は……ああ実に八雲だよお前は」
吸血鬼の牙を見せながらに笑いあげるレミリアだけれど。
そこにあるのは決して私の答えに対する不快気な感情ではないからこそ――。
「それで――私と友になる?」
「ああ……なろう。良いだろう――以降私はお前の友となる」
そしてレミリアが伸ばした右手に私の手も重ねる。
小さいきれど綺麗で美しいその手を取りあい友の契りを交わす。
こうして初の妖としての友ができた。
レミリアからは学ぶべきことが多くある。
だからこれから彼女からいろいろと学んでいこう。
私がそう決意していたらいつの間にか彼女の顔が私のすぐ近くまで寄っていた。
その顔はそれまでの無邪気な笑みを浮かべたものではなく、実に嗜虐性あふれるものである。
「だから――ふふ。ねぇ……琥珀?」
「………………なに?」
何となく――このままだと実に良くない未来が待ち受けていると私の全身が訴えかけてくるのだから。
「私と貴方は友になった。友になるということが勝者としての権利であったとしても、けれども互いに友としてあり続けるには常に対等な関係でならなければいけなと……そう思うのだけれど?」
「…………それで?」
そう言いながらレミリアはゆっくりと体ごと寄ってきてついにベッドを昇り私の上に跨ってきた。
お互いの体が密着し、顔が触れ合う寸前まで近づいている。
体を動かそうとするが、未だ体が重く吸血鬼の力に対抗できるほどではなかった。
「……貴方は私から妖としてあり方を学ぶつもりでしょう? 私はそれに対して否という気はないわ。パチュリーと同様に貴方が知りたいと思ったことがるなら、何時でも、何であろうとも教えてあげる。だけどそれだと互いに対等とは言えないでしょう? だからこそ……少しだけ私にも報酬があっても良いと思わないかしら?」
「……何が欲しいの?」
私のそんな単刀直入な質問に――。
「……貴方の血が欲しいわ。もちろん吸い過ぎるつもりもないし、貴方を眷属にするつもりもないわ」
レミリアは牙を見せながらに応えてきた。
血……血か。
実に吸血鬼らしいその言葉に……私は少しだけ考え込む。
正直に言ってしまえば、確かにレミリアの言っていることは間違っていないと分かっているから。
というよりも彼女が吸血鬼であることを考えれば、私の彼女に対しての態度は傲慢なのは私の方だという自覚があるのだから。
それになによりも――私の体は既にどうしようもないほどに穢れているのだから。
そんな躰の血をいくら分け与えたところで、こんな躰の血が欲しいというのなら好きなだけ吸ってしまえば良いとすらも考えている。
私にとって大切なのは魂そのものである。
八雲琥珀としての私の想いが紫様のモノであり続けることであるからこそ。
私にとって肉体とは、それを成し遂げる為の手段としてのモノでしかないのだから。
だけど、それでも私は紫様のモノだから。
だからこそ――。
「……ん。紫様に聞いて。紫様が良いって言ったら……別に良いよ?」
そんな風にレミリアに告げるのだけれど――。
「……その従順さは実に私好みだわ。だけどその相手があのスキマ妖怪だと言うのが実に惜しい……。ねぇ……琥珀? 貴方はあの妖怪に文字通り幻想を抱きすぎているわ。あの妖怪では貴方を十全に光らせることなんて出来ない。だけど私なら貴方を誰よりも美しく仕立て上げてあげる。だから……ね?」
そしてレミリアはさらに顔を近づけて
もはや止まるつもりが無いかのように恍惚な表情をしながらに私の首に向けてその牙が向かってきたところで――。
ふいに私の上にあった重みがなくなった。
「そこまでにしてくださらないかしら? 泥棒猫さん」
「…………八雲紫」
「紫様!」
「私の可愛い琥珀にこれ以上触れないでくらるかしら」
私とレミリアとの間に忽然と紫様が表れたのだった。
そして……そう言いながら紫様は私の体を抱き上げてくださった。
あぁ……紫様。
紫様の腕の中に今私は居る。
甘い香り。
美しい横顔。
紫様紫様紫様紫様。
先ほどまであっていたことなど全て忘れて私は紫様のことで頭が一杯になる。
もしも天国と呼ばれる場所があるならば。
それはきっとここだろう。
「私と琥珀は友になったんだ。ならばこのぐらいの触れ合いは普通だろう?」
「琥珀の意志を無視して……一体何をするつもりだったのかしら?」
「……………ふん」
「まぁ琥珀のほうから貴方と友になることを望んだようでしたから。今はこれ以上は何も言いませんわ。ですけど……今宵はここまでにしておきなさい」
紫様とレミリアが何か言い合いをしている。
だけれど今の私はその内容を理解する余裕がない。
ただただ紫様の腕の中で紫様を感じている。
柔かい。優しい。綺麗。美しい。
紫様が抱きかかえてくれる腕は優しく柔かい。
私はこれまで感じたことのないほどの安心感に包まれて。
気が付けば瞼が開かないほどの眠気に襲われていた。
……起きないと。
紫様の腕の中で眠るなんてそんなこと出来ない。
「ふふ……眠ければそのまま寝てもいいわよ」
私がそうやって何とか起きようと努力していたら紫様が私に声をかけてくださった。
寝てもいい。
紫様の腕の中で寝てもいい。
良いんですか?
こんなに暖かく優しい場所で眠ってしまっても良いんですか?
そう思いながらなんとか片目だけを開けて紫様を見つめたら。
紫様は優しい笑みを浮かべながら私を見つめ返してくださった。
ああ……紫様。
好きです。好きなんです。大好きです。愛しています。
貴方のことが大好きです。私の全ては紫様のものです。
だからどうか。いつまでもこのままが良いです。
私を見ていてください紫様。
頑張りますから。琥珀は頑張りますから。
頑張って紫様のようになりますから。
ですからどうか。
これらかも琥珀のことを見て下さい。
紫様の腕に抱かれ紫様の笑みを見てしまえば。
自らの中にある想いを止めることが出来なくなり。
そしてそんな私の想いを抱きながら気が付けば私の意識はゆっくりと眠りの世界へと誘われていった。
この話を書いた後に求聞史紀を読んだらパッチェさんが生まれがらの魔法使いだと知りました
パッチェさんは人間から魔法使いになったと思って書いたのでちょっと矛盾を感じますが書き直すのもあれなのでそのまま投稿しました。
しかし、生まれながらの魔法使いって何なんでしょうね?