「っ! 一発も当らない……」
現在行っているのは私と霊夢による弾幕ごっこ。
私が放つのは白色の霊弾。直径十センチほどの特色も無いただ霊力を貯めて造り上げた弾。
それを同時に二つ三つと造りだし地に立ちながら空に浮かぶ霊夢に目掛けて放っていく。
しかし既に放った霊弾は二桁を軽く超えるはずなのにただの一発も当らない。
確かに特に策も無くただ弾を放っているだけではあるけれど。
だがこれはそう言った話ではないのだ。
当らない。
いや。正確に言うならば当たる気すらしない。
確かに霊夢の飛び方はあまりに滑らかだ。
私も霊力を身に纏うことで空を飛ぶことができるけれど――。
しかしそれは、本来は空を飛べない生き物が世の理を捻じ伏せて飛ぶようなものである。
そうである以上はどうしても不自然さが生まれてくる。
しかし霊夢の飛び方にはそれがないのだ。
そもそも霊夢は空を飛ぶのに霊力を使っている雰囲気がないのだ。
まるでそう――――空を飛ぶのが当たり前であるかのように。
自由に滑らかに空を飛んでいる。
確かにそれは格別に早いわけではないけれど。
鳥が羽を羽ばたかせるよりもなお自然に空を飛ぶ霊夢は最小限の動きで私の放つ弾幕を避けていくのだ。
「なら……!」
幻想『対子白夜蝶』
いくらただの弾幕を放ったところで当たりそうが無いが故に。
ならばと放つのはスペル『白夜蝶』
一対の蝶が霊夢さんに向けて滑空していく。
その速度は先ほどまでの霊弾とは比較にならないほどである。
これならばいくらなんでもどちらか一つのみでも当たるだろうと。
そう私は思ったのだけれど――――。
「いくら早くてもそれな分かりやすい攻撃に当りはしないわよ」
彼女はほとんどその場を動くことなく私の蝶を避けきった。
ほんのわずか彼女は体を横向きにずらすことで。
一対の蝶の間をすり抜けきった。
「…………え?」
私は目の前の出来事が信じられなかった。
別に彼女は特別派手なことをやったわけではなかった。
ただ体を横に向けるけことで私の攻撃を避けきっただけに過ぎない。
そう結果だけみればそれだけだ。
だが違う。今のはそんな話ではないのだ。
見て避けただとか軌道を読み切って避けたというのなら私はここまで驚きはしない。
それならば彼女がそれだけの実力を持つのだろうということで納得するだろう。
しかし違うのだ。
だって彼女は――――。
「どうして……私のスペルが発動するより前に回避動作に入れたの……?」
「あら。思った以上に目が良いの…………いえ、もしかしてこの場合は私に近いのかしら?」
「なにを…………っ!?」
「それを教える前に少し試させてもらうわ」
彼女が何事か呟いた後に唐突と攻撃をしかけてきた。
放たれたのは護符だろうか。
何かしらの印が描かれたそれが私に向けて飛来する。
数は九……いや十一。
避ける? いや不可能だ。
そもそも私は空を飛べるが弾幕を避けれるほどの動きは出来はしない。
ならば防がなければ。
あの弾幕を防ぐには防ぐ物を造らなければ。
私には避ける力はないのだから。
結界『四重結界』
現れるのは紫の結界。レミリアとの戦いの時に展開したそれを再び私は造りだす。
それは二度目の展開になるからこそ。
だからだろうか。
前回に比べれると驚くほどスムーズに造りだすことが出来た。
いや、そもそも造りだした感覚からしてあの時とは違った。
あの時はまさに結界を組み立て造り上げるといった感覚で言うならば。
今回のそれは既に出来上がったものを呼び起こすと言った感じであった。
そして私がそんな感覚に襲われている間に霊夢の弾幕がその目前にまで迫っていた。
しかし既に私の眼前には万全なる結界が出来上がっているのだ。
これは紫様が使われた結界の模倣。
紫様の物に比べれば雲泥の差がある代物ではあるけれど。
されどたかだか通常の弾幕にて突破されるものでは決してない。
「へぇー……。まさかそんなものまで使えるとは思わなかったわ。式でもないのに良く紫の物真似なんて出来るわね」
放たれた御札は全て結界へと吸い込まれていき、その全てが結界に触れた瞬間に霧散していく。
そして全ての弾幕を防ぎ切った時に私の結界もまた光の粒子となり消えていった。
弾幕を放ちそれを見ていた霊夢は感心と驚きを含めた顔でこちらを見下ろしてくる。
「あは――。だって私は八雲琥珀だから」
私は霊夢さんに自分なりに不敵に見えると思える笑みを浮かべて見つめ返す。
しかし彼女はそんな私をやや呆れたように見つめながらため息を吐いた。
「そんな自信満々に自己紹介なんてしなくわいいわよ…………。それに――――ただの弾幕をスペルで防いだとして二度目はどうするのよ?」
「っ!」
そして霊夢さんは二度目の弾幕を展開。
放たれたのはまたしても先ほどと同じ御札。
今度は全てで十二枚のそれが私に向けて飛来する。
私はその放たれた弾幕が、霊夢さんの手から離れた瞬間から見て感じて知覚して。
そして――――。
「……っ!」
どうすることも出来ずに被弾したのだった。
「……ん。痛い……」
「そりゃただの護符でもそれだけ馬鹿正直に被弾したら痛いにきまってるわよ」
離れた御札の全てを被弾した私はその勢いのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。
飛ばされ転んだ時に打った背中の痛みと御札が当たった箇所の痛みに私が唸っていると、空に居た霊夢が何時の間に目の前までやってきて、またもや呆れるような声でそう呟いてきた。
「……私にはあれを避ける能力が無いから――だから防ぐしかない……」
「だからってあんな護符まで防いでいたらいくらスペルがあっても足りないわよ」
確かにもってその通りではあるのだけれど。
しかし、それでもなお私には避けるのでは防ぐという能力しかないが故に。
私は弾幕を避けるのではなく防ごうとしたのだから。
そして――。
確かにあの時はそれを行える力があったのだから。
だからできる――。
私は確かにできるはずだったのだけれど。
「……ん。レミリアとの時にはできたのに。でも……今はできなかった」
「できなかったって。弾幕を防ぐことが?」
私はその問いに頷く。
全ての弾幕を避けるのでは防ぐ――正確には幻想に帰すことりによって結界的には防ぐことができるはずだったのだけれど。
しかし、今はどうしてもそれができなかった。
あの時に感じた力を、けれど今はそれをどうやって発露させたかも思い出せないから。
だから弾幕ごっこを繰り返していけば――それを思い出せるかと想ったのだったけれど。
「ふーん……。それが何か分からないけれど、一度出来たんならそのうちまたできるんじゃない?」
そんなアドバイスになっているようで――全くなっていない助言を受けながらに。
けれど確かにそれもその通りなのだとも思った。
一度できたのだから。
確かに私は一度そこに触れたのだから。
だからこそ――もう一度触れる事も可能だと信じているからこそ――。
「……ん。もう一回練習お願いしても良い?」
「……まぁ良いけれどね。けれどあんたも、そんなあやふやな力に避けることを覚えなさいって。あんな少数の弾幕ぐらいなら避けれるようになりなさいよ」
ただ弾幕ごっこに勝つことを目標とするならば、確かに霊夢の言うことこそ正論ではあるのだけれど。
それでも私が目指すべきなのはそこではないと理解しているからこそ。
私はただ避けるのではなく、どれほどの被弾することになろうとも、私の世界を造りあげることを目標とするのだから――。
だからこそ霊夢の忠告を無視してしまうことになると思ったからこそ、何も言わないつもりだったのだけれど。
しかし――それよりも霊夢の話を聞いてふと気になったことがあったので。
何となくだったが聞いてみることにした。
「……護符を二十三枚も飛ばしておいて少数って……霊夢はどれだけ護符を持ってるの?」
「あぁ……これは使い捨ての簡易な奴だからね。だからこの程度…………って……」
霊夢さんはさらに数枚の御札を袖から出しながら説明をしてくれていたのだが、その途中で口篭ると突然に私の両頬を手で挟むようにすると顔を持ち上げられ睨むようにこちらの瞳を見つめてきた。
「…………霊夢?」
呼びかけるのだが彼女はそれに答えずにただ私の瞳を見つめ続けていた。
吸い込まれそうになるほど綺麗に清んだ黒い瞳で彼女は私の何を見ているのだろうか。
「……どうして?」
それからどれだけ経っただろうか。
それまで私を見つめ続けていた霊夢さんが唐突にそう聞いてきた。
「……?」
「……どうして私が放った護符の枚数が分かったのかしら?」
「……ん? んー?」
私のその問いに対して何と答えて良いのか分からずに何とも言えない声を声を出してしまったのだけれど。
そんな私の態度が気に障ったのか霊夢さんはややイラついた声を出した。
「何よその声は。だいたいそんなに分かりづらい質問はしてないでしょう」
「……ん。質問の意味は分かるけれど――質問の意図が分からなかった……から」
私のその態度に霊夢さんはさらにイラつく、というよりも胡乱気な様子で見つめてきた。
「どういう意味よ?」
そう言われても本当に彼女の質問の意図が分からなかったのだ。
何故放たれた御札の数が分かるのかと問われても。
「だって――――
そう私が答えるのだけれど霊夢は相変わらずに顔をしかめたままだ。
ふむ……。
もしかすれば私と霊夢の間で認識の違いがあるのかもしれない。
「…………いえ……別に弾幕がただ目で見えるだけなら問題じゃないわ。でも普通はあの一瞬で枚数まで把握できるものじゃないでしょ?」
「そんなことない……よ? 幻想としてそこにある以上は見逃すことなんて……ないんだから」
幻想。この世の理の外にある存在。
されどこの世にあらゆる形で存在する幻想を見逃すなんてそんなこと出来はしない。
だってあんなにも綺麗に存在するのだから。
それは香りであったり色であったりもしくは表現することのできない感覚であったりはするけれど。
確かにそこに存在するのだと訴えかけている。
「…………幻想ね。そういえばあんたはよくその言葉を使っていたわね」
「……ん。だってここは忘れられた幻想が集まる……幻想郷だから。世界に幻想が満ちている……よ?」
「そう……。ちなみにそれは霊力や妖力と言ったものもはっきりと見えるのかしら?」
「…………? 何を言っているの? 霊夢の周りにも……
霊力や妖力は確かにそこにはっきりと人や妖の周りを巡っている。
特にその内に秘める量が多い存在こそより明確に見ることができる――。
そして――霊夢の霊力は白だ。
真っ白で空をたゆたう雲のように霊夢の周りを流れてる。
思わず触れたくて手を伸ばしたくなるような。
されど決して人には掴み取れないように流れてる。
それは不思議な光景だ。
掴みたいのに掴めない。
私は霊夢以外にそんなふうに霊力を流れる人を見たことがない。
「……なるほど。じゃあさっきの弾幕も護符そのものを数えたわけではなく霊力を感じたと言うわけね?」
「……ん。そう」
霊力はほぼすべての人に存在する。
そこには大小の違いはあるけれどそれでも赤子も老人も関係なくその人の周りを霊力は流れてる。
されどその霊力を自身の意思をもって扱える人はだいぶ限られてくる。
そして弾幕はその霊力を操ることで造り上げられる。
霊夢の場合は護符に霊力を流し込みそれをもって弾幕としている。
そしてただ周りを流れている時に比べれば弾幕として使われる時の霊力は比べものにならないほどに力強く感じられる。
それほど強く感じられる霊力をどうして見逃すだろうか。
霊夢の場合は普段のたゆたうように流れている霊力とは違い弾幕として使われるときはとても鋭く……そして流麗に向かってくる。
霊夢さんが放つ護符は確かに華やかさは存在しなかった。
されど一部の隙もなく流れるその弾幕は確かに見るものを魅力する美しさがある。
ならばどうしてそれを見逃せるだろうか。
そこに美しい幻想があるのだと私の目が耳が鼻がありとあらゆる感覚に訴えられてくるその幻想を感じずにはいられないのだから。
「……そう。幻想を感じられる……ね……。ならそれがこの子の能力? いえ……何か違うような…………」
私が霊夢さんの霊力について考えているとどうやら霊夢さんのほうもぶつぶつと何やら考え事をしている。
霊夢の口ぶりからすると私の感覚はどこかおかしいのだろうか。
「……霊夢?」
とりあえず霊夢が何を感じたのか聞こうと声をかけるが霊夢はまたしばらく何事かを呟いている。
なので私はとりあえず霊夢が考えをまもめるまでまっていようと思って霊夢を眺めていたのだけれど今度はおもむろに私の方を向いたかと思うとまたジッと瞳を見つめられてしまった。
「ねえ琥珀。あんた何か能力のことについて紫から聞いたりしたことある?」
「……能力?」
「ええそう。私たちは何々が出来る程度の能力と呼んでいるのだけれど何か聞いたことあるからしら?」
「……いえ。聞いてない……かな」
「そう…………。なら……自分で気づかせたかったのかしら。ならこれはやっぱり表面的なこと……」
「……霊夢? 程度の能力って……?」
私は霊夢さんに説明を求めるように問うたのだけれど。
霊夢さんはまたしばらく考え事をするかのように私から目をそらし何事かを呟いた。
それからある程度考えがまもまったのか再び私のほうを向いてくれた。
「そうね。ならまずはそこから説明しましょうか。この世には生まれながらにして何かしらの能力を持つ人たちが居るの。それは人も妖も関係なく持つものであり、それはその人固有の能力なの。そしてそれを私たち程度の能力と呼んでいるわ」
「……ん。つまり……?」
固有の能力と言われてもいまいちピンとこずに首をかしげる。
つまりどういうことなのだろう。
霊力や妖力とも違う能力だと言うこだろうか。
いえ、そもそも人と妖からして生まれながらにして能力が違うのに程度の能力とは人と妖が関係なく能力を持つというのはどういうことなのだろうか。
そもそも妖とはその種ごとに人と違う能力をもっている。
例えるならレミリアならば吸血鬼として血を吸い満月の夜に力が増しそして日の光と流れる水に弱いという。
つまりそれが固有の能力?
しかしそれならば人にまで能力が現れる意味が分からないうえに、そもそもそれは個人固有の能力ではなくて種族特有の能力であるの…………あぁ違う。
そうだ。私は確かにそれを既に一度見ているではないか。
強大な妖怪に仕える人間を。
吸血鬼に仕えながらになお――そこに一切の見劣りを感じさせないほどに幻想を内包していた人間を私は知っている。
人ながらに――人であり続けながらになお妖に付き従っていた彼女が有していた能力は――。
「そう……時間を操る程度の能力」
「ん? あぁ咲夜の能力ね。そうしえば、あの子の弾幕ごっこを一緒に見たんだっけね」
なるほど――。
それが幻想郷における能力か――。
確かに本来であれば人が持つにはあまりに強大な能力。
時の流れという――神でさえ、容易に割り込めない不可侵の領域に。
されど彼女は人の身で至っている。
それはまさに激流の中において、留まり続けることと同義であるからこそ。
だからこその――能力か。
文字通りに世界の原理も道理も――全てを凌駕して、ただそうであるという結果だけを起こしうる幻想領域。
それこそが――この世界における能力なのだと理解する。
「……霊夢も何か能力を持っているの?」
「ん? ええそうね私も一応持ってるわ。空を飛ぶ程度の能力と呼ばれるものだけれど」
空を飛ぶ程度の能力――。
ああ――。
それは――――確かに彼女の能力であると感じられた。
「あぁ…………だから霊夢はそんなにふわふわしてる…………いたっ!」
私が自然とそう口にしたのだが気が付けば眉を顰めた霊夢さんにデコピンをされてしまった。
「誰がふわふわしてるのよ。それじゃあまるで私が落ち着きがないみたいじゃない」
「……そうじゃなくて……。んー。なんて言えば……良いのかな」
「……何よ?」
余計なひと言を口にしたおかげで霊夢さんに問い詰められるようになっているのだけれど、上手い言葉がとっさに出てこなくて口ごもってしまった。
ただそれでも私の中で霊夢の空を飛ぶ程度の能力と言うのな凄く納得のいく能力だったのだ。
まさに霊夢そのものを表しているような能力であると言っても良いほどに。
「一つは……霊夢は霊力を操っていなのに……ふわふわと空を飛んでいたのが不思議だったけれど。それが納得……ということ」
そう一つは先ほどの弾幕中に抱いた私の疑問をまさに解決する能力であったということ。
本来は霊力であろうと妖力であろうと空を飛ぼうと思えばそれを自身の体に纏わせることで空を飛ぶ。
しかし霊夢は普段と何ら変わることなく空を飛ぶことができるというこである。
確かにそれならば誰よりも自然に空をふわふわと空を飛べるだろう。
「そう……。でも一つは……と言うことは他にも何かあるのよね?」
未だ眉を潜めたまま先ほどよりも顔を近づけてそうれ問われてしまった。
そう。
確かにもう一つ理由がある。
というよりもふわふわと言う言葉が出てきた理由はこちらの方にある。
それは霊夢の在り方そのものに対する疑問。
霊夢は人として確かにそこにいるのに。
巫女ではあるけれど神の使いでもなければ仙人でもなく、確かに人という存在として霊夢さんは目の前に居るのだけれど。
なのに……。
「霊夢は……確かに目の前に居るのに、だけどまるで……そこに居ないかのように感じられるから。けれど……それは存在が希薄なのではなくて、目にすれば手を伸ばしたくなるような温かさを持ちながらも、決しては人では触れられないような……いえ、例え妖な神であろうと触れることが出来ないような……不思議な感覚。そんな雰囲気が霊夢からするから。そしてその感覚を一言で表すと……ふわふわした感じ……かな」
それが何処まで能力に影響を受けたものなかまでは分からないけれど。
確かに『空を飛ぶ程度の能力』とは霊夢を表す能力であると感じられた。
「………………ふーん」
そんな私の感覚を霊夢さんに伝えたのだけれど、霊夢さんは本当に何とも言えない表情で私を見てきた。
それは驚きが半分それと何やら楽しそうな雰囲気が半分と言った感じである。
「…………霊夢? ……間違ってた?」
「どうかしら? 自分じゃ自分自身のことは良く分からなもの。でもそうね…………むかし紫から私の能力の説明を受けた時に似たようなことを言われたような気もするわ」
「紫様に?」
「えぇ。私の能力は空を飛ぶだけでなく、それは何ものにも囚われないウンヌンってね。まぁ長ったらしかったからほとんど忘れちゃったけど」
何ものにも囚われないという紫様の言葉。
あぁ……なるほど。
それはまさに霊夢にぴったりの言葉であると感じられる。
彼女は――霊夢は確かにこの世の理に縛られない存在であると。
確かにそう感じられるから。
「まぁ私の能力のことについては良いわ。でもね……琥珀」
「なに?」
「あんたがさっきから口にしている霊力は……あんた風に言うのなら幻想的なものは普通の人間にはっきりとは見えないもの。いいえ、それは例え妖怪や神であろうとも容易には出来はしないの。確かに感覚的に何となくそういったものを感じることならできるのだけれど……あんたの場合はもっと根源的なものを感じているんでしょう。そんなことはこの幻想郷においてもなお、出来るのは琥珀だけよ」
「…………?」
私は霊夢さんの言うことが一瞬分からなかった。
私が見ている世界は。
私が感じている世界は私だけしか見ることも感じることも出来ないのだという。
世界にはこんなにも幻想に溢れているというのに――。
それを見ることができないとは――一体どういうことなのだろうか。
「だから、そうね。あんたの能力に名前を付けるなら『幻想を感じられる程度の能力』かしら?」
そう告げらた瞬間にに――。
私の中を駆け巡った感覚をなんと言えば良いのだろうか。
「幻想を感じらえる程度の能力……? それが私の……。それは……。っ……」
鸚鵡返しのようその言葉を呟やくことしかできないほどに。
何かがこの身の中で蠢いた――。
――能力。
私の中にあった――けれど明確に感じ取れなかったあの感覚が、私が持ちうる能力に起因するものだったのだとしたならば。
私がそれを明確に感じとるこも、ましてやそれを私の意志で行使することも確かに不可能であったのだろう。
だって、私はそれの名前を知らなかったのだから。
幻想とは名を付けることで初めて、そこに明確な意味を持つようになり。
名もなき幻想はただ世界を流れゆく神秘と同義であるからこそ。
名を与えることによって、ここに初めて明確な形として幻想が顕在することとなる。
だからそれが――。
『幻想を感じらえる程度の能力』
…………なのだろうか。
確かにそれを聞いた瞬間に、確かに私の中にある何かが鼓動を始めたように感じたけれど。
しかしそれは、未だに何かが違うように感じられた。
私の中にある歯車が経然りに周り始めたようだけれど。
しかし未だそれは噛み合わず。
ただそこにあるという存在だけは感じられるけれど、そこに明確な意思を感じ取ることができないような気がするからこそ。
「……ん。それは……近い……けど。でも何かが違うような……気がする」
そんな風に、自分に確かめるように呟いたのだったけれど。
「……そう。まぁ……私もそう思ったのだけれどね」
まさか言いだした方の霊夢の方から同意が返ってくるとうは思わずに。
私が首を傾げるように問い返すと――。
「……?」
「ただの勘よ。でも多分あんたのその幻想を感じ取れる力は、本来の能力から零れ出てきたものみたいな気がするだけよ」
零れ出た――。
あぁ……確かにそうなのかもしれない。
私は今までに、幻想を見れる、感じ取れるということは、あの夜に紫様に出会った日から意識せずともずっと行えてきたことだから。
それこそ、日の光を感じる様に、流れゆく風を感じる様に。
草木の香りを感じれる用に。
私は幻想を感じ取ることができるからこそ。
そしてそれが、普通ではないのだとしたら。
きっとそれは私の中にある幻想から、零れ出た力なのだろうと思う。
だからこそ、その先にこそ私の能力があるのかもしれないと。
そんなことを考えている中で。
ふと前を見ると……いつの間にか霊夢は護符を仕舞い、神社の中へと帰る準備を終えようとしていたのだった。
「……霊夢?」
思わず彼女を呼び止める。
折角能力に辿り着く為の道標が見つかったのだから。
もう少し弾幕ごっこの修行に付き合って欲しいと思ったのだけれど。
しかし、彼女はもはや完全にやる気を失ったかのようで答えたのだった。
「んー……。これも勘だけれど、あんたの場合これ以上に私と弾幕ごっこをしても意味が無いように思うのよね」
「……どうして?」
何となく……。
ただそれだけの言葉で、彼女が言うことが分かったような気がするけれど。
私は霊夢に答えて貰えるように問い返す。
「あんたの場合は、意味の無い修行を百繰り返すよりも、意味のある経験を一度行ってこそ、あんたの言う望む世界が見えてくるような気がするのよ。だから……ここで無駄な時間を過ごすよりも、あんたが本当に自分の能力を知りたいのなら、自分でその方法を考えた方が良いんじゃないかしら」
そんな……聞きようによっては、自分がもう飽きたからこその弾幕ごっとを止める言い分に聞こえなくもないそれも――。
けれど確かにそれが彼女の口から出任せを言ったのではなく。
私もまた、そう思うのだった。
そもそも。このような命も覚悟も必要の無い修行で何かが掴めるほど……私が追い求める幻想は近いモノではないはずではないか。
もっともっと遠い幻想に手を伸ばそうとするからこそ。
地を這いずり回る存在が、それでもなおあの空の向こうにまで至ろうとするのだから。
ならば、せめてこの身の命ぐらいかけずに、私はどうしようというのだろうか。
私が初めて自身の能力に触れたあの時も、レミリアとの戦いの中で、霊力も体力も何もかもが枯渇したその先で初めて触れることができたのだから。
だからこそ、再びソレに触れようと思うならば、せめてこの身ぐらいは懸けようと……そう思う。
紫様からも、私が望む世界に辿り着くならばこの身を捧げることに許可が貰えたのだから。
だからこそ、私はこの身を賭すことに何一つ迷いなどもはやない。
そう思ったところで――。
そういえば……と思い出す。
弾幕ごっこはそもそも、この幻想郷における決闘方法ではないか……と。
私自身が勝敗自体には余り思い入れが無かったからこそ忘れていたけれど。
しかしこれはそもそも互いに何かを懸けた戦いの為の手段であるのだから……。
だからこそ――思い出す。
そうだ……。
一人……戦い相手がいたのだったと。
欲しいと思った相手が居たのだった。
ならば……。
あは――。
ちょうど良い。
この身を懸けるには十分な相手であるからこそ。
負ければこの体を八つ裂きにされようとも、だからこそ意味のある経験を得られるだろう。
思い立ったのならば今すぐ会いに行ってこうようと思うからこそ。
「あは――。ねぇ……霊夢。妖怪の山ってどっちだっけ……?」
次回から文編。
あややんがー琥珀の餌食にー。なるかも?