東方紫幻郷   作:ジャオーン

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二十一.姫と幻想の戯れ

『なよ竹のかぐや姫』

 

日本最古の物語である竹取物語にでてくる月の姫。

とある老夫婦の元に竹から生まれた女の子が生まれると老夫婦はその日以来金の竹を見つける日々が続きどんどんと富んでいったという。

そしてそんな老夫婦の元で女の子は美しい女性と育ち、なよ竹のかぐや姫と名付けられた。

そんなかぐや姫の元には多くの求婚者が訪れたけれど。しかし結局はかぐや姫から出された難題を解くことが出来ずに誰もかぐや姫と結ばれることはなかった。

その後かぐや姫は時の帝から見初められることとなったけれど、しかしそんな帝と結ばれる前にかぐや姫は月の迎え連れてかれることとなり――この地を去ったという。

 

しかし、そもそも月の姫であるかぐや姫が何故この地に落とされたのか……。

彼女は月の世界において何かしらの罪を犯したのだと言う。

だからこそ彼女は月から追放されることとなり、この地に――月の民から見れば穢れた地と呼ばれるのこの世界に居る老夫婦の元へと送られたのだそうだ。

そして、老夫婦がかぐや姫と出会って日から金の竹を見つけ続けていたのは月からかぐや姫を預かることとなった老夫婦の元へと送られてた月の財宝であったと言われている。

しかしそれから数年が経ったことで罪を許されたかぐや姫は、無事に月の世界に帰ることとなった……らしいのだけれど。

 

 

そんなかぐや姫――輝夜が私の目の前に居て笑いかけてきている。

もちろんここが幻想郷である以上はかぐや姫だろうと浦島太郎だとろと居ても何もおかしくないのだけれど。

しかし物語が正しいとするのなら……。

 

 

「…………輝夜は月に帰らなかったの?」

 

「あら――。琥珀は竹取物語を知っているのね」

 

「……ん。昔に幻想郷のことを調べる時に色々と本を読んだから。竹取物語も読んだ……よ」

 

「へぇ……。貴方は感覚だけで何とかする人間かと思ったけれど知識も大切にするのね」

 

 

竹取物語を読んだことを告げればそういう風に驚かれた。

けれどそれは確かにその通りだとも思うけれども。

知識か感覚かと言われれば……私は間違いなく自身の感覚を優先するけれども。

なぜなら私が抱く幻想は世界に決められた法則の上にあるのではなく、私の想いの先にあると思うからこそ。私は自身の感覚を大切にする。

 

しかし、それが知識を蔑ろにする理由にはなりはしない。

想いを抱くというのは何かを知るというこにも繋がるから。

いえ――。正確に言うのならそれを知っているからこそ、そこに想いを抱くのだから。

だから私は感覚だけでなく知識も大切にしてきた。

それこそ外の世界に居た時にかなり無理をしてでも、街に出て書物を読み漁ろうとするくらいには。

そんな知識は今の私を支える一つの柱になっているからこそ――。

 

 

「……自身が叶えたい願いがあるのなら……まずはそれについて識らなければいけないと思う……から」

 

 

そう告げる。すると輝夜はもう一度驚いたような顔をしながらに何事かを呟く。

 

 

「ふーん……。そこまで分かっていても自分の感情には気付かないのね。いえ……むしろ色々と余計な事を考えすぎているのかしら」

 

 

それは口の中で呟くような声だったからこそ。

私の耳にまでそれは届かなかった。

 

 

「…………輝夜?」

 

 

「いえ……。何でも無いわ。あぁ……それで私が月に帰らなかった理由ね。簡単なことよ。あの月よりもこの地の方が楽しそうだから残った。ただそれだけのことよ。物語の方はこの世界の誰かが書いたものであるからこそ最後は私が付きに帰ったことになっているんでしょ。だってそうでしょ? 月に帰るはずのお姫様が、実は迎えに来た従者と共に月の迎えから逃げ出しただなんて……悲劇が喜劇になってしまうわよ」

 

 

そう可笑しそうに笑いながらに。

けれど瞳には僅かな迷いも見せずに――そう答えたのだった。

 

 

「……そう」

 

 

私は月がどのような場所かなんて知らないけれど。

しかし……昔何処かで呼んだ書物によると。

月には、この地とは比べものにならないほどに美しい都があるらしいけれど。

それこそが人々が追い求めた桃源郷。穢れが無く、穢れを浴びず、穢れと無縁の生を送ることのできる世界。

それこそが月の世界らしいけれど。

 

けれどそれがどのような世界であろうとも。そこに抱く想いは人それぞれであるからこそ。

昔に出会ったお爺さんが幻想郷が醜く見えたように――。

輝夜にとってはあの見上げる月よりも、この見下ろす大地の方が良かった。

それだけのことだったのだろう。

なんて……そんなことを私が思っていると。

すっと私の方に近寄りながらに、輝夜が私に問いかけてきた。

 

 

「別に私の事はどうでも良いのよ。それよりも……貴方は貴方の想いを知りたい。そうでは無かったのかしら?」

 

 

…………確かにそうである。

私は私の想いが時が経つにつれて……どんどん分からなくなってきている。

あの日――。

紫様と初めて出会ったその日から抱き続ける想い。

 

私は紫様のモノになりたい――。

 

そんな想いが。けれど最近感じる僅かな違和感。

ほんの少しの歯車がずれている様な――あるいはそもそも噛み合ってすらいないような感覚がこの身を襲い続ける。

それこそそれは――。私の根底から間違っているようにすら思えてくるからこそ。

私はそれを知らなければ先に進むことが出来ないと言う焦燥感に包まれて。

 

私は私の感情の赴くがままに行動してみたりもしたけれど。

だからこそ文と戦ったりもした。

その戦いの中で――私は明確な答えを得ることはできなかった。

けれども、改めて一つの確信に辿り着く。

私は――私の能力は、私の内に抱く幻想は――私の想いの先にあるのだと。

その想いを知ることこそが私が私の望む世界に辿り着く為に必要なのだということを。

改めて想いしったからこそ。

 

 

「……ん。私は――私の想いを確かめたい。私がどうなりたいのか……それを知りたい……。いえ、知らなければいけないと思う……」

 

 

だからこそ、たまたま寄った診療所で私の一族の過去を知っている人に出会てのは幸運であったと思う。

八意永琳。

不思議な人。正確に言うのなら人であるのかすら良く分からない……幻想を抱く人。

本来ならば循環するはずの幻想の流れがけれども……この人からはそれが全く感じない。

同じ場所に停滞し続けている。まるで死者のようなそのあり方は、けれどもこの人は確かに此処に居て生きている。

そして――同じ感覚は輝夜からも感じるけれども。

永琳の場合は、それに加えてただ停滞するだけでなく。停滞していいるのにとてつもないまでの螺旋の道を描き続けてきたような。

そんな感じもするからこそ。

この人はきっと私が考えているよりもずっとずっと長くを生きてきたのだろう……とそう思った。

 

そしてそんな人から教えられたのは……私の一族の名とそのあり方。

神楽。

神の座としての神楽。

それが私の本来の名であったそうだ。

神と共にあった者の名が私の名であったのなら……。

そこに込められてきたであろう想いは、きっと私が想像すら出来ないほど大きなものであったのだろう。

その神楽の一族が歩んできた歴史は……紡いできた想いは――。

とても――とても意味のあるものであったのだろう。

 

 

だけど。それでも。

それを理解してもなお。

私は――私であると……そう思う。私は八雲琥珀。

そこれこそが私であり、私はそうありたり思って居る。

だからこそ、私は私の想いははっきりと理解しなければならないと……改めてそう想った。

そうでなければ私は胸を張ってこの名を名乗り続けられなくなってしまうから。

神楽という本来の名を捨てて、それでも紫様から頂いた八雲琥珀の名を名乗り続けるのなから。

そこに抱く自身の想いを明確に理解してこそ。

私は私であり続けられる。

 

 

「そう――。まぁ自分の想いなんて気付いてしまえばきっととても簡単なものなのでしょうけれど。けれど、だからこそ簡単には気づかないものなのかもしれないけれどね。良いわ――。着いていらっしゃい琥珀」

 

 

そう言いながらに輝夜はすぐに私に背を向けて歩き出したのだった。

 

 

「……何処へ?」

 

 

だからこそ問うた私の言葉に――。

 

 

「決まっているでしょう? 私達にはちょうど自分の想いを知るための方法としてとても有効なものがあるでしょう――?」

 

 

――だから庭にでるのよ。室内だと狭いでしょ。

 

 

とそう答えたのだった。そしてそんな輝夜が浮かべる表情は優雅な笑みを浮かべているのだけれど……それは何処か獰猛さを感じる笑みを浮かべているからこそ――。

 

 

「……ん。そうだね」

 

 

私もまた笑みを浮かべながらに応えのだった。

弾幕には自身の本心の反映であるからこそ。

あれほど自身の想いの対面に向いているものはない。

その先にこそ、きっと私の想いはあるのだから。

 

そしてそんな風に思いながら付いていく輝夜の隣に永琳が寄ったかと思うと。

二人で並びながらに進んでいく。

 

 

「本当に珍しいわね。貴方がそんなに積極的になるだなんて」

 

「ふふ。私もらしくないとは思っているわ。でも……それは貴方が言ったことでもあるじゃない」

 

「……何かしら?」

 

「神楽の一族は神も妖も人も関係なく――ただ見る者を魅了するって。なら私もまた例外では無い。……そういうことでしょ?」

 

「……えぇ。そうね……。そうだったわね。私もまた――遠い昔にそうであったものね」

 

「あら――? それは本当に昔の話だけなのかしら?」

 

「ふふ。それはノーコメント。あぁけれど輝夜。貴方が楽しむのは良いけれど余りあの子を油断はしない方が良いわよ」

 

「……貴方がそんな風に言うほどに?」

 

「伊達や酔狂程度であの鴉天狗があんなに素直に付き従ったりはしないでしょ。あの子が此処に運ばれてきたときに負っていた傷は決して軽いものでなかったわよ。常人であれば下手をすれば死んでいてもおかしくないほどに……ね」

 

「……それほどの怪我を負ってなお――あの子は鴉天狗には勝った……ということね」

 

「そういうことよ。神楽の一族の見た目に甘く見た連中が突っかかってとんでもない返り討ちをあった……なんて話はいくらでも聞くものよ」

 

「さて――。藪を突いて出てくるのもは――何であるのか。楽しみね……永琳?」

 

「……はぁ。私は今のうちに薬の準備をしておくわ」

 

「ふふ。よろしくね永琳」

 

 

そんな会話を織りなす二人について行った先に待っていたのは隅々まで手入れがされいる庭園。

気が付けば夜になっており、曇っているのか月のない暗闇の世界なれども。

それでも、見えずとも奥ゆかしさすら感じる日本庭園のその真ん中に連れられて。

永琳や文が見守るその中心で輝夜と二人相対する。

 

輝夜がジッと見つめ……私もまたそれを見つめ返す。

彼女の瞳は実に深い。

螺旋に連なる世界をただ垂直に生き抜いてきたかのように。

真っ直ぐに伸びきるその瞳に、私はどのように映っているのだろうか。

 

 

「さて……琥珀。貴方は竹取物語を知っているのなら五つの難題も知っているかしら?」

 

 

かぐや姫の五つの難題。

それは彼女に求婚を申し出た五人の貴族にだした課題。それを叶えられた者こそがかぐや姫と結婚できるというものであったという。

石作皇子には「仏の御石の鉢」。

車持皇子には「蓬莱の玉の枝」。

右大臣阿倍御主人には「火鼠の裘」。

大納言大伴御行には「龍の首の珠」。

中納言石上麻呂には「燕の産んだ子安貝」。

これら五つを持ってかぐや姫の難題と呼ばれている。

 

 

「……ん。知ってる……よ」

 

「そう。なら良いわ。私が今から行うのはその難題を模した弾幕。貴方はそれに挑戦なさい。その先にこそ貴方の願いが分かるかも……知れないわよ?」

 

――まぁ私の難題に挑む覚悟があるのならね。

 

なんて……挑戦的な笑みを浮かべながらに述べてくる輝夜に。

彼女は妖怪ではないけれど、しかし彼女の纏う幻想は、吸血鬼にすら劣らぬほどの、あるいは凌駕するほどのものであるからこそ。

そんな彼女が造りあげる弾幕は、彼女が数千年前に出した難題の幻想化。

それこそそれがどれほどのものかなど想像すら出来ぬほどのものであるからこそ。

私は……。

 

 

「私にとって私の願いの成就以上の難題なんて無いから――」

 

 

――だから余り簡単な問題は出さないでね?

 

 

こちらも笑みを浮かべながらに応える。

別にそれが彼女の軽視する言葉ではなく。

むしろその逆で……。

それこそが私の覚悟の宣誓であると。

僅かな加減も無く――この弾幕ごっこを楽しもうという私の言葉であると。

きっと輝夜には通じると思ったからこそ――。

 

 

「あは……あははは。良いわ。だったら受けてみなさい――琥珀!」

 

 

難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』

 

 

彼女が繰り出した最初の弾幕は――。

龍の頸の玉――大納言大伴御行に出された難題。龍の頸元に光る五色の宝玉。

五行を模した色は黒・青・赤・白・黄。

 

それを模した弾幕は、まさに宝玉の弾丸。

五色に光る弾丸が迫る様はまさに圧巻。

さらにそんな弾丸に混在するようにこの身に迫るは五色の光線。

レーザーのように直線に迫り――世闇の世界が五色に輝く。

まさに今なお伝承として残る難題に相応しいその弾間に――。

 

けれど……ただやられるほど私が駆け抜けてきた経験は浅くないからこそ。

それに対抗するように一つの防壁を構築する。

イメージする時間はもはや不要のそれ。

ただそこにあるという幻想をこの世界に具現化する工程を経る事で造りあげる――我が敬愛すべき存在の幻想の模倣。

 

 

結界『四重結界』

 

 

四重に重なる紫色の結界。造るだけであの方の温もりを感じられる至高の結界。

それをもって迫りくる五色の弾丸を相殺する。

この結界は私の紫様への想いの結晶であるからこそ。

それがどれほどの弾幕であろうとも――それでもなおこの結界を壊すことだけはできはしない。

そうして迫りくる弾幕を防ぎ続ける私に――。

 

 

「それって確か八雲紫のスペルだったわよね?」

 

「……ん」

 

 

今なお弾丸を射出し続けていた輝夜が楽しそうに話しかけてくる。

私もまた結界を維持したままにそれに答える。

 

 

「愛する者のスペルを模倣するだなんて……本当に貴方は健気ねぇ……」

 

「……紫様は誰よりも美しいから……。そんな美しい幻想を模倣するのは……そこを目指したいと思うのは……当たりまえじゃない?」

 

 

あの日見た幻想を。私が恋い焦がれる幻想を。

この幻想郷に訪れてから多くの幻想を見てきたけれど。

それでもなお、他者を圧倒するあの方を幻想を真似したいと思うのは間違っていないと思うからこそ。

私はそう答えるのだけれど……。輝夜はそれには答えずに。

 

 

「……そうねぇ。ねぇ――琥珀。折角の難題なのだもの。ただの弾幕だけでなく……貴方に、貴方だけの課題を出してあげる。貴方は私の弾幕を凌ぎながら私が今から行う問いに答えなさい」

 

 

そう言ってきた。

私は彼女の真意を理解できたわけではないけれど。

けれどそれに対して迷うことなく頷く。

 

そもそもこの難題ですら――全てが彼女が私の為に行ってくれているものだということを分かっているから。

どうして彼女がそうするのかは分からないけれど――。

それでも彼女はわざわざ私に――私の想い知るということに付き合ってくれているのだから。

だから私は彼女に素直に従う。

 

 

「……ん。分かった」

 

 

そしてなお迫る弾幕を防ぎ続ける私に彼女が最初に発した問いは――。

 

 

「ねぇ琥珀。貴方はどうして……八雲紫を愛しているのかしら?」

 

 

そんな問いであった。

 

どうして――?

どうして私が紫様を愛しているのか?

 

そんなことは決まっている。あの日出会った紫様に。

ただ人形のように朽ち果てるしか無かった私の前に現れた至高の幻想。

 

私の目の前に表れた紫様が、手を伸ばし続けた夜空に浮かぶ満月のようにに美し感じられて。

それは止まって居た心臓が鼓動を始めるほどまでに美して。

彼女の造る世界が綺麗で。どうしようもないほどに綺麗で。

 

憧れて。その世界に焦がれて。

そんな世界を作り上げる彼女に魅了されて。

彼女の居る世界に私も行きたいと願わずに居られなかった。

だからもはや人形のままでいることなどどうしようもなく我慢できなくて。

そして彼女に名前を付けて貰って。

 

琥珀の名前を付けて貰って。私は琥珀になれた。

満月のように美しく輝く紫様に琥珀という名前を貰って。

だから私は――八雲琥珀は紫様を愛してるのだ。

 

 

それを……そんな私の心情を。

私は拙い言葉ながらに輝夜へと伝える。

 

 

「紫様は私にとっての天満月。美しい幻想を見せてくれて……私に名前を付けてくれて……。だからこそ――闇を照らす月に……恋焦がれるのは私にとって当然のことだから」

 

 

どれだけ伝えられたかは分からないけれど――。

それでも私が何とか彼女に私の言葉を告げ終わると……。

 

輝夜は変わらず笑みを浮かべながらに。

 

 

「そう。それが貴方の想いなのね。ふふ……。良く分かったわ。ならちょうど第一の難題も終わったようだし次に行きましょうか」

 

 

そう告げながらに繰り出された第二の弾幕は……。

 

 

難題「仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-」 

 

石作皇子に出された難題。仏教における秘宝であり、天竺にあったと言われる鉢。

それを模した弾幕は――。

 

 

白色に迫る光線。まさにレーザーであった。

さらにそれに混在するように幾多の弾幕が降り注ぐ。

世界が白色で光り輝くかのように降り注ぐのは……。

まさに光線の雨のようであり。

回避ルートなど私は模索するのも不可能であるからこそ。

 

私は――。ただ前だけを見続ける。

それがどれだけの質と数を揃えた弾幕であろうとも。

私はただそれを正面から踏破する。

私の願いの先は……。あの月にさえ手を伸ばすことなのだから。

 

幻想には幻想を……。

あちらが千年を超えて発露した難題の幻想だというのならば。

こちらは願いの幻想。

私の想いの幻想を持ってそれすらも超えて見せる――!

 

 

『幻想演舞』

 

 

舞手は此処に――! ただ一つの扇を手に幻想の舞を踊る。

幾多の弾幕すらも巻き込む幻想舞台において。

ただ一人舞い続けることによる幻想の発露。

 

私は未だ私の想いを完全には分かっていないけれど……。

それでもなお――。

たった一つだけはっきりしていることはあるのだから。

 

私は紫様を愛している。

 

それだけは絶対に変わらない私の想いだからこそ。

今はその想いだけを持って――私は舞う。

私の幻想は私の想いでできているからこそ。

その想いの全てを私は分かっていないのかもしれないけれど。

それでも迫りくる弾幕を幻想に還すだけならばこれだけでも十分だからこそ――。

 

 

「…………流石ね。まさか私が何が起きているのか理解できない事象に出会うなんて想わなかったわ」

 

「……私も自分が何をしているのか良く分かって居ない……よ。だからそれを知りたくて今此処にいるのだから」

 

 

弾幕を繰り出しながらに――。それを防ぐ為に舞いながら弾幕を幻想に還しながらに行われる会話。

 

 

「……そう。ならちょうど良いわね。貴方に二つ目の問いよ――。貴方はどうして八雲紫のモノになりたいのかしら?」

 

 

そして問われたのは私が紫様のモノになりたいその理由。

どうして――。

私は舞いながらにその答えに考えるならば。

 

 

私があの方を愛した理由にきっと繋がるから。

そう……紫様は私にとっての月。

漆黒の夜空をされど爛々と照らす満月のような存在だから。

だから……夜闇の支配する世界で、けれどそんな闇すらも一瞬のうちに幻想なまでの美しさで輝かせる存在に出会えたのなら、その傍へ在りたいという感情を持たないなんてどうしてできよう。

 

そして――私という存在は、紫様が居て初めて琥珀として成り立つ存在。

紫様が居なければ、夜闇の中で身動きすらできずにただの臓物へと成り果てるだけの存在なのだから。

 

あの屋敷に居た頃と同じ――ただの人形。

命令されぐままに主に従うだけの動く臓物。

ただ主の汚れた欲求を満たすためだけにこの世界にあり続ける穢れた存在に。

 

私は紫様が居なければきっと今もまだ人形であったと思う。

けれどあの日紫様に出会い。紫様の幻想を見て。

そして紫様から琥珀の名を貰って――。

初めて私はこの世界で生きることが出来たのだから。

 

だから私は紫様のそばにあり続けたいと願い――。

そして紫様のモノになりたいと思ったのだと。

 

 

「私は星になりたいから……。それが穢れた私が抱いた願い。穢れている私では月にはなれないから……。だから紫様のそばに居続けたいなら……紫様のモノになるしかないから。だから紫様のそばで……紫様という月のそばに居る星になりたい……」

 

私をそれを――言葉足らずながらに輝夜に告げる。

けれどその言葉の途中で……輝夜の顔があきらかに変わる。

 

 

「……貴方が穢れているですって?」

 

「……ん。私は昔……紫様に出会う時よりも昔にある屋敷である男に飼われているだけの人形だったから。男の欲望を受け入れるだけの……人形。汚れ穢され……。そして私自身もまた……自ら穢れた。人を刺し……殺し。血を浴び血で穢れ……どうしようもなく穢れた人形が……私だから」

 

 

屋敷であったことを輝夜へと語って聞かせる。

余り人に聞かせる話でもないと思うけれど……。

それでもあの屋敷で人形だったころの私を含めて――私は私だから。

だからその時のことをはっきりと輝夜に話したのだけれど。

 

けれど、それを聞いた後の輝夜は――。

 

それまでの笑みを完全に消した表情となる。

どこか楽しげであった感情は失せ……ただ感情を無くした表情で私を見つめつづる。

私はそんな輝夜を見つめながらに――。私がどうして紫様のモノになりたいかという言葉を話し続けるけれど。

輝夜はただそれを聞き続け。

そして……私が話終わった後は、しばらく無言のままにただ弾幕を張り続けていた。

私もまたそれを無言で舞い続け。弾幕を幻想へと還し続けていると。

それからしばらく経った頃に。

気が付けば彼女の弾幕が終わり。

 

 

「……そう。だからなのね」

 

 

そんなことを輝夜が呟いた。それは静かな……けれどよく響く声であったからこそ。

 

 

「輝夜?」

 

 

私の問いに――。けれど輝夜は何も答えはせず。

静かにそのまま私の歩み続けたかと思うと。

そっと私の頬に手を這わせながらに。

 

 

「貴方は感性も良く、知識もあり、思考力もあると言うのに……どうしてあんな結論に辿りついたのかと思っていたのだけれど――」

 

 

私は輝夜の言う言葉が理解できずに。

ただ首を傾げ続けていたのだけれど。

輝夜はただ静かに私の頬を撫で続けるだけであり――。

 

 

「ふぅ……。ただ貴方がそれに気づいていないだけなのなら良かったのだけれどね。けれどそうでないのなら……あのまま続けても今の貴方ではきっとその答えに辿り着けないでしょうから……」

 

 

――私が一つだけ貴方に答えを教えてあげる。

 

 

そう唐突に輝夜が言うのだった。

私は未だに彼女の真意が理解できずに……。彼女は一体何を私に見たのだろうと思いながらも。

それでも彼女のされるがままになりながらに。

彼女の言葉を聞き続けるのだった。

 

理由も根拠もないけれど。

それでもきっと、彼女の言葉に意味があると思うからこそ。

今の私では理解できない何かを、それでも彼女は理解したからこそ。

こうして私に教えてくれようとしているのだから。

私はただ……彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

「良い琥珀。良く聞きなさい。誰かのモノになりたいという想いと、誰かを愛したという想いは――決して同じでは無いのよ」

 

 

 

私の瞳を見つめ続けたままに語られた言葉は――そんな意味の言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パンがなければケーキを食べればいいじゃないって言いながらケーキを奢ってくれるお姫様……みないな?
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