「良い琥珀。良く聞きなさい。誰かのモノになりたいという想いと、誰かを愛したという想いは――決して同じでは無いのよ」
紡がれた言葉はそのような意味の言葉であった。
輝夜はその言葉を私の目を見つめながらに真剣に伝えるけれど。
私はその言葉を……本当の意味では理解できなかった。
私は紫様を愛している。
そして紫様のモノになりたいと思って居る。
もちろんそれら二つの意味は違うだろうけれども。
それでもその根底にある想いはきっと同じであるはずだろうから。
紫様に恋い焦がれるこの想いこそがそうであるだろうからこそ。
その二つの本質的な意味は同じだろうと思ってきたのだけれど。
だからこそ私は紫様を愛しているからこそ――紫様のモノになりたいと思ってきたのだから。
「……どうやら。分からないって顔ね」
「私は紫様を愛している……。だから紫様のモノになりたいと思っている……この想いは間違っているの?」
そんな……私からすれば何も間違っていないという想いからの言葉を――。
「ええ。間違っているわ」
輝夜は正面から否定したのだった。
そんな輝夜の言葉を聞いて――。
思わず――私の頬に当てている輝夜の手を払いのけそうになった。
だって――。その言葉は。
私の根底すらも揺るがす言葉であるからこそ。
私の――琥珀としての自分の全てを否定する言葉であるから。
私の全ては紫様の為に。その想いだけで此処まで来たのだから。
その想いがあったから此処まで来れたのだから。
それを否定する輝夜の言葉を。
どうして私は受け入れることができるだろうか。
「私の何が間違っているの……? 私の想いが間違っているというの?」
だから私は……何も揺るぐことも無く。
輝夜の言葉をこそ否定しなければならない。
私の想いを間違っているという輝夜の言葉こそが間違っているのだと。
そうはっきりと輝夜に伝えなければならないと言うのに。
気が付けば普段の自分とは思えないほどに――。
震えながらに声を叫ぶように言葉を発してしまう。
「私は――私の全ては! 紫様の為にありたいと思って。私は私の全てをもって紫様を愛していて。だから――その想いが! そのあり方が! どうして……間違っていると……そう言うの?」
一つ一つの言葉を言うのにも慟哭のように叫ばなければ自分の言葉も伝えられないなんて。
余りに情けない姿だと――心のどこかでは思いながらも。
それでもそんな風にしなければ自分の言葉を伝えることができないほどに……動揺している自分がいて。
だって。だって……!
この想いは――! このあり方は――! 私の全てなのだから。
この想いを除いてしまえば私は私で居られなくなるから。
だからこそ懸命に輝夜に言葉を伝えようとするのだけれど。
私がもう一度口を開こうとする――その前に。
私は輝夜に抱かれるように――彼女の温もりに包まれたのだった。
「落ち着きなさい琥珀。私は決して貴方のあり方を。貴方そのものを否定するつもりなんて全くないのだから。だから……ね? ゆっくりと……落ち着きなさい」
そう彼女に抱きしめられながらに。ゆっくりと背中を撫でられて。
そんな彼女の温もりに包まれていると――。
気が付けば――先ほどまであった自身の足元が揺らぐような焦燥感も拭われていき。
胸を焦がすような感情が消え去っていくのが分かった。
そうすると、むしろ――。何故私はあれほどまでに焦ったのだろうという気持ちすら湧いてくるほどに。
そもそも。
紫様のモノになりといという想いが……何処か間違っているような気がすると思ったのは私の方だと言うのに。
そう輝夜に伝えたのは私だというのに。
改めて彼女から間違っているという言われただけで――どうして私はこれほどまでに動揺したのだろうと思うけれど……。
やっぱり私は……私のあり方は想いから来ているから
人形と人間の違いは想いの有無であるからこそ。
私は――私の想いを誰よりも大切にしなければならないのだとそう確信した。
そして……だからこそ。
私は自身の想いと本当の意味で向き合うことを怖がったのだ。
何処かでその想いに違和感を感じてはいても。
だからこそそれを知ろうとはしてきたけれど。
本当にその想いと向き合ってはいなかった。
遠い場所から――ただそれを知ろうとする真似だけをしてきたにすぎなかった。
だから輝夜に正面からその想いを否定されて。
ただその一言で――。私はあんなにも動揺してしまったのだ。
輝夜の言葉にはそれだけの力があったから。
ただ表面的な言葉ではなく私の胸を貫くだけの真意が込められていたから。
そして、そこには確かに私を気遣う想いが感じられたから。
私は彼女の言葉にあれだけ動揺して――。そして彼女の言葉を本当の意味で否定することもできなかったのだと。
彼女の体に包まれて――気が付けば冷静になることが出来た今なら、そう思うことができたのだった。
「落ち着いたかしら?」
「……ん。ごめんね?」
「良いのよ。別に気にしなくて」
何故だろう……。
輝夜の言葉は一つ一つが胸に響く。
彼女から懸けられた言葉からは確かに温もりが感じられて。
先ほどまで感じていた焦燥感も無くなるほどに暖かく彼女に包まれる。
「良い琥珀? 私は貴方のあり方を否定しているわけではないのよ。ただ貴方の矛盾を指摘しているだけよ」
「……矛盾?」
「……貴方も何となく感じているのでしょう。貴方が抱く想いは決して同義ではないのだと」
輝夜は私に自分で確認するように語りかけて来るけれど。
貴方なら分かるでしょうと問いかけてくるけれど。
それでも……。
やっぱり私は――。
「……………………………分からない。分からないよ……輝夜。私の想いは……私の抱く想いは……何が間違っている……の?」
分からない……。
私は紫様を愛している……。私は紫様のモノになりたいという想い。
この二つは一体何が違うのだろう……。
先ほどのような動揺でも無く。自身の深い想いを考えようようとしても。
それでもなお――やっぱり私には分からなくて。
思わず輝夜の方を見つめると……。
「……ふぅ。仕方無いわね……。本当は自分で気付くべきなのでしょうけど……。そんな今にも泣きそうな目で見つめられたら教えないわけにはいかないわね」
なんて、そんなことを苦笑まじりに言われて。
その時になって――私はいつの間にか自分が泣きそうになっているのを自覚して。
思わず……自分の弱さが恥ずかしくなって輝夜から目を逸らしそうになるけれど。
けれど、それでもこの自分の弱さもまた私自身なのだから。
本当に私の想いについて知りたいのならばそこからも逃げるわけにはいかないのだと。
そう思い、私は輝夜の瞳を真っ直ぐに見つめて――。
「良い琥珀? 誰かのモノになりたいという想いは――誰かに愛されたいという想いと同義なのよ。そして、誰かを愛したいという想いと、誰かに愛されたいという想いは――決して同じではないの。だから……琥珀?」
――貴方は八雲紫を愛したの? それとも八雲紫から愛されたいの?
輝夜から紡がれた言葉が。
私の頭の中で反芻される――。
私は紫様を愛したい? 私は紫様から愛されたい?
その違いを私は――。
私は迷うことなく頷く……ことをして良いのだろうか。
だってそれは――。私は本当に愛という意味を理解しているのかという問いで。
もし……私が紫様に愛されたいのかという言葉に頷けば、私は紫様のモノになりたいという事になるのだから。
けれど私はその言葉に素直に頷くことができなくて。
だって……自分でも分からない奥底で。
けれどずっと考えてきた想いは――。
私がずっと抱いてきた違和感は――。
輝夜の言葉を聞いて私が思ったことは――。
私は本当に紫様のモノになりたいのだろうかということに対する疑問であったのだから。
けれど紫様を愛したいということは紫様のモノになりたいという想いから来ているものだと思っていたから。
だけど輝夜の言葉を信じるならば――。
私が紫様を愛しているという言葉に頷けば、私は紫様を私のモノにしたいという想いにも繋がるということになるのだろうか――?
もしもそうであるのなら。
そんな事が許されるはずもないのだから。
私が紫様を愛しているというその想いするらも、間違っていることになるのだから。
そうなってしまえば……。
私が抱く想いは何もかもが間違いになって。
私という全てが――その根底から何もかもが間違っている存在に成り果ててしまうから。
私は……八雲琥珀という存在は――。
「やっぱり……私は何もかもが間違っている……の?」
気が付けば私は――。そんな言葉を。
涙を流しながらに訴えていた。
もはやそこから逃げ出すこともできないけれど。
決して前に進むこともできずに。
思考の坩堝の底で……ただ涙を流しながらに訴える事しかできずに。
「……もう。言ったでしょう? 私は貴方のあり方を否定しているのではないのよ?」
「……でも。……でも! 紫様を愛しているという私の想いまで間違っていたのなら! 私は!」
涙を流しながら叫ぶ私を――けれどその言葉の途中で輝夜によって遮られる。
「待ちなさい。どうして貴方は八雲紫を愛したいという想いまで間違っていると思ったの?」
「……だって。紫様を愛したという事は……紫様を私のモノにしたいということになるの……でしょ?」
「あら……。そこまで分かったのなら貴方は何を躊躇っているのかしら?」
「……私は。だって私が、私なんかが……。嘗て泥沼の底に居たような傀儡が。穢される為だけの人形だった私が――! 紫様を自分のモノにしたいなどと……どうして言えるというの!」
それはまさに心の底からの慟哭。
穢れた私が紫様を欲するなどなぜできる。
そんなことを誰が許す。
この汚濁した手で、なぜ光輝く月に触れられる。
そんなことをしてしまえば――あの月すらも穢してしまうのだから。
だから私は慟哭するように輝夜の言葉を否定しようとしたけれど……。
けれど輝夜は――そんな私に優しく微笑みながら――。
「言って良いのよ」
「……え?」
「言えば良いのよ。貴方は八雲紫を愛しているのだと。自分のモノにしたいのだと。声高にして宣言すれば良いの」
「……だって! 私は――!!」
「…………貴方の本当の間違いはきっとソコにこそあるのよ」
そう言うと――。
輝夜はゆっくりと私の涙で濡れる瞳を拭いながらに。
もう一つの手で私の顎に手を当てて輝夜の顔をそばまで近づけられる。
「……輝夜?」
思わず問い返す私に、輝夜は一度だけ息を吸い間をあけた後に――。
紡がれた言葉は――。
「……私が。この輝夜が。あらゆる人間から愛された私が保証してあげるわ。貴方は――この私が見惚れる程に美しい存在なのだと。穢れなど塵一つ存在しない幻想的なまでの人間なのだと。それはまさに神すらも魅了するほどのあり方であるからこそ。貴方は胸を張って言えば良い。貴方が抱く想いを――。貴方が想う本当の気持ちを――。この世界に向けて……。そして……八雲紫に向けて。それを咎める存在は何処にも居はしないわ。それこそ――それを言われた本人すらもね。だから琥珀――」
――貴方はこれからどうしたいのかしら?
最後にそんな。昔何処で……私自身から問われたような言葉を残して。
輝夜の言葉は終わった。
そこに込められた想いは。
彼女がくれた言葉は――。
まさに私が自分に対する弱さから最後の一歩を怖がっていてた私に。
まさに背中を押してくれる言葉であったからこそ――。
私は――。
――貴方はどうしたい?
それはまさに自身の内から零れ出る問いで。
私は――。
その問いに答える時に想いかべるはあの日の情景。
何時でも何処にあろうとも忘れることの無い私の始まりの日。
紫様に出会った日の光景を。紫様が造りだす世界の風景を。紫様自身を。
私の全てが始まった――あの日を思い浮かべれば――。
きっと――。
答えなんて。
初めから決まっていて。
――貴方はどうしたい?
そんな問いに。
自身の内から湧き出てくるその問いに。
私は心の底から湧き出てくるこの想いを言葉にするのならば――。
「私は――紫様を
そう口にしたのだった。
その意味を。そこに込める本当の想いを理解しながら。
なおそれでも私はそれを口にする。
ああ……。
あああああ……。
あああああああああ……!!
その想いを。その内か湧き出る想いを。
この身に滾る想いが――ただそこにあっただけの想いが――此処に明確な意味を持つ。
もはやそれを止めることもできぬに、するつもりもないこの想いの奔流がこの身を巡る。
私はあの方を心から愛しているのだと――!
その意味を私は今度こそ心の底から思い知る。
私の全ては紫様の為にある。
それだけは決して覆ることのない私の誓いである。
あの日であった時からある不変の想いであるけれど。
けれども、そこにある想いとは紫様に愛されたいという想いではなく――。
私の心はそれ以上のものを求めているのだ。
私は紫様のことをどうしようもに愛している。
愛しているんだと分かってしまった。
私は紫様のモノになりたいのではない――。紫様を私のモノにしたいのだと――!
なんたる傲慢。なんたる強欲!
紫様のモノになりたいという想いだけでも人からすればまさに身に余る願いであるにも関わらず。
私はそれだけも満足できないのだと!
此処に本当に理解する。
あの日紫様に抱いた本当の想いとは!
私の目の前に表れた紫様が、手を伸ばし続けた夜空に浮かぶ満月のようにに美し感じられて。
それは止まって居た心臓が鼓動を始めるほどまでに美して。
彼女の造る世界が綺麗で。どうしようもないほどに綺麗で。
憧れて。その世界に焦がれて。
そんな世界を作り上げる彼女に魅了されて……。
そして私は、そんな紫様を私の手でさらに輝かせたかったのだ――。
紫様と共に輝きたいのではない。紫様のそばで共にありたいのでもない。
私の願いとは――世闇を輝かせる『月』をも輝かせる『太陽』にこそなることなのだと!
今ここに十全に理解する。その想いを。あの日抱いた感情を。
私こそが紫様をさらなる幻想によって美しく輝かせたいのだと。
あぁ……。何たる強欲だろうか。何たる傲慢だろうか。
月に手を伸ばすことすらままならぬ地に這う人形が。そこに願い想いは月をも超えてあの太陽に自身が昇りつめることなのだから。
余りに傲慢で尊大なそんな願いも――。
けれどもはや私は止まらない。止められないのだ。
この身に宿る激情はもはや動き始めたのだから。例えこの身が朽ち果てようとも。
それでもなお私は止まることなく突き進んでみせるのだから。
だって私は――想いを抱かぬ人形ではないのだから。私は――穢れて地を這うことしかできぬ傀儡ではないのだから。
――貴方はどうしたい?
そんな言葉に。自身の内から零れ出る問いに。私の中から問われる声に――。私の根源から問われる問いに。
私は紫様を愛したい。紫様を輝かせたい。紫様を幻想的なまでに飾りたい。
そう――もはや迷うことも告げるその言葉に。
声は――。私の声は。自身から告げられる声は。
初めて楽しそうに。無機質だった世界が色とりどりで染まっていくかのように。
楽しそうに。楽しそうに。楽しそうに笑いながら伝えてる言葉は――。
――あはは。そっか。うん……なら良いよ。その想いを私が手伝ってあげる。
そうして告げらた言葉を聞いて。楽しそうに笑いながら伝えらた声を聞いて。
私の内にあった漠然としていた想いは――紫様を愛している。ただその想いだけに集結することによって。
此処に噛み合っていなかった歯車が完全に噛み合って。
止まらぬ想いが世界に向けて激流となって流れ出る。
「輝夜――ごめんね?」
「……何に対して謝っているのかしら?」
「私ね……。やっと自分が何者であるのかを理解したよ。自身がどうありたいのか分かったよ。だから名乗るのが遅れてしまったこと――ごめんね?」
「……ふふ。良いわ。なら貴方はどう名乗ってくれるのかしら?」
「私は――八雲琥珀。此処に『幻想を彩る程度の能力』の元に幻想を造りあげる存在。紫様を愛し。紫様に相応しい世界を造り。私こそが紫様を輝かせることをの望む存在。それが私。八雲琥珀だよ。よろしく――ね?」
「……ふふ。あははは。あははははは。良いわ。本当に良いわ琥珀。そうでなくてわ。貴方はそうでなくなてはならないわ。ふふ。そう――。それが貴方の能力。実に貴方らしいわ。あは。ねぇ――琥珀? 私は輝夜。蓬莱山輝夜。『永遠と須臾を操る程度の能力』の担う永遠を生きる人間よ。貴方は私の幻想をも彩ってくれるのかしら?」
「輝夜が望むのであれば存分に。幻想郷が輝けば――それは紫様が望む世界が輝くことにもなるのだから。荘厳に。壮大に。端麗に。艶美に。私が。この私が彩ってあげる」
「あははははははは。良いわ! ならばやってみなさい琥珀!!」
神宝『サラマンダーシールド』
放たれた弾幕はまさに紅く燃える弾幕。辺り一面が彼女の弾幕で燃え上がる。
それまでとは比較にならないほどの密度の弾幕がこの身を襲う。
当然の如く逃げ場など無く――。
このまま行けば私が弾幕で撃ち落とされる世界しかないけれど――。
されどこの身はそれを許さず。
そもそもこの身は――ただ幻想世界の為にあるのだから。幻想を造る。幻想を彩る。
気に入らない世界があると言うのなら――私が望む世界へと造り変えてしまえば良い。
私が望む幻想に。私が願う世界へと。
世界は美しく。何処までも何処までも美しく。
紫様が居る世界は何処までも美しくなくてはならないのだから。
私が美しく造りあげるのだから。
だから――。
そう――。
世界に――――。
『幻想美麗』
――華を咲かせましょう。
そうして世界が――幻想の華で包まれる。
輝夜が放った弾幕はただの一つに至るまで私の望むがままにその姿を変える。
それはまさに花びらのように。
ひらひらと舞いながら世界を覆う。けれどその花びらはただの一つに至るまで同じ色、同じ形をしておらず。
まさに無限の花びらに世界が彩られる。
さぁ――。世界よ輝け。どこまでも綺麗に輝け。
もっと。
もっともっともっともっと。
もっともっともっともっともっともっともっと。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
何処までも綺麗に輝け。紫様を輝かせるにはこんなモノでは済まされないのだから。
紫様を彩るのならばこの程度ではまだ足りぬ。
ならばさらに美しく。華々しく。
世界に華を満たせ。紫様を飾るならば幾万の華があっても足りぬのだから。
さぁ――踊れ満ちれ。荘厳に。壮大に。端麗に。艶美に。
何処までも世界を美しく飾れ――!
そしてまさに数え切れぬほどの――いえ、まさにそこにあるのは文字通り無限の華々が。
無限という概念に包まれた多種多彩の幻想の華が世界を覆い。
そして、その中心に居る輝夜へと降り注ぐ。
けれど輝夜もまたそのまま華に覆われることもなく――。
「……このままやられはしないわよ」
神宝『ライフスプリングインフィニティ』
まさに世界が華で覆われるその寸前に。無限の光線がそれを薙ぎ払う。
赤と青に染まる二色の光が、彼女を中心に世界へと広がり。
私によって造りあげらた一つの幻想世界が、輝夜を中心に切り開かれ。
最後はその一つに至るまで悉く幻想は幻想へと還されてしまった。
そうして未だキラキラと光る幻想の残滓の中心で。
輝夜は――笑う。楽しそうに。可笑しそうに。今まさ私の幻想に覆われていたその中心で。
ただただ楽しそうに笑い続ける。
「あはは。あはははははは。何よそれは! 幻想を彩るですって? それはそんな生半なものではないじゃない! むしろそれは幻想の支配! 貴方を中心とした一つの世界の創造。あるいは幻想の開闢とでも言えばいいのかしら。人のまま幻想の領域に立ち行くだけでなく完全なまでに支配するだなんて。本当に出鱈目で! 理不尽で! それで本当に――どうしようもないほどに綺麗じゃない。私が――この私が見惚れるほどに。貴方の造る本当に世界は綺麗だったわよ」
頬を赤らめて高揚しながらに話す輝夜は、本当に心から楽しそうに笑いながらに言葉を紡ぎ。
キラキラと残る幻想の残滓の中で笑い続ける輝夜の姿は――実に美しく。
まさにこの幻想の世界に相応しい姿であると思うからこそ。
「……ん。輝夜も……綺麗だよ?」
「…………ふふ。あはは。あははははは! そう。そうよ! 私は美しいの。私は誰よりも綺麗なのよ! だから……そう。さぁ――琥珀! これが最後のスペルよ。これから放つのは私の全力のスペル。私が造りあげた至高の弾幕よ。だから貴方も全力で来なさい。この輝夜を。なよ竹の輝夜を彩るのは――」
――八雲紫を彩るよりもなお難しいと知りなさい。
神宝『蓬莱の玉の枝-夢色の郷-』
そんな彼女の宣言の元に放たれたのは――まさに彼女の言葉のままに至高の弾幕。
七色に光る数千の弾幕がこの身に迫る。
それはまさに神宝。虹色に染まる一つの輝夜姫の宝の具現化。
見る者を一人の例外も無いほどに魅了するほどに。
多くの人間が命を賭してでも追い求めるまでに華麗な弾幕。
なればこそ。そんな幻想を放つ彼女の弾幕を迎えるべきものは。
こちらもまた至高の幻想でなけれならない。
これほどまでの世界を彼女が造ったのだ。
それはある意味において既にで完成された幻想であるからこそ。
まさに半端な幻想で彩るどころか無残にまで壊してしまうから。
幻想『花天月地な幻想世界』
此処に造るは幻想の世界。見る者を魅了し魅惑する世界。
私が造り私が輝かせる私の世界。
この世界においては月も花も――その全てが私の手によって輝く世界。
私がその全てを輝かせる幻想世界。
花が咲き誇り月が明るく光り輝く。
そんな幻想が世界を覆い――輝夜の弾幕もまた幻想で覆う。
花々が彼女の弾幕と共に世界を舞い踊り。天に侍る月が光り導く。
より美しく。より輝かしく。
どこまでも幻想的に。世界を美麗に造りあげていく。
そしてこの瞬間において――この世界は私の手によって完全に彩られ。
そんな世界を一人輝夜の元まで歩む寄る。
道を花々が造りあげ、月の光が私を導くように。
ゆっくりと悠然に――私は幻想の世界を歩んでいき。
そして輝夜の目の前にまで歩んだならば――。
彼女の前に手を差し伸べて。
それはあるいは誘うかのように。
この幻想世界へと導くように私は彼女に手を伸べて――。
「あは――。綺麗でしょ?」
「…………えぇ。本当に。本当に綺麗だわ」
そうして――輝夜もまた私の手を取って。
この世界を。この幻想に染まる世界を。
より美しく彩るように。輝夜を誘うように私が手を引いて二人でゆっくりと歩いていったのだった。。
次話で第二章ラストです。