東方紫幻郷   作:ジャオーン

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二十三.幻想の終わりは宴会と共に

あれからどれだけの時が流れたのか。

気が付けば――月が沈み朝日が昇ろうとする頃になれば。

朝の光と共に私が造りだした幻想もまた月の光のように消え去っていく。

そんな儚さもまたそれが幻想であればこそ。

いずれ終わりがあるからこその一瞬の美しさ。

それこそが幻想的な美しさであると思うからこそ――。

 

 

「……どうだった輝夜?」

 

「…………最高の気分よ」

 

 

隣に居る輝夜に語りかけると。

朝日に映える笑みを浮かべながらに答えてくれた。

 

 

「……ん。私が私の想いに向き合えたのは輝夜のおかげだから。だから――良かった。……ありがとう輝夜」

 

 

「……いいえ。お礼を言うのはむしろ私の方よ。あれほどの光景を目の当たりできたのだもの。まさに――花天月地の世界。貴方が織りなす幻想の風景。それを味わえたのだから頂いた対価としては過剰すぎる。だからこそお礼を言うべきは私の方ね。ありがとう。琥珀」

 

 

そう……互いに笑みを浮かべながらにお礼を言い合って。

そして二人で幻想の世界から現実世界へ帰るようにと歩き出す。

終わりがあるから始まりがあるように。

夜に纏わる幻想が朝日へ消え去るように。再び月が昇るその時まで。

そうして互いに歩いて行くと――そこに待っていたのわ。

 

 

「あら……。貴方達まだそこに居たのね」

 

「居たのね……とは心外ね。貴方達がやりぎないよいに見守っていたというのに……。まぁ……最後はただ見惚れていただけだったのだけどね」

 

「えぇ……。まぁ……。というより師匠。その子は……本当に人間なのですか?」

 

「いやー。良いモノ見せて貰ったよ。流石は神楽の一族の生き残りだねー」

 

「……はぁ。もう何を見ても驚かないと思っていたのだけれどね……。琥珀はどれだけビックリ箱みたいな存在なのよ」

 

 

なんて……そんな。それぞれに話しかけてくる四人が永遠亭の前で私達を待っていた。

永琳に文……それともう一人は先ほど永遠亭の中で見たレイセンと呼ばれていた存在。

彼女もまた不思議な幻想を纏っている。

ウサギの耳を持つのならば妖獣と思ったのだけれど、けれど普通の妖獣とは纏う幻想が全く違う。

そもそも彼女からは妖気といったものが一切感じられず、ウサギというよりもっと別の何かの存在にも思えて。

むしろ永琳や輝夜のような存在に近いのだけれど。

しかし彼女らともまた――違う感覚もするからこそやはり不思議な存在。

 

そしてもう一人はいつの間にかそこに居たこちらも同じウサギの耳をもつ存在。

名も知らぬ存在だけど、けれど彼女の方が何故かすごく身近に感じられる。

彼女もまた妖獣とは違うようだけど、むしろ妖獣よりもっと尊い存在に思える。

 

 

「ほらほら。そんな一遍に話しかけてこないの。それと鈴仙とてゐはまず琥珀に自己紹介なさい」

 

「え……あ。そうでしたね。名乗るのが遅れてごめんなさい。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙でいいわ」

 

「私は因幡てゐ。てゐちゃんって呼んでいいよー」

 

「……ん。私は八雲琥珀。琥珀で良い……。よろしく……ね」

 

 

鈴仙とてゐ。名乗った二人ともが因幡の名を持っていることに少しだけ驚いた。

 

 

「……二人とも因幡?」

 

「……え? あー。私は因幡じゃなくイナバね。元々私は月の兎でレイセンって呼ばれていたけど、此処に来てから師匠からイナバの名を貰ったのよ」

 

「てゐちゃんは生まれた時から因幡だよ」

 

 

月の兎。そうか鈴仙はこの地の兎では無く月の兎だったのか。

なればこその今までに感じたことのない幻想を纏っていたのだと。

そもそも月の生まれならば妖気など持って居なくて当たり前だと思うからこそ。

彼女は月の兎なのだと納得した。

 

そしてもう一人。因幡の名を持つ兎。因幡てゐ。

因幡は因幡の白兎……だろうか。

正確には稻羽之素菟。

大国主命による国づくりに出てくる一匹の兎。

もしも彼女が本当に因幡の白兎であるならば、それはもう妖獣ではなくもはやそれは神獣のはずである。

白兔神は今もなお纏われる列記とした神なのだから。

 

そう思いながらにてゐのことを見つめていると、てゐの方も私の方を面白そうに見つめてきていた。

 

 

「……。いやー。本当に神楽の生き残りが居たとはねー……。しかもその子が八雲を名乗っているなんて」

 

――てゐちゃんびっくりだわ。

 

 

そんな風に笑いながらに話しかけられて。

 

 

「……てゐは神楽を知っているの?」

 

「知っているよ。むかーし。本当に昔々に大国様を二人でからかったりもしたことがあるくらいだもの。あの子と琥珀は全然似てないようで。でもやっぱり凄く似ているね」

 

 

そんな事を何処か懐かしむように彼女は呟く。

というか大国様はやはり大国主命のことだろうか。そんな存在をからかうなど私の先祖も何を考えているのだろうと思うけれど――。

懐かしそうに……しかし楽しそうに笑いながら話すてゐを見ていると。

あぁ――きっとそれは凄く楽しそうなことだったのだろうと思うからこそ――。

 

 

「……ん。私は琥珀。神楽では無く八雲琥珀。それでも良ければ……また一緒に遊んでくれる?」

 

 

そう彼女に告げると……。

てゐは少しだけ驚いたような顔をしながらに。けれど次の瞬間には楽しそうな笑い声をあげる。

 

 

「あはは。良いよ――琥珀。琥珀はあの子じゃないけれど。琥珀と遊ぶのも凄く楽しそうだからね。兎の遊びはちょっとばかり派手だけど。それでも良ければ一緒に遊ぼうか」

 

 

なんてぴょんと一つ跳ねて私の背中に昇りながらに語りかけてくる。

そんな彼女のなすがままになりながらも。

彼女と遊ぶのはやっぱり楽しのだろうな……なんて思いを巡らせていると。

 

 

「こらこら。琥珀を悪い遊びに誘ったりしないでよ」

 

「いやいや姫様。最初に悪い遊びに誘ったのは姫様の方でしょ?」

 

「私のあれは良いのよ。琥珀の恋愛相談にのってあげただけだもの」

 

「……えー。恋愛相談って何時からあんなに暴力的になったのさ」

 

「五月蠅いわね。それよりも……ほら! 三人とも何時までもボーっとしているのよ」

 

「……あ! すみません。今からすぐ朝食の準備をしてきますね」

 

 

そう言って永遠亭の中に走りだそうとする鈴仙であったけれど。

それを輝夜が呼び止める。

 

 

「違うでしょ鈴仙。異変解決の後には必ず宴会をやるって霊夢も言っていたでしょ」

 

「異変解決って……。さっき姫様恋愛相談って言ってたよね?」

 

「もう。そんなことは何だって良いのよ。それよりも貴方達は今から風流の欠片も無い食事をしたいのかしら? 月と花。お酒の肴になる風景をあれだけ見れたと言うのに宴会をしないだなんて……。ありえない……でしょ?」

 

「……はぁ。それで輝夜。今から此処で貴方は宴会をするつもりかしら?」

 

「いいえ。永琳。宴会をするなら場所は一つでしょ? 琥珀もそこに住んでいるみたいだしちょうど良いじゃない。それに――私達だけで琥珀を独り占めなんてもったいないでしょう? というわけで鴉天狗。今から一飛びして博麗神社と後は琥珀と宴会をすると言えば来そうな所に行ってきなさい」

 

「……ちょっと待ちなさいよ。どうして私がそんなことをしなくちゃ――」

 

「働かざる者飲むべからず――よ。ねぇ……琥珀?」

 

 

とりあえずいきなりの話についていけずにぼーっと四人の会話をただ聞いていただけの私に輝夜が当然話かけてきた。

 

 

「……ん?」

 

「貴方……今までにお酒って飲んだことある?」

 

 

そう問われて――。あぁ……そういえばお酒って飲んだことないなと思い出す。

そもそもあの屋敷では酒など飲めるはずもなければ。

幻想郷を探し回る間はそんなものに目を向けるつもりもなかったし、幻想郷に来てからもまだ飲む機会が無かった。

そもそも……私は自分の実年齢がいくつなのか詳しいことは分からないのだけれど。

それでも二十を超えていないのは確かである。おそらく紫様に出会ったのが十歳かそれぐらいだと思うから今は十五、六歳ぐらいだと思う。

だからこそ、外の世界ではそもそも未だにお酒を飲める年齢では無いけれど……まぁそれは外の世界の話であるからこそ。

幻想郷では多分余り関係……無いのかな?

 

なんて思いながらに輝夜の問いに答える。

 

 

「……ん。無いよ」

 

「……ふふふ。そう。ねぇ鴉天狗? 琥珀は初めてお酒を飲むそうよ? まさに初体験って奴ね。だから……きっと凄く陶酔するかもしれないわね? 白い頬を朱く染め上げて。目を潤わせながらに撓垂れ掛るかもしれないわ。貴方は……そんな琥珀の姿が見たくないのかしら?」

 

「……………………悪女め」

 

「うふふ……。それで……どうするのかしら?」

 

「……はぁ。分かった。分かったわ。それで私は博麗神社に行けば良いのかしら?」

 

「折角の宴よ。他に琥珀の知り合いも呼んできなさい。だから……琥珀? 博麗霊夢と八雲家以外で他にこの幻想郷で知り合いはいるかしら?」

 

 

知り合い……? そう問われて……最初に思いつくのは……。

 

 

「……レミリア?」

 

「……そう。あの吸血鬼ももう琥珀にちょっかいをかけていたのね……。というわで鴉天狗。博麗神社にいくついでに紅魔館にも行って吸血鬼一行を連れて来なさい」

 

「……はぁ。紅魔館に行くのは良いけど、彼女達が来るかどうかは保証しないわよ」

 

「あら。そんなの琥珀が初めてお酒を飲むと行けば絶対来るに決まっているわ」

 

「……どうしてそう言えるのかしら?」

 

「だって……。私なら絶対に行くに決まっているもの。それは貴方も同じでしょ?」

 

「……あぁもう。分かったわよ。紅魔館にも寄ってから宴の準備をしてるわよ」

 

「ふふ。よろしくね」

 

 

二人のやりとりをただ見て居ると……。

最後は輝夜が笑いながらに文を押し切って、文は溜息を吐きながらにその翼を広げながらに一気に舞い飛んでいった。

何度見てもやはり文が空を飛ぶ姿を美しいと思うからこそ。

私は文が飛んで行った方を眺めつづけていると。

 

 

「あら。琥珀は私が隣に居ると言うのに鴉にばかり目を向け続けるのかしら?」

 

 

文の飛んで行った方を眺めていた私に、いつの間にかすぐそばまでやってきた輝夜がからかうように話しかけてきた。

そうして振り向いた先にいるのは朝日を受けながらも楽しそうに笑いながらこちらを見つめてくる輝夜。

 

 

「……ん。輝夜も綺麗……だよ」

 

「……ふふ。知っているわ」

 

 

私がそう輝夜を褒めると……。彼女はそれを当然のように受け止め笑う。決して下品にならず、けれど確かに楽しそう笑うのだった。

その姿こそが彼女が姫のあるべき姿であると思うからこそ――その姿は実に輝夜に似合っている。

そう思いならに彼女を見つめていると――。

 

 

「さぁ……。それじゃあ私達も準備をしましょうか」

 

 

そう言いながらにくるりと向きを変えて永遠亭の方へと歩いていく。

そしてそれについて行くように私も歩いていると――永琳がそばによってきて。

 

 

 

「一晩中起きていたのにそのまま宴会を開いて大丈夫?」

 

「あら……。貴方は一晩の徹夜程度で宴も出来までに疲れる程にとってしまったのかしら? だった永琳はそのまま永遠亭で休んでいてもいいのよ?」

 

「はぁ……。私は貴方では無く琥珀の心配をしているのよ」

 

「……ん。大丈夫……だよ」

 

 

そう私は答える。そこに嘘はない。

別に疲れがないわけではない。文字通りに一晩中弾幕ごっこを輝夜とし続けてきたことになるのだから。

けれど――。そこにある疲れはただ一晩起きていたことに対する疲労がほとんで――能力の行使に対する疲労はほとんど存在しない。

もしも、私が弾幕の全てを霊力をもって造りあげていたのなら今とは比べものにならなにほどの疲労に襲われていたかもしれないけれど。

しかし私が行ったのは霊力による弾幕ではなく幻想の構築――まさに想いの発露にこそほかならないからこそ。

私が私の想いを世界に広めるというその行為は私にとってまさに息をするのと同義である。

それこそが能力であり、そうあることこそが自然であるからこそ。

そこに体に対する負担は僅かたりとも存在しえない。

 

 

「……そう。けれど貴方は初めてお酒の飲むのでしょう? なら少しでも無理だと思ったらすぐに言いなさい」

 

「……ん。分かった」

 

 

確かにお酒を飲むのは初めてのことだからこそ。私は永琳の言葉に素直に頷くのだけれど。

そこに輝夜がからかうように話に入ってくる。

 

 

「……永琳は過保護ねー。まるで琥珀のお婆ちゃんみたいじゃない」

 

「…………輝夜? 何か言ったかしら?」

 

「……いいえ。何でも無いわ……」

 

 

そんな輝夜の言葉に永琳は一瞬だけ輝夜を睨み付けるように呟くと。

さすがに輝夜もそれ以上は何も言わずに私たちはそのまま永遠亭の中に入って行った。

 

それからは急いで博麗神社に行く準備を済ませていく。

私はほとんど着の身着の儘にここにきたので。

他の人たちが準備を終えるのただ待っているだけだったのだけれど。

そうして彼女達の準備が終わると――。私達は博麗神社へと向かって飛び立ったのだった。

 

 

 

 

私たちが博麗神社についたときには既に日傘を持って居る咲夜とレミリア、それに文が待っていた。

レミリアは実に楽しそうに笑いながらに、咲夜はそんなレミリアに付き添うように。

それと対照的に文は疲れたような顔をしている。

 

 

「早かったわね。私達の方が遅れてしまったかしら?」

 

「なに気にすることはない。私としては宴に誘って貰えてだけで感謝するさ」

 

「あら。吸血鬼にしては随分と殊勝じゃない?」

 

「はは。私と琥珀は友人だからな。そんな友人の酒席にわざわざ呼んで貰えたのだ。多少は殊勝にもなるさ」

 

「……へー。友人……ね」

 

「あぁ友人だとも。何か可笑しいか?」

 

「いいえ。だって相手は琥珀だもの。その程度では驚きはしないわ」

 

「……そうだ琥珀だからな。くく。鴉天狗に聞いたが琥珀はそっちでも随分と楽しそうな事をしたそうだな?」

 

「えぇ。それはもう。最高に楽しかったわ」

 

 

うふふ。と笑いながらに挨拶を行う二人。

輝夜とレミリアは実に幻想郷らしい挨拶を互いに済ませる。

 

そしてそんな二人を実に疲れたような顔をしながらに眺めつづける文。

 

 

「……文疲れた?」

 

「……えぇ……まぁ。紅魔館に行けば何故お前が此処に居るのかと尋問を受けますし、博麗神社に来て宴会をすると伝えたら霊夢に何を勝手に決めているのかと怒られるわ。まぁ……ここ数日で色々ありすぎてそっちで疲れたというのもあるけどね」

 

 

そう言いながらに疲れたように溜息を吐く文を見て。

……その原因は私にこそあるのだとちゃんと分かっているからこそ。

自身の想いを優先する私が彼女を巻き込んだからこその今である。

だからこそ――その為の対価を彼女に渡すことに否という想いはないからこそ――。

 

私は軽く右手の指を口で噛み切って。

その手から血を滴らせながらに文の口元へと運んでいく。

 

 

「なら……これ舐める? 少しは疲れとれる……かも?」

 

 

文は鴉天狗であるからこそ血を啜る妖ではないけれど。

しかし私の体は妖からみれば御馳走に見えるらしい。

それは神楽の血が織りなすものか。それとも私のうちにある幻想によるところか。

そこまでは私には分からないけれど。

私の血は妖の糧になるらしいからこそ。

私は自身の想いを成就させることの対価として自身の体を差し出すことに迷いはない。

 

それは私の本当の想いを自覚した後でも変わらない。

別に自分の体がもうただの人形だとは思わない。

ただの穢れた傀儡だとも思わないけれども。

それでも私にとって何よりも大切なことは自分の想いにこそある。

 

私は紫様を愛してる――。

 

私にとって大切なことは結局のところこれだけである。

だからこそ必要であればこの体もいくらでも対価として差し出そう。

それは自分の体に価値などないという投げやりな思いからでも。自分の体ぐら差し出さねば紫様のそばに居ることなど叶わないという悲壮な想いからでもなく。

私は紫様を愛してる。もうその想いに僅かな迷いもありはしないからこそ。

例えこの身がどうなろうとも――それでもなお私を紫様を愛し続けられると確信しているからこそ。

その想いの為に自身の体を差し出すことに否はないという想いから。

 

文は――私にとってこれからも必要な存在である。

この幻想郷は広い。限りのある世界であるとはいえ――私からすればなおこの世界は広大である。

そしてこの世界は――幻想郷は紫様の世界。紫様が愛する美しき幻想の世界。

ならば私もまたこの世界を愛そう。余すところなくその仔細全てを愛し尽くそう。

そしてその悉くを私が彩る。世界を飾る。より華麗に佳麗に明媚に絶佳な風景を花天月地な幻想世界を私が造る。

紫様がより輝けるように。紫様をより美しく彩れるように。私が――八雲琥珀が造る。

 

だからこそこの世界を自由を飛翔する翼が欲しいと思った。

何処までも遠くに。何処までも高く飛び回れる翼が。

私の能力は世界への干渉であるからこそ。空を飛ぶという自身への干渉は相いれない事象であり。

私は何処まで行こうともこの空を飛翔するのは苦手のままである。私には翼が無いからこそ。

だからこそ、世界を飛び回れる翼のあるモノを私のモノにしてしまえば良いと思った。

そんな余りに強欲な思いから――私は文を自分のモノにしようとしたのだから。

ならばその対価にせめて自分の身くらい差し出しても構わないと思ったからこそ。

私は血を滴らせている右手を文のもとにもっていくと――。

 

 

「……え? あ……」

 

 

文は初め驚いたような顔をするけれど。私の血が目に入るとただそれに見入るように声をあげながら。

もう私の血しか見えていないように右手へと顔を近づけて。

それを口に含もうとしたところで――。

 

 

「……おい。鴉天狗。お前は誰の許しを得て琥珀の血を啜ろうとしている?」

 

「うふふ。ダメよ琥珀。そんな簡単に貴方の血を妖怪に差し出すよう真似をしてわ」

 

 

レミリアが文を取り押さえ、私は輝夜に後ろから抑えられていた。

 

 

「…………え? ……あ……その!」

 

 

文は一瞬自分がどうなっているのか分かっていないようだったけれど。

レミリアに抑えれている状況に気が付いたのか焦ったような声をあげるが。レミリアはそれに構わず自身の内から妖気を撒き散らし始めてしまった。

 

……私は初めどうしてレミリアがそこまで怒るのか分からなったけれど。そういえばそもそも初めに血を求めてきたのはレミリアの方が先だったと思い出した。

 

 

「……文には私から血を上げた……から。だからレミリアも……私の血で良かったら欲しければあげる……よ?」

 

 

これで大丈夫だろうと思いそう声をかけるのだけれど。レミリアは頭が痛いとでも言いたげに左で顔を覆いながらに溜息をつく。

というよりレミリアだけでなく咲夜もま苦い顔をしているし。何時の間に私の滴る血を拭き取るためにそばによっていた永琳まで溜息を吐かれてしまった。

私はそんな全員に思わず首を傾げてしまうと。最初に永琳が私の血を拭き取りながらに口を開いた。

 

 

「……はぁ。良い琥珀。貴方の血は妖怪からすれば麻薬のようなものよ。あらゆる穢れを取込みながらなお清く輝き続ける血は妖怪からすれば極上の糧なのだから。それこそ貴方の血を貰い続ければ貴方の血なしには居られないほどの中毒性があるのよ。だからそんな安易に貴方の血を与えてはいけないわ」

 

 

そんな風に諭されてしまった。

私は自分の血が対価になると思ったからこそただそれを差し出せば良いと思っていたけれど。

しかし逆に相手の為にならないとするならば。

私は別に対価を用意した方が良いのだろうか……。なんて私が考えていると。

今度は輝夜が私の顔を両手で挟み込んで叱るように声をかけてきた。

 

 

「というより琥珀! 貴方は自分の体をそんな簡単に色んな相手に差し出しちゃダメでしょう! 貴方は八雲紫を愛しているのでしょう? だったらもう少し自分の体を大切にしなさい」

 

「……大切なのは私の想いであるから。問題ないと思う……よ?」

 

「あるに決まっているでしょう! 愛した者が居るのなら体を許して良いのは愛した相手だけに決まっているでしょう!」

 

「………………そうなの?」

 

「そうなの! あぁ……もう。貴方に大切なのはその辺りの常識を教えることの方が大切な気がしてきたわ……」

 

 

そう叱られてしまった。体を許すのは愛したものだけ……。

でも紫様も私が望むのなら私の体をどう使おうとも私の好きにして良いとおっしゃった。

そして私が大切なのは私の想いであるからこそ。

何かを得る対価として体を差し出してもだからこそ問題ないと思っている。

そう思いながらに輝夜を見て居ると――。

 

 

「はぁ……。良いわ。今度そのへんの事も教えてあげるわよ」

 

 

そんなことを輝夜から言われたところで。いつの間にか霊夢がその場へとやってきて――。

 

 

「こら。場所の提供ぐらいはしてあげるから宴をするのならその準備くらい自分たちでやんなさいよ」

 

 

そう告げたのだった。

 

 

「あーはいはい。ほら鈴仙。貴方準備に向かってくれる?」

 

「あ……はい! 分かりました」

 

 

その言葉を聞いて鈴仙が慌ただしく宴の準備に取り掛かる。

 

 

「ふむ。では咲夜も準備に取り掛かってくれるか?」

 

「はい。かしこまりました」

 

 

レミリアの言葉に咲夜が恭しく礼をしてから、こちらもまた準備に取り掛かる。

 

そんな咲夜や鈴仙の姿を見て。

そもそもこれは私が発端になって始まった宴なのだから。

私もまた準備に手をかそうと思ったのだけれど。

 

 

「……私も何か手伝う……よ?」

 

「あら。貴方は良いのよ。主賓は真ん中で座って待ってなさい」

 

「そうだ。それよりも先ほどの行いについて私からもお前に言いたいことがあるからな。こちらに来て座れ」

 

 

そう二人から言われ。

私は咲夜とレミリアに挟まれる格好で座る。

二人に挟まれて身動きが取れない状態で、私はレミリアから私の血の扱いについて説教を受けたり。

輝夜もまたそれに乗るように私に愛してる人以外への体の扱いについて説明を受けたり。

途中でレミリアが私の血を吸おうとしたり。

それを咲夜が力ずくで止めたり。

 

そんなことをしているちに。宴の準備も整って。

全員が集まった状態でそれぞれにお酒が配られる。

私の前に注がれるのは白く透き通ったお酒。

 

 

「結局貴方も参加するのね」

 

「何よ。場所を提供してやったんだから食事くらい貰ったって良いじゃない」

 

「ふーん……。そういう割には結構乗り気じゃない。お酒もこっちが用意していたっていうのにわざわざ自分から貴方がお酒を卸すなんてね」

 

「……別に。ただのきまぐれよ」

 

「貧乏な貴方が自分から何かを提供するなんてありえないしょうに」

 

「……うるさいわね」

 

 

霊夢と輝夜のそんな会話を耳にして。

そうか――これは霊夢が博麗神社で造ったお酒なのか。

注がれたお酒を覗きこめば自分の顔が映っているほどに澄んだそれは、お酒に詳しくない自分でもそれが凄く丁寧に造られたものだと分かる。

だからこそ私は――。

 

 

「……ありがとう。霊夢」

 

「…………ふん」

 

 

霊夢には出会った時から一番迷惑を懸け続けてしまっているけれど。

それでもなお彼女はそんな私を気遣ってくれているから。

私は輝夜の隣に座る霊夢に向けてお礼を言って頭を下げたのだけれど。

霊夢には顔をそむけられてしまった……。

だけど背けながらに僅かに見える頬が僅かに赤く染まっているのが見えている。

 

 

「…………ありがと……ね。霊夢」

 

「……ああもう。分かったからもう良いわよ」

 

 

もう一度だけ彼女に頭を下げてお礼を言えば。

霊夢は今度は私の方を向いてくれたのだった。

未だに恥ずかしそうではあったけど。

 

 

「ちょっと。二人して私越しに会話しないでよね」

 

 

霊夢と会話をしているとその間に座っていた輝夜が少しけ不機嫌そうにする。

だから今度は輝夜の方を向いて――。

 

 

「……ん。輝夜にも感謝してる……よ。 ありがとね」

 

「……ふふ。分かれば良いのよ」

 

 

輝夜にもお礼を言うと彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

そして彼女はその笑みを浮かべたままに手元にある杯を手にも持つと。

皆が座っている方に顔を向けて杯を掲げた。

 

 

「さて。それぞれお酒は回ったようね。それじゃあ早速始めましょうか」

 

 

そうして乾杯と輝夜が口を開こうとしたとろこでレミリアがそれを制する。

 

 

「ふむ。月の姫よ。折角招待を受けた宴だ。何かもう一言あっても良いのではないか?」

 

「そうねぇ……。そもそもこの宴の主賓は私では無く――琥珀。この子の宴よ? だからこそ私の言葉なんてそもそもが不要でしょ。それこそ無粋というものだわ。後をどう楽しむのかそれぞれが決める事。だからさっさと始めるわよ――」

 

 

――乾杯。

 

 

輝夜の言葉に皆が続いて宴が始まったのだった。

 

私は――とりあえず手元にもつ杯を覗きこむ。

初めてのお酒である。

少しドキドキする。

飲んでも大丈夫だろうか。

まぁ私とそう年の変わらないであろう霊夢が普通に飲んでいるのだしきっと大丈夫なのだろう……か?

いえ……でもお酒の強さには個人差もあるのだから余りあてにならない気がする。

とりあえずみんなはもう飲んだのだろうか……?

 

そう思いながら顔を上げてみると。

皆が私の方を見て居た。

私の右隣からレミリア、咲夜と座り。そこから鈴仙、てゐ、永琳と続き、そして霊夢、輝夜と円を描くように座っているのだけれど。

そんなみんながそれぞれの杯を空にしてだいたいが笑みを浮かべながらに私の方を見て居るのだ。

 

 

「……なに?」

 

「くく。何を怖がっている琥珀? もしや酒を飲むのが怖いのか?」

 

「……ふふ。とりあえず一口だけでも飲んでみなさい」

 

 

レミリアと輝夜が笑いながら……いえ、嗤いながらそう挑発してくる。

 

別に怖くない。レミリアが言うように怖がっているわけではない。

お酒を初めて飲むからだから何だと言うのだろう。

レミリアの言うことは全く的外れだ。だって私は全く怖がってなどいないんだから……。

 

そう――だから……うん。

まずは一口だけ飲んでみれな良い。

決して怖がっているわけではないけれど――だけど初めてのお酒なのだから。

まずは味わって飲むべきだろう。

しかもこれは霊夢が造ったお酒なのだから。

うん。だからこそゆっくりと飲まなければならないんだ。

別に怖がっているわけではないけれど……。

 

 

そして私杯を口元までゆっくりと運んで――。

一度だけ深呼吸をすると。

舌で舐めるように……一口だけそのお酒を飲んみたのだけれど。

 

 

「……………ぽわぽわする」

 

 

ぽわぽわ? ぽかぽか?

良く分からない。

良く分からないけど……悪くない気分。

体の中から温かくなるような……熱くなるような?

んふー。良く分からない。

だけどとりあえずもう一杯飲んでみる。

次は舐めるようにではしっかりと喉に流し込む。

 

……あ。間違えて杯に注がれいる分を全て飲んでしまった。

…………まぁ良いや。ぽかぽかするし。うん。大丈夫。

悪くない……どころかこれはとても良いモノかもしれない。

うん。

 

 

「……んふふ」

 

「……え。ちょ。琥珀ったらもしかしてたった一杯で酔っちゃった?」

 

 

誰かが……耳元でそんなことを言う。誰だろう? まぁ……誰でもいいかー。

でも言ってることは間違ってるから否定しないと。

 

 

「……んふ。琥珀は……酔ってないよ? だから。霊夢ー。もう一杯ちょうだい」

 

 

とりあえず霊夢に向けて杯を差し出すけれど。

 

 

「……生憎と私は霊夢ではないのだがな」

 

 

おや? 間違えた……? あーほんとだ。この人羽がはえてる。

霊夢は羽は生えてないもんねー。

 

 

「……んー。ごめんね? だから……ん。お酒ー」

 

「……はいはい。けれどあんたがこんなに酒に弱いとは思わなかったわ」

 

「……弱くないよ。琥珀は……弱くないよ?」

 

「ちょっと……。何この子。可愛い。霊夢……琥珀の世話は私がやるからその徳利だけ渡しなさい」

 

「待ちなさい月の姫。ここからは私が世話をするわよ」

 

 

んー。なんだか視界がぶれるー? 靄がかかるー? まぁ良いやー。誰かが私の傍で言い合ってる。

 

 

「んー……。誰でも良いから。琥珀に……ちょうだい? だめ……?」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

あれー? 静かになった。どうして? それより私にお酒ちょうだいよー。

 

 

「……これは。可愛いというよいうむしろエロいと言ったほうが良いのか?」

 

「うーん……。赤く染まる頬。潤む瞳に上目使い。僅かに肌蹴る着物。いたいけな少女が醸し出す色気って奴かしらね」

 

「あー……もう。ほら琥珀はもうこっちにいらっしゃい」

 

 

私がお酒の催促をしていると。気が付けば。

誰かに腕をつかまれて引きずられるように別の場所につれていかれてしまった。

そうしてつれていかれてしまった場所は……。

 

 

「……神社の……寝室?」

 

「そうよ。あんたは流石に酒に弱すぎ。とりあえず今後慣れていくにしても……今日はもう休みなさい」

 

 

そう言いながら私を布団へと寝かしつけようとするのは……霊夢であった。

 

 

「……んー。琥珀は大丈夫……だよ」

 

「……色々大丈夫じゃないわよ。というよりあんたはここ最近忙しすぎなのよ。今日はもう横になってなさい」

 

 

霊夢はぶっきらぼうにそう言いながら私を布団へ寝かしつける。

未だにブレる視界の中にありながらも……けれどそこに確かに私を気遣う感情が感じ取れてしまったから。

あぁ……私はまた霊夢に心配をかけてしまったのだろうと……そう理解したからこそ。

だから私は抵抗すること彼女のなすがままに横になって……。

 

 

「……ん。ごめん……ね。霊夢。ありがと……」

 

「……気にしなくて良いわよ。それじゃあ後はもうゆっくり休みなさい」

 

 

そうして霊夢は部屋を出て行き、私は一人布団の中に残される。

気が付けばもはや意識はだいぶ朦朧となっており。私はこれが自分が酔っている状態なのだと自覚させられて。

そうした意識の中において。色々なことがごちゃごちゃと頭の中を駆け巡る。

初めは纏まりの無いものであったそれが……。

だんだんと意味のあるものとなっていき――そしてそれはまさに私が生きてきたことが走馬灯のように流れていくのだった。

 

始まりは母親が妖に喰われるところから。あの屋敷に飼われるようになって。

そして人形としての時を過ごした後に私は紫様と出会って。

それから幻想郷を探し待った日々を経て。私は此処に辿り着いた。その後に待っていたのは霊夢と過ごした日々にレミリアとの始めての戦いを迎えて……私は自分の能力を自覚すると共に自身の想いに対する違和感を感じるようになって。

そして自分の想いの為に文を手に入れようと戦って。それから偶々創を手当する為に向かった場所で出会ったのは嘗て月の住人であったという永遠亭に住む人たち。

そこで語られたのは神楽の一族の私であり――。そしてその後に迎えたのは名よ竹のかぐや姫である輝夜との戦いであった。

彼女との戦いの私は自分の想いと向き合って。そして――本当の私の想いを知ることができて……。

 

あぁ……そう。どうして私がこんな走馬灯を見るのか……。

私は今までの私としての人生を経て私は知ったのだから。私の想いを。私の抱く本当の願いを。

なればこそ最も大切な事を私はまだしてないではないか。

私は――私の想いは。ただ――あの方の為にあるのだから。

だから私が最もしなければならないことは――。

 

 

「……紫様」

 

 

名を呟く。あの方の名を。届くのか。あの方の元までたどり着くのか。

大切なことはそんなことではなく。ただ――私がそも想い続けるというその言葉を私は伝えることが大切なのだから。

私はもはや全く定まらぬ視界の中で。それでもなおそれを呟く。

 

 

「愛しています。誰よりも何よりもなお……愛しています。琥珀は紫様を愛し続けます。例え紫様から愛を頂けなくとも……それでも琥珀は琥珀の全てを懸けて紫様を愛し続けます」

 

 

その言葉を呟いたところで私は最後の力を使い切ったのか。

もはや抗えぬほどの眠気に襲われて。私の意識は闇へと落ちていく。

そしてその寸前に……。あるいは幻聴かもしれないけれど……。

誰かに頭を撫でられる感覚と共にそれでも私の耳に届いた言葉が……。

 

 

「私も……貴方を愛しているわよ」

 

 

例えそれが幻聴でも良い……。

それでも……。

 

 

あぁ……。琥珀は……世界で一番の……幸せものです。

そんな想いと共に。今日は良い夢が見れそう……です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二章ラスト!
ついでに書き溜めも終わり!
次回更新はかなり先になると思います。
一応これからのことについて活動報告のほうにも少し書いてありますので、もしよろしければそちらも読んでいただければ幸いです。

それではここまで読んで下さった皆様方。本当にありがとうございました!
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