私がいつものように縁側で琥珀の入れてくれたお茶を飲んでいると何やら邪魔ものの気配を感じた。
折角の癒しの一時にやってくるなど何て無粋な奴だろうか。
「霊夢さんこんにちわー。清く正しい射命丸です。今お時間よろしいですか?」
そう言って空から舞い降りてきたのは幻想ブン屋と呼ばれる鴉天狗射命丸文であった。
「良くないから今すぐそこの賽銭箱に入れるもの入れて帰りなさい」
全く持って良くないわ。
私は今お茶を飲んでいるのよ。
しかも出涸らしなどではない新鮮なお茶をだ。
もちろんお茶を調達してくれたの琥珀。
琥珀は私お気に入りのお茶を人里から調達しておいてくれたのだ。
琥珀はこちらの世界におけるお金を持っていなかったはずなので何時の間に稼いだのだろうと思い、聞いてみたら外の世界から持ち込んだ服を何点か里の呉服屋に持っていったらそれなりのお金を稼げたらしい。
そして普段は巫女服を貸して貰っているので、問題ないと言ってそのほとんどを売ってしまった。
素人目にも美しい縫い目に決して派手ではないが人の目を惹きつける魅力をもつ琥珀の着物ならば確かにそれなりの値段で売れたのだろう。
そしてそのお金で私にお茶を買ってきてくれたのだ。
本当に琥珀はどれだけ私を喜ばせれば気が済むのだろうか。
というわけで私は琥珀のお茶を飲むので忙しいのでさっさと帰って貰えないだろうか。
「あやや。そう言わずに少しだけ私の質問に答えてくださいよ」
一応お願いの体をなしてしてはいるが写真機を片手ににじり寄ってくる姿からは質問に答えなければいくらでも居座ってやろうという根性が透けて見える。
「はぁ……面倒臭いわね。答えてあげるから手短に済ませなさい」
「ありがとうございます霊夢さん! ではでは早速お聞きしますが、最近人里に現れるようになったという首輪付きで巫女服を着た美少女の外来人が博霊神社に居候しているという噂は本当ですか?」
あぁ……。
分かっていたことだけれどやはりそれか……。
というか琥珀を人里になどやれば噂になるなど当たり前の話だ。
ただでさえ巫女服を来た見知らぬ美少女などが現れれば噂に立つと言うのに彼女の場合はそれに首輪までついているのだ。
さらにきっと琥珀のことだ。
何処から来てそして今は何処に住んでいるのかという質問に対して素直に答えたのだろう。
白髪美少女。
琥珀色の首輪付き。
外来人。
博霊神社に居候。
これだけそろっていれば噂にならないわけがない。
そしてこの幻想郷において。
これだけ面白そうな存在が噂にのぼれば必ず放っておかない存在が居ることなど初めから分かっていた……というか本当に予測通りだ。
そう今目の前で写真機片手に目をきらきらさせている射命丸文などその筆頭ではないか。
「あー……まあ……琥珀なら確かにうちに住んでいるわね」
「ほほう。その方は琥珀さんと言うのですね! なるほど……彼女の首輪の色は名前を表していたのですね……。それで霊夢さん、今その琥珀さんと言う方はいらっしゃいますか!?」
彼女は手に持つ自身のメモ帳に何やら書き込んだかと思うと今度はこちらに身を乗り出してきたかと思うと社の中を覗こうとしてくる。
私はそんな文の頭を一回叩いてやる。
「今は里に買い物に行って居ないから落ち着きなさい」
「あやや。どうやら入れ違いになってしまったようですねー……。仕方ないので彼女が来るまで此処で待たせて貰っても良いですか?」
だから一応お願いの体ではあるが言い終わるとこちらの返事を待つことも無く私の隣にどかっと座って来るなと言うのに。
一発ぶっとばしてやろうかしら。
まあ面倒だからしないけれど。
「霊夢さん、私のお茶は無いんですか?」
「あるわけないでしょ」
本当に面倒な奴が来たわね。
私の癒しの一時が台無しではないか。
琥珀早く帰ってきてこいつ追い返してくれないかしら。
そしてその後しばらくは文からの質問に対して適当に答えていたのだが、それから半刻ほどしたころにやっと石段の向こう側に琥珀の人影が見え始めた。
琥珀は空を飛ぶことが出来るというのに神社の中までは絶対に飛んでこないのだ。
必ず鳥居の向こう側に一度降りた後に石段を上り歩いて鳥居を通ってから帰ってくる。
何となくこの鳥居は歩いて通りたいのだと琥珀は言う。
まあ琥珀なりに色々思うところはあるのかもしれないがうちの神社にそこまで畏まらなくても良いのにとは思う。
「おや。どうやらその琥珀さんが帰ってきたみたいですね」
どうやら文のほうも琥珀に気が付いたようだ。
立ち上がり琥珀がこちらまで歩いてくるのを待っている。
「なるほど……確かに噂通りの首輪付きの美少女ですね……。しかし……これは……」
何やら言いよどむように琥珀のことを見つめている。
いや、これは見惚れているのだろう。
琥珀は確かに顔立ちも可愛らしく綺麗だ。
普通の人間であればだれでも一度は琥珀に見惚れることだろう。
けれど。
琥珀の美しさの本質はそんなところではないのだから。
その美しさは魂からの発露。
文字通り穢れなく澄んだ琥珀の魂は見る人が見ればまさに極上。
そしてその魂の美しさは琥珀の霊力にも表れている。
琥珀は確かに霊力の扱い方を本職の巫女である私とほぼ同等のレベルで扱えている。
それでも僅かながらに漏れ出す霊力が漏れ出すのは些か仕方あるまい。
それぐらい琥珀は高い霊力を持っているのだ。
そしてその漏れ出す霊力はまさに白。
純白にして何色にも染め上げることの出来ないほどの白。
それを見ることが出来る存在ならば本当にそれに見惚れずにはいられないだろう。
本来、人は大なり小なり穢れていくものだ。
けれど琥珀は穢れず穢されずその魂を保持し続けている。
古代においては存在したかもしれないそんな人間も現代においては例え幻想郷であろうとも存在しない。
そんな琥珀を妖怪たちが見れば一体何と思うであろうか。
まさに先日の懸念通りの場面が今ここに成りたった。
「霊夢さん…………彼女は……琥珀さんは……何者ですか?」
文が琥珀を見つめ続けたままこちらに問いかけてくる。
「それは自分で確かめれば良いじゃない」
さて一体どうなることやら。
文は琥珀のことをどうするかしらね。
これでも一応は大妖怪の端くれに位置しながらも、それでも妖怪としての欲望よりも自身の好奇心のほうを優先する彼女ならば、ある意味においてこの幻想郷で初めて接すする妖怪としては悪くない相手だろう。
そして琥珀は文をどうみるかしら。
ここで、幻想郷で暮らしていく以上、紫以外の妖怪との関わりは必要不可欠だ。
けれど全てが紫のようには接してくれないだろう。
懸念してきた通りに中にはどうしたって無理やり琥珀を喰らおうとするものすら存在する。
琥珀とはそれぐら妖怪たちとって最高級の食材に見えるかもしれないのだから。
そんな妖怪たちと琥珀はどうやって関わっていくつもりなのかしら。
そしてそんなことを思っていると琥珀もこちらに気が付き歩いてくると文の前でとまり首を傾げながら。
「初めまして……?」
そんな琥珀に一瞬だけ動揺の姿を見せるがそれでもそこは人より長い時を生きてきた鴉天狗。
動揺を笑顔で覆い隠し挨拶を返そうとするが――――。
「あやや。これはこれはどうも。初めまして、私は射命丸文と申します」
それでも文にしては簡潔な名乗り。
その笑みの下では、妖怪らしく色々と思考を巡らせながらの挨拶に琥珀もまた名乗り返す。
「……ん。私は八雲琥珀」
それは文よりもなお簡潔な名乗り。
というより最近気が付いたのだが、琥珀は別に口数は少ないけれど別に会話それ自体は苦手はない感じだ。
とりより話そうと思えば琥珀も饒舌に話す子が出来ているのだから。
ただ無駄な会話はあまり好んではないみたいだけれど。
「ははぁ。八雲琥珀さんと言うのですね。それではそんな琥珀さんに少しお聞きしたいことが…………………え? 八雲?」
琥珀の名乗り受けたところで、そのまま普通に会話を続けようとしたところで彼女の動きが今度こそ止まってしまった。
どう考えても聞き流すことなどできないその名前を聞いて。
「あの~……琥珀さん。八雲というのは、あの八雲紫と何か関係が……?」
「……ん。私の名前は紫様から頂いたもの。紫様が私に与えてくれたもの」
文のおそるおそると言った問いに、琥珀はその無表情をほんの少し変え、誇らしげに答えていた。
まぁ、そんな琥珀の変化も今の文には分からないでしょうけど。
「八雲紫から頂いた……? え……? 紫様……? なにそれ。というか……うわ。その首輪も……うわー……」
普段の取り繕った態度ではなく明らかに彼女の素が出てくるほどに驚愕していた。
というかあんたその首輪の所有者に今気が付いたとか。
最初に気が付きなさいよ。
思ったより鈍いわねー。
「…………霊夢。ご飯の用意して来ても良い……?」
そしてそんな風に混乱してる文を完全にスルーして夕食を作りに行こうとするアンタは本当にマイペースね。
まぁ私としては夕食が遅くなるぐらいなさっそと作って来て欲しいと思っているのだけれど、このまま放置していてもどうせ後からまた追いかけてくるのは必定だからもう少しだけ待っていなさい。
「というより文。アンタもいつまで混乱し続けてるつもりよ」
「え、あぁ……すみません。私としたことがつい取り乱してしまいました……。琥珀さんもすみません」
私が一声かけてやれば流石に落ちつたいのか謝罪の言葉を口にする。
「……ん。別に構わない」
「ありがとうございます。それから私のことはこれから清く正しい射命丸とお呼びくださいね。琥珀さん」
そして営業用の笑みを浮かべながら琥珀に改めて名乗っているけれど。
アンタ本当に図々しいわね。
「……清く正しい?」
そして当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど、そこに食いつく琥珀。
「はい! 清く正しい幻想郷の文屋。それが私射命丸文です」
それに対してなおも自身の名乗りを貫き通す文。
「……清く……正しい?」
けれどそれでも言っている意味が良く分からないとでも言いたげに首を傾げる琥珀。
「……そうですよー。清く正しい射命丸文ですよ!」
流石に間が開いてしまったけれど、それでもその名乗りに何かしらの思い入れでもあるのか、こちらも引きはしなかったのだけれど。
「……ごめん……ね? 私……まだこっちの言葉に慣れてないから」
「いえいえいえいえ! そのまんまの意味ですから! 幻想郷独特の言い回しとかじゃないですから!」
いかん……。
ちょっと吹き出しそうになってしまったじゃないか。
何やら文がしどろもどろになり始めている。
というか自分で清く正しい何て言うならともかく人から言われるとかなり恥ずかしいのではないだろうか。
そして言っているのはあの琥珀だ。
純粋な目をしながら当たり前のようにそう口にされればどう返せば良いのかも分からなくなるのだろう。
今更冗談だとも言えずに文は顔を赤らめ始めている。
このまま見続けても良いのだが流石にそれも面倒だ。
「ちょっと文。琥珀は真面目なんだからあまりからかったりしないでよね」
「あ……はい……。えっと……琥珀さんすみません。出来れば今後は文とお呼びください」
「……? ん。分かった」
その後琥珀は三人分のお茶を入れに台所まで行きそしていくつのかお茶菓子も手に持ち帰ってきた。
ちなみに琥珀が手に持つそのお茶菓子も全て琥珀の手作りだ。
彼女の作るくっきーやびすけっとと言ったお菓子は非常にお茶と合い本当に素晴らしいのだ。
「文も……いる?」
「あやや。ありがとうございます。それではお一つ…………ふむ……これは……中々素晴らしいですね……しかもこれ全て手作りとは……琥珀さんやりますね」
「……ありがと」
「それで文。和んでいるのも良いけれどさっさと用件を済ましなさい」
これ以上文にのんびりされると私のお茶菓子が食べつくされてしまうかもしれない。
というわけでさっさと用件を済まわせて追い返してしまおう。
「あーそうでしたね。何やら琥珀さんといるとこちらのペースがどんどん乱されていきますね……。おほん。では琥珀さんいくつか質問したいことがあるのですが宜しいですか?」
「……どうぞ」
「ではまずそうですね。貴方は外来人ということですよね」
「……ん」
「では何故この幻想郷に来たのですか? 迷い込んだり誰かに連れられてですか?」
「違う。自分で来た」
「ほほう。自分の意思でですか。それは何故ですか?」
「……紫様の元に来るために」
「…………あー……そうですか」
その答えを聞いたところで文の質問が止まった。
まあそれまでのやり取りを聞いてある程度予測が出来ていたとは言えそれでもあの紫に会いたいが為だけに外の世界から幻想郷までやってきたなど聞かされれば何と答えて良いか分からなくなるものだろう。
「ええっと……琥珀さんは八雲紫と外の世界で出会ったんですか?」
「……そう」
「……それでどうして琥珀さんは八雲紫の元にわざわざ来ようなどと思ったのです?」
「私が……紫様を愛しているから」
もはや完全に理解の範囲外と言った顔を文はしている。
まあその気持ちには激しく同意はするのだが。
あの紫に恋い焦がれるなどと言える存在などこの幻想郷においてもこの琥珀ただ一人であろうから。
「文さん?」
「あ、あぁすみません。ちょっと意識が幻想郷の果てにまで飛んで行っていました」
「……?」
全く理解できていないという顔をする琥珀。
まあ確かに琥珀には決して理解などできないのだろう。
それぐらい琥珀は紫に対して盲目的なのだから。
「えっと……。琥珀さんはどうして八雲紫なんかを愛……愛? まぁ……とにかく愛してるなどという気持ちになったのです?」
「どうして? どうして……?」
「……琥珀さん?」
その問いを聞いた瞬間だろうか。
それまで淡々と答えていた琥珀の雰囲気が変わる。
一切の熱を込めずに呟いていた琥珀の声に隠し切れぬ熱量が混じる。
それはまるで琥珀の内から湧き出てくるように。
「どうして紫様を愛する……? あは――どうしてですって? あははは……あはははははは」
「あの……? 琥珀さん……? ――――っ」
そしてその時になって文もまた気づいたのだろう。
それまではただ琥珀の雰囲気の変貌に戸惑っていただけだった文が、顔を僅かに強張らせる。
一切の穢れを感じさせなかった琥珀から。ある意味において現実離れしたような肉体は此処にありながらも魂は別の場所にあるかのように感じていたであろう琥珀から隠し切れぬ感情が湧き踊る。
穢れなき聖域に居た乙女がたった一つだけ見つけた激情を世界に撒き散らす様は……まさに狂気。
「あは……そんなこと決まっているよ。あの人はあんなにも美しいから――。この世界の誰よりも何よりも美しいから――。あの人が造りだす世界は――あらゆる世界を凌駕してなお美しいから――。だから私はあの人を愛した。あの人のそばに居たいから。あの人と共にありたいから。だから私はあの人を――愛している。全身全霊を懸けて愛してるの」
熱く熱く、自身の欲望を滾らせながらそう語り続けるその姿は――どうしようもなくアンバランスに映る。
琥珀という子は、普段の生活においては驚くほどに自身の欲をみせない。
というよりも感情そのものが人としてはありえないほどに――希薄である。
それはまさに……白。髪も白。肌も白。欲も感情も――魂に至るまで白。
何ものにも穢されず汚されず、自身も汚れず穢れずに――聖域の奥底に住まう乙女のようで。
だがそこに混じる黒。狂気。穢れ。魔。妖。
琥珀はそれに触れ……そして自身もそれに混じることを良しとした。
そして乙女は聖域を離れ穢れに満ちる世界へと足を踏み入れ……ただひたすらに妖の頂点への憧れを持ちながら歩き続けてきたのが……今の琥珀である。
それは……分かる。それならば分かるのである。
だが問題はそれだけの妖という穢れの中心に自ら歩み続けながらも……なお琥珀はありえないほどに清純であるという……その事実に。
清い存在といいうのは、容易く穢れに染まる。それが清ければ清いほどにいとも容易く穢れにその身を汚す。
しかし琥珀は……目を紅く輝かせながら世界に狂気を撒き散らしながらもなおその身は……魂も含め白く清純なままである。
その理屈を捻じ曲げたかのようなあり方は人の目を……何よりも妖の目を惹きつける。
ただ清純なだけの存在でないからこそ……琥珀はなお美しく見える。
だからこそ。
「あー……。これは確かに……。八雲紫が好みそうね」
私が琥珀の方に目を向けていたらそんな声が隣から聞こえきた。
それまでのブン屋としての声ではなく……妖怪の、千年を超えて生きる古の妖怪が出す声である。
「理解したかしら?」
「いえ……むしろ理解できないことが理解した……と言ったところかしらね」
やや呆れながらのそんな声。
まぁ……気持ちは分かるけれど。
琥珀という存在は確かに……普段幻想に生きる存在であればあるほど謎に感じる存在ではある。
まさに世界にある原理を捻じ曲げて存在しているようなもので。
ただ一目見ただけでは理解できずに……さらに深く触れればもっと分からなくなるのが琥珀なのだから。
「それで……。貴方はそれを知って……これからどうするのかしら?」
少しだけ真面目な雰囲気を出して問うたそれに……。
「どうもこうも……。こんな美味しそうなネタをわざわざ見逃すわけないじゃないですか!?」
文は――射命丸文は、そんなブン屋としての答えを返してきた。
そう……。
それが貴方の立ち位置だというのね……。
そう思わず笑みを浮かべながらに、ブン屋として琥珀に質問を続けている文を見つめる。
そこには先ほど一瞬だけ見せた大妖としての雰囲気などどこにもく。
ただ一人のブン屋としての慌ただしく琥珀に語りかけるその姿は何だかんだいって流石だとそう……思わないこともなかった。
そしてそんな文に対して琥珀も先ほど見せた熱も初めからなかったかのように、再び淡々と文の問いに応えていた。
そんな姿を見ながらに……。
まぁ……これから先どうなるかは分からないけれど、とりあえずは大丈夫そうかな……なんて、そんなことを考えて…………思わずため息を吐きそうになった。
私は琥珀の保護者か。
なんて……思わず自身に突っ込みそうになった。
ここ暫く何だかんだでずっと琥珀のことを考えているようで。
なぜ私がここまで面倒を見なければならん。紫が自分でみなさいよ……と、思わないこともないけれど。
それでも……まぁ、これぐらいなら良いかと。
そう思ってしまうのは、あるいはそれこそが琥珀の魅了なのかもしれないと思って。
「…………はぁ」
そこまで考えて――今度こそ溜息を吐きながらに私は残っているお茶を口に含みながらに、未だ続く文と琥珀の会話を何とはなしに聞き続ける。
「そういえば、琥珀さんはどうやって自力でこれたんですか? 外の世界から幻想郷を見つけるのは至難の業でしょうし、何より此処には結界が張られていますよね?」
「幻想郷の場所は、紫様の香りを辿ってきたら着いた……よ? 結界は……同調して――すり抜けた?」
こてん……と、首を傾けながらに自分でも完全には理解していませんって感じながらも琥珀がそんなことをのたまう。
「……………………」
そしてそんな答えたを聞いた文のほうは――今度は世界の果てまで意識を飛ばしているのだろうか。
まあ実際この子と話していると頭の痛くなることを良く口にする。
だいたい香りとは何だ香りとは。
というより幻想郷の外にまで撒き散らされてる紫の香りとはつまりあれか――――かれいしゅ………………………思わずゾクリと世界に悪寒が走ったからこれ以上考えるのは止めるとくか……。
しかしあんたは本当に犬か。
そしてそれ自体も恐ろしいがそれ以上に恐ろしいのが結界との同調だ。
何だそれは。
博霊の巫女だからこそ分かる。
博霊大結界とは結界としてまさに最上級にあたるものだ。
それと力を同調させ入るなど本当に意味が分からない。
というか琥珀は基本的に理屈ではなくフィーリングで霊力を使っているふしがある。
だからまあ琥珀なりの感覚が確かにそこにあったのだろう。
けれどそれは他人には決して理解できない部分だ。
なのでもう琥珀の言うことは理解できない部分は徹底的にスルーしようという結論に私は至ったのだ。
文も早くその領域に至ったほうが精神的に良いだろう。
「あーでは琥珀さんはあの結界を出たり入ったり出来るということですか?」
「紫様の居るこの世界を出て行くなんて……天変地異が起きようともありえない……よ?」
「………………あぁ――そうですか」
もはや全てを諦めて悟ったとでも顔をしながらに文は答える。
とりあえずあれだ……琥珀は紫バカなのだという――その事実だけで全てを理解してしまいそうになるぐらいに琥珀はとにかく紫が物事の中心になっている。
琥珀はその存在自体がアレだが……その思考内容はさらにアレなのだから。
そんな琥珀の傍に居れば、あらゆる意味で振り回されるのは周りに居る側だ……と言うことを今の文を見て居ると本当に思わされるな……と。
そんなことを考えながら、それでも質問を一段落して、そろそろ文も帰るころだろと思っていた時だった。
「あら。まさか先客がいるなんてね」
そんな声がが境内に響いたのだった。
私の平穏は……どうやらまだ訪れずれないらしい。
あややん!あややん!