「あら。まさか先客がいるなんてね」
そんな声が突然と境内に響いた。
声のした方に私が振り向くと……そこには一人のメイド服を来た女性が居る。
メイド服……うん。メイド服である。
私も嘗て着ていたソレを……和服が基本の幻想郷で見るとは思わなかった。
私が来ていたのは俗にヴィクトリア調と呼ばれる黒と白を基調としたものであったが、彼女が着ているのは私が来ていたものよりも裾の短い、より秀麗としている。
そしてそんなメイド服を着ている女性は、一言で表すならば静かな人……といった感じだろうか。
銀の髪をゆったりとした風に靡かせながら、鳥居を越えてゆっくりとこちらに歩いてくる姿からは感情の起伏を一切感じさせないその姿は……成るほど実にメイドだとよく意味の分からない納得を感じるけれど。
けれど、彼女から感じる雰囲気は、そんな見た目とは真逆な気がして。
いえむしろ――似ている?
誰に――?
私自身に。
それは嘗てあの屋敷に居た頃の同じくメイド姿をしていた人形としての私ではなく――今の私。
あの日紫様に出会い、恋い焦がれることとなった、ただただ紫様の為だけに生きると決めた、そんな琥珀としての私に。
別に確信があるわけでも理由があるわけでもないけれど。
それでも何となくそんなことを思った。
そしてそんなことを考えながらに見つめていると、その女性はいつの間にか私の前までやってきて、そして綺麗に一礼をしながらに挨拶をする。
「初めまして。私は十六夜咲夜というの。湖の畔にある紅魔館でメイドをしているわ」
「……初めまして。八雲琥珀」
何となく……思っていた以上に彼女の挨拶は軽く……軽くというより気さくと言ったほうが良いのだろうか。
そんな見た目の物静かな雰囲気とは違う、もっと慇懃無礼な挨拶をしてくるかと思っていたが、それよりも――あぁそうだ、人間味のある挨拶だったのだ。
そしてそれが似合って居ないのかと言うと、そんなことはなく。
むしろそれこそが彼女なのだと思えわせるようで。
だからこそ、私は初めに思ったこの人に対する印象が確信に近づいていく気がする。
やっぱり、この人は私に似ているような気がする。
「八雲琥珀……。八雲……ね」
私の名前を聞いた咲夜は、私の名前を口の中で転がすようにつぶやいている。
それは、それが何を意味をするのか吟味しているようで――。
「あんたが一人でここに来るなんて珍しいわね?」
そしてそんな風に少し考え込むようにしている彼女に霊夢が話しかけた。
「えぇ……少し用事があってね。そうでなければ私もこんな場所に一人で来ようなんて思わないんだけどね」
「あら……。そんなことを言っているとあんたを出禁にするわよ?」
「別に……それがどうしたというの――」
「もちろん――貴方の主ごとね」
「…………それならそれでも私は構わないわよ? むしろ貴方の方から此処に来ないように言って貰えるなんて私としては助かるくらいなのだから」
あはは。うふふ。と笑う少女が二人とそれを嬉々として撮る鴉が一匹。
最近思っていることではあるけれど、何となくこの幻想郷における挨拶は――変だ。
いえ、もちろん私自身余り人付き合いをしてきた人間ではないので常識があるなどとは決して思ってはいないけれど。
それでもここの挨拶は変だなぁ……と思っている私は間違いではないと思う。
だって、何となく言い争いの体を成している会話ではあるけれど、それでも二人は互いに目配せをし合っているそんな姿は、まさしく親しい友人のようであるのだから。
「それで――? 結局あんたは何しにここに来たのよ?」
「あぁ――そうだったわ」
霊夢に問われ、思い出したかのように彼女は、十六夜咲夜がこちらへと顔を向ける。
その姿は確かにどこかの屋敷の奥に飾られているアンティーク・ドールのようでありながら、けれど確かに人としての熱を帯びた吐息を感じされるような声で私に対して言葉を紡ぎだした。
「八雲琥珀様――――貴方を御屋敷にお招きにするよう――我が主より言付かっております」
「――私を?」
「はい。今宵――闇夜を照らす満月の下にて貴方を我が屋敷紅魔館においての晩餐に招きたい――。それが主からの言付となっております」
それは、確かに聞き間違いようのない――招待状としての言葉。
けれどそれは――決して相手が否と唱えないと確信しているかのような――強者の言葉でもあった。
招く――? むしろ来いの間違いだろうと感じるほどに。
そこには絶対の力が感じられた。
別に咲夜自身が何かしらの威圧感を出しているわけではない。
彼女はただ淡々と自分が伝えるべき言葉を伝えただけで。
だけど……その言葉を、主が伝えろと言った言葉を伝えようとした瞬間に感じたそれは――――あぁなるほど。
その瞬間に私は確信する。
彼女の何が私に似ていると思ったのかを。私の何が彼女に似ているのかを。
だからこそ――私がまず彼女に問うべき言葉は。彼女の言葉は数少なく疑問に思うことは多々あるけれど、それでも私がまず彼女に聞かなければならないことは――。
「――主?」
「はい。紅魔館の主。紅い吸血鬼レミリア・スカーレットです」
吸血鬼。そう……吸血鬼か。それが咲夜の主か。
なるほど……。
そうか――――。
その主を告げる瞬間にだけ感じたソレ。
見た目は決して変わらず淡々と答えているようで。けれど隠し切れないその想いは――。
主に対する想い。
だからこそ私は彼女が自分に似ていると思っただろう。
その意識の深層にあるのは、常に誰かに対する想い。
自身が魅了された者に対する想いであるからこそ。
それを私は彼女から感じたからこその、似ているという感想を抱いたのか。
だからこそ私は興味を抱く。
その言葉の中に出てくる主に――――ではなく、それを告げる十六夜咲夜という人間に。
そう人間だ。
彼女は見間違うことのない人間だ。
そのあり方が、霊力の流れが、魂が、彼女が人間であることを告げている。
けれど、そんな彼女が吸血鬼に仕え、そしてそれが――当たり前であるかのように立ち振る舞う。
吸血鬼……西洋の妖怪。この東洋の地においてなお、鬼の一文字を冠するまでに至った存在。
そんな妖怪に仕えていてなお――それに否を唱えさせないだけの雰囲気を醸し出すそんな彼女に――私は――。
あは――――面白い。
彼女という存在はある意味において私の先にいくもの。私が憧れるあり方を既に体現したような存在である。
自分が魅了された妖に仕え、その妖怪が招待者に対して彼女を送り出しているというその事実は、私が憧れる一つのあり方であるからこそ。
そんな彼女の仕える主を見てみたいと思った。
「分かった……。今夜向かえば良いんだよ……ね?」
「えぇ……。その時になれば私がまた迎えに来るわ」
「ちょっと待ちなさいよ。レミリアがそんな堅苦しい言い方をするときは大概面倒事を起こすときよ」
私がほとんど躊躇いもなく咲夜からの招待を受けたところで、霊夢が割って入ってきた。
まぁ……確かに。
吸血鬼の館である。
その吸血鬼がどのような存在であるのかは知らないけれど。
それでもわざわざ人間の、それもここ最近に幻想郷に来たばかりの私を館に招待するなどその裏にある思惑など――少なくとも善意からではない程度くらい私でも理解できる。
それこそ妖怪はとかく享楽的であるからこそ私という存在をただ甚振るためだけに呼んだのかもしれないけれど。
けれど、それでも。
私はもう行くと決めたのだから。
ただ何もせず怠惰に過ごしている程度では、決して紫様のものになどなれないのだから。
だからこそ私はあらゆるものを見て聞いて感じて、そしてそこから成長しなければならないのだから。
私が辿り着きべき場所はあの空よりもなお遠いところにあると、私は知っているから。
それでもそこに手を伸ばすと決めたから、だから私は向かう。
吸血鬼の館に。
人間を仕える妖怪の元へと。
そこで何を学べるかなど知らないけれど、それでもそこに行くこと自体にきっと意味はあるだろうから。
だからそんな想いを込めながらジッと霊夢を見つめ続けていると。
そんな私を霊夢も見返して。
互いにしばらく見つめ合っているいと、霊夢が目を逸らしながらに深く溜息をついた。
「はぁ……。あんたねぇ……。吸血鬼の館に行くことがどういうことか分かっているんでしょうね?」
「……………血を吸われる?」
そう答えたら……もうこいつはダメだとでも言わんばかりに霊夢は顔を右手で覆いながらもう一度溜息を吐かれてしまった。
霊夢に余計な心配を与えてしまっただろうか。
けれどもどうか心配はしないで欲しい。
だってこの身は、所詮穢れた体に過ぎないのだから。
汚れ乱れ、泥沼の底に横たわっていた体なのだから。
そんな体の血を吸われたところで、果たしてどれだけの意味があるというのだろうか。
そして何よりも、私の魂は紫様に捧げているのだから。
私の気持ちの全ては紫様のモノなのだから。
そう誓っているのだから。
だからこそ、この穢れた体の血を吸われたところで問題など無いのだと。
そう霊夢に告げようとしたところで。
「そもそも琥珀さんは弾幕ごっこができるのですか?」
それまで黙っていた文が突然と口を開いてきたのだった。
「――――弾幕ごっこ?」
そして聞きなれる単語に思わずに鸚鵡返しで返すと、今度は霊夢が応えてきた。
「あー……そうか。そういえばまだ教えて居なかったわね」
――と、何か大切なことを言い忘れていたみたいな口調で霊夢が呟く。
そこには先ほどまでの苦渋の顔は無く。むしろしまったとでも言いたげな顔をしながらに。
そしてそのままに、今度は咲夜と文の方に目を向けて。
「ちょうど良いから、あんたらでちょっと弾幕ごっこを見せてやりなさい」
「え……?」
「は……?」
霊夢の言葉に二人とも同時に疑問を返す。
何故自分たちがそのようなことをしなければならないのか、意味が分からないとでも言いたげに。
けれどそんな二人に対して霊夢は構わず言いつける。
「良いからさっさとやりなさいよ。文はそうね…………琥珀から新聞のネタを貰ったのだからその駄賃とでも思いなさい。咲夜の場合は、招待する側の義務みたいなもんでしょ」
そしてそんなことを良いながらに早くやれと言いたげに二人に向けて降る。
そんな……。ある意味普段と変わらない投げやりな態度をしながらも、それでもそんな霊夢の姿に言われた二人はしばらく見つめ続けるが、共に諦めるかのように溜息を吐きながらに距離を取るように離れていく。
「はぁ……。こんな茶番……さっさと終わらせるわよ」
「……お手柔らかにお願いしますね」
互いにやる気の無さげな声ではあるけれど……。
しかし互いにその手に一枚のカードを表せるたその瞬間に――空気が変わる。
ごく僅かな変化ではあるけれど。
しかし確かに感じるその変質は――現から幻へ。
先ほどまでは感じなかった威圧。
そこに居るのはまさに幻想に生きる者たちなのだと理解させられる。
「よく見ておきなさい――。これがこの世界における決闘法よ」
そんな霊夢の声と共に――。互いが動いたのだった。
旋符『紅葉扇風』
まず先手をうったのは文のほうであった。
その手にもつ扇を一振りしながらに一つの文言を唱えると。
現れるのは一つの旋風。人では決して起こせぬ竜巻。
まさに暴風と呼ぶべきそれは。
その風は……まさに王の風であった。
風を支配する者が頂点から命令するかのごとく流れうる。
まさに至高の一幕。
そんな風を生み出す彼女は……射命丸文は、私に対してブン屋だと名乗った。
ブン屋――。あれが――?
そんな馬鹿なと、思わず呟きにそうになるけれど。
私に対して色々と聞きだしメモを取ろうとしていた姿を思い出すと。
あぁ……なるほど。あの姿もまた彼女の正しい姿の一つなのだと思うけれど。
しかし、けれどそれはあくまで彼女に対する一つの見方にすぎず。
いま、私の目の前にいる彼女は、まさしく風の王であった。
彼女は確か……そう天狗であったか。
前に霊夢から説明を受けた、幻想郷に置ける妖怪の一つ。
妖怪からすれば珍しく個ではなく群をもって、この幻想郷において頂点に君臨している種族。
天狗。天狗という種族に対する逸話は他の妖怪と比べても群を抜いて多い。
修行僧が悟りを開いた先に辿り着いた姿という説から逆に修行僧が外法に堕ちたその成れの果てという説。
あるいは仏法を守護する八部衆の一つである迦楼羅天が変化したしたという説から。
他にもその逸話は山のようにあるけれど。
しかし、そんな説よりも私が今見て居る彼女の姿は、妖怪よりもむしろ神に近い存在に思えるからこそ。
だからこそ彼女がこの風を支配し、その上から見下ろす姿すらも一切の違和感もなく受け入れらたのだった。
そして何よりも――。
そんな風を支配する姿よりもなお――。
私が目を惹いたのは――。
彼女に背に生える黒い羽にあった。
彼女を目にしたその瞬間から目に入ったその翼。
黒く。黒く黒く輝るその翼を。
未だただ浮いているだけでも手を伸ばしそうになるそれを。
もし、それを使い。もしも私が想像している通りに飛ぶとしたならば……。飛ぶ姿を目にしてしまったならば……。
私は――。
そんな風に、私の思考が弾幕ごっこからそれそうになっていたその瞬間に。
軽く振るわれた扇からは想像もつかぬほどの風の猛攻が。
風の王たる者から放たれた思考の疾風が。
もしあれに巻き込まれてしまえば、ただでは済まないと見ただけで感じるそれが一瞬でその先にいるであろう咲夜を飲み込もうと襲いかかったのだった。
しかし――。
「……え?」
思わず声が漏れた――。私が目で認識する間もなく咲夜は既に避け、竜巻が通った後に居たのだった。
ありえない軌道。私は確かに竜巻に目を奪われはいたけれど、しかし咲夜の動きも確かにこの目で捉えていたはずだった。しかしそれを超えた何ががあったのだ。
それはまさに幻想的な何か。
そう――ただの回避ではなくもっと別の。
避けたというその行為自体がただの結果であるかのような何かが。
だって私は……確かにそこに感じたのだった。
目では一切認識できなかったけれど。けれどあの一瞬で竜巻が咲夜に向かうまさにその瞬間に、僅かな幻想の揺らめきを感じたのだった。
だからあれは、何かもっと別の。
あるいは空間の移動に近い……何かであるはずなのだと……そう私は思ったのだった。
そして……そこまで私が考えたところで。
次に咲夜が動いたのだった。
幻符『殺人ドール』
ただ一言、そう咲夜が唱えたその瞬間に。
まさに瞬きをする間に無数のナイフが彼女の周りに漂う。
銀色のナイフが太陽の光を浴びて輝く。
そんな無数のナイフの中心において紅い瞳を光らせながらに相手を射抜くその姿は――。
とても彼女が人間であるなどとは思えないほどの威圧感を感じらせるものであって。
そしてそのナイフを、彼女はその手を一振りさせると共にそれら全てを一斉投擲される。
それは逃れられぬほどのナイフの牢獄となって文へ向かって飛翔する。
その光景はまさに圧巻。
人が繰り出す幻想としてなら一つの極地であるかのような風景。
これが咲夜なのだと。人の身でありながらに吸血鬼に従属しうる人間の力なのだと。
私は心の底から感嘆させられる。
先ほどの竜間を避けた理解しえぬ幻想と合わせれば、咲夜という存在が一体どれほどの存在なのかと理解できぬほどの高みにいるようにすら思え。
妖怪に侍るにはこれほどまでの幻想を纏わなければならないのだと――ある意味において私が目指す一つの形をまさに体現する人間の姿が目の前にありながらに。
あぁ――けれどである。
そんな光景を。私からすれば憧憬に価する幻想を生み出している咲夜を前にしてなお。
私の目を奪って離さなかったのは――。
私の目を奪っている光景は――。
その先にある――。
「あやや――! この程度では当たりませんよー!!」
無数のナイフに追われながらに天空を飛翔する一匹の鴉の姿にあった。
黒い翼を羽ばたかせながらに――。
速く、疾く速く飛翔するその姿は――実に美しかったのだった。
まさに想像通り。いや――想像以上の軌道。
空を自由に。騎兵が縦横無尽に戦陣を駆け巡るかのように。
彼女は――空の海を飛び抜ける。
見る者を魅了するまでに昇華された飛行は――まさに飛ぶというただそれだけをもって芸術の域にある。
だからこそ一目見た瞬間から目を奪われたのだ。
この出会ってから僅かな時間に幾度となく手を伸ばしそうになったのだ。
幻想郷の外では決して見る事の叶わぬほどの幻想が入り乱れる弾幕ごっこの最中も目が離せなかったのだ。
咲夜という憧憬に価する姿すらも見えなくなるほどに。
私は――。アレが――。
そう――私にあれはできないから。私に空を飛ぶという能力だけはどうしても身に着けられなかったから。
浮くことはできるが、しかしそこまでであった。
どれだけこの身を痛みつけながらに能力向上に励もうとも、空を飛ぶというその一点だけはどうしてもできなかった。
そして――その事実を私は、どこかで受け入れていたのだった。
きっとどれだけ訓練を重ねようとも、私は空を自由に飛ぶことはできないだろうという……それは曲げようもない真実のように感じられたから。
空を飛ぶということは能力を自身に向けて放つということである。
自分の体に。自分のこの――穢れた体にだ。
それは、どうしようもないほどに気持ち悪く感じられて。
だって、私の能力の全ては紫様の為にあるべきなのだから。
それを、その力を、この穢れた体に向けて行うのは、どうしようもなく気持ち悪いことに思えるからこそ。
だから私が空を飛ぶというのはきっと――無理なのだと分かる。
だからこそ。そうだからこそだ。
あの空を自由に駆ける黒い翼は確かに美しく見えて。
そして……。あぁ……そう。
だからこそ……。
私は……アレが――。
「――欲しい」
思わず声が漏れる。
そう私はあれが欲しい。あの黒い翼が欲しい。
太陽の光を浴びて、空を懸けるあの翼が欲しい。
どうしようもなく――欲しい。
美しく。幻術の域にまで達した飛行を。
私だけでは決して叶わぬソレを。
けれど、この幻想郷において。
美しく私が飛ぶために。紫様の世界である幻想郷を綺麗に飛ぶために。
そう――私の想いを叶える為に私にはアレが欲しいのだ。
そんな純粋な。そう、私からすれば何よりも純然に湧き出る想いを抱く。
だけど、あの翼は私のモノじゃないから。
私にはあの翼が無いから。
あの翼はあの文についているもだから。だから――?
そう。私はあの翼がホシクテ。そしてあの翼は文のモノだから――。
だったら――? そうだったら――。
「あは――。だったら――文ごと私のモノにしてしまえば――良い」
気が付けば笑い声と共にそんな言葉が口から漏れ出てきて。
そして、それはもはや抑えきれないほどの激情となって。
ホシイ。私はあれがホシイ。
ホシイ。ホシイ。
ホシイ。ホシイ。ホシイ。ホシイ。
ホシイ。ホシイ。ホシイ。ホシイ。ホシイ。
ホシイ。ホシイ。ホシイ。ホシイ。ホシイ。ホシイ。
ホシイなら――力付くでも私のモノにしてしまえば良い。
きっと此処でなら――この幻想郷ならそれもきっと許されるから。
だってそれを許す戦い方が此処にはあるから。
そう――。まさに――目の前でソレをしているのだから。
弾幕ごっこと呼ばれるその戦い方。それは決闘。幻想の力を用いた決闘なのでしょう?
だったら私がソレをしても良いのでしょう?
そして、その戦いの後に私は――。
もはや今すぐにでも。
止まらぬ思いと共に駆け出しそうになっていた私に――。
「――琥珀?」
霊夢の声が響いた。
その瞬間に、内に溜まっていた激情が寸分残らず霧散する。
そしてそれが落ち着いた頃には既に二人の戦いも終わっていた。
「――ううん。何でもないよ」
だから私は、何でもないかのようにように霊夢に応えて。
「……そう」
霊夢もただ、そんな私の言葉を受け入れる。
ただそれだけのやりとり。瑕疵もない返答にすぎないそれも。
けれど霊夢には確かに私から漏れ出た思いが伝わっているだろう。
だって、どれほど取り繕うとも、それでもなお、この口元に浮かぶ笑みは隠し切れないのだから。
まぁ元より隠すつもりもないのだけれど。
隠す必要もないのだから。
だって――。この想いを。気持ちを。
現実の形にすることは、もはや私の中で決定事項になっているのだから。
そんな風に思っていると。
私の前に戦いを終えた二人がやってきたのだった。
「ふぅ……。疲れたわ。私は意味も無く戦った楽しめるほど戦闘狂ではないのだけれど」
「それは私もですよ」
そんな会話を苦笑を交えながらに話す二人に。
私もまた声をかえる――。
「二人とも――お疲れさま」
私が声をかけると二人ともが驚いたような顔をする。
まぁ、それもまた道理か。
先ほどまではただの一つも表情を表にだしていなかった私が。
今は隠しようもないほどの笑みを浮かべているのだから。
だから思わず何と声をかければ良いのか悩んでいる風である二人に、私の方がさらに言葉を重ねる。
「ねぇ――咲夜。これから私を紅魔館というとこへ連れて行ってくれるのでしょう? だったら私の方はもう準備も済んでいるのだから早速行きましょう――?」
楽しく。楽しそうに。あるいは興奮を抑えるかのように話す。
「え……えぇ。けれど迎えは夜にと――」
その先を言わせない。そんな些細なことなど――今はどうだって良いことだから。
「あは――。大丈夫だよ。二人が弾幕ごっこをしている間に大分日も傾いてきたよ。それに――私は空を飛ぶのが苦手だから。二人のように――そう――
有無を言わせない。言わせるつもりない。
呼んだのはそちら。呼ばれるのは私。
だから何時、如何にして向かうのかは私が決める――などという傲慢性から来てる言葉では無く。
そこにあるのはもっと単純に、私は今すぐにこの場を離れたいのだ。
正確に言うのなら、そこに佇む一人の鴉から。
黒く――黒く黒く。太陽の光を浴びてなお黒く輝る翼を持つ。
そんな彼女から私は可及的に離れなければならないのだ。
だってそうしなければ――私は今すぐにでもその羽を全て毟り取ってしまいそうになるから。
そんな衝動を私は全身の想いを込めてを抑えているのだから。
だから私は有無を言わせぬ思いを込めて咲夜も見つめ続け――。
そんな私を咲夜もまた見つめ、そして――諦めるように頷いたのだった。
「ふぅ。分かったわ。まぁお嬢様も早く会いたそうにしていましたし、それじゃあ早速行きましょうか」
――それじゃあね。二人とも。
残される者たちにそれだけを告げて、咲夜は早速空を飛んだ。
そしてそんな彼女に向けて――私もまた追うように空を飛ぶ。
未だ冷めやまぬ興奮を身にまといながらに。
けれどその前に――この地を離れるその寸前に後ろを振り返りながらに最後の言葉をかける。
「――文」
名を呼ぶ。その名を。
先ほどまでのような無機質な呼び方ではなく。
意味を込めて。熱を込めて。
私はその名を呼ぶ――。
「何……かしら?」
文は驚き半分。戸惑い半分と言った表情をしながらに私を見つめ返し。
そんな文に向けて私は――。
「
再開を約束する言葉をかけるのだった。
あややんが目をつけられたー! ……みたいな感じで。
ただ次からしばらくは、おぜうさま編になりますが。