東方紫幻郷   作:ジャオーン

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九.紅い館に響く嘲笑

気が付けば琥珀との会談も一時間が過ぎていた。

琥珀は聞けば何でも答えてくれ記憶の始まりからその後に起きたことも話してくれた。

現在の見た目からは想像もつかないほどの過程。

文字通り人間どもに汚され摩耗していった精神。

隣で聞いている咲夜もまた何か感じることがあるのか何とも言えない表情で琥珀を眺めている。

 

しかし私自身は改めて琥珀の異常性に目がいってしまった。

確かにそれは人格を歪め二度と人として立ち直れないかもしれないほどの出来事であったかもしれないのだ。

 

実際に人は弱い。

肉体も……そして何よりも精神が脆弱な生き物だ。

それが幼少期にそれだけのことがあったのなら立ち直ることすら不可能であったかもしれない。

だがしかし琥珀は今此処に居る。

吸血鬼の私に正面と話し合えるだけの精神とそして人としての感情もまた確かに持って此処にいるのだ。

それはまさに賞賛と驚愕に値するだろう。

 

だが、私が本当に驚いているのはそこではない。

それだけの穢れ、あるいは汚れを……例え神の系譜に連なる者でさえ堕ちていくほどの経験を経てなお、彼女はなお彼女は目を細めたくなるほどに――眩しく美しい。

それは、伝承の中にすらでてくる神に捧げる為だけに、一切の穢れを帯びないよう育られた者すらも凌駕するほどに。

 

だがここまでは分かる。

現象としては納得できないが、それでも理屈の上でならまだ……理解できる。

それだけの魂を……精神を人に穢されてなお穢れないほどの器を琥珀が持ち合わせたいたという、ただその事実だげならばまだ分かる。

 

 

 

だが……驚愕すべきことはもう一つ。

彼女の中にあるソレ――。

 

八雲琥珀という存在を言葉で表すならば、清純、清浄、純潔、純白。

このような言葉が並ぶだろう。

だからこそ彼女は我ら妖とはまさに……対極に位置する存在。

妖という存在から最も遠い場所に住む存在と言えるのだ。

 

 

だが、先ほど八雲紫の名前を出した時に一瞬見せたあれは……何だ。

声が変わったのではない、表情が変化したのでもない。

けれど確かに彼女の纏う雰囲気が変わり――。

 

 

それは……顔を愉悦に歪めた。

まるでこちら側の存在であるかのようで。

 

 

なんだそれは……。

お前は一体そのうちに何を宿しているというのか。

それは何だ。

お前の内に宿すそれは何だ。お前は一体何ものだ。

 

そして何よりも、そんな異物を同居させているからこそ、ただ清純な存在なだけではないからこそ。

これほどまで妖である私を惹きつけるだけの輝きを持っているかのようにすら思えるから。

 

どのような過程をもってそれほどまでの領域に至ったというのだ。

生まれ落ちた血が原因か……?

 

いや……違う。

それも確かにあるのかもしれないが。

それだけが原因になるものか。

そもそも彼女に血の因果など関係ないのかもしれないと感じるほどに――。

八雲琥珀という存在は歪に感じるからこそ。

だからこそ……分からない。

 

だからこそ――本当に面白いと感じるからこそ。

 

 

私はお前のことを知りたく仕方ないんだ。

もっともっとお前のことを話してくれ琥珀。

 

 

「それで、それからお前はどうしたというのだ」

 

 

気が付けば料理も全て片づけられ私と琥珀は紅茶を飲みながらの会話になっていた。

途中からは会話に夢中になり自分が何を食べていたのかもあまり覚えていないがな。

そして紅茶を片手に私は話の続きを促した。

 

琥珀が歩んできた道を聞くために。

彼女が歩んできた過程を知るために。

そして琥珀の話が続く。

 

それは満月の夜に屋敷を逃げ出したところから始まり。

そして一つの邂逅に繋がった。

それまでとは比べるほどのないほど琥珀は饒舌に語る。

 

とある化け物によって死を迎えそうになったこを。

けれどもそうはならなかったと。

化け物の前に一人の女性が現れた。

そして次の瞬間そこは幻想の世界に包まれたと琥珀は語る。

 

琥珀はそんな彼女が造りだした光景に。

どれほどその光景が美しかったか。

その憧憬に魅了されたのか。

その幻想世界を作りだした存在に恋い焦がれたのかについて。

琥珀は詳しく。本当に詳しく話してくれた。

 

そして自分もまたそこに至りたいと思ったと琥珀は語る。

その光景を造りだした彼女と同じ世界に世界に行きたいと。

その思いを彼女に話したところ自分に名前をくれたことを話す。

そしてその名前が今の自分の全てであるところまで語ったところで琥珀の話は一段落が終わった、

 

 

「そしてお前は彼女に……八雲紫に憧れた……というわけか」

 

「……憧れ? うん……憧れ。始めはそう……憧れだった。紫様の造りだす世界が美しかったから。紫様自身が……何よりも綺麗だったから。だから憧れた。でも……違う。私が琥珀になった時に……紫様が私を琥珀としての生を与えてくれた時からそれは誓いとなる。私が紫様の世界に至るという。私が紫様のモノになるという。私が、紫様と共にあり続けるという――誓い。琥珀としての名と共に、私の全てに刻み込まれた想い。その想いこそが私であり。私の全てだから」

 

ああ……なるほど。

つまるところ琥珀はその綺麗な世界が全てなのか。

何もなかった琥珀が出会った唯一つの世界。その世界が琥珀にとって全てなのだ。

その綺麗だと思う世界によってのみ琥珀は出来ているのだろう。

目の前に現れた光景に憧れ恋い焦がれ綺麗な世界によってのみ琥珀は出来ている。

きっと琥珀の目には八雲紫しか……彼女が創り出した世界しか映っていないのだろう。

 

 

だからこそ分からない。

人が持つ想い、欲といった感情は須らく汚れているものだからこそ。

強い欲を持てば持つだけ人としての魂も穢れていく。

だからこそ人は成長するとともに始めは白かった魂もあらゆる色に混じり汚れていくものであるからこそ。

稀に居る成長してもなおその魂に清純さを残している人間は――人としての欲や想いといった感情が抜け落ちているかのに希薄である。

 

だが……琥珀は違う。

始めはその淡々とした姿に、琥珀もまた想いを削ぎ落としてきたかのような存在であるかと思ったけれど。

けれど確かに彼女は強い想いを、欲望とすら言える感情を持ち合わせ。

それこそ――その想いはただ強いなどというものではなく、まさに琥珀の根底を担っているかのようで。

彼女の存在のあり方を決定しているかのようにその想いを抱き続けているという――まさに矛盾を孕んだ存在であるという。

それこそ神ほどの器を持ち合わせているならばともかく――なお見間違うことのない人としての器であるその姿を見て居ると。

 

もはや隠しようのない笑みを自身が浮かべていることを自覚しながらに。

もっとその根底にあるものを見てみたいと思うからこそ。

愉悦を浮かべならがに言葉を紡ぎだす。

 

 

「なるほど。良く分かったよ。お前は本当に八雲紫のことが好きなんだな」

 

「……ん。私は紫様を愛しているから」

 

「だが、琥珀。お前は本当に八雲紫のことを見ているのか? 彼女がどういった存在であるのか理解しているのか?」

 

 

それは世界を何一つ知らない雛鳥が初めて見た存在を自分にとって絶対の存在であると思い込んでいるかのように。

八雲琥珀にとって八雲紫という存在のただ上辺だけに憧れた可能性があるかもしれないからこそ。

 

そこを突っついてみたくなるのは――余りに自然なことだろう?

 

 

「……どういう意味?」

 

「お前が見ているのは本当に八雲紫なのかと聞いているのだよ。お前が見たものはただの幻想でありただ綺麗な部分しか見なかった偽りの姿だったのではないか?」

 

 

愉悦から来る高揚が止まらない。

このような状況になってもなお真っ直ぐにこちらを見据えてくる琥珀が堪らない。

その全てが白いというのに……そのただ唯一異質を放つ紅い瞳に見つめらえると、心の高鳴りが止まらないよ。

さあお前の答えを私に教えてくれ琥珀。

 

 

「紫様が幻想のように美しいというのなら……何も間違って居ない……よ?」

 

「く……クハハ。八雲紫が幻想的に……美しいね。フハハッハハハハハ。あいつはそんな言葉から最も遠い存在であるというのに」

 

 

そしてお前からは最も遠い場所に位置する存在なのだから。

そんな挑発するかのような言葉に――。

 

 

「…………なぜ?」

 

 

けれど琥珀は淡々と問いかける。

まるで変化を見せず。

ただその瞳を紅く光らせながらに見つめ続ける。

 

 

「そのままの意味だよ琥珀。八雲紫は綺麗などという言葉の正反対に居るのさ。お前とてこの幻想郷に来て感じているだろう。八雲という名前を聞いてここの住人がどういう反応をしてきたのか。みな畏怖し慄いているのさ八雲紫という存在に」

 

「……紫様ほどになれば人から畏怖されるのも……当たり前だと思う…けど?」

 

 

「そんな思考停止をしているからこそ、それがお前が八雲紫のことを分かっていないということだよ。ただ強いだけなら名立たる妖怪共まで八雲の名を恐れたりするものか。あいつはな琥珀。ある種どんな妖怪よりも妖怪らしい奴なんだよ。自身の愉悦をこそ優先しそれ以外の者一切の情けも容赦もなく喰らい排除し葬りさっているんだよ。あいつが綺麗――? ハッ! あいつがどれほどの血を浴び恨みを買いその上に悠然と立っていると思うんだ――。なぁ……琥珀。一つお前に昔話をしてやろう」

 

 

そう昔話。それは既に過去のモノとなった出来事ではあるけれど。

しかし、確かに此処で。この世界で起きた一つの真実を。

 

 

「嘗て……そう、吸血鬼異変と呼ばれる事件が起きた。まぁ……起きたと言うよりも私自身が起こしたというべきなのだがな。この世界に住まう妖怪が余りに情けなかったが為に起こした一つの戦争。欧州より連れてきた五十七の同胞と共に挑んだその戦争は――けれど私達の敗北であった」

 

 

気が付けば世界に妖気が溢れている。

誰の――? 決まっている私自身のだ。

自分自身では淡々と話しているつもりであったけれど。

ただ琥珀に嘗ての昔話をしているだけのはずが――。

 

しかし私は既に――抑えきれぬほどに興奮しているのだろうか。

 

まぁ……それは良い。

とにかく今は話の続きをしなければ。

琥珀が話を続きを待っているのだから。

 

 

「そう敗北。敗北だ。まさに惨敗だったと言って良い。そう八雲に。八雲紫たった一人によって私達は負けたのだよ。吸血鬼一族がただ一人の妖怪に手も足も出なかったが故に惨敗……。そこには覆しようのないほどの力の差が存在したのだよ」

 

 

まさか私が敗北した記憶をありのままに伝える日が来るなど思いもしなかったが。

しかし……そんなことは今はどうでも良い。

そんなことよりもお前はこの話を聞いてどう思う。何を考える。

その瞳に……先ほどからただ静かに私を見つめ続けるその紅い瞳に一体何を映す?

 

 

「だが、まぁ私は八雲紫に敗北したという――それ自体は別に構わなかったのだよ。私達を凌駕するほどの妖怪がこの世界に居るというのは、それはそれで面白いことだからな。だからそれは別に構わない。それは……な。だが、なぁ琥珀? 既にこの屋敷には私を含めて僅か六人しか住んでいないのだよ。たった六人だ。それも私の妹と私にとって最も近い者たちのみのな。ならば……そう、ならば――他の者たちは何処にいった? 我が同胞たちは何処に消えたと言うのだ――?」

 

 

既に私は椅子を立ち、琥珀の目の前にまで歩みながらに語りかける。

背に紅い月を掲げながらに、琥珀に向けて悠然と歩く。

そんな私の姿を見ながらに――けれど琥珀はなおも僅かな揺らぎも無く私を見つめ返しながらに。

 

 

「紫様によって悉く殺された……でしょ?」

 

 

思わず――快感が背を走る。

その事実を僅かな揺らめきも無く呟く彼女に。

そんな彼女の瞳に映る自分を見ながらに、たまらず興奮していく自分を自覚する。

 

 

「あぁ――。あぁ……そうだとも! 我ら吸血鬼一族は悉く殺された。我らに付き従う者たちも容赦なく惨殺したのだよ! その姿は……多くの妖怪の血の海で、ただ一人悠然と立つそのあり様は――まさに化け物そのものであったよ……。そんな奴が綺麗だと? ハッ! 笑わせるなよ琥珀。お前はあいつの表面しか見ていないんだよ。綺麗な幻想で覆われた醜さの塊こそが八雲紫の本質だ」

 

 

私は笑みを浮かべながらに琥珀へ語る。

本来あるべき奴の姿を。

妖怪としての八雲紫を。

 

 

「それにな琥珀。八雲紫がお前に気をかけているのもお前を餌として見ているからなのかもしれないのだぞ。お前という存在は妖怪からすらば極上の存在に見えるからな。クク……お前が成長したとこで生きたまま食い散らかすやらしれぬな。何といっても、八雲紫は古からの人喰い妖怪なのだぞ。そして何よりも、普段は自身の欲望を表に見せぬ奴こそが、何ものよりも欲望の塊とも呼べる妖怪なのだから。なぁ琥珀? お前はそれでもなお八雲紫に付き従うと言うのか? それを知ってなおお前の願いは変わりはしないと――そう言えるか?」

 

 

初めは八雲紫の表面しか見ていないかも知れぬ琥珀をただ突くだけのつもりであった。

この紅い吸血鬼の屋敷にあってなお僅かも揺らがず私を見つめ続ける人間を――動揺させるきっかえを掴むだけのつもりであったが。

 

しかし、気が付けば、興奮を抑えられなくなっていたのは私のほう。

奴の瞳に――奴の言葉に快感を覚えているのも私。

だからこそ。

そうだからこそ。

もはや隠しようもないどに、私はこいつを自分のものにしたいと思っているのを自覚する。

この綺麗なままに歪んでいる存在に、私は自身が魅かれている自覚するからこそ。

 

私はなおも――笑みを浮かべながらに言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「さらに……。さらにだ――お前がこれからも八雲の名を名乗り続ければ、八雲紫がこれまで行ってきた誹りを共に受けることになるんだぞ? 無慈悲に容赦なく他者を踏みにじってきた八雲の業をお前も背負うこになるんだぞ。クク……人間であるお前にそれに耐えられるか?」

 

 

そこまで話し……私は琥珀に向けて最後の一歩を踏み出すと――右手を差し出して。

そして、琥珀に向け最後の言葉を告げる。

 

 

「なぁ……私のものとなれ琥珀。私ならばお前に本当の美しさというものを教えてやろう! お前を襲うあらゆる事柄から私が守ってやろう! だがら――お前はただただ静かにこの屋敷の中で神秘と幻想に包まれて過ごせば良い……。お前が望む幻想を私が造りだしてやろう。だからこそ――私のものとなれ……琥珀」

 

 

私は右手を伸ばしたまま琥珀へと問いかける。

それまで私の話をただ静かに聞いていた琥珀はゆっくりと目を開くと……こちらを見据えてくる。

 

 

その紅い瞳で私を見つめながらに。

 

 

ゆっくりと。ゆっくりと琥珀は口を開く。

紅く――。なお紅く――。

そこには――私よりもなお、深く笑みを浮かべながらに――。

 

 

「……あは。あはは。ふふふふふ。あはははあはあははははははは」

 

 

それは――まさに愉悦に歪む人の顔。

人の欲望をその身に余すことなく描き出すかのように。

琥珀は高く高く笑いながらに言葉を紡ぐ。

 

 

「…………私が貴方のモノになる? 幻想を造る? 貴方が? あは――そんな。私の望む世界など造ることなどできない貴方程度(・・・・)のモノになるなど――あるはずがないと言うのに?」

 

 

そんな、まさに宣戦布告に近い言葉を吐く琥珀を見ながらに。

先ほどまでとはまさに真逆の雰囲気を醸し出すその姿を見れば。

 

ブルりと思わず躰が震える。

これだ――。

これこそが、奴が内包していたもう一つの真実。

奴が――琥珀がただ清純な乙女ではないというそのあり方を。

私は初めてその姿を見て居るのだと理解する。

 

その姿の何たる美しいことか。

ただ清純なわけではない、ただ穢れているわけではないその姿を。

 

あぁ……。そういうことか。

今こそ本当の意味で理解した。

お前の内にあるものを。

私はお前が清純なものの中に穢れに近いものを内包しているのだと思っていたけれど。

 

本当は……そんな穢れに等しい想いと聖域に等しい清純さの両方を全く同じくして持ち得ているのだと。

 

まさにあり得ない矛盾。

神と悪魔の同居に等しいそのあり方を。

どうすればそのような存在が生まれるのかど知らないけれど。

だが本当に……それがどうしようもないほどに面白いと感じるからこそ――。

 

だからこそ、私はそんな琥珀へとこちらももはや私の内に内包する妖力を一切隠さずに問い返す。

 

 

「……それは私がどういう存在が分かって言っているのかしら?」

 

「当たり前だよ――。紫様の足元にも及ばない程度の神秘しか内包していない吸血鬼……でしょ?」

 

 

愉悦に顔を歪めながらに。

そんなそれこそが世界の真実だと疑わない声で琥珀は語り続ける。

 

こちらの妖力を、全身に浴びながらに。

それでも心の底から湧き出てくる笑みを止められないかのように。

私が夜の王たる吸血鬼など一切の関係がないかのように強く強く語りかけてくる。

 

 

「それに紫様が私をお食べるになるだっけ? あは――。それこそ、それがどうしたと言うの? 紫様に食べて貰えるんだよ? それこそ――それこそ、それは恐ろしいまでに、素晴らしいのに。私は紫様のものだよ? ならばもしも紫様が私を食べになるということに、そうすれば本当に紫様のモノになれるというのに――そこにどうして否という思いがあるというの」

 

そう言って笑う琥珀。

熱に魘されたように呟く姿には……しかしそこには確かに理性の色が見受けられて。

しかし紡がれその言葉はもはや狂気にすら近く。

まさに清浄なままに狂気の世界に立ち行くその姿はまるで……。

 

「私が紫様の醜さを見ていない? そんなことあるはずがない。貴方は思い違いをしているよレミリア。私は紫様の成すことならば、その全てを美しいと思うのよ。紫様が他者を喰らうのならばそれもまた、素晴らしい。慈悲も容赦も無く他者を踏みにじる姿も――格別に美しい。同胞を惨殺する? 血の海に悠然と佇む? あぁ――それは、何て素晴らしいの。何故、私はその姿を見ることができなかったの? いったい紫様はどれほど美しい幻想で妖怪を殺したの? 血の海に佇む紫様の姿はどれほどまでに――美しかったの?」

 

 

頬を朱く染め。熱に浮かされるように。目を蕩けさせながらに。

琥珀はここではない別の場所を夢想する。

それこそが……自身の追い求める場所とでも言いたげな表情で。

 

 

「あは――。紫様がこれからも妖怪を殺すというのなら、私も殺すよ。紫様が血の海に佇むというのなら、私もまた血の海に浸かるよ。そして、その結果として私もまた八雲として他者から疎まれたとして……それがどうしたと言うの? 例え紫様がどれほどの、血と臓物を造りあげようとも、どれほどの罵倒と誹りを受けようとも――私はそれでも、それが紫様が造りだす世界だと言うのなら……そんな世界で紫様と共に嘲笑を上げ続けるだけだよ」

 

その顔には狂おしいほどの笑みを浮かべ、しかしその瞳には冷徹なまでに現実を映し出してこちらを見据えてくるその姿は……まさに、八雲紫そのものではないか。

 

 

「吸血鬼たるレミリア・スカーレットに教えてあげる。私の全てを捧げる相手は――天上天下に唯一人。八雲紫様のみと知れ」

 

「クク……クハハハハハ……クハハハハハハハハ。そうか! そうかそうか! そこまで狂うか八雲琥珀。ああ確かに。確かにお前は八雲紫のものだろうな。冷静に冷酷に周囲にその狂気を振りまくその姿はまさに八雲紫そのものではないか!」

 

 

たまらない。やはり琥珀はこちらの思う通りに……いやそれ以上に素晴らしい。

儚げに清純なその姿からは想像もつかぬほどにこいつは狂っている。

綺麗に美しく清浄なまま真っ直ぐに狂気の世界へと突き進むその姿は――本当にどうしようもないほどに欲しくなる。

 

ああ……もう遠慮などせぬよ。

八雲紫などもはや関係あるか。私はお前が欲しいと心から思ったよ八雲琥珀!

 

 

「素晴らしい……素晴らしいよ琥珀。お前はどうしようもないほどに美しく狂っている。だから……ああそうだから、私はお前が欲しい。もう一度あえて言おう。私のものとなれ琥珀」

 

「――何度でも言ってあげる。私の心は紫様のモノなの。だから――貴方に渡すところなんて一つもありはしないの」

 

 

周囲に妖気が経ち籠る。

もはや遠慮も躊躇いもありはしない。

今宵は満月。その光輝く月が屋敷の全てを照らす極上の夜なれば私もまた至高の存在となろう。

既にパチェと咲夜が結界の用意を済ませているならばもはやこの妖気を抑える理由など何処に存在しはしない。

 

 

「琥珀分かっているのか? 此処は紅い月を従える紅い悪魔の屋敷で――私はその主たるレミリア・スカーレットであるぞ。この場においてたかだか人間に拒否する権利などがあると思っているのか――? さあ! 八雲琥珀! 三度問いかけよう。私のものとなり永遠にこの屋敷の中に留まることを私の前に傅いて誓うが良い」

 

「あは――。私が頭を垂れるべき相手は紫様だけって……言ってるでしょ?」

 

 

 

ああ……本当に楽しい夜になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




吸血鬼異変について少しだけ設定をレミリアに語ってもらいました。
たぶんこの設定を掘り下げることは無い……はず。
けど実際のところ吸血鬼異変って何が起きたんでしょうねー?
今のとこは求聞史紀に少しだけ設定が乗ってるだけですしね。
できれば第一次月面戦争と合わせて儚月抄のように書物化して欲しいところです。
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