艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~   作:kasyopa

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サブタイの艦娘が出てきます。
まだまだ続くよ第八話。トラック島もプロローグから変わったなぁ…


第二十二話『鳳凰の軌跡』

Side 大和

 

 

私は今の私に出来る事をしよう。

吹雪さんと別れて、私は明日の朝食の下準備をしていた。

私がこの基地の居住性を高めたのも、私がおいしい料理を振舞うのも

『ホテル』と呼ばれるためじゃない。

 

大規模反攻作戦であるFS作戦を成功に導く為の、士気向上、維持のためだ。

だからこそ私はこの思考と腕を持って『艦娘』として生まれてきた。

そう思えるようになっていた。

 

「変わったな、大和」

「磯風さん」

 

寝巻に着替えた磯風さんが話しかけてくる。

眠そうにしているので、恐らく途中でトイレにでも行っていたのだろう。

元々このトラックに居るメンバーの中で、

私の事を一番気にかけていると言ってもいいのが彼女。

 

「吹雪と言う子に何か言われたのか?」

「そうですね。正確には涼月さんの教えですが」

「なるほど」

 

それ以上は何も言わない。彼女のモットーの様なものだ。

口が多いと何かに感付かれると言わんばかりの態度。

それでも何も言わないので何か知っている態度。

そんな彼女が居てくれると不思議と心地よさを感じる。

彼女もまた同じような状況にあるのだろう。私を呼び捨てにするくらいなのだから。

 

「朝にも言っていたが、明石の所には出向いたのか?」

「いえ、今日は何かとありましたので」

 

吹雪さんに連れられたりお昼や夕食の準備、日課の散歩。

呉から長門さんが移ってきてくれたおかげで、

指揮関係は彼女と彼女の補佐である陸奥さん、そして無線は大淀さんに任せている。

 

「そうか……大和の晴れ姿を拝めると思ったのだが」

「? 私の晴れ姿?」

「いや、なんでもない」

 

照れ隠しの様にそそくさと去っていく彼女。

晴れ姿と言うのは恐らく彼女の比喩表現だろう。

なら艦娘の晴れ姿とは一体……。

その意味が解るまで、そこまで時間を要さなかった。

 

 

Side 涼月

 

 

私達は昼食を終えた後、皆で揃って明石さんの工廠までやってきていた。

午前中は後片付けや島の食糧調達で時間が潰れてしまったので、

大和さん自身にも暇がなかったのだ。

 

「「涼月さん、ありがとうございます(!)」」

 

大和さんが工廠で改装を受けている時、私は舞風さんと野分さんに頭を下げられた。

あの夢の話だろうか。それでも私の憶測にすぎない為彼女達に聞いてみる事にする。

 

「夢のお話ですか?」

「そうなの! 私達、赤城さんに魚雷発射しなかったんだよ」

「そしてそのまま夢は覚めました。些細な変化ですが大きな変化だと思います」

 

そんな笑顔を浮かべる彼女達を見て、本当に感心する。

私はあの夢は自分の夢でありながら、抗うことなくそのままに流されていった。

結果は誰も沈まなかったが、それがそう言う結果だったからに過ぎない。

 

しかし彼女達は自らの意志で望まぬ結果を捻じ曲げたのだ。

赤城さんの雷撃処分。その結果を彼女達の出来る範囲で変える。

でも、それで十分だと思う。自分達に出来る事を一つずつ増やしていけばいいのだから。

 

「皆さん、大和さんの改装が終わりましたよー」

 

明石さんが工廠から顔を覗かせた。

その声に誘われるように私達は中へと進んでいく。

 

工廠には、いつか演習で見た巨大な艤装を装備した大和さんの姿が。

私は久しぶりに見る彼女の艤装を装備した姿に見とれていた。

 

「あの、あんまり見つめられると恥ずかしいです……」

 

大和さんが照れくさそうに頬を赤く染めている。

 

そんなことを言われてもかなり無理がある話である。

私達よりも大規模な改装を受けた彼女は、艤装の艦首部分についていた副砲を外し、

25mm三連装機銃をこれでもかと言うほどにまで集中配備していた。

 

「いやー大和さんの艤装はやっぱり改造し甲斐があるね」

 

明石さんが遮光面を外しながら汗をぬぐう。

大和さんの艤装を改造する時も見ていたのだが、

これでもかと言うほどの鋼材と弾薬を使用していた。

それこそ私達四人分の鋼材と弾薬を越えている。

 

明石さん曰く、大和さんの艤装を作り上げるのにも大型建造という特殊な建造方法で、

通常の戦艦の艤装を建造するよりも十倍ほどの資源量が必要らしい。

つまり改装するにもそれに見合うほどの鋼材や弾薬が必要となるそうだ。

 

「つまり私の演習が禁じられていたのは……」

「第一には航空戦力の強化の為の大型建造による新鋭空母建造と、

 大和さんを含む艦娘の改装、そしてMO作戦実行の為の呉からの戦力の移動です」

 

大型建造と私達の大規模な改装、そして戦力の増加に伴う資源消費を視野に置いての、

上層部からの命令だったらしい。

ここまで手際がいいともう何も言えなくなってしまう。

 

「しかし上も大和の改装の件を黙っていなくても良かったものを」

「多分上層部の御茶目なジョークだよ! 大和さん綺麗だから」

「舞風! すみません大和さん」

「いえいえ、いいんです。今まで努力していた事が、

 こんな形で実を結ぶとは思っていませんでしたから」

 

改装と言ってもここまで大規模な改装となると相当な練度が必要となるだろう。

練度が必要な理由は大きく武装が変わったり、艤装に変更が入る場合があるので、

低練度である場合艤装の操作や兵装の操作に体が追い付かないとの事。

また高練度であれば余裕も出てくるため、自ずと追加武装も可能になる。

そう言った意味合いの改装も存在するが、その例で言えば舞風さん達だ。

 

「後は、もう一つの大規模改装と言うものが存在するんですよ」

「もう一つ?」

「艦娘そのものの姿に影響するものです」

 

明石さんが説明したのは、にわかに信じがたいもの。

艦娘の姿に影響する物。そんな大規模な改装が存在するのだろうか。

しかし長く工廠で働く彼女が言うのだから間違いはないのだろう。

 

「とはいう私も、本部からの通達のみでしか聞いたことがないんですけどね!」

 

頭の後ろに手をやりながらも大きく笑う明石さん。

それを見て磯風さん以外は私を含めて苦笑しか出来ず、

磯風さんはやれやれと首を横に振っていた。

 

「そういえば、その大型建造とやらで出来た艤装を装備する艦娘は居るのか?」

 

磯風さんが話題を変える様に切り出す。

確かに艤装が存在したとしても、それを装備する為の艦娘がいなければ意味がない。

 

「それなら私が存じてますよ。

 今は呉の方々に見つからないようにしていらっしゃいますが」

「何故見つからないようにする必要がある」

「彼女もまた極秘建造された身なので、あまり公表したくないみたいです」

 

上層部の考えは良く解らない。

これも舞風さんの言う、御茶目なジョークと言うやつだろうか。

 

 

 

大和さんの改装も終わって私達は自由解散していた。

舞風さんは野分さんと泳ぎに出て、私は磯風さんに誘われて哨戒任務を行っている。

それに改装されて武装が変わったから、それを馴染ませるための出撃も兼ねている。

 

「哨戒任務は怠らないんですね」

「皆が平和に過ごす裏では、こうやって代わりに戦っている者もいるということだ」

 

そう言葉を続ける彼女。

彼女の改装は私よりも簡素な物であったが、

それでもインカムの様な対空電探を付けていたり、主砲が高角砲に変わっていたりと、

使い勝手で見ると非常に大きく変わっていた。

 

私の主砲は自分で直接狙う形から、

機銃の様に自らの意志で砲塔を回転させ発射する形になっている。

それに主砲の数が多くなったので両腿に替えの砲身を装備していた。

電探とは変わった物で明石さんの説明曰く、

反応があると何らかの形で数と方向を教えてくれるらしい。

 

「電探とは面白い物だな。目で見ずとも敵の位置を知らせてくれるとは」

「見張台の妖精さんと同化しているみたいですね」

「全く持って同感だ。だが、目で見て初めて意味がある。特に私の場合はな」

 

装備が変わっても自分で狙う事は変わらない。特に彼女の砲は拳銃の様な形である。

彼女の様にひたすらに戦い続ける彼女は戦いやすさを求めるのかと思ったが、

そうではなくただ装備を更新しただけに過ぎなかった。

 

「磯風さんはどうして私の様な改装をされなかったのですか?」

「そうだな……守る為の重みを知る為、か」

「重みを、ですか」

「敵を討つ重みは剣が最も感じられる。だが私達は艦娘だ。

 ならばせめて引き金の重みを知りたい。何、慈悲があるわけではないさ。

 ただ私は守る為には知らなければならない。戦いの重みと言うものを、な」

 

それを語る彼女の瞳は何かを捉えているようで、何かを知っているようでもあった。

 

『ワタシモ……』

 

『モドレルノカ?』

 

『アノアオイウミノウエニ……』

 

……もしかして彼女なら『彼女』の事を知っているのかもしれない。

もしかすれば、だが。

私が口を開こうとした時脳裏に何かが映る。それと同時に背後の妖精さんが空を指した。

 

「敵機観測、三時の方向、数4!」

「捉えたか。流石は秋月型だ」

 

その方向へ向けて主砲を構え……手に主砲が無い事を思い出す。

急いで艤装に付いている主砲を向けようとするが既にその角度を向いていた。

 

「対空射撃! てぇー!」

 

発射するも発射するが届かない。

磯風さんも発射しているが届いていない。

 

「っ! 届かないか」

「泊地に打電しましょうか!」

「……いや、待て!」

 

打電しようとしたところで、再び電探に何かが映る。

トラック泊地から新たな機影。数は六。

空を見上げると艦戦と思わしき艦載機が一瞬で敵の艦載機を全て撃墜した。

 

赤城さん達かと思ったが、艦載機を判別するための胴体帯が存在していなかった。

演習や任務で全員分の胴体帯は見ている為、誰の物でもない事を理解した。

 

「あれは……」

「なるほど、彼女が明石の言っていた新鋭空母と言うわけか」

 

磯風さんは艦載機が飛んで来たと思われる方向に視線を送っていた。

発艦させた時点で電探で探知、そしてその地点を見て特定したのだろう。

視線を追うとその先にあった崖の端で一人の女性が先程の艦戦を着艦させていた。

 

「行くぞ涼月。見張員達に彼女を追わせてくれ。礼を言うためにな」

「解りました」

 

電探では肉眼で劣る事もある。だからこそこの子達を連れているのだ。

だがまさかこんなところで役に立つとは思いにもよらない事で。

私達は最寄りの浜辺に上がり、彼女の居る崖へと駆けだした。

 

 

 

「今日もいい風ね……」

 

崖の端では先程の艦娘が風を感じていた。まるで誰かを待っているかのように。

 

茶髪で短めの髪ではあるがもみあげが肩に掛かるほどの長さで、

耳の上には電探とも思われる羽のようなものが付いていた。

服装は私に似ていてスカートの色は赤、腹部は装甲でおおわれている。

上衣は白の薄着であったが、脇の下は大きく露出していた。

 

そして何より特徴的だったのがその艤装。

腰に付けられた艦艇を模した飛行甲板、そしてその右手には弩を持っている。

 

「先ほどはありがとう。君のお蔭で助かった」

「いえ、当然の事をしただけです」

 

胸の前に拳を置いて、静かに目を閉じる彼女。

その姿は非常に小柄ではあったが、その風格は確かに空母そのもの。

名乗らないと失礼にもあたるので名乗り出る事にしよう。

 

「秋月型駆逐艦三番艦、涼月です」

「私は陽炎型駆逐艦十二番艦、磯風だ。君の名前を伺いたい」

「大鳳型一番艦、装甲空母『大鳳』です」

 

装甲空母という彼女はどういうものなのかは解らない。

通常の空母とどれほどの差があるのだろうか。

それでも彼女自身の実力は相当な物だと先ほどの航空戦で解った。

 

「そうか、大鳳か……」

 

一方の磯風さんは何か思う事があるのか、その名前を呟いていた。

 

「また守る者が増えてしまったな」

 

『生憎、私はそう言う夢は数えきれんほど見てきたのでな。

 ならばそれを繰り返さぬように鍛錬を積み、この世を生きるだけだ』

 

不敵な笑みを浮かべる彼女の顔を見て、私は以前言っていたことを思い出す。

つまり大鳳というこの人は彼女の夢に出てきたのだろうか。

 

「……? 私は貴女達を守る為にここに配属されたのですが」

「いや聞き流してくれ。ただの独り言だ」

 

彼女の不敵な笑みから図れる物など私からすれば僅かな物でしかないが、

それでも彼女の何かを知る為には必要なのかもしれない。

 




大和の改造と大鳳さんが登場。

こちらの世界の設定では、艤装は装備しない限り展開できないという設定なので、
どうしてもあの部分で大和さんが咄嗟に装備して迎撃、と言うのが不可能になりました。

大鳳に胴体帯がないのはアニメ基準。調べても出なかったのもありますが。
涼月自身は赤城・加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴の胴体帯を全て見たことがあるので、
判別が不能だったという事です。

因みに大鳳さんがクロスボウなのはそれなりの理由があるらしいのですが、
アニメだと普通に空母の上位互換チートにしか見えたなかったのはなぜ……

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