上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第九十二話 探り当て

 魚津城城外の一向一揆勢本陣である長円寺には累々と一向一揆勢の正規兵、民兵問わず屍がごろごろと転がっている。

 改めて終わった戦場を見ると龍兵衛は臓器、特に守られていない首から上のぐちゃぐちゃしたそれが飛び散っている斬り殺された死体と真っ黒に焦げあがった焼死体ばかりで思わずどちらが見ていてマシなのか比べてしまいそうになった。

 実際、その前に戦後処理が忙しいのでそんなに暇も無い。という言い訳の中だが、死体の処理も仕事なので嫌でも見入ってしまう。

 もう慣れているので特に気分が悪くなることはないが、見ていて何かが高ぶる狂人でもない。

 下らない私情を捨てて戦後処理を進めていると弥太郎が見当たらないので探し回るが、なかなか見つからない。はて、と思った龍兵衛に一つの素晴らしいひらめきが起きた。

 そのひらめき通りにその場所に向かうと案外簡単に見つかった。

 正確にはまさかと思って行った所にいてしまった。

 天を仰ぎたい気持ちを抑えて取り敢えず切れたい気持ちは流しておいてお互いを労い合った。

 

「来ると思っていましたよ」

「『思っていましたよ』か。推測でよく判断したものだ」

「取り敢えずあの難所を潜り抜けてもおそらく休みなしで来るとは思っていました」

 

 魚津城に向かうには北陸道を通って行くのが最も早いが、その道中には親不知という大きな難所がある。

 親不知は現在の新潟県糸魚川市の西端に位置する崖が連なった地帯で親不知と子不知に分かれるが、この二つを総称した名称も親不知である。

 親不知の名称の由来は幾つの説があるが、有名なのは壇ノ浦の戦い後に助命された平頼盛が越後で落人として暮らしていたことを聞きつけた奥方が京都から越後国を目指してこの難所に差し掛かり、難所を越える際に連れていた子供が波にさらわれてしまった。その時、悲しみの歌を読み、それが由来とされているというものである。

 とにかく断崖を海岸沿いに歩かなければならないので油断をすれば海に真っ逆様だ。

 龍兵衛達もそこを通った後、休まずに魚津城に入ったが、それは春日山城で十分に休憩したのと一向一揆勢が未だどこまで来ているのかきちんと分からなかったからだ。

 だが、援軍の場合は魚津城の状勢を細かく知っていた筈だし、慌てて派遣されたものだからどこかで一度休憩をするべきであった筈だ。

 

「段蔵の報告で急を要するとの判断から無理をしたのだよ。段蔵は不満げだったがな」

「ちゃんとそれなりの特別報酬はあげましたよ」

 

 結構ねだられたらしく、龍兵衛は眉間の皺を指で押さえながら懐が寒くなったことを寂しげに語る。 

 実際、軒猿には今回加賀の状勢を探り、魚津城周辺の一向一揆勢の動きや味方及び敵の援軍が何処にいるのかとたくさん動き回ってもらった。

 弥太郎や龍兵衛達によってかなり使われたということで段蔵にあげた褒賞には金にシビアな龍兵衛は人知れず唇を噛んだ。

 

「まぁ、その話は脇に置いて、正直予想外でしたよ。あの本陣への夜襲は」

 

 援軍に来た時は本陣に火を点けて欲しいと密かに兼続を通じて知らせていたが、少なからずも燃えているように見えた魚津城を顧みずに一向一揆勢の本陣を火攻めをするとは意外だった。

 第一にあの策は均衡を破る為に考えた局地戦を勝利する為のものであって援軍がやってくるとは龍兵衛はおろか、城主の朝信も知らなかったことだ。

 間違いなく、あの夜では戦況など分かる筈もないのに迷わずに一向一揆勢の本陣に奇襲をかけたことは嬉しい誤算であった。

 

「感謝するなら兼続に言えよ」

 

 疑問を口にすると弥太郎は自分ではないと頭を振りながら言った。

 弥太郎率いる援軍は疲れを見せずに恐ろしい速さで魚津城に到着したは良いが、城内で炎が上がっているのを見るや弥太郎は急いで魚津城に入るべきだと判断した。

 しかし、兼続がこれに待ったをかけ、魚津城はまだ落ちている訳ではない。これはおそらく味方が罠を張ったのだろうと判断して弥太郎に背中が空いている敵本陣を攻めるように進言した。

 結果として弥太郎は兼続のことを信じて本陣を奇襲し、兼続の指示で火攻めを敢行した。

 朝信曰わく、あの二人の戦運びは相も変わらず見事な相性であったそうだ。

 本陣を焼き、逃げ出したところに鬼小島と武芸をその鬼に習った者に逃げ出した疲れも癒さずに立ち向かえるのは傀儡のような遮二無二突撃するように教え込まれた兵ぐらいしかいないだろう。

 今回はそれが仇となり一向一揆勢は逆に犠牲を増やす結果になってしまった。 

 敵の死傷者は龍兵衛と兼続が出した計算で三万の内の一万に上る可能性がある。

 上杉の援軍を含めた約八千の戦力でそれだけの兵を相手にして勝ったのだから十分過ぎる戦果である。

 故に皆の勝ち鬨が天高く響き渡った。そして、その士気が高いままに帰還したのだから戦後処理を終えたら酒宴を開きたいと思ってしまうのは当然だろう。

 だが、まだ昼で戦後処理もやっておかないと駄目だ。

 

「早いですよ。酒を喰らうの」

「何を言う。酒は飲むものだ」

「弥太郎殿の飲みっぷりは喰らうと言った方がよく当てはまります」

「女として言いたいことがあるが・・・・・・これほど目出度いことはなかなかないだろう」

「皆、外で色々まだやっているんですよ」

「この城の主は朝信だろう?」

「援軍の大将は誰ですか?」

「援軍は援軍、私はあくまでもたまたま援軍の大将になった訳で、魚津城の城主が一番上だろう?」

「でもですね・・・・・・」

 

 ああ言えばこういうの繰り返しだが、端から見れば明らかに龍兵衛の言うことは正論である。

 要は、一向一揆勢を撤退させて、魚津城を解放して、一向一揆勢の多数を殺したことが今後の上杉にどれほど大きいものかを知っていて、その景気祝いということだ。

 だが、物事には常に裏がある。弥太郎が酒を煽るついでにぼそっと龍兵衛は聞いてみた。

 

「本心は?」

「しばらく飲んでいなかったから飲みたいからだ」

「・・・・・・はぁ」

 

 戦後処理を放っておいて飲んでいた理由が予想通り過ぎて一気に脱力した身体を再び起こすには力が必要だった。「素直についてそう言えよ」という不満を心に閉まっておいて立ち上がって部屋を出ようとするが、背中に声を掛けられた。

 

「お前も付き合え、戦勝後の夜は長い」

「結構です」

「ほぉ、お前の本性をばらしてもいいのか?」

「ならば、弥太郎殿のことを兼続あたりに先に言うとしますか」

「・・・・・・待て、話が・・・・・・」

「お断りします」

 

 数秒もおかずに素早くきっぱりと言い切るとさっさと部屋を出て、辺りをきょろきょろと見回す。

 龍兵衛の立っている所からは見えないので歩いて探していると探していた人物はあれやこれやと城内の戦での後処理を行っている。

 天気は秋晴れと言っても良いほどの暖かい気温と太陽で汗も出てくるような気候だ。

 

「龍兵衛、お前も手伝ってくれ。この有り様ではどうも手が足りん」

 

 現に声をかけた兼続も忙しそうにしていて汗で額や頬が少し光っている。それを拭うことも忘れて懸命に働いているのは兼続らしい。

 言われるがままに兼続の下に向かいながら辺りを見回すと改めて累々と屍が転がっている。これを見ても罪悪感など微塵にも感じなかった。

 晴貞という物欲者の傀儡となり果てたことに同情はする。しかし、同時にこれが富樫晴貞への怒りだとしたら悲しみや哀れみといった感情は無くなってしまう。

 

「(この人達もあんなでも晴貞を信じていたのか。まぁ、これはこれで良かったのか・・・・・・)」

 

 内心の言葉が溜め息となって出てきそうだ。もっとも、今回は無情なことばかりが続いた気がしてならない。

 一応は心の拠り所があるままに死んでいったのだからそれから解放して虚脱感を味わい、それに耐えきれなくなって本当の狂人になるよりはましだったかもしれない。

 それでは彼の信条である筈の生と反している。だが、所詮は人のことを押し付けられるのは他人には良い迷惑でしかないだろう。

 信条といっても共有するものを信条とは言わないし、別に分からない人達に分かってもらおうとは彼も思っていない。

 それに彼もどれほど言っても付いて来ようとしない人を許す程、そこまで優しい人ではない。 

 ぼけーっとしているように見えたのか隣の兼続が睨んでいるのに気付いて目を逸らして口元を手で覆って誤魔化す。

 殴られなかっただけでも今日はついているのかもしれない。

 しばらくは黙って手伝っていたが、魚津城内にも燃え落ちた松明の炎に巻き込まれた焼死体を片付けていると敵本陣のことが鮮明に脳内で映ってくる。

 そう考えるとそれを実行した隣にいる兼続も同様に民兵の大半を焼き殺したのだからそれなりに辛い感情があるのだろう。

 

「なぁ兼続、民兵達は惨い死に様だったか?」

「なんだ。藪から棒に・・・・・・まぁ、たしかに心は痛む。本来なら殺さないでおけた者達だからな」

「やっぱり、お前もそう思ったか、俺もだ。しかし、そうせざるを得なかった。特に最初はな」

「どういうことだ?」 

 

 首を傾げる兼続を見て龍兵衛は弥太郎や兼続に援軍が来る前、なおかつ援軍が近いという報告が来る前の魚津城を囲む一向一揆勢の戦陣がどのようなものであったか話していなかったことを思い出した。

 報告をしておいたので大丈夫だろうが、義に篤い兼続が聞けば憤慨しそうな内容は避けておいた。だが、いずれは言わなければならない。

 これは案外良い機会だと感じた龍兵衛は「怒らず最後まで聞けよ」と釘を差した上で一向一揆勢が取った戦術を説明し始めた。

 兼続も最初の内は釘が利いていたのか普通に相槌を打ちながら聞いていたが、晴貞のやり方にはやはり怒りを感じたのか次第に怒気で顔が赤くなり最後には「下衆が・・・・・・」と舌打ちを一つした。

 

「報告を聞いて覚悟を決めておいた。正解だったようだが、お前の方が長く民を相手にして随分苦しい戦をしたのだろう?」

「いや、俺も覚悟していたからそれほどでもなかった・・・・・・ああ、それよりも、火攻めは見事だったな」

「そ、そうか、ま、まぁ、役に立ったのなら何よりだ」

「ああ、前もって頼んでおいただけもあるが、予想の遥か斜め上だった」

 

 普段はあまり褒めないでいがみ合っている龍兵衛からの予想以上の賛辞を貰って兼続は戸惑ってしまったが、案外満更でもなさそうに今度は照れくさそうに顔を赤くしている。

 だがここで「ただ・・・・・・」と龍兵衛が間を置いて少しにやっと口元を歪めた。

 

「あの難所を通り抜けた後休みなしで通ったのは如何なものかと」

「なんだと? まるで私がやったような物言いをするな!」

 

 思った通りに兼続はくってかかってくる。構わずに龍兵衛は兼続に目を会わせずに明後日の方向を見ながらニヤニヤと笑って続ける。

 

「あれ、違ったの?」

「当たり前だ! というか、お前達だって私達が来なければ危なかったくせに言えた立場か!?」

「まぁ、来なくてもあと一週間は保たせる予定だったし~」

「今程時が戻ったら良いと思ったことはないな」

「むくれてもさっきの発言は撤回する気はさらさら無い」

「・・・・・・良かろう。そこまで私を怒らせたいのなら決着を付けようではないか」

 

 すらりと刀を出そうとする兼続は想定外だった。大慌てでそれを必死に「冗談だ!」と口と手で止めると姿勢を正して改めて頭を下げた。

 

「まぁ、実際に結構やばかったから感謝するさ」

「まったく、最初からそうしていれば良かったものを・・・・・・素直じゃないなぁ」

 

 溜め息混じりの兼続に「お前の方がよっぽど」という激怒間違いなしのツッコミを入れることを強引に喉元で押し下げて龍兵衛は続ける。

 

「で、だ。武田の方はどうなっているのか情報はないのか?」

「ああ、謙信様から状勢のことはまだ届いていない。だが、見立ては私達の考え通りと見ていいだろう」

 

 今回の戦に武田がでしゃばってきたのは時の偶然というものであった。

 それが一向一揆勢の援護になった訳だが、上杉に武田がまだ落ちぶれていないという示威が目的であったと颯馬や兼続は考えていた。

 もちろん魚津城が落ちれば機に乗じて越後に侵攻する準備は整えていたのだろう。

 

「それにしても武田は上杉に対して存在意義を見せてもその代償を考えなかったのか?」

 

 敗戦続きの武田が何もせずに撤退する。これは兵や民からかなり不満が出るに違いない。

 ただでさえ甲斐や信濃は肥沃な土地とはいえないにもかかわらず、出征が続いて軍の立て直しを図る為の金が無いとなれば税を取らなければならなくなる。

 その負担が返るのは民である。一揆が起きるとは考えられないが、国の柱である民の感情が悪くなるのは今後に影響が出かねない。

 さらに民に影響が出るということはそこを納めている国人衆や豪族も収入が減るのでその場その場の損得勘定で動くかれらの不満を募らせるばかりだ。

 それについては、龍兵衛は頭を振って否定する。

 

「まさか、そこまで武田信玄は馬鹿ではない。そうでなければ謙信様とあそこまで渡り合えた筈がないだろう」

 

 そう言われると兼続も首肯せざるを得ない。しかし、その信玄だからこそ今回の意味のない出陣が気になる。

 今、考えても仕方ないが、また後手に回るのは少々歯痒い気もしてきた。

 

「また後手は嫌だから今度こそ先に動こうなんて考えてただろ?」

「ぐっ・・・・・・そ、そんなことはない!」

「嘘付け、その言い方が嘘を付いていると言っているぞ」

 

 不意に兼続が顔を背けて顔を赤くした。それだけでもう龍兵衛には嘘だと分かった。

 案外というか、やっぱりというか、分かりやすい。迂闊にも笑い声を堪える不自然な声が出てしまい、慌てて咳払いで誤魔化す。

 刺さるような視線が先程よりも強くなったのは龍兵衛の気のせいだ。

 

「とにかく、上杉も武田も今回の戦はかなりの強行であったことに変わりはない。しばらくは武田よりも西への進軍を盤石にする為に背後を固めることに集中出来る」

「とはいえ、水原殿達の方も強行であることに変わりはないんだよなぁ」

 

 軍師二人はまだ眉間の皺が取れていない。夏から秋にかけて米は収穫前の大事な時期である。その時をして兵を徴収してまで出陣したのだから上杉も武田も少なからず民の不満は出てくるだろう。

 

「揚北衆の方々は、大丈夫だろうか?」

 

 龍兵衛が一番懸念しているのは中条藤資亡き後の揚北衆のことも考えると憂いが内側にあってはかなりまずいということだ。

 後を継いだ中条景資は基本的に謙信に従順だが、揚北衆の絶対的な首領であった藤資が亡くなった今、憂うのは揚北衆の反乱である。

 元々、上杉家家中で強力な軍事力を持っている揚北衆は阿賀野川付近と拠点にしている為、謙信とは反目し合っていた。

 その揚北衆内部でも対立関係がある為に今回の強行軍に不満を持った者達が対立関係にある別の揚北衆を倒すことも考えられる。

 武田や一向一揆勢に協力して反旗を翻す気配は今のところ無いが、いずれは起きるものだと見ていても損はない。

 

「案ずるな。私が謙信様に危ない連中は東北に向かうように仕向けておいた」

「えっ、俺聞いてない」

「あの時、お前は吉江殿と一緒に魚津城に行く為の策を練っていただろう」

「あぁーそうか、あの時期か・・・・・・そういえば竹俣殿も揚北衆の一人だぞ?」

「あれはそこまで気にすることはあるまい。それを言ったら『水原殿も揚北衆だぞ』と言っているようなものだ」

 

 急に真剣になった龍兵衛を兼続は言葉で抑える。竹俣慶綱はとにかく真っ直ぐの一本気な性格で、主家に仕えることを誇りとしている武人である。たしかに彼女を憂うのは無意味だ。

 龍兵衛も「それもそうか」と眉間の皺を取ると戦後処理をしながら今後をどうするのか話し合う。

 兼続が謙信から伝えられた命を聞いた後に今のところ入っている情報を話し合う。

 東北の状勢は新しく降った戸沢道盛の活躍でかなり順調らしく南部がもしかしたら降伏するかもしれないらしい。

 葛西・大崎は相変わらず頑強な抵抗が続いているが、元々仲が悪かった者同士での戦いがずっと上手く続くとは思えない。

 北の稗貫が援軍を出していることもあるそうだが、南部とのことがある以上、そこまで長居することは出来ないだろう。

 取り敢えず、東北の憂いを絶ち、南下、西進の為の初期段階はこのままだと順調に終わりそうだ。

 後は南部がどう出るかが問題であるが、何でも降伏派と決戦派に分かれているらしい。上杉としてもなるべく戦は避けたいので降伏派を支援するつもりだ。

 

「火種を潰すにはもはや安東の残党は消す以外しかあるまい」

「同感だ。しかし、謙信様は降伏すれば殆どの者を許しているのに何故降る選択を選ばないのだろうか?」

「そりゃあ・・・・・・」

 

 言いづらそうに一呼吸置いて、龍兵衛は改めて口を開く。

 

「謙信様の絶対的な正義が理解出来ないんだろうよ」

「解せないから、だと。たしかに分からない者達に同情の余地はないか」

「え・・・・・・」

 

 おとがいに手を当て冷静に頷く兼続を見て、驚愕の声が思わず漏れ出てしまった。「どうした」と首を傾げる兼続に「何でもない」と首を振ると正面を向いて驚きを必死で隠した。

 

「(あの兼続が、謙信様を非難するような言葉に怒らない!?)」

「まぁ、分からない前に分かろうとしない者達には私も興味は無いのでな。身に染み込むまで謙信様に刃向かった後悔させてやるだけさ」

「(・・・・・・大分黒くなったな。お前)」

 

 

 

 それから一、二時間が経ち、一旦休憩に入った時に兼続があることに気付いた。

 

「そうだ。お前、小島殿を見なかったか?」

「えっ・・・・・・あ~・・・・・・あ、はははは」

「あーこらこら、笑いながら逃げるな」

「おいおい、声と態度が釣り合ってないぞ?」

 

 優しい声と裏腹に痛い程に掴まれた背中から何故か怖い雰囲気が刺さっている。

 すーっと逃げたいが、力がどんどん強くなっているのは気のせいではなさそうだ。

 

「素直になれば説教は免除してやる」

「向こうの倉庫に行けば全てが分かる(これはツイてる)」

 

 出された取引をすぐ受け入れて先程までいた方向を指差す。

 単純な算盤計算でも兼続の説教を弥太郎と一緒に受けるのと兼続の代わりにこの場の戦後処理の指揮を執るのは明らかに良過ぎる取引だ。

 ずんずんと進んで行く兼続の背中を見送りながら休憩を終わらせて龍兵衛は兵に混じって手伝いながら戦後処理を急いだ。

 途中で誰かの悲鳴が聞こえた気もするが、誰も気にしなかった。

 

「(やっぱり、今日はツイてるな・・・・・・)」

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