上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第百〇八話 丁か半か

 寺池城の城内は半ば色めき立ってきた。佐沼城の陥落は葛西の将兵に驚愕と疑念を持たせ、裏切り者がいるのではないかという思いを嫌でも植え付けた。

 千葉広綱と大原守重に密かに内通者を捕らえるようにと命じた晴信の心境にも疑いという感情が少しずつ、はっきりと見えるようになってきた。

 だが、今更裏切り者が出たとしても冷静に考えればさほど驚くことはない。

 葛西が戦国大名へとなれなかったのは葛西独特の統治方法によって完全に上に立つということが出来なかったからであり、それから脱却する為の改革が晴信を含めた歴代の当主が反乱を恐れて実行することが出来なかった為である。

 後悔するような性格ではない晴信だが、少しだけ今は悔しさが疑念と共に心に芽生えていた。

 やはり及川騒動による及川一族の反乱によって内憂を処理する時間に追われて最後まで大崎との雌雄を決することが出来なかったこと。それに尽きる。

 かれらをさっさと退治することが出来なかったのは葛西の中でも最も大きな汚点と痛手を残すことになった。

 それでも晴信はうじうじと後悔することなく次の段階へと進んだ。しかし、及川一族の反乱に費やした犠牲を取り戻すことは最後まで出来なかった。

 

「って、最後じゃない!」

 

 不吉な思考に行っていたことを自覚して頭をぶんぶんと大きく振って思考を弾き出す。

 上杉の東北への侵攻を蘆名も伊達も最上も防ぐことが出来なかった。しかし、葛西が出来れば天下にその名を上げることが出来る。

 なかなか城内の士気が上がらないが、結んだばかりの斯波との同盟のこともある。

 易々と破棄してしまうことは許されない。斯波の領地に逃げ込むべきだという意見も広綱から出たが、大崎との同盟を組んでまで負け、また負けて今度は自分が治める領地から逃げるようなことはしたくない。

 

「晴信様、申し上げます。先日の件、判明致しました」

 

 外から守重の声が聞こえた。すぐに通すと彼はかなり険しい顔をしながら座る。

 

「実は、千葉殿に不穏な動きありという声が上がっております」

 

 座ってすぐに守重は時間が無いと言わんばかりに口を開いた。外の晴天が嘘のように鉛色の空が重い空気をもたらしてこの部屋のみを暗くしている。

 

「でも、広綱はそんなに人を裏切るような人じゃないよ!」

「私もそう思い何度も確認させました!」

 

 最後は守重も言い難そうに叫んだ。彼だって広綱がそのようなことをするとは信じたくない。 

 しかし、噂として流れて守重の耳にも入るようになり、確認させて間違いないと分かった以上は捨てられない事態である。

 

「本当なの? 確証は?」

「はい、私の配下が米ヶ崎城で不審な者を見付け、問い質したところ。懐からこのようなものが・・・・・・」

 

 震える手で守重は懐から書状を取り出して晴信に渡す。それだけでも広綱は慕われていることが分かる。しかし、事実を拭い去ることは出来ない。

 

「嘘、でしょ・・・・・・」

 

 書状から目を離すと晴信の表情には明らかな動揺があった。

 中に認められていたのは広綱に対して伊達の軍師である片倉景綱から、寝返りの件は了承した。もし寺池城を包囲した際に広綱は背後から奇襲を掛けて欲しいという旨が認められていた。

 

「晴信様、ご決断を・・・・・・」

 

 躊躇う。あれだけ真面目な広綱が謀反を起こすとは思えられない。しかし、目の前には決定的な証拠がある。

 

「晴信様!」

 

 迷いは捨てるべきだ。長々と考えていたところで不安を抱えたまま上杉がやって来る。益は何もない。

 

「・・・・・・分かった」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・分かった。こちらにも間者が潜んでいる筈だ。何かあれば報告してくれ」

「はっ」

 

 佐沼城に千葉広綱の処断の報告が入ったのはその二日後である。

 颯馬が受け取った報告はすぐに官兵衛や景綱に回ってきた。これによってかなり葛西との戦も流れが良くなる。

 こちらに潜む間者によって大内や二階堂の離反も噂されることが稀にあったが、事前に全て軒猿の調査と越後との強力な情報網で全て偽りであるということは証明されている為、動揺は一過性のもので終わっている。

 

「協力してくれてありがとね」

「なに、これぐらい朝飯前だ。そうだな、軍師冥利に尽きるとでも言っておこうか」

 

 官兵衛の謝辞に景綱はいつも通り、変わらずの不遜な態度で冗談も交えながら答える。

 三人は笑い合った。策の成功は軍師にとって最も心躍り、普通の武人には理解出来ない点がある。変人と言えばおかしいが、人と異なる視点や感性が無ければ奇策や謀略など上手く行くことは無い。

 全ては千葉広綱という有能で葛西の中でも広大な領地を持つ者を戦前に邪魔である故に排除してしまおうという考えの下で導き出された謀略。

 元々、官兵衛と景綱によって思案、実行されたもので颯馬は事後報告のような形でこのことを知った。

 もう少し余裕があれば葛西は調べることも出来た筈。ばれてしまう可能性も高い拙作だったが、失敗しても少なくとも疑いを持たせることぐらいは出来た筈だった。

 逆にこちらは更に敵を怒らせて冷静に城を落とす為の策を考えることも出来たというもの。

 それが成功してしまう程、広綱の謀反の疑いは衝撃的で時間が無い時に起きたものだったのだろう。

 

「それで、後任は誰になったんだ?」

「ああ、矢作重常っていう千葉よりも随分若い人らしい」

 

 景綱が首を傾げている様子を見る限り、あまり聞いたことがない人間だということが分かる。

 気仙沼郡を治め、葛西の中で最大勢力を誇ったことで名高い広綱の後任が景綱でさえよく知らない人物であるところを見ると葛西も人が足りていないことが分かる。

 葛西はもう詰んでいる。しかし、颯馬はどうしても眉間の皺を解すことは出来ない。

 

「しかし、どうしても腑に落ちないな・・・・・・」

「この佐沼城が呆気なく陥落した原因か? 私も腑に落ちないところがあるが、やはり葛西にはその程度の者しかいない。そういうことだろう」

 

 そう言われても気になるのが軍師としての性格である。颯馬はちらりと官兵衛を見やるが、気にしていないのか敢えて無視しているのか分からないが、彼女はもうそのことに関しては興味が無さそうである。

 

「片倉様、殿がお呼びでございます」

「分かった。では、私はこれにて」

 

 颯馬は景綱が振り向く前に自身の眉間に寄った額を見られたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 寺池城は北上川西岸の丘陵地に築かれた平山城で東は断崖となっている。西から北は両方から入り込んだ沢状の鞍部で城を仕切り、東・南・西まで弧状に堀が巡らされている。

 城自体は小さい為にどちらかというと北上川を使った交易を指揮する商業都市という扱いが強い。

 だが、寺池城を取りさえすれば葛西は完全に戦う意気も場所も無くなり、東北の流れは上杉に完全に流れ込んでくる。

 佐沼城での休憩もそこそこに謙信は葛西晴信が籠もる寺池城の迎撃の準備が十分になる前に叩くべく進軍を開始した。

 城の南、北上川沿いの丘陵に保呂羽館という大きな城があるとはいえ晴信は寺池城から動くことはせずにそのまま籠もった。

 官兵衛と颯馬は早過ぎる佐沼城の陥落を聞いてやはり葛西の中で疑心暗鬼の心が芽生えてきているのだろうと判断し、保呂羽館を大内定綱に任せて寺池城に眼前まで迫った。

 

「ここからは包囲を縮め、誰一人として逃がさないという構えだということを寺池城の者達に示せ」

『はっ!』

 

 謙信はすかさず諸将を集め配置する場所を命じていく。

 てきぱきとそれぞれに指示を出し、迷いの無い謙信の目がそれぞれの目に映り、嫌でも皆の身が引き締まっている。

 

「この戦によって葛西を討つ! まだ斯波との戦が残っているとはいえ、この戦に勝てばもはや斯波の命運は決まったようなもの。我らはこの戦で東北に平和をもたらし、天下統一への布石とするのだ!」

『はっ!』

 

 全ての将に各々の役目を言い終えると改めて全員に気合いを入れさせて締めとした。 

 続々と自身の部隊に指示を出す為に去って行く諸将達。そして、最後に残った政宗と目が合う。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 数秒の無言の後に政宗がすっと頭を下げる。そして、普段のように決して誰にも侮らせまいという堂々とした立ち振る舞いで去って行った。 

 その背中を謙信は慈愛と表現出来ない悪戯っぽい笑みを以て見ていた。

 

 

 

 その日の夜遅く。

 深夜にもかかわらず、政宗は主だった者を集めて自身の陣所に軍議を開くと命じた。

 

「おや、遠藤と留守。いつここに?」

「今日の夕刻に、物資を届けに参りました。これよりは戦に加わり、皆様をお助けする所存」

 

 最初にやってきた左月の問いに答えたのは一人は政宗達ほどではないが、武人らしい真っ直ぐな目をした若い男性、留守政景。

 もう一人は左月程、年は食っていないが、左月同様に若々しい老人、遠藤基信。

 二人共、伊達の重臣であり、左月に物言いが出来る数少ない人物でもある。

 今回は長江の抑えに回る予定だったが、政宗から物資の救援を理由に後事を綱元と白石宗実に任せて援軍として駆け付けた。

 中には寝かけていた者もいた為に目を擦って必死に眠気を堪えている者もいる。若干一名、完全に目が塞がっている者もいるが、その者には左月が頭に拳骨を真上から入れたおかげでぶーぶーと子供のような容姿に似合うように抗議していた。

 しかし、その和やかな雰囲気も政宗が陣所に現れると一変。緊張感が全体で行われた軍議よりも重苦しいものになった。

 それも政宗の出す気が鬼気迫るものになり、成実や綱元といった政宗の幼なじみ且つ双璧も何事か言えない程に近寄り難いものになっているからだ。

 

「ここからが我らの見せ場だ。決して他の者には言ってはならぬ」

 

 強い決意を持った政宗の目に伊達の重臣達の雰囲気は自ずと緊張感漂うものになった。

 その中で政宗の言葉を発する前の吸い込む息の音が微かに聞こえる。

 

「今宵、寺池城は我らの手で落とす」

 

 その言葉に先程までの雰囲気は雲散し、ざわめきが起こった。

 やはりというべきかまず左月が声を上げる。

 

「上杉様からは包囲を固めるように言われ、まだ出撃せよという命は出ておりませぬぞ」

「だからこそだ。今のうちに出て、戦功を上げる」

 

 政宗の迷いの無い発言に誰もが戸惑いを隠せない様子で隣同士の人と話し合っている。幼なじみの景綱や成実も政宗の言葉に驚きを隠せない様子だ。

 皆も政宗からは何も伝えられていない。政宗が一人で決めてきたことだ。そう思いながら景綱が政宗を諫めようと試みる。

 

「左月殿の言う通り、謙信様から何も言われて・・・・・・」

「既に命じられている」

 

 平静と驚愕。二人の目が合わさった時に伊達の陣は驚きと心躍るものが生まれた。

 政宗は誰も何も言わないのを見てすかさず机上に置かれた地図を指差す。

 それを見て景綱ははっと顔を上げた。

 

「まさか、南西の道を任されているというのは」

「そういうことだ。我らに功を立てれるものならやってみろという謙信殿からの挑戦状だ」

 

 蘆名が陣取っている南東からの道の方が三の丸、二の丸と続いていく為に確実に攻め上がることが出来る。

 対して伊達が陣取っている南西の道は二の丸に直接通じるが、道が南東の道よりも細く、この戦に大軍を注ぎ込んだ伊達には不利。

 更に三の丸からの攻撃を横から受ける可能性も高く、二の丸攻略に攻めあぐねていれば退路を断たれる可能性もある。

 傾斜が厳しい為に三の丸をわざわざ攻めることは難しい。時間が経てば有利になるのは守る葛西である。

 敢えて謙信はそこに配置したとしか考えられない。「やれるものならやってみろ」という声が政宗には先程の目と目の会話で聞こえてきた。

 一種の緊張感が漂った時、その空気を見事に読まない者が伊達にもいた。

 

「上杉から援軍は無いの?」

「成実、だから挑戦状だって言ったろ?」

「え、じゃあ。あたし達だけで落とさないと百万石の夢は無いの!?」

 

 件のことはまだ口約束だけで決まったことではない。言ってはいけないことを言ってしまった。

 成実に全員から冷ややかな視線が送られ「(分かったのなら口に出すな!)」そう言う思いを込めて成実の頭に治りかけていた痛みが再び政宗によってやってきた。しかも、同じ所に。

 泣きそうな顔で悶絶する成実は放っておいて政宗は皆に視線を直す。

 

「今や東北の地は平穏が訪れようとしている。しかし、それはつまり我らが領地を得ることは今後さらに難しくなるということだ」

 

 誰もが知っている。伊達は天下を望むことは出来なくなってもまだ大きくなることは出来るということを。

 

「この戦、我らが目立つ大きな功を立てる最後の戦となろう。いや、今後も大きな功を我らは必ず立てる。しかし、領地を得ることは難しくなる」

 

 政宗が欲するもの。それは百万石の領地。東北に戦乱が無くなれば功を立てても貰えるのは金か微々たる領地。

 好機を逃すことはあってはならない。しかも、最後になるかもしれないとなれば尚更だ。

 

「この戦、我らの野望の為に賭けに出るぞ!」

『応っ!』

「左月、成実。お前達は先鋒として二の丸を突破した後に直ちに本丸まで攻め上がれ。二の丸は無視して構わない」

「「はっ!」」

「常長、後陣を任せる。決して三の丸の動向からから目を離すな」

「承知しました!」

「政景は私と共に左月達が二の丸突破した後に二の丸を占領する。基信と小十郎はこの陣を頼むぞ。皆、決して遅れを取ることは許されないぞ。皆の者、良いな!?」

『応!!』

 

 すぐに伊達軍が動いた将は兵を起こし、これからのことを伝えられ、兵はすぐに行動を始めた。

 皆が揃い、準備が整ったところで政宗はすぐに出陣命令を下した。

 成実と左月の隊は二の丸へと続く細道を駆け抜けると入口のまず弓隊に手で指示を出す。そして、櫓にいる監視兵を櫓の篝火頼りで倒すと左月がすぐに二の丸の門を指差した。

 

「門を突破しろ!」

 

 左月の声と同時に門壊が始まる。寺池城二の丸からの防戦はあっても起きたばかりの兵の抵抗は微々たるもの。

 耳をつんざく音がして門が開かれる。それが成実の突撃命令の声よりも大きい何よりの命令だった。

 内側に入られた以上、数に劣る葛西には成す術が無い。

 

「敵襲ー!」

 

 そう叫びながら味方を起こそうとする者もいたが、首元を槍に突かれてすぐに倒れてしまった。

 

「伊達成実、これにあり! さぁ、死にたい者から掛かって来い!」

 

 成実がまず正面から一気に斬り込みを掛ける。先程まで左月と政宗に鉄拳制裁を受けていた者と同一人物には見えない。

 

「左月、背中は任せた。あたしが道を開く!」

「何を言うか! 若造が出しゃばる場ではない。前方はさっさと儂に任せて後ろを守れ!」

「うるさい! 伊達成実に後退の文字は無い! 皆、このまま押し通る。我に続けー!」

 

 そう言うと成実は口論を終わらせて一気に駆けて行ってしまった。

 普段は先頭に立ち、今回も立ちたかったが、持っていかれてしまった。しかし、たまには娘の真似をして若者の背中を守るのも悪くない。

 

「我らも遅れるな! この鬼に付いて来い!」

 

 左月がその後ろから成実の背後を守るように己も容赦ない攻撃を寝起きの葛西軍に浴びせる。

 

「申し上げます! 先鋒部隊、二の丸を突破!」

「早いな・・・・・・よし、叔父上、我らも行きましょう」

「うむ、行くぞ! 二の丸を占領する。政宗様直々の出馬だ。皆、武功を立てよ!」

 

 そこから伊達軍の動きは早かった。元々伊達の武器は機動力ということもある。それも上手く歯車が噛み合った結果になった。

 政宗が二の丸を占領した報告を受けた矢先に三の丸からも火の手が上がったのが伊達軍本陣の景綱と基信には見えた。

 

「蘆名も気付いたようじゃな。慌てた姿が目に浮かぶわい」

 

 笑っているのは分かるが、目が笑っていないところを見ると基信は面白くなさそうにしていることも分かる。

 蘆名はここから伊達に負けじと三の丸を落とした後に本丸まで攻めようとするだろう。なるべくなら他家には邪魔して入って欲しくなかった。

 伊達の一人舞台で幕を閉めたかったが、蘆名も南陸奥に佐竹や伊達に挟まれながらも一大勢力を誇った大名。みすみす利益を見逃すような真似は決してしない。  

 

「遠藤様、片倉様、蘆名盛隆様が参られました」

「ほう、主自らか。分かった、通せ」

 

 次の行動も早い。しかも、盛隆が自ら乗り込んでくる大胆なところもある。

 兵が外に出るとほぼすれ違いと言っても良いタイミングで盛隆は怒りの表情をぐっと堪えるようにして入ってきた。

 

「蘆名盛隆です。伊達政宗殿は何処に?」

「すまないが、政宗様はここにはいない」

 

 偽りを言ってはいない。それは盛隆にも伝わったらしく納得したように頷いている。しかし、それならばと盛隆は景綱を睨んだ。

 

「では、代わりにお答え願います。何故、包囲したままでいるようにという命を無視致したのですか?」

「それはお互い様ではないか? ここから見る限りだと三の丸にも火が上がっている。我らは貴殿らが控えている為に三の丸に攻め込むことは不可能。然るにそなたらも命を無視していることにならないか? 更に言えば、何故に家臣らを指揮せずに貴殿はこちらに来た?」

 

 盛隆の言うことは正論である。しかし、景綱もまた正論で返す。ここで退くことは出来ない。こうなることを予想して政宗は景綱を本陣に残した。

 景綱なら蘆名の使者に弁舌で勝利してくれるという絶対の信頼があるからだ。

 景綱もそれに応えるのが道理である。たとえ向こうが蘆名の当主であっても。

 

「富田隆実に指揮を任せています。私達は伊達殿が二の丸を攻めているのを見て、援護しようと動いただけです」

「だが、上杉様の命ではない。それは間違いないのだろう?」

 

 盛隆は押し黙っている。返す言葉が無いのか反論する為の言葉を探っているのか分からない。どちらにしても畳み掛けるなら今だと景綱は判断した。

 

「我らは上杉様の命で動いている。それ故、何ら問題はない。もし、偽りと思うのならば即刻、上杉様の陣に確かめに行かれるが良かろう」

「そう、ですか・・・・・・では、私はこれにて」

 

 歯痒い思いが背中によって伝わる。これで伊達が他の家から疎まれはすれども訴えられることはない。

 不意に視線が三の丸に行ってしまった。しかし、蘆名も蘆名で素早く動いただけのこと。もう気にすることはない。

 

「さて、これからは蘆名に負けることなく本丸と葛西晴信の首を取るのみか」

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