上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第百二十話 呪われた夏

 夏真っ盛り。という程まで暑くないはないが、少しぐらいは汗ばむぐらいの天候になってきた。

 景勝達が飯山城に入って二日目。全員で軍議が行われていた。

 

「結局、武田とはまたまともに戦うことは無いのか・・・・・・」

 

 一人だけ汗の量が違う義清のぼやきが飯山城に赴いた際の全てを語っていることは隣の兼続や景勝も否定しない。

 報告によると武田軍は六千強の兵が揃っているらしい。謙信の予想とは裏腹に信玄は先頭に立っていたという報告もあるが、もはや間に合う訳が無い。

 どう戦うか考えたが、兼続も龍兵衛も上杉直臣と帰り所が無いとはいえ他国衆と呼ばれる者との寄せ集めと野戦を行うのは分が悪いと考えて籠城を選択した。

 北条方面から援軍も近付いている為にかれらを待って城から出る。景勝もそれに賛同し、義清と信能も援軍が来ても埋まらない数の差を考えて頷いた。

 いよいよ武田がやってくるという前に兼続は糸魚川に築かれた根知城に毛利秀広を派遣して万全に期した。

 飯山城方面から根知城に向かうには北信州最大の山と言われる妙高山を越えなければならない。

 だが、万が一ということもありうる。

 飯山城の立地は千曲川を経由して越後妻有へ通じ、さらに飯山街道を経由して直接越後府中に通じる交通の要衝でもある為に信玄は何度もここを攻めている。

 飯山城は低い丘陵にある平城に近い平山城だが、千曲川の流れを水堀に取り込み、周辺一帯を囲む要害でもある。

 信玄が進路を変更するようなことがあれば根知城を包囲する武田を背後から襲うことも出来、その際は上杉も妙高山を越えなければならないが、いざとなれば葛尾城を奪取して武田を上杉の領内に封じ込めることも出来る。

 仮に飯山城を素直に攻めて来ても根知城から武田の横腹を突くことも可能だ。

 もちろん信玄が横腹や背後を取られるような真似をする筈がないと兼続も重々承知している。ただ飯山城に防戦を行う上杉が固まっていると知られるのは良くないという考えから敢えて実行した。

 普段から最悪の事態を考えて行動する龍兵衛でさえそれ程まで信玄が危険な策を実行することは無いだろうと無駄なことではないかと兼続に言ったが、結局は彼女に押し通されてしまった。

 

「もしかして兼続。ちょっと気合い入り過ぎてない?」

「そんなことはない! いつも通りだ! 変わりない!」

「(いや、目が燃えてるんだけど・・・・・・)」

「兼続、落ち着く」

「は、はい。え・・・・・・景勝様にも私はそんなに力が入っているようにと?」

「(こくこく)」

 

 兼続が燃えているのは他でもなく謙信から景勝のことをしっかりと補佐するようにと頼まれたのだ。

 今まで景勝が戦の指揮を執ることもあったが、今回は武田という上杉にとって大きな敵。実質的に指揮を任されている以上、気合いが入らない訳がない。

 

「ここは水原さんを見習って平常心で行こうよ」

「(うんうん)」

 

 武田相手に気合いが入るのは景勝も龍兵衛も構わないと思っている。しかし、気合いの入り過ぎは逆に空回りして信玄に足元を掬われかねない。 

 ここは親憲がいつも言うように平常心を崩さずに信玄を迎え撃つのが一番の良策である。

 流されるままという訳ではないが、信玄のように隙を突くことを厭わない者には感情をなるべく無くしていくのが良い。

 

「ま、さすがに水原さん程になれというのは難しいですが・・・・・・」

「でも、近付くこと、出来る」

「あ~でも、兼続には無理か?」

「勝手に決め付けるな!」

「もう、感情的」

「景勝様~」

 

 景勝に正論を真っ正面から突き付けられ、泣きつくような声でうなだれる兼続を見て笑いが皆に零れた。その一方で、義清と信能は物珍しいものを見たというような表情をして龍兵衛と景勝を見比べている。

 

「どうしました?」

「いや、妙に息が合っているというか・・・・・・」

「実は、私も同じことを思っていたのじゃ」

 

 普段はあまり話すことが無い為に互いに避けているという噂がまだちらほらと出ている。

 微妙な関係になってから確かに会話はめっきり減ったが、二人は互いをよく知っている為に次に何を言い出すのか大体察することが出来るようになっていた。

 

「そりゃあ当然でしょう? 見てて兼続が面白いんですから」

「見てて、だと・・・・・・私は見世物か何かか!?」

 

 誤魔化すように惚けて墓穴を掘った龍兵衛の発言に景勝もそっと頷いていたのだが、頭に血が上った為にそれに気付かず、うがーっと火を噴く勢いで兼続は龍兵衛にだけ噛み付く。

 しかし、龍兵衛はそんなのどこ吹く風と「暑い暑い・・・・・・」と扇子を扇いで涼しげな表情で全く相手にする様子が無い。

 その光景がおかしくて義清達も二人のことよりもそちらを笑って見守っていると急に外が騒がしくなった。

 

「申し上げます。武田軍、飯山城南、千曲川沿いに陣を敷いた模様!」

 

 入ってくるなり兵が持ち込んで来た報告を聞いた途端に遊びの雰囲気は一気に雲散した。

 こぞって全員が中心に置かれた地図を見やり、協議を始める。ほとんどが様々な予想をしてきた内の一つの確認であるが、武田が来てからでないと実際に行う戦略は決められない。

 取り敢えずは籠城戦だが、千曲川沿いに陣を敷いたということは大手門を中心に攻めるということ。援軍が来ることを知っている。

 何故なら飯山城周辺は川に囲まれている為に他より攻める場所も限られている。大手門を一気に攻め、速攻による勝利を狙っているのだろう。

 のらりくらりとかわすにはやはり大手門を防備を固めつつ、相手が信玄ということは考えて北門の監視も厳しくしていかないといけない。

 

「兼続、大手門の指揮は義清殿に任せて、お前は西の郭で前線の全体を頼む」

「分かっている。本丸の方は頼むぞ」

「いや、俺は三の丸で郭の後方支援だ。本丸の方は景勝様一人で大丈夫でしょう?」

「・・・・・・!?」

「何を言うんだ。景勝様お一人では何かと障害が出るからと誰かが補佐するべきだと言ったのはお前だろう」

 

 先日、兼続と共に無礼を承知で景勝に掛け合った。少ししょぼーんとしていたが、まだ景勝の言葉を理解出来ない者もいる為に誰か近くにいるべきだと考えた二人は信玄の攻撃を防ぐ為には必要なことだと思ったのだ。

 にもかかわらず、土壇場で龍兵衛は景勝の補佐役を破棄すると言い出した。代わりに信能を付けておけば良いと。

 

「命令聞く。龍兵衛、残る。景勝、守る」

 

 毅然と景勝は龍兵衛の拒否を絶った。少なくとも強い口調はこれ以上の反論を許さない。

 何か言いたげな龍兵衛をもう一度睨むと彼も頭を下げて渋々頷いて承服した。さすがに私情を戦に挟むのは御法度である。

 

「では、三の丸のことは高梨殿に任せます。武田に謙信様がおらずとも戦えると示してやりましょう」

 

 立ち上がりながら兼続が言うと全員が『応っ!!』と声を上げた。飯山城を抜かれれば後は小城が並ぶのみ、負ける訳にはいかない思いは皆が同じであった。

 

「武田を退けることが出来たとして、問題は本庄殿の謀反が早く収められるかどうか」

「大丈夫、謙信様いる。颯馬、官兵衛いる」

 

 少し景勝は楽観的だ。簡単に終わることはないだろうと龍兵衛は思っていた。知略に乏しい繁長だが、戦において培われた独特の勘がある。

 

「(嫌な予感がする)」

 

 景勝の手前何がとは言えないが、今、龍兵衛に出来るのは謙信達の無事を祈ることのみ。

 本庄城の状況が飯山城にも入って来たのはこの日の夜のことであった。

 

 

 

 

 

 

 北東及び南東から火が上がっている。夜であることもあって黒い光景に紅蓮の炎はよく見える。

 景資はどちらにもいないほぼ南南東に位置する所に陣を敷いていた為に攻撃を受けなかった。

 今は状況を整理して如何なる行動を取るべきか考える。

 当然ながら動かない訳にはいかない。謙信の安否も心配だし、色部や甘粕のことも気になる。また、動かずにいれば挟撃される恐れもある。撤退など論外。主君の危機を救うのは家臣としての務めである。

 

「申し上げます。色部隊が壊滅寸前」

「申し上げます。黒川隊が謙信様の陣を防いでおります。戦況は本庄側が有利かと」

 

 双方から飛び交う苦戦の報告。景資の配下には動揺が激しい波のようにあっという間に広がっていた。

 

「中条様、如何致しましょう!?」

「慌てるな」

 

 景資は周辺から入ってくる情報に反して比較的冷静だった。

 同然、謙信の救援が優先だが、万が一ということもある。色部と甘粕が苦戦しているというが、どちらの方が本庄軍の攻勢が強いのかを判断しなければならない。

 

「最上軍、甘粕隊と合流した由!」

「申し上げます! 黒川隊が敗走した模様!」

「よし」

 

 それだけ言うと景資は北東を指した。清実でさえ防ぎきれなかった本陣への道。攻撃を受けているのはこちらとはいえ、まだこれは局地戦。全体で敗北を喫した訳ではない。

 

「行くぞ! 謙信様をお救いする!」

 

 上杉軍の敗色濃厚とはいえ景資の心は高ぶってきていた。 

 好機だ。清実に中条は決して代替わりしようとも変わらないということを示す好機だ。

 清実が出来なかったことを景資が成せば上杉家中で誰もが景資に目を置くようになるだろう。そして、楊北衆第一は中条であると示すことが出来る。

 駆ける景資が本陣付近に到着した時、彼の目に映ってきたのは謙信の兵が死に物狂いで主君を守らんとしている姿だった。

 この中に謙信がいることは分かっている。探すのは難儀なことだが、何としても見付けて謙信を救い出しておかなければならない。

 長年、自身の家も含めて国人衆の力が強かった越後には謙信のような強い指導者がいる。そして、それを理解しない人を排する必要がある。

 その為に景資は楊北衆第一の地位を確固たるものとして親憲達と共に黒川などを弱体化する必要があるのだ。

 

「急げ! このままに一気に突っ込み、謙信様をお救いしろ!」

 

 叫びつつ自らも刀を振るう。景資も父譲りの強者。足軽兵などに遅れを取るような者ではない。

 景資が駆ける毎に本庄軍の兵の屍が転がる。徐々に景資は謙信を探し出すことに専念するべくただ駆けるだけとなり、眼前に入った邪魔な本庄軍の兵を斬り捨てるようになっていった。

 

「む? 颯馬か!?」

「中条殿!」

 

 景資の目に飛び込んで来たのは刀を振るい兵と共に敵を倒している颯馬だった。

 

「謙信様はどうした!?」

「それが、乱戦の最中ではぐれてしまいまして」

「早く探すぞ!」

 

 言い淀む暇など無いと景資は颯馬を強引に引き連れて本陣へと向かう。

 見る兵は本庄軍の生きる兵と上杉軍の死んだ兵。ぞくりと背中が冷える。風は吹いていないにもかかわらず、景資の背中には寒気が襲った。

 

「中条殿、あれを!」

「あれは・・・・・・義光殿?」

 

 颯馬の指差す方向には長い棍棒を振り回す義光の姿があった。

 

「義光、どうしてここに?」

「うむ、夜襲と聞いてな。兵は盛周に任せてここまで来たまでよ」

 

 相変わらずの尊大な態度だが、今はありがたいの一言に尽きる。しかし、謙信の行方は義光も知らないと首を振った。

 

「中条様、謙信様らしき御方をこの先の神社にて発見致しました!」

「よくやった。行くぞ」

 

 三人に少しだけ明るい希望が胸で開いた。

 更に三人は乱戦の中を真っ直ぐ突き進む。付いて来れる兵は徐々に減っているとはいえ主君の命には変えられない。

 社に付いた時には累々の屍が転がり、もはや誰が誰なのか区別も付かない。境内の中で囲まれた者を三人は見つけた。

 

「謙信様!」

 

 颯馬が叫び、いち早く駆け出す。景資も続けて駆け出すが、一瞬足が驚愕と恐怖で竦んだ。おそらく今後忘れることは出来ないだろう。

 そこには血まみれの謙信が冷たい目をして立っていたからだ。

 

「謙信様・・・・・・?」

 

 颯馬の声がよく二人には響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けると人は周りの景色を見てその日をどうするのか無意識に考える。

 颯馬も軍師として謙信達と今日をどうするのか決めなければならない。

 

「昨夜の夜襲にて、色部弥三郎(勝長)様が討ち死。また甘粕様と黒川様の隊にも大きな被害が・・・・・・総じて被害は六百に上るかと・・・・・・」

 

 聞いた途端、颯馬の感情は一気に奈落の底に落とされた思いになった。眉間に皺を寄せ、目をぎゅっと瞑り、拳を口に当て悔しさをはっきりと表す。

 返答を待っている兵に今は死者を運び、負傷者を手当てして指示を下すまで決して油断することの無いようにと厳命を下した。

 しかし、いくら下に厳しく指示を出したところでかれらには何も罪は無い。あるのはこちらがいつでも倒せると考えて油断していた罪悪感と勝長の死への無念のみ。

 だが、過ぎた時間は戻って来ない。軍師として行うことはただ先を見る。

 

「ところで、官兵衛を見なかったか?」

「先程、出掛けて行きましたが」

 

 これからのことを説得するべく、もう一人の軍師と共に謙信に会いに行かなければならない。

 颯馬は陣を出てあちこち探すと柵を修復している所にいた。

 見ると官兵衛は兵にあれこれと指示を出している。思い返すと春日山城の普請奉行でも官兵衛は素晴らしい改新を行い謙信から絶賛を受けていた。

 てきぱきと指示を出し、違うと思った所はすかさず動いてあれこれと身振り手振りで違う箇所を直すようにしている。

 はっきり言って似つかわしくないと颯馬は思っていた。少女のような官兵衛が力仕事に関わっている。端から見れば実に滑稽で、思わず笑みも零れるような光景だ。 

 

「どうだ。上手くいっているか?」

 

 しかし、今は和んでいる時ではない。内心、頬に自身の手を打って喝を入れると官兵衛に声を掛ける。

 少しだけびくっとしながらも官兵衛は兵の前ということで気丈を保ちながら振り返る。

 

「あぁ、颯馬。どうにかだけど、取り敢えず柵の修復だけでも早く終わらせておかないと」

 

 これから先、上杉から本庄を攻めるのは今の段階では厳しいだろう。

 軍の編成などを考えると今回の敗戦は血を流し過ぎた。

 冷静に考えて今一番の上策はただ一つ。それを謙信が承服するかは別だが、取り敢えず言ってみないことには決められるものではない。

 

「謙信様の所に一緒に来て欲しいんだけど、良いか?」

「良いよ。この後で行く予定だったし」

 

 官兵衛は手をはたきながら後のことを兵に任せて颯馬とと共に歩き出した。

 

「謙信様」

「おお、二人してどうしたんだ?」

 

 味方も凍らせるような目をしていた昨日とは違い謙信の目には暖かさが籠もっている。

 何度斬ってもきりがないあの状況を颯馬達が来るまでほぼ一人で切り抜けたのだから仕方がないと言えばそれまでだ。

 

「今後のことですが・・・・・・」

「このまま戦を続けるのはちょっと厳しいかな~って」

 

 おずおずと尋ねる颯馬の代わりに官兵衛がはっきり言ってくれたおかげで謙信も助かった。

 謙信も颯馬達同様に歯痒い思いだった。それは颯馬が一番良く分かっている。見えないようにしているつもりらしいが、謙信は唇を噛んでいることが分かった。

 大敗を喫したのは心の隙という不覚以外の何ものでもなかった。運が無かったのではなく最初から運は上杉軍を見放していたのだ。

 分かった時にはもう既に遅し。謙信は天を仰ぐしかなかった。

 

「・・・・・・徹底するか」

「英断だね。本庄が追って来ないようにあたしと中条殿とで兵を伏せておくから」

 

 勢いに乗って追撃するのは戦では必定のこと。それを未然に防ぐのが軍師として当然のことである。

 

「颯馬、一足先に新発田に向かい、蘆名に退却するように伝えてくれ」

「はっ」

「官兵衛、伏兵の指揮はお前に任せる」

「了解」

 

 敢えて鮎川のことは言わなかった。それが謙信の中で最も良い判断だと考えたからだ。詰問の使者は同然出す。

 春日山城に謝罪に来るならばまだ慈悲深い謙信は許そうと思っている。清長でも盛長でもどちらでも構わない。しかし、来ないのであればその時は謙信も優しくなることは出来ない。

 しかし、すぐに鮎川の没落を決めてしまえば鮎川親子は本庄と手を組むだろう。岩船郡北一帯が敵になることは避けなければならない。

 内乱程苦しく、もどかしいものはない。駆け引きの恐ろしさが強い憤りと歯痒い思いを募らせ、謙信を悩ませるものはない。

 面倒なことにならないことを颯馬は祈るばかりだった。

 

 

 

 

 

「繁長様、上杉軍が退却しております!」

 

 家臣が持ち込んできた報告に繁長はすぐ立ち上がって櫓から外を見る。

 ふらふらと揺れながら南西へと向かっている旗。間違いなく上杉軍は撤退している。

 

「上杉が撤退している今が追撃の好機。すぐに出陣の御命令を!」

「いや、止めておこう。おそらく追撃を防ぐ為の策を弄している筈。知略に疎い俺でもそれぐらい分かる」

 

 繁長は息を巻くような家臣達の気勢を水のように冷静な口調で窘める。

 家臣は繁長の判断力に感嘆の声を上げているが、繁長の本心は違うところにあった。

 いい加減、物資が乏しくなってきたのである。

 今回は上杉が攻める前に攻め込んだ為に上手くいき、上杉軍が撤退した。これから秋になる為、兵糧や武具も補充出来るが、それでも周りは相変わらず敵でいっぱいである。

 一向一揆は侵攻がなかった以上はもはや頼りにならず、最上によって決起しようとした寒河江の残党は容赦なく打ち首になったという報告も入っている。

 周りは敵だらけ、猶予が与えられたとはいえ鳥坂城の中条を始め黒川や新発田の水原が本庄城をしっかりと見張っている。

 これから奪われた支城を取り返すことぐらいは出来るだろうが、それだけでも労力と兵糧は減って行くばかり。

 今の繁長にとっては少々の出兵でも出てくる費用が気になる程に切羽詰まっているのだ。

 勝算はあった。そして、勝つことも出来た。撤退した上杉軍の旗を見ながら繁長は今後のことを考える。

 先ずは繁長が夜襲によって謙信が直々に指揮を執った上杉軍を打ち破ったと大々的に広めて謙信恐るるに足らずと表面することだ。

 この勢いで清実や一向一揆、武田との関係を強化していくことに専念して上杉軍が再び来ることを想定して戦略を練り直さなければならない。

 武田が飯山城を落としていれば良い。しかし、撤退してしまえば本庄は完全に孤立してしまう。手段はある。しかし、個人的にやりたくない。

 

「(鮎川と手を組むか・・・・・・いや、絶対に出来ん!)」

 

 向こうはこちらの都合など考えない。そもそも鮎川を排除したいという思いで起こした挙兵。しかし、今回の戦で鮎川がいなかったことは昨夜の夜襲で分かった。

 物資が不足している以上、もはや背に腹は変えられない。

 

「上杉軍の行動に目を離すな。それから大葉沢に間者を放ち、様子を見てこい」

 

 ここまで来たらもはや何でも使える手段は使ってやるしかないのだ。

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