上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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やりたかったネタです


幕間改 慶次への仕置き

 謙信が出奔騒動を起こす少し前。

 慶次のいたずらは城内の至る所で様々な人の頭を悩ませていた。

 厨ではつまみ食いが多発し、中庭に出ればどこに落とし穴があるかわかったものではない。

 その苦情は常に兼続、颯馬、龍兵衛という若い軍師三人に上がってくる。

 しかも、まるで彼らの監視が悪いという風にやってくるのでとばっちりもいいところだ。

 何度も説教をしてもまったく減ることの無い悪戯によって湧き起こる苦情に辟易していた三人だが、ある日を境に少し慶次が大人しくなった。

 

 それは川中島の戦いの少し前のことである。

 颯馬が一任して欲しいと言ってきた。自信があるのかを二人が聞くと「大丈夫だ」と言うので、任せたところ、慶次の悪戯は減り、あるとしても、あまり人の困らないものとなった。

 三人は密かに喜びの宴を行い、自分たちの仕事に集中していたが、最近になって油断したのが悪かったのか、再び頻発してきていると苦情が絶えなくなってきた。

 被害はとうとう上層部にまで及び、景勝、兼続、颯馬達が被害にあった。

 

「落とし穴ってそんなに落ちると驚くものなのか?」

「「当たり前だ!」」

 

 未だに運良く被害にあったことの無い龍兵衛はよく分からずに首を傾げる。

 しかし、三日後になってとうとう龍兵衛も落とし穴にはまった。

 

「心蔵に悪いな。あれ……」

 

 泥が付いた服を着た龍兵衛は覚束ない足取りで二人に報告した。そして、被害者三人は迷いなく慶次の部屋に踏み込んだ。

 

「三人で説教とか。無いわ~」

「いいから、慶次は大人しく話を聞け!」

「そうそう。誤って手が滑って刀がずるっとお前の首に……」

「龍兵衛、お前はちょっとやり過ぎだぞ」

 

 慶次の部屋に押し入るなり、龍兵衛が慶次の首に刀を素早く当て、身動きが取れなくなったところを、兼続と颯馬が正座をさせ、説教を開始して早一刻を過ぎた。

 それでも説教は終わる気配がない。廊下には三人の声が聞こえているだろう。

 だが、それを止める人はいない。全員がもっとやるようにと熱い眼差しを送っていることに本人たちは知る由もないが。

 そして、「とりあえず今日はこれぐらい」と颯馬が言った時にはすっかり日が暮れて外では冬の寒い風が吹いていた。

 

「あぁん、正座されられて足の感覚がぁ」

 

 ようやく立つことを許された慶次が立ち上がり、足の痺れで上手く立つことが出来ずに慶次の巨大な胸が大きく揺れるのに颯馬と龍兵衛は鼻の下を伸ばすことは無い。

 ただ白い目で完全に呆れかえったという目で見ている。

 慶次の色仕掛けに屈するようでは、上杉家ではやっていけない。

 これは上杉家男性陣の密かな訓戒でもある。

 二人はその前に色々と屈しているので慶次ごときの存在でもあるが。

 一方の兼続は険しい表情をしている。

 

「相も変わらずけしからん乳なんだ……」

 

 妬ましそうな口調で言っていたが、二人は気にしないでおく。

 廊下に出て、しばらくし、龍兵衛は二人に問いかける。

 

「あれで止めると思うか?」

「「有り得ないな」」 

 

 阿吽の息で返してきた。

 内心、からかいたい気持ちが出たが、前に弥太郎と指摘して、何故か自分だけが説教の対象となったのを思い出して、抑える。その代わりと言わんばかりに颯馬に、悪い笑顔を向ける。

 

「ま、いざとなったらまた颯馬に頼むかな」

「えーまたかよ?」

 

 以前、慶次を止めれたのが颯馬しかいない。「お願いします」と仰々しく二人は頭を下げる。人の良い颯馬も渋々承諾したが、条件として龍兵衛に協力して欲しいと言ってきた。

 

「兼続じゃ駄目なのか?」

 

 面倒で、慶次からの報復で何かされるのが嫌である。

 

「お前との方がやりやすい。なにせ、感情的な兼続には荷が重い」

 

 面白そうにしている目で完全にからかっているのが分かる。

 

「うぐ、そ、そんなことはわかっている! だから、今直しているのだ!」

「それを直せよ」

 

 言い返せない指摘を颯馬に入れられた兼続は「何をやるかは知らんが私の手を煩わせないようにな!」と捨て台詞を吐いて行ってしまった。

 

「で、兼続を遠ざけてまで何をするんだ?」

 

 尋ねると、立ち話もあれだと颯馬の部屋で話し合おうと促されるままに付いて行く。。

 美しくも寒い夕空が春日山の廊下を眩しく照らしている。

 それを見て、時間的には良い頃合いだと嬉しそうに颯馬はしているが、龍兵衛からすると何のことか全く分からない。

 

「ま、あれだ。俺達には役得な事だ」

 

 少々悪い笑顔になった颯馬に龍兵衛は嫌な予感がした。

 

「お前まさか、以前のあれって……」

 

 笑みを崩さないまま頷くのを見て、以前、何をしたのか全て察した。呆れたと溜め息しか出てこない。だが、すぐに身体を乗り出して颯馬と同じような黒い笑顔になった。

 

「まぁ、あの乳に興味が無いと言ったら、男として嘘になるな」

 

 普段のお固くまとまっている龍兵衛はどこにもいなくなる、対慶次作戦会議はさらに夜まで続いた。

 

 

 

 慶次にはこのところ新たな日課が出来た。

 それは春画本を密かに龍兵衛の部屋に忍ばせることである。

 

「慶次の奴、また資料と春画本をすり替えやがって……ここに隠しとこ」

 

 慶次はこの龍兵衛の発言を聞いて、肩を震わせながらその場を離れた。

 事の発端は颯馬の発言だった。廊下を歩いていると、彼が龍兵衛のことを女性経験が無いとからかっていた。

 これに龍兵衛は珍しく動揺して「なにが悪い。節操なしのお前よりはましだ」とばつの悪そうな顔をしていた。

 これを聞いて黙っている慶次では無い。すぐさまその日の夕方に彼の部屋の机に春画本を置いておくと龍兵衛は最初は慶次のいたずらと考え、激昂していたが、周りを見回すと静かに押し入れの中に入れた。

 これを何回か続けたが、彼は結局自分のものにしていく。慶次はこの行動を面白く思い、また確信した。間違い無く経験が無いと。

 前回は颯馬の奸計にやられたが、今回の相手は龍兵衛だ。

 間違い無くこういうのには疎いというか堅物の彼に女を知らせておくのも悪くない。

 おそらく、あの本を取って置くのも女中に捨てているところを見られたくないからではなく、自分のために取って置いているのだろう。

 楽しみをいつまでも取っておくのは体に良くない。

 そして、その夜。慶次は早速、龍兵衛の部屋を訪れた。

 当然、相手をするつもりは無い。からかって最後は気絶させて顔に落書きでもする算段である。

 

「この時間に慶次が来るなんて珍しいな。どうかしたのか?」

 

 龍兵衛はいつも通りの堅い表情を崩さずに慶次を迎え入れる。しかし、彼はそれとなく押入れを隠すように移動するが、慶次はそれを見逃さない。

 

「ん~? ちょっとぉ、龍ちんの押し入れが気になってぇ……しっつれーい」

 

 彼は慌てて止めようとするが、軍師が慶次の体捌きにはついて行けるわけが無く、滑って転び、膝を強かに打ち付けて悶絶している。

 

「あーらら~龍ちんったら堅物だと思っていたのにこんなもの持っていたんだ~」

「こら! 人の押し入れを勝手に……」

 

 痛む膝をさすりながら抗議する龍兵衛だが、春画本のまとめていた物を見つけられて頭を抱えてしまった。

 

「ちょっと待て! それはお前がやったやつだろう!」

 

 大事なことを思い出したと言わんばかりに声を上げて、珍しく怒りを露わにしながら慶次に詰め寄る。

 

「でーもぉ、あたしは貯めておいてとは一言も言ってません」

 

 これには言い返せず、龍兵衛は唇を噛む。

 

「龍ちんも男だねぇ……経験が無いのはつらいことよ~後々、奥さんをもらった時にもしっかり導かないといけないんだから」

「何のことだ?」

 

 取り敢えずとぼけてごまかそうとするが、通じるような相手では無い。

 滑るように慶次は龍兵衛の腕に寄り添い、自分の胸を押し付ける。

 龍兵衛は顔を赤くして目を逸らす。それに慶次は追い討ちを掛ける。

 

「んもぅ~無理しないでいいのよ。今はぁ、あたしと龍ちんしかいないんだからぁ」

「と、仰いますと?」

 

 急に真顔になって腕を振り払おうとするが、慶次の力が強過ぎて龍兵衛の腕は全く動いてくれない。

 

「敬語でごまかそうとするなんて、もう万策尽きたのよ~私を、欲望の赴くままにしていいんだから」

 

 ぴくりと龍兵衛が動いた。

 これで堕ちたと思い内心にやりと笑って叫ぼうと思った慶次だが、龍兵衛は慶次を押し倒す訳ではなく、身体を震わせ、とうとう堪えきれずに笑い声を上げだした。

 

「え? うええっ?」

「やれやれ……慶次、よく言った! その言葉の通りにさせてもらうよ」

 

 ようやく、慶次は龍兵衛の行動と言動は全てが演技だったということに気がついたようで、戸惑いの表情を浮かべて意味もなく左右を見回す。

 

「俺も経験があるとはいえ、お前同様に浅い方でな。ここは一つ豊富な人に援軍を頼むか」

 

 慶次が驚いた表情で言おうとする前に龍兵衛は手を二回叩く。

 すると襖が開いて中に入ってきた援軍は今の慶次からすると悪魔の襲来に等しかった。

 

「こんばんは、前田殿?」

「ええ! 颯馬っち!? いつからそこに!?」

「ずっといたよ」

 

 部屋に入って来た途端に黒い笑みしながら颯馬は慶次に迫る。

 彼の手には縄が握られている。見た途端、慶次は先の一件が脳裏に蘇り、下がろうとするが、龍兵衛が肩を掴んで離さない。

 振り返ると龍兵衛も普段の理性的の目からは考えられない女に対する欲望の目に変わっている。

 

「しかし、下手な演技だったなぁ。少しの奴だったらばれているぞ」

「そんなこと無いと思うけどなぁ。それに仕方ないだろ? 俺は本当に経験は浅いんだから……ま、慶次で助かったことにしとくよ」

 

 そんな談笑をしつつも二人は慶次を組み敷いてしっかりと縄で縛り上げている。

 完全に縛り上げ、満足したように近付いてくる二人に準備も何もしていない慶次が待ったをかける。

 

「話が違うわよ~! 何で颯馬っちも一緒なの!?」

「お前は何も俺だけ欲望のなんとやらとは言って無い」

「じゃあ今から……」

「残念だけど。もう遅い、諦めろ」

「自業自得だ。恨むんだったら自分を恨め。それに、お前こういう方が好きだろ?」

 

 結局、二人は遅くまで慶次で思う存分楽しむことが出来た。

 終わった頃には慶次は文字通り極楽に逝きかけ、翌日は終日寝込むことになった。

 それから、慶次の行動は再び大人しくなり、龍兵衛に対する態度も軟化したのは別の話である。

 




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