上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第百二十九話 面倒でしょうが

 沼田城の上杉軍は粛々と撤退の準備を始めていた。

 しかし、それはあくまでも表向きのこと。既に業正に命じて五百の兵を密かに先に撤退したと見せ掛けて三国街道を繋ぐ道に伏兵として配置している。

 邦憲は小田原城からの援軍が来ていないことから沼田城を守るよりも勝利を得て早雲を見返してやろうと躍起になっている筈。故に、撤退したと聞けば喜び勇んで追撃して来るだろう。そこを伏兵で挟み撃ちにし、守りが薄くなった沼田城を奪い取る。

 上手く行けば本当に負傷兵をわざわざ使うこと無く、終わるだろうが、龍兵衛は若干の不安があった。もし、邦憲がこの少し早い撤退を怪しく感じ、城から出なければこの策は成功しない。

 そのことを景勝から指摘され、そうなった時の次善策を尋ねられた龍兵衛は表情を変えずにしれっと答えた。

 

「長野殿は厩橋城に向かって頂き、自分達はそのまま謙信様と合流します」

 

 景勝は一瞬、かなり驚かされた。しかし、良く考えればそれはまた戦術でもあると納得した。

 厩橋城が上杉の手に落ちた以上、補給路は断たれ、苦しくなるのは沼田城の方である。更に、上野の城を攻略されて行って孤立無援になるのは向こうの方。

 綿縄で徐々に首を絞めるように邦憲の進退を窮まらせるのだ。

 

「まぁ、言い方が悪いですけど。徐々に沼田城の者達には苦しみに喘いでもらいますよ」

 

 思っていた言葉よりも比較的抑えた物言いのつもりだったが、景勝は若干引いてしまった。失敗したと龍兵衛は苦笑いを浮かべて頭をかくとその様子を見て安心したのか景勝は取っていた距離を元に戻して質問を始めた。

 

「負傷兵、どうする?」

「安全な所かつ、敵から見えにくい場所に移動させ、援軍が来たように思わせれば良いかと。鬨の声を上げさせ、動揺を誘うのです」

「戦わせる?」

 

 当然、戦わせることはしないと龍兵衛は首を横に振る。彼とて冷淡な性格であっても冷酷で酷薄な性格ではない。

 兵をこれ以上傷付けるのは嫌である。なおかつ、私心になるが、顕泰から何かとうるさく言われるのが嫌なのだ。

 ただでさえ北条に背中を二度も向けられるかとこの策に反対していた彼を宥めるのにも苦労したのだから失敗すればまた間違っていないことをはっきりと言われる。それが嫌で龍兵衛は堪らない。

 

「(何でかなぁ。兼続と違って心に嫌な感じで残るんだよなぁ・・・・・・)」

 

 兼続の場合は真摯に心に刻まれ、それでも嫌な気分にはならない。一方、顕泰のそれは例えるならかつて良く受けていた運動部の顧問から浴びせられる理不尽な叱りにも似ていた。

 心に小骨が刺さったようにすっきりしない気分に以前に言われた時もなったので二度とそのような思いはしたくない。 

 逸れた思考を戻す為、額を軽く摘まむと龍兵衛は再び口を開く。

 

「後、沼田殿に殿を任せましょう。あの御方ならこの辺りの地理にも詳しいでしょうし。負けることも、特に北条相手では・・・・・・」

 

 そこまで言うと龍兵衛は口を抑えて何も言わずに咳き込むふりをする。

 形ばかりの御方という言葉が使えてほっとした龍兵衛だが、頭の片隅では他の考えも持っていた。

 もし仮に、邦憲が策を見破り、伏兵を抑えた上で殿の顕泰に襲い掛かれば顕泰とて無事では無いだろう。

 業正には邦憲が伏兵を叩こうとしているのであれば下手に抵抗はせずに素直に撤退し、本隊と合流するように指示を出している。

 つまり、顕泰は名誉の討死を遂げることが出来るのだ。沼田城という自身の故郷を取り戻そうと北条に最期まで気概を見せて抗ったという素晴らしい話だと後世にまで残るだろう。

 あくまでも最悪な状況になった時だが、顕泰の存在はそれなりに大事にしなければならない。沼田城は上野の要所であり、越後と関東を結ぶことは上杉の中で知らない者はいない。

 故に、龍兵衛は面倒なのだ。はっきりと言われて何かと心に残る物言いをしてくる顕泰がだ。しっかりしていれば彼は何も言わないが、失敗した途端に機嫌がころっと百八十度変わる。

 面白いと言えば面白いが、根が真面目な龍兵衛にとってそれは苦手な部類に入る。これからは近くにいることが少なくなるだろうが、あわよくば永遠に顔を合わせなくなっても良いのではないかと思い、この配置を景勝に進言した。

 景勝は龍兵衛の邪な腹の中を見抜くことなく、そのことを了承すると顕泰に指示し、彼も従った。

 今、龍兵衛は景勝と共に忙しく動く兵達の様子を見守りながらこれからの決戦に向けて内心、意気込んでいる。

 敗戦とは敵はつけあがり、味方の中でも良い印象は与えず、やはり変な噂が飛び交うことも有り得る。一度だけで負けは十分。敗戦の印象をかき消す勝利を得れば良い。

 内心の燃える心を隣で兵を眺めていた景勝はおもむろに龍兵衛を見た時に目敏く察したらしく声を掛けて来る。

 

「龍兵衛、負けず嫌い」

「ええ、自分とて負けるのは嫌です」

 

 珍しいものを見たと目を見開いている景勝に気付かず、無意識に龍兵衛は熱い感情を籠めた声で答える。

 命を取られることは別として基本的に一発勝負の世界に身を置き続いていた為、性格が自然とそうなってしまった。

 それが生きるか死ぬかの世界に放たれて更に汚い手段も平気で使えるようになり、

 

「負けたくないのであればどのような手段でも取ってみせる。それを自分が見せて御覧じましょう」

 

 そう言って滅多に表情に変えない龍兵衛は景勝の目の前で邪気を丸出しにした口元だけをつり上げた笑わせた。

 一瞬、驚いた景勝だが、すぐに切り替えて龍兵衛を伴い、陣屋の机に龍兵衛と対面する形で座る。そして、龍兵衛が机の上に置いてあった地図に指を当て、今一度、策を確認しようと口を開きかけた時。

 

「景勝様、謙信様より書状が届いております」

 

 

 

「『もし、三日以内に沼田城を落とせなければ、我らと合流して態勢を整えてから全軍で沼田城を攻撃する故、そのつもりでいるように』か・・・・・・ふーん・・・・・・」

 

 邦憲は曖昧に何度か首を上下させると書状を家臣達に回して行く。読み進める家臣達はざわざわと書状を指差して色々と話し合っている。

 

「なかなかの情報じゃない」

 

 かれらをそのままにしておいて邦憲はおとがいに手を当て、邪気を孕んだ笑みを浮かべる。

 今日届いた書状だとすれば後、上杉軍には三日の猶予がある。しかし、今から撤退の準備を始めているということはこれ以上の無駄な犠牲を出さない為に恥を忍んでまで謙信に頼るということだ。

 情けないと言えば武人の考えだが、邦憲は決して阿呆では無い。この決断は賞賛出来る。家臣達が情けないだの恥知らずだの蔑みながら笑っているが、良く考えれば後々の戦に支障が出ないようにしている。

 偶然、外の様子を密かに見に行き、怪しい動きをしていた者を捕らえたところ謙信からの書状を持っていた為、すぐに城まで連行してきたのだ。

 

「猪俣様、敵の策ということは考えられませぬか?」

 

 慎重な家臣の発言に邦憲はにやっと笑って首を左右に振る。

 

「実は、前にあたし早雲様と謙信が交わしていた密書を読んだことがあってさ。何となく覚えてたんだけど。間違い無く謙信の字だ」

「では、上杉軍の撤退は真であると・・・・・・」

「さっさと準備しな! 今宵、城を出るよ!」

 

 御機嫌に勢い良く立ち上がって大声で指示を下すと家臣一同がそれに勝る声で『はっ!!』と答え、出て行く。

 ただ一人、慎重な意見をしてきた家臣だけが残り、気に掛かっていたのであろうことを尋ねてくる。

 

「捕らえた者は如何致しますか?」

「そーねぇ・・・・・・」

 

 普段なら即刻首を跳ねるところだが、如何せんそれではつまらない。今、殺さなくても捕らえた上杉軍の兵はこれから仲間が死ぬのだから殺すのはいつでも良いのだ。

 そのことを考えると邦憲は実に面白いことを思い付いたように満面の笑みで手を叩く。

 

「敵の大将って上杉景勝だったよね? あれの首の前で跳ねさせるのも良いかも」

 

 無邪気に遊びを喜んでいる子供のような笑みでそう指示を出す邦憲は自身が家臣の背筋を凍らせる程、冷酷であることに気付かなかった。

 もちろん、尋ねてきた家臣が目を見開いてそのようなことを言うのかと驚いているのにも気付かない。

 思うのは早雲に怒られながらも結局は勝ったから良いと許されるという情景。

 ほくそ笑み、景勝の首を蔑む目で見る自身も邦憲は第三者の目線で見えてきた。 

 そのまま夜になり、沼田城を出た邦憲は自ら先陣を切って夕方頃にゆっくりと撤退を始めた上杉軍を追撃していた。

 様々なことに関して駆け引きという言葉は良く使われる言葉だが、その一つの言葉に様々なものがある。

 猪俣邦憲にとって生涯で一番面倒なことは政治的な駆け引きであった。

 戦のように全てを勝ち負けでは判定出来ないのが一番の原因であった。曖昧なところがあるのが邦憲が政治的駆け引きの大が付く程に嫌いな原因である。

 故に、上野沼田城に中央から追い出されるような形で入ったのだが、それなりに動きやすい場所を得た為、上杉軍が来襲した時には必ず追い返そうと意気込んでいた。

 その時が来たと上杉軍に対して邦憲は全力で戦った。相手が謙信では無かったのが残念だったが、景勝を討てば上杉に与える衝撃は大きい。

 虎視眈々と機会を狙い、先の戦で時を得たと攻め込んだ。結局、敵将の前田慶次にそれは阻まれたが、勝てる手応えは十分にあった。

 間者によると上杉軍の被害は一千にも上ると聞いた。

 そのこともあって上杉軍が簡単に退いたのは沼田城を諦めたと単純に思った。最初こそ早いと思って訝しんだが、謙信からの書状が決め手だった。

 明らかに謙信の字面であった。邦憲自身、その時は出る幕で無いとぼんやりと書状を読んで隣にいた外交僧に渡した。

 適当に読み流していたのが逆に幸いしたのかもしれない。再び同じ字面が邦憲の目の前に現れた時、一瞬で小田原城の評定の間での記憶が蘇った。

 ついている。にやっと笑いながら視界が上杉軍の背中を捉えた時、邦憲は発狂に近い声を上げた。

 

「ほら行けぇえええぇ!! 北条の意地だ。たんと食らわせてやらあぁあああ!!」

『応ぉおううぅう!!』

 

 答える兵達の声も邦憲に負けていない。

 二度のうるさ過ぎる声に上杉軍の最後尾にいた兵達は驚いて一瞬、足を止める。それが命取りとなった。

 邦憲の白刃が最後尾にいた兵達の首を飛ばし、更に飽き足らないと真一直線に上杉軍の後方に斬り掛かる。

 殿の大将らしい将が何か叫んでいるが、邦憲にとってそれは良い目印に過ぎない。その方向に突き進み、首をかき斬って景勝を討ち取る前の現担ぎにでもしよう。

 ほくそ笑みながら邦憲は思考を再び戦に切り替えると声の方向に真っ直ぐ向かう。

 

「猪俣様ー!」

 

 背後から蹄の音と共に物見が大慌てでやって来た。

 良いところだったのに見事に水を差された邦憲は玩具を取り上げられた子供のように頬を膨らませる。

 

「猪俣様、敵の伏兵が我が軍の背後を襲撃し、沼田城から煙が上がっております!」

 

 膨らんだ頬が割れたように引っ込み、時が邦憲の周辺だけ止まった。目を見開き、呆然として、わなわなと持っている刀が震える程、動揺してしまう。先程まで

 籠城戦で勝とうと欲が出てしまった邦憲の背中に冷や汗が大量に流れた。

 そのまま邦憲は是非も無いと遮二無二、敵陣に突撃しようとしたところを家臣に止められ、守られながら林の中に身を潜めることとなった。

 家臣に貧乏揺すりはしない方が良いと諫められたが、邦憲は気にせず、爪を噛んで更に貧乏揺すりの振動を激しくさせる。

 負けたことへの悔しさは無い。早雲に対する申し訳無さと籠城戦に完全な勝利を見ようとした自身の愚かさを嘆くばかり。それが怒りに近い感情を呼び、貧乏揺すりへと繋がっている。

 するとどこからか馬の蹄の音が聞こえて来た。敵かと邦憲の配下は腰を上げるが、邦憲はそのまま下を向いている。

 上杉軍が有能であることは知っている。故に、誰かがはぐれてわざわざ誰かが潜んでいるかもしれない敵地の林にやって来ることは無いと確信がある。

 

「猪俣様! 由良が館林城に攻め込み、落城した模様!」

「ああ? 由良って金山城の? 裏切ったの?」

「それが、かなり前から示し合わせたもののようでして・・・・・・」

 

 いつものような口調で答えていたが、最後に斥候ががっくりと肩を落として言った報告を聞いた途端、邦憲の表情が般若の如く険しくなり、思いっ切り持っていた刀を叩き付けると代わりに短刀を取り出して首に刺そうとする。

 不甲斐ない。自らが政治的なことを知らないが故に、そこに見事に漬け込まれた。武人である邦憲は沼田城の敗北の責任を取る方法はそれ以外方法が無い。

 慌てて配下の者達が必死に止めるが、邦憲はじたばたとかれらの手を振り解いて上から鋭く睨み付ける。

 

「あたしは早雲様の命を破った上に負けたんだよ!? 生きて合わせる面が無いよ!」

「しかし、猪俣様がここで命を落とされては下野や残る上野のお味方が上杉に走りますぞ!」

「んなこと知るかぁああぁ!!」

 

 雄叫びを上げて再び短刀を喉に刺そうとしたが、また家臣達がそれを止め、腹に拳を喰らわせてどうにか落ち着かせる。

 家臣達は近付いて来るがちゃりがちゃりという音を聞き、互いに頷き合うと半数は音の方向に突撃を掛け、半数は気絶した邦憲を馬に乗せて一路、箕輪城へと向かった。

 

 

 

 結果として上杉軍は朝日が上がる頃には沼田城へ入ることが出来た。北条軍の結束は固く、最期まで抵抗を見せる者がほとんどで何人かいた上野の国人衆が降伏したばかりで奇襲を仕掛けた割には少し上杉軍も血を多く流すことになった。

 しかし、終わってしまえば勝利であり、ずっと沼田城に入りたがっていた顕泰は一番乗りの手柄も立て、ほくほく顔で兵達と談笑している。

 気持ちは分からなくないと龍兵衛は苦笑いを浮かべながら彼を横目に邦憲の部屋であった所に入ると箪笥に手を掛け、中を一段一段丁寧に改める。そして、四半刻程、経った時に彼はにやっと笑みを浮かべた。

 

「あったあった・・・・・・」

 

 普段、決して見せないようにしている口元の片方だけをつり上げて目は一切笑わせていない笑みを浮かべながら龍兵衛は邦憲が入手した上杉軍の書状を懐に押し込む。

 龍兵衛の邦憲が策に掛かってくれるかという不安な思いを雲散してくれたのは謙信からの書状だった。利用すれば上杉軍の撤退が現実味を増し、邦憲は追撃を行ってくれるだろうと考えて書状を新たに作らせた。

 作った甲斐があったと声を上げて笑っている心を落ち着かせる為に龍兵衛は一度、深呼吸をして外に出る。

 本当は一週間以内と書かれていたところを勝手に龍兵衛が書き直させておいたものに他ならない。

 謙信からの書状は正に渡りに舟だった。邦憲が北条の重臣であることは龍兵衛は軒猿の情報で知っていた。先の戦でそれなりに戦える者だということも分かった。

 故に、現実味のありながらもありきたりな策を以て挑んでみた。

 案の定、邦憲は釣れた。一週間という期限を勝手に三日に短縮したのも幸いしたらしく、邦憲は真っ直ぐ上杉軍に突っ込んで来た。

 業正に伏兵を出す判断は任せていたが、完全に北条軍が殿の軍に目が行くところという絶妙な時に出撃してくれたおかげで沼田城も守備兵の抵抗があったが、それ以外はさほど苦労無く城を完全に制圧することが出来た。

 追手や残党狩りを出しても結局、邦憲の首を取ることは叶わなかったが、多大な犠牲を北条は払った。

 顕泰は危うく首を取られそうになったと苦言を呈したが、沼田城を取ったから良いじゃないと慶次の絶妙な慰めで事なきを得た。

 書状が燃えていく様を見ながら龍兵衛は今回の戦を思い返す。先の戦で本来なら邦憲は撤退するべきだった。彼がもし彼女の立場ならそうしただろう。

 敢えて、送った偽の書状を読んだことで邦憲は追撃を決意したと捕虜となった邦憲の家臣から聞いた時、成る程と龍兵衛は納得した。戦働きと戦特有の勘は鋭いようだ。

 しかし、そこに駆け引きが関わるとその優れたものが故障した歯車のようにぴたっと動かなくなる。例えば今回のように早雲から箕輪城まで撤退するようにという戦えるにもかかわらず、寄越された書状。

 早雲がそう指示を下したのは万が一、下野の方から上杉の援軍が現れ、沼田城の包囲に加われば間違いなく邦憲は抵抗出来ずに死ぬしかなかった。

 恐れていたのは交渉を続けていた下野の国人衆が先に上杉に寝返ることを危惧してのこと。謀に秀でている者で無くても少し頭を捻れば簡単に分かることである。

 

「(正に、戦特化型人物)」

 

 少し自身が馬鹿をしていると口元を歪ませながらそのまま龍兵衛は少し思考を脱線させる。戦に特化した将となると上杉で言えば景家だろうか。だが、景家の場合は天性の人当たりの良さが幸いして誰かと表面的な対立をするような人ではない。

 

「(ありがたいな・・・・・・面倒なことは無いに限る)」

 

 由良に関しては本当に良い働きをしてくれた。この先にある邪魔な勢力を排除してくれたのと下野にも影響を与えてくれた。

 謙信からの書状では先述の指示の後、但し書きで由良との連携が取れそうならばそれを上手く使って沼田城を取っても良いと認められてあった。

 実際、かなり良い時期に由良は動き、邦憲に上野の支配を諦めさせることが出来た。自覚があるかは分からない。しかし、最後には有益となる。

 

「本当に、謙信様って何をやられても完璧だな」

 

 誰にも聞こえないように呟き、後のことを配下に任せて自身は聞き出した情報を景勝に報告する為に沼田城の一室へと向かう。

 犠牲を払ったのは北条だけでは無い。龍兵衛にとって想定外のことが重なり、今回の沼田城攻めは無駄な時間を使ってしまったのだ。

 挽回しなければ北条との決戦に響く。籠城戦になるか。未だに下野の者達が従っていないのを見て野戦になるか。まだ分からない。

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