上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第百三十九話 雪が舞い落ちたら

 氏康は正面の戦線の様子を見て箕輪城にゆるゆると撤退しようかと考え、物見からの報告を受けるよりも先に城へと向かう。

 仮に箕輪城の裏手が苦戦していることに備えてだが、恐らく杞憂に終わるだろうと氏康は思った。氏邦であれば堅牢な箕輪城の中でも有数の堅さを誇る裏の搦手を利用して上杉軍を撃退してくれるだろう。

 それらは全て計算通りに運ばれるべきであり、上杉軍を如何なる形であろうとこの箕輪城で越後に追い返すのも当然のことである。

 全てのことが上手く行けば、もし仮にどこかにつまづきがあってもそれを新たな戦術で立て直すことも出来る。

 とにかく小田原城まで向かわせることは決してさせない。戦前に誓った母、早雲への誓いを改めて心で言い聞かせる。

 その思考を遮ったのは前から聞こえてきた蹄の音。物見かと思ったが、明らかにおかしい。間違いなく軍勢の数程ある音だ。

 

「氏康様」

 

 邦憲が戻ってきたのは氏康が合図すると言ったよりも遥かに前であった。

 

「どうした? まだ、こちらから鉄砲を放ってはいないぞ」

「いえ。上杉軍は我らが攻め寄せる前に撤退した模様」

「そうか・・・・・・」

 

 氏康は強く奥歯を噛み締める。退き際を知っているところはさすが軍神と呼ばれる謙信だろうか。今にこだわり、これ以上の被害を被ると今後に影響が出ると思ったのだろう。

 悔しいが、敵ながら素晴らしい判断を下したと賞賛したくなる。しかし、戦場に敵味方を越えた情が存在することなどあってはならない。

 長居は無用故、撤退すると言いかけたところで氏康は自身の口に待ったをかける。邦憲も既に下がってきている為、別段、躊躇う理由は無い。

 しかし、何か嫌な予感が氏康の背筋を電流のように駆け巡り、思わず振り返る。もちろん、そこには何かがある訳が無い。

 上杉軍の方に何かを忘れているような違和感。そのようなものなどある筈が無い。それでも氏康は心の奥で何か背中に入った違和感のようにまとわり付いているのだ。 

 

「急ぎ箕輪城に撤退する。歩の者は後から参れ。とにかく駆けろ!」

 

 突然、氏康が声を上げて命じた為、兵達は戸惑いを隠せない様子だが、氏康の命をきちんと受けて駆け出している。

 上杉が裏をかいた為、裏の裏をかいたつもりが上杉に裏を見事にかかれた。 

 

「申し上げます。上杉軍の本隊と思われる部隊が裏手より攻勢を仕掛けている由!」

「やはり、正面にいたのは本隊ではないのか・・・・・・数は?」

「他の者が今、確認しております」

「急げ」

 

 苛立ちを必死に抑えると氏康は邦憲を伴って全軍を箕輪城に返すべく口を開こうとする。すると、再び背後から物見がやってきた。

 

「氏康様。敵が追撃せんと迫っております。その数、二千弱かと!」

「二千弱? 先の報告と違うではないか」

「それが、子細は不明でございますが、初めから二千弱の数であった模様」

「謀られたか・・・・・・となると・・・・・・」

 

 氏康は狼狽するのを必死に隠す。残る三千強の兵はどこに消えた。否、元からどこに置かれていたのか。考えるなど愚かしい程、簡単な答えだった。

 

「急げ! 箕輪城に戻り次第、裏手へ迎え!」

「氏康様。背後の敵は?」

「構うな。我らが城に戻ればそれで負けは無い」

 

 邦憲の言葉には答えたが、氏康は彼女の方を向く暇もないと馬を走らせる。終わりはまだ先だ。終わりは自身が死んだ時。北条の意地が潰えることは決して有り得ない。

 

 

 

「よく燃えるな・・・・・・」

 

 上杉の本陣を守る龍兵衛は箕輪城の武家屋敷辺りから出る火を見上げ、見たままの感想を一切の感情も無く言う。

 周りからよく見えるように火を上げることで箕輪城が落ちたことを示し、他の城に上野の主導権はいよいよ上杉の手に落ちたと高らかな宣言の代わりになった。

 箕輪城を落とすという厄介事が終わり、龍兵衛は少し余裕が出来た。

 

「後で義輝・・・・・・っと」

 

 咳払いをして龍兵衛は誤魔化す。近くにいた兵が大丈夫かと聞いてくるが、平気だと手で制する。上杉の上層部の裏の裏では未だに義輝と呼んでいることもある。しかし、ここは公の場である。その名前は慎まなければならない。

 義輝もとい吉江景資は上野や武蔵で未だに北条に属している国人衆を口説く以外にも上杉に従おうとせず、隙を見せてきた国人衆を暗殺するように密かに龍兵衛の一存で頼んでいた。

 兼続が考えていた下野の宇都宮の家中にいる反上杉派の者を暗殺する。

 以前こぼしていた策を聞き覚えていた龍兵衛は景資に密かに元々業正と頼んでいた仕事のついでだと兼続の名前を出さずに頼んだ。

 どうせ兼続は己の中に正義心との葛藤の中で出来る訳が無い。ならば、代わりにやるまでだと。

 仮に兼続が嗅ぎ付けてもまだ腹案の段階だった兼続の策ならば知らない内に持っていったと片付けることも出来る。

 万一にでもばれた時には偶然同じようなことを考えていただけだと主張すれば良い。

 そう考えて龍兵衛は景資に頼んだ。しかし、景資は聞いた途端、龍兵衛を強く睨んだ。

 

「それは謙信が了承しておるのか?」

 

 決してこのことは成功しようと賞賛されることは無い。ましてや謙信ならばなおさらのことだ。だが、合理的な判断を下すのであればここで引いてしまうのは的確な判断とは言えない。

 景資の強い覇気に押されるのを耐え、平静を装って龍兵衛は了承していないとはっきり口で言う。どう景資が拒絶するか分からない。はっきりと罵倒するのか蔑んだ目で見ながら去って行くのか。

 だが、景資はすぐに気を解いて笑って諾と答え、龍兵衛の目を軽く開かせた。

 

「どうしてと顔に書いておるぞ」

「まぁ、驚かない方がおかしいと思いますが」

 

 景資は謙信に忠実で良き相談相手として愛着を持っている。それなりに謙信の理想を理解している為、てっきり汚い手は嫌いだと断られるかもと思っていた龍兵衛が驚いたのも無理も無い。

 

「暗殺など、常套手段ではないか。妾も受けたようにな」

 

 面白いものを見たように笑みを浮かべる景資を見て龍兵衛は彼女が無理をしているのではないかと若干の罪悪感を抱いた。しかし、景資が承諾してくれた以上、利用しない訳にはいかない。かつてのことを通じて暗殺に嫌悪感を抱いている様子も無かった。

 

「何を躊躇っておる。よもや、妾が失敗するとでも思うたか?」 

「・・・・・・よろしくお願い致します」

 

 冷たい刃先のような視線でそこまで言われるとこれ以上の悩みは相手の怒りを本物にしてしまうだけだ。

 頭を下げる龍兵衛に景資はうむと頷いて去って行った。その足取りは役に立てると思っているのか軽く感じたが、龍兵衛は緊張感から解放された反動でそのような余裕など無かった。

 

 懐には景資が軒猿の者を通じて密かに寄越してきた書状が入っている。まだ、開いてはいないが、じきにその時が来るだろう。その時、上杉が北関東全域を支配下に置いていると静かに祈る。

 しかし、すぐに龍兵衛の思考を上杉軍の歓声が現実へと戻した。

 

「箕輪城裏手より我が軍、城内に侵入した由」

「囮隊の長野殿は?」

「既に北条軍の追撃を開始。北条軍の後背の部隊を切り崩しております」

「よし。本陣から二百程加勢に向かわせろ。長野殿の隊を援護する」

 

 既に箕輪城の中には謙信自らが率いている伏兵が手薄になった裏手を突いて攻め込んでいるだろう。

 

 昨日から兼続と互いに意見を交換し合い。時折、謙信と景勝も参加して箕輪城攻略を考えた。最初は兼続の案に龍兵衛が少し付け足した正面から夜襲を行い、あえて堅牢な裏手を突こうということで決まりかけた。

 それに待ったをかけたのが景勝だった。普段なら謙信から何かあるかと尋ねられてからやっと意見を出すにもかかわらず、今回は自ら前に出て来た。

 目を丸くする謙信達をよそに景勝は身振り手振りを交えて夜襲の際はもっと北条軍を考えさせ、最後は素直に行くべきだと言った。

 複雑にするという案は兼続も龍兵衛も考えていたが、すぐに取り下げた。相手が氏康である以上、向こうもこちらに策があると考えているだろうとしてあえて単純気味な策で行こうと考えた。

 景勝と龍兵衛、兼続の考えた戦術には違いがあった。終いが裏手か正面かの違い。それは大きな違いである。箕輪城は上杉が陣を敷いた北西に側の裏、南には榛名沼がある。天然の堀を利用した堀や搦手によって守られている。

 そこを夜襲とはいえ攻めるのには軍師として合理的ではないと思った二人に対して景勝は裏手から攻めるとは向こうも思っていないだろうと主張して譲らなかった。

 景勝の能力を否定している訳では無い。しかし、餅は餅屋とも言う。龍兵衛、兼続に任せた方が良いのは景勝も分かっている筈だ。

 

「もうよい」

 

 いつまでも収集が付かない議論に冷たい水を被せるような謙信の声が陣幕に響く。同時に謙信は立ち上がって口を噤んだ三人を順に見比べ、一瞬だけ目を細めると景勝の隣に歩み寄ると頭の上に手を置く。嫌な予感を押し隠して龍兵衛と兼続は謙信の言葉を待つ。

 

「景勝の考えで行こう」

「「(やっぱり・・・・・・)」」

 

 頭を垂れて陣幕を出ると二人は互いの顔を見合わせて同時に溜め息を吐いた。

 

「なぁ、兼続、上手く行くと思うか?」

「謙信様が決めた以上、仕方ないだろう。そう思うなら反対の一言でも言えば良かったものを」

「まぁ、以外に行けるかもって思ったから。お前だってそうだろう?」

 

 一瞬、兼続は視線を逸らして答えにくそうにしながらも最終的には頬を少し赤く染めて小さく頷いた。

 しかし、いざ実行に移してみて、こうも言葉通りになるとは思っても見なかった。自らが立てた策なのだから自らも前線に出ると言って景勝も裏手からの攻撃に参加している。

 いくら急襲戦を仕掛けたとはいえ激戦は免れない。しかし、龍兵衛は比較的安心して箕輪城を眺めている。主力をそちらに置き、護衛として慶次が珍しく真剣な表情で手を上げて来た為、問題は無いだろう。

 

「(裏の裏は表・・・・・・その裏は裏。案外、単純に行けたな)」

 

 無論、今までの立ち尽くしていた時間があってこそのこの結果である。景勝の功であることに変わりはないが、また成長する景勝を微笑ましくも思う。

 

「河田様、如何なさいました?」

「いや、何でも」

 

 戦の最中故に笑みを見せないように下を向いたが、少し引っ込めるのに時間がかかってしまい、隣で護衛として立っていた兵に声をかけられてしまった。

 おそらく、景勝の成長が嬉しいのだろう。愚かな家臣の分際で言えた立場ではないが、子供らしさが残る景勝には周りを和ませる独特の雰囲気がある。

 面と向かって言えば「景勝、大人!」と拗ねられるだろうが。

 

「うん・・・・・・?」

 

 ふと、顔に何か冷たいものが当たり、おもむろに顔を上げてみる。

 一瞬、雨かと思ったが、雨はこのような柔らかい感触で人肌に触れることは無い。龍兵衛は空から降ってくるものが何なのか分かった途端、溜め息を付いた。

 

「雪は嫌いだ・・・・・・」

 

 誰かに語り掛ける訳でもなく、ぼんやりとした口調でこぼす。白い息が湯気のように小さく漏れ出た。

 あの日を思い浮かべると雪は降っていなかった。しかし、その丁度一ヶ月後に降り始めた季節外れの早冬の雪。まるで、自らの行いを非とするように降っていた。

 龍兵衛自身、分からなかった。どうして雪を見るとあの日のことを思い出すのか。冷たいからだろうか。あの日の自身のように。地面に降り積もり、踏み荒らされたことで汚れた雪を見て正しく自分自身だと思ってしまうからだろうか。

 否、冷たいのは雨でも同じであり、地面は常に踏み荒らされ、汚い。分かっていても雪は嫌いだった。

 だが、今となってはあの非情な過ちは人生の杖となり、確実に心を制御し、乗り越えるべきものを見た際に励みになるものへと変わっている。相変わらず、迷走を続け、確固たる信念を持てずにいる自身を脆くも支えている。

 何となく、龍兵衛は手を出して上から降ってくる雪を受け取ってみる。結晶は簡単に溶け、水へと変わった。それを見て龍兵衛ははっと顔を上げた。

 

「儚いからか・・・・・・?」

 

 多くが集まってこそ雪は積もり、ようやく人を魅了する光景を作ることが出来る。あっという間に露となる雪は結晶一つではどうしようもない。今、龍兵衛の手の平に落ちた雪のように。

 それは二つでも同じこと。あれほど仲の良かった二人が一つの事件によって脆くも簡単に離れていったのだから。

 儚いと言えば儚い。こじつけかもしれないが、龍兵衛は雪の結晶一つの儚さを愛の呆気なさと同じと思った。

 胸が無性に痛くなる。舌打ちなり歯を強く噛み締めるなりして少しでも心を楽にしたいが、周りには兵がいる。本陣の守りを任されている以上、表情を歪めては周りに変な影響を与えかねない。 

 しかし、龍兵衛の嫌悪感をまるで糧としているように雪は更に強さを増している。雪を払う為に頭をはたき、羽織りに付いている特注の被りものを被る。

 

「よく降るな・・・・・・ふぅ」

 

 息が白い。龍兵衛は身体を少し震わせる。未だに慣れない寒いを超えている極寒がこれからやってくるだろう。憂鬱な思いになりながら龍兵衛は手を擦り、陣屋の中に入った。

 後は謙信達に任せて大丈夫だろう。珍しく自身から役に立ちたいと言って出て行った景勝のことも気になるが、兼続が過保護なまでに護っている筈だから心配無用だ。

 箕輪城を落とせば後は中山道沿いの城を攻略し、上野は上杉の手に落ちる。今までは三国峠のせいで越境の統治は難しいとされていたが、街道を整備したことで上野全体を取ればその統治も可能になった。

 犠牲になった自然達には申し訳ないと思いながらも人が自然を支配しようとする性である以上、また人を跪かせようとしている以上、やむを得ないと龍兵衛は割り切るしかなかった。

 そうしなければ上杉はいつまでも関東に出征して、しただけでそれで終わりというのが続いてしまう。

 調整とは難しい。行き過ぎず、下がり過ぎず、どちらかに偏ってはならないのだから。龍兵衛は周りに聞こえないようにまた溜め息を吐いた。

 

 

 

 一週間後、弥太郎と親憲の下に上野の情勢を伝える書状が届いた。

 

「箕輪城が陥落。これでいよいよ流れは我々の方に流れたな」

「ええ。されど、流れは維持しなければ意味がございませぬ」

「分かっている。我々も我々の流れを作るまでだ」

 

 親憲は不意に弥太郎へ目をやる。静かに相手を見定め、北条軍の動きを見ている。互いに動くことは無い。北条軍を数の利のよって徐々に押して行き、官兵衛と景綱が協力して立てた戦術が上手くはまり、徐々に戦況を良くしている。

 逆井城を佐竹と伊達によって陥落させ、官兵衛の思惑通りかれらに犠牲を被らせることが出来た。もう少しで結城と合流出来るところまで来ているが、北条軍もさすがにそこまで来ると粘る。

 北条綱成は逆井城が落とされると関宿城に撤退し、再び散発的な急襲戦や周辺砦から打って出るなど上杉軍の疲労を誘っている。

 そこを官兵衛が巧みに伊達や佐竹を使い、上杉も共に動きているように見せかけていた為、上杉軍自体は伊達、佐竹程、疲労が溜まっていない。

 上杉軍は元気だと毎夜毎夜宴を開き、行き過ぎない程度に親憲と官兵衛が監視しながらどんちゃん騒ぎをしていた。

 しばらくすると綱成は宴のやかましさと一向に退く様子を見せない上杉軍に業を煮やしたのかとうとう打って出てきた。

 その報告を本陣で聞いた時の官兵衛の笑みは実に嬉しそうだったと親憲は思い返す。官兵衛の思惑通りに事が運ばれている。

 綱成が仮に冷静であっても周りの者が敵前で宴を開くという舐められた行動に怒りを感じて城から独断で出るだろう。佐竹との国境付近では国人衆の忠誠心も薄い筈と考えた官兵衛の策である。

 見事と言えば見事。それ以外に何か言うとすれば嫉妬だろう。

 外様を取り入れたことに楊北衆はまた何か言ってくるかもしれない。しかし、言ったところでかれらがどうにかなる訳ではない。

 大切なのは言った後に官兵衛に負けないぐらいの戦功を立てられるかどうかだ。口ばかりで実が無いのは愚の骨頂。

 だが、官兵衛程の知略を持っている者が存在することに不安なのは分からなくもない。親憲でさえ時折、背筋に何かが走ることがあるのだから。今の官兵衛に反逆の心が無いのは分かるが、気にかかる。

 

「おや・・・・・・?」

 

 落ちてきた冷たいそれを視界に入れ、親憲はおもむろに空を見上げる。 

 周りの兵も空を見上げて少し周りと雪が降ってきたと世間話をするように話し出す。弥太郎を一瞥すると全く動じる気配を見せずに降り出した雪のように冷たい目で北条軍だけを見ている。

 弥太郎の中で集中力が一層高まり、雑兵が向かい合えばまとう気だけで動けなくなってしまうだろう。まとう気は親憲が感じる限りでは北条軍を眺める眼のように冷たい。

 だが、弥太郎の心は燃え上がるような夏の太陽の熱くなっているだろう。長年、共に戦場に立ってきたが故に分かる。

 先の戦で不覚とまでは行かないが、醜態を晒し、親憲によって上杉の将としての名誉を守ってもらった形になった。

 故にこの戦では自らの武勇で戦場を地獄と化させ、上杉の将の誇りを見せ付けてやろうと息巻いている筈だ。

 ならばと親憲は弥太郎の心へ打ち水をするように冷静な口調で言葉をかける。

 

「小島殿。急がねばならぬようです」

「言われずともだ。行くぞ」

 

 親憲は苦笑いを浮かべた。先を行く弥太郎の背中は相変わらず燃えている。雪さえも近付けばあっという間に溶けてしまうかもしれない。

 はたしてどのような水をかければ弥太郎の炎は鎮まるのだろうか。分からない。だが、放っておくとしよう。今だけは弥太郎が面白く思えるから。

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