上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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第百五十話 逃げも隠れも出来ないや

 武州の一件から謙信はすぐさま軍を動かし、相模に一気に手を伸ばした。最上の援軍の力もあって八王子城などを一気に落とし、東から来る軍よりも早く単独で小田原城に到着した。僅か、三日のことである。

 好機と見た北条軍が夜襲を仕掛けてきたこともあったが、上杉軍は先の戦を戒めとして強く警戒していた為、良く対処した。以降、上杉軍も北条軍も動かないまま数日が過ぎた。

 

「弥太郎殿達の動きは?」

「後二日三日だそうだ」

 

 龍兵衛は少し安堵したように溜め息をつく。さすがに弥太郎達も謙信がここまで迅速な進軍をするとは思ってもいなかっただろう。小田原城に近付くにつれて、謙信の怒りは増幅していくのか進軍の速度は速くなった。

 それでも音を上げる者がほとんどいなかったのは上杉軍の兵は下々まで統率と鍛練が行き届いていることを示している。しかし、人である以上、体力は有限である。疲れが溜まっているのは否めない事実であり、冬の寒さによってさらに人の体力は削られていく。

 

「ここまで速く動く理由は何だろうか?」

「私が知るか。謙信様に聞け」

 

 言ったところで景勝の一件が尾を引いているのは誰もが知っている。景勝、龍兵衛だけでなく迅速な進軍を止めるべきだと兼続も主張していた。結局、謙信の意見が押し通されたことで小田原城に到着した訳だ。

 

「そもそもだ。景勝様のことを公にすることと進軍を速くしたことに何の繋がりがある?」

「だから。私に聞くなと言っているだろうが」

 

 しつこいと兼続は龍兵衛を睨んでくる。だが、龍兵衛は気にしない。

 

「いや。何か知ってそうだから」

「はあ!? 何でそう疑うのだ。お前は!」

「む……本当に違うのか……」

「だからそうだと言っているだろう!?」

「誰も言ってないけどな」

 

 兼続の顔が徐々に紅潮していくのを見て、これぐらいにしておこうと龍兵衛は話を変えることにした。謝ることはしない。

 

「さて、もう少しで弥太郎殿達が到着するということは思ったよりも利いたようだな」

「ああ、そのようだ」

 

 まだ不機嫌な兼続はぶっきらぼうな返事を返してくる。 

 謙信は兼続の賛成もあって、景勝の襲撃を公にして北条を徹底的に批判し、その噂を流布させた。龍兵衛もそうなっては仕方ないと段蔵に知らせを送り、北条を非難させるように仕向けた。

 

「それで、景勝様のご容態は?」

「良好。傷を受けた時が嘘のようだ」

「他人ごとのようだが、私が擁護しなければお前はどうなったか分からないのだぞ」

「分かってる。それは感謝してるから」

「だったら先程の態度は何だ?」

 

 龍兵衛は口を噤み、兼続から視線を逸らす。龍兵衛が護衛を怠ったということで家臣の中には彼を送還して謹慎させるべきという意見や腹を切らせるという意見も出た。しかし、景勝や兼続が龍兵衛を庇ったおかげでどうにか北条との戦の間は不問として春日山に戻ってから謹慎させることになった。

 

「あれはあれ、それはそれだ」

「なっ……はぁ、まったく、これならいっそ私も切腹させるべきだと言えば良かった……」

「景勝様がまだいるから何とかなるな」

 

 盛大な音を立てた舌打ちを兼続はしてきた。やはり、気ままな官兵衛とは勝手が違って兼続は扱いにくい。龍兵衛は肩をすくめる。しかし、龍兵衛もここは頭を下げたくない為、譲らない。

 

「とはいえ、景勝様には詫びと感謝の言葉を送っておかないとな……」

「まだ、言っていなかったのか!?」

「あの後、謙信様に呼ばれて当分、景勝様とは距離を置くように命じられた」

 

 兼続はそれを聞いて得心したのかそれ以上、このことに関して何も言うことはなかった。龍兵衛は仕方ないと思いながらも景勝に感謝の弁を言うことが出来ないことにもどかしさを感じていた。それを兼続に若干当たっていることは口が裂けても言えない。

 

「先程の話だが……」

「お前を疑っている話か?」

「それではない! いや、それもあるが。謙信様も一体どうしたのだろうか」

 

 兼続も小田原城を一気に包囲することに賛同していたが、景勝のことに関してはかなり強引だと思っていた。景勝が襲われる程、上杉が脆くなっていることが分かれば越後も危ないのではないか。そう兼続は思っているのだろう。それは確かに正しい。しかし、龍兵衛は簡単に頷くことは出来ない。

 

「まったく、お前は少し謙信様のお気持ちを考えたらどうだ?」

「さっきと違うことを言っているぞ、お前」

「え? 俺は謙信様が景勝様を思う気持ちを否定した覚えは無いぞ。景勝様のこととかなり強引な進軍をしたことを言っているんだ」

「屁理屈を……」

 

 兼続は先程から溜め息を数え切れない程ついている。その分、龍兵衛の滅茶苦茶なところに振り回されているのだが、当の龍兵衛は知らない。景勝のこともあるが、兼続も面白い為だ。

 

「腹減ったな」

「話を変え……」

 

 強い口調さえもかき消す良い音が兼続の腹から聞こえてきた。

 

「……そうだな、食事にするか」

 

 顔を赤くして頷く兼続を見て、龍兵衛は笑いを堪えるのに必死だった。

 今日も前日と同様に米と乾物だが、龍兵衛達からすると有り難いの一言である。

 食事の衛生管理の悪さは承知していたが、本当に酷いと龍兵衛は思った。直射日光は当たり放しで腐るのは当たり前だった。それを改善しようと龍兵衛は日持ちする乾物や長持ちする野菜を作った。

 

「まったく、このようなところではきちんと貢献しているのだから」

「不満か?」

「いや。しかし、完全に密封出来る箱をわざわざ作るとはな」

「腐るもの食って吐くよりはましだ。それに、どちらかというと俺は乾物の方を誉めてもらいたいな」

「……美味い」

 

 珍しく素直だなと龍兵衛は言おうとしたが、兼続の性格を考えて危険だと考え、止めた。空腹を何とかしようという思いの方が勝ったからだ。

 

「あれ? けんけんは?」

 

 慶次が陣幕に入るなり、気の抜けた声で二人に話しかけてきた。

 

「いないのか?」

「かっつんが探してるのよぉ」

 

 景勝が探しているならと龍兵衛と兼続は食事を中断して景勝と合流し、謙信を探し始める。辺りを回ってもいない為、他の軍の陣にも向かったが、謙信はいなかった。

 そして、なかなか見つからないまま時間だけが過ぎていった。ここで四人は顔を青くしてもう一度、上杉の陣幕に戻って話し合いを始めた。

 

「どこに行かれたのだ?」

 

 兼続が不安で身体を震わせながら声を上げる。しかし、謙信がそれで戻ってくるはずもない。龍兵衛は顎に手を当て、比較的冷静なままだが、内心、かなり焦っている。

 

「これだけ探していないとなると……」

「敵に捕まったぁ?」

 

 慶次は冗談めかしのつもりだったのだろうが、本当にいないのだから洒落にならない。

 

「まさか……」

 

 真に受けた兼続は腰を上げかけるが、龍兵衛がすぐに指摘する。

 

「兼続。いくら謙信様でもそのような不覚を取る訳ないだろ」

「そ、そうだな……」

「それにしてもどこに……」

「……脱走?」

 

 洒落にならないことを慶次が言ったおかげで陣内は静まり返ってしまった。

 

「慶次……」

 

 景勝が睨み付けたことで慶次も謝りながら脇に引っ込んだ。

 

「どうする?」

 

 景勝が心配そうに皆を見る。とはいえここにいるのは龍兵衛、兼続、慶次の四人。探すには規模が広過ぎる。

 

「少なくとも北条に捕らわれるようなことは無いでしょう」

「だがな龍兵衛。いないとはどういうことだ?」

「謙信様自ら小田原城の偵察とか?」

「そんなことしないって言えないのが嫌ねぇ」

 

 謙信の突発的に行う不可解な行動には皆も慣れている。しかし、景勝のことを考えると冗談も本当に思えてしまう。

 

「でも、謙信様が景勝様のことがあってから間者に気を付けるように言ったんだし、少なくとも……」

 

 徐々に龍兵衛の声が小さくなったのと比例して皆の不安はさらに増した。

 

「……」

「で、ですが! 謙信様のことです。敵の間者に見つかるようなことはないでしょう」

 

 景勝の不安そうな表情に焦った兼続が励ます。

 

「とりあえず探して来ます。私達だけではどうしようもないですし。他の方にも声をかけてみます」

 

 全員が頷き合い、慶次が景勝の護衛として残ることになった。

 

 

 

 昨日まで降っていた雪は止み、太陽の光が人々へと僅かながらも暖かさを与える。いわゆる小春日和である。

 

「ふぅむ。良い天気だ」

 

 麗らかな気分の謙信はのんびりと馬を下りると陣から持ち出した弁当を小脇に辺りを見回す。弁当の中身は乾物ばかりだが、以前よりは栄養のつくものになっている。体調も冬になって心配になったが、崩した者はさほどいない。補給も龍兵衛の越後から随所に作った補給の倉から運び込まれ、今のところは滞りない。支城を押さえておいたのも大きかった。

 

「それにしても、大きな城だ……」

 

 謙信は小田原城を見回し、息を吐く。小田原城の規模は日の本最大とうたわれている。春日山城も普請を何度か行ったが、予算の問題上、小田原城にはまだ適わない。

 

「これぐらい大きな城をよく立てられたものだ……」

 

 北条は悪政を行っていない。善政を敷き、民衆からの受けは非常に良い。これぐらいの城を築けば越後のみならず、東北、関東の者達も頭を下げてくれるのだろうかと謙信は思った。

 かつて足利義満が金閣を立てたように煌びやか、もしくは巨大なものを必要となる時も上杉に来るのだろうか。

 

「そうなったら……その時、考えれば良いか」

 

 謙信は華やかさよりも民と共に親しく生きる方を好んでいる。だから山上宗二による侘び数寄も民が出来るものとして受け入れた。華やかさが伝統的である日の本の中で異色な世の中を完成させることになる。

 

「(ま、かような世だからこそ変えられるものもあるということか)」

 

 秩序が全く機能していない日の本の中で上杉が天下を取れば、貴族や足利幕府前期の伝統的を壊す。しかし、謙信はそのことに躊躇いなど無い。足利幕府のしきたりなどを壊すことには躊躇いがあるが、それ以外のことは上杉の理想通りにするつもりである。

 

「いかん。敵地で後々のことを考えては……お……」

 

 謙信はふと足を止めた。綺麗な蓮池が謙信の視界に飛び込んできた。比較的積もっている雪と池の水が太陽に反射して眩しい。謙信は目が慣れるまで物陰に隠れる。

 

「これで鳥のさえずりでも聞ければ良いのだが……」

 

 今は冬である。鳥も晴れているとはいえ寒さから外に出たがらないのだろう。謙信の願いは空しいものにすぎない。溜め息をついて謙信は蓮池の方へ足を進める。

 相変わらず水面には眩しい光が輝いている。自然による鮮やかな光景に謙信は思わず頬を緩ませた。

 

「(やはりこのような所でのんびりするのが良いな)」

 

 周りの雪原も謙信の付けた足跡以外全く無い。綺麗な光景を目の当たりにして謙信の気分は良くなる。雪の上に座るとさすがに冷たさがある。謙信はあらかじめ持ってきた茣蓙を敷いてその上に座った。

 

「む、今日は魚も入っているのか」

 

 謙信は少し贅沢な内容に嬉しく思いながら弁当の中身に手を伸ばす。

 

「さて、早く……」

 

 謙信の独り言は銃声によってかき消された。謙信は驚いたように顔を上げる。しかし、どこかから喧騒が聞こえていない。小田原城の内部の様子は窺えないが、雰囲気が特に変わっているようには見えない。

 とりあえず、謙信は早く食べてしまおうとせっせと弁当の中身を片付ける。途中、三発程の銃声が響いた。謙信はその都度顔を上げたが、異変も無かった為、食事を再開するということを繰り返した。

 

「(さて、早く戻らぬと兼続達が騒ぐ)」

 

 謙信は蓮池のある雪原から走り去ると馬に飛び乗り、本陣へと急いだ。今のうちに帰れば陣中を適当に回っていただけと言って誤魔化せると思って。

 そして、帰った途端に謙信は兼続と龍兵衛と鉢合わせた。しばらく沈黙が続いたが、まず龍兵衛が口火を切った。

 

「おやおや、謙信様。何故に陣の外に?」

「ああ……いや、これは、だな……」

「陣中の見回りの途中にかつての川中島のように迷ってしまった。でございますか?」

 

 龍兵衛は立て板に水を流すような口調で謙信を問い詰めてくる。兼続や官兵衛で遊んでいる時のようなどこか人を弄んでいる口調だ。

 兼続の方を謙信は一瞥する。龍兵衛のことよりも謙信の方を戒めたくて仕方ない様子で無言で詰め寄ってくる。

 

「とりあえず、戻りましょうか?」

「あ、ああ……」

 

 謙信は動揺を必死に隠しながら陣幕へと戻る。背後の二人から針で刺されているような視線を浴びせられながら。

 

「そ、そうだ。鉄砲の音がしたのだが、何かあったのか?」 

「何の話です?」

「えっ……」

 

 龍兵衛は兼続に目配せするが、そちらの方も首を傾げるだけ。すぐに龍兵衛と兼続は怒りを押さえている表情で謙信の方を向く。

 

「その鉄砲はおそらく、いや間違いなく謙信様を狙ったものですね……どこに行っていたのか聞かせて頂いても?」

「あ……そうだな……確か、池があって、蓮があって……」

「……謙信様。それは小田原城の蓮池門と言われる所です」

「えっ……」

「初めて聞いた。などとは仰らないでしょうね?」

 

 龍兵衛は謙信から目を離さず、言い訳をも許さない。裁判を受ける人のように小さくなってしまった謙信だが、確かに蓮池門のことは聞かされていた為、言い逃れ出来ない。それから三人は黙ったまま陣幕まで進んだ。

 

「さぁ、謙信様、皆様がお待ちです」

 

 龍兵衛が恭しく陣幕を開ける。謙信は唾を飲み込んで中に入る。中には白い目をした慶次と謙信のことをじっと見て離さない景勝がいる。

 

「今、戻った」

「謙信様」

 

 龍兵衛が背後から刀でも立てているような雰囲気で謙信を戒める。謙信も周りの目から自分に求められていることを察し、唇を噛んだ。

 

「すまない……」

 

 謙信は風が吹けば飛んで行ってしまいそうな声で言うと頭を垂れる。思っていた以上に空気が重い。謙信は慶次からも真剣な気が出ているのを感じ、よほど迷惑をかけたのだと反省した。

 

「かっつんがどうして陣を離れたのか聞きたいそうよ」

 

 謙信が陣から離れたのは気紛れだった。しかし、小田原城までの進軍を急がせた張本人がそのような行為を働いたとなれば面目が立たない。

 

「謙信様」

 

 景勝から冷たい刀を当てられたような言葉を浴びた謙信は逃げ場が無いことを悟り、一歩下がる。

 

「駄目ですよ?」

 

 龍兵衛が謙信の背後を固める。他の三人もゆっくりと謙信の周りを囲む。陣幕の為、周りに人はいない。警護の兵も景勝と慶次が下げたのか一人もいない。どうするべきか謙信が考えている間も四人の表情は険しくなり、距離も近くなる。

 

「早く話して欲しいと景勝様が言っております」

 

 龍兵衛から最後通牒を叩き付けられ、やむを得ないと謙信は至極真面目な表情になった。

 

「私が怒りで前後不覚になっていると思っている。それを真だと思わせたまで」

「ちょっとぉ、嘘は良くないわよぉ」

「……気を紛らわせようと少し遠出したかっただけだ」

 

 素直に白状した謙信の目の前に今まで口を閉ざしていた兼続がゆっくりと歩み寄ってきた。

 

「何か他に言うことはございませんか?」

「うむ……無い、な……」

 

 蚊の鳴くような声で謙信が言うと兼続以外の者達はそそくさと去っていく。謙信は弥太郎や慶次のような無駄な抵抗をせず、素直に聞く態勢を整える。

 三人が出て行った途端、すぐに兼続の正論が聞こえてきた。

 

「けんけんも懲りないわねぇ……」

「どの口が言ってんだか……」

「あらぁ、あたしがいったい度の過ぎたことをしたのかしらぁ?」

「「……」」

 

 二人の目を見て、慶次は乾いた笑いをして、素直に「ごめんなさい」と謝った。景勝と龍兵衛は分かっているなら良いと同時に溜め息を吐く。

 

「それにしても……」

「……?」

「いえ、少し気になることがあって」

 

 それで終わらせられるような面子ではない。龍兵衛の誤魔化しも空しく景勝と慶次は話せという視線を向けてくる。口を滑らせてしまった自分を呪いながら龍兵衛は口を開く。

 

「謙信様の様子が忍城や武州を移動する時よりも変わった気が致しまして」

「確かにそうねぇ……武州にいた時は『誰の意見も聞かない!』って感じだったのに」

「気、変わった?」

「いや、それはないでしょう……」

 

 龍兵衛は言葉を続けようとしたが、喉元で強引に引っ込めた。景勝が顔を覗き込んできたが、何でもないと首を横に振る。慶次が言いなさいとせがんできたが、今度こそ龍兵衛は頑固に聞かない。

 

「とりあえず、他の所に行きましょ。ここは目立つわ」

「ああ……」

 

 三人は移動しながら黙り込む。原因を作った龍兵衛が一番話しかけにくい雰囲気をまとって前を向いているのか下を向いているのか分からない顔の角度で歩いてる。景勝と慶次は前と隣から龍兵衛の様子を窺っているが、龍兵衛は気付いていない。

 龍兵衛は謙信の言動にある矛盾点を見出した。そのことは慶次や景勝も感づいている筈である。しかし、二人は謙信のことを信じている為、あえて考えないようにしているのだろう。

 

「(俺の場合、気になったら考えないと気が済まないからなぁ……)」

 

 もしかしたら景勝と慶次は気付いていないのかもしれない。信じているからこそ見落とすところもあるのだろう。

 龍兵衛は自分が謙信を信じていないような思いを抱いていることに気付いて小さく鼻で笑う。もちろん、龍兵衛自身、謙信のことを素晴らしい人物であると思っている。

 龍兵衛はそれかけた思考を元に戻す。謙信があれほどまでに憤怒を演じるのは何故だろうか。そして、その余剰から小田原城までの進軍をかなり急いだのは何故か。

 

「……ん?」

「どうした?」

「いえ、何でもありません」

 

 龍兵衛は眉間の皺を深くした。景勝と慶次は顔を見合わせ、首を傾げ合う。

 今までの強い北風が方角を少しずつ変えていた。

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