上杉の章 新たな兵衛   作:北極星

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矛盾点を直しました。この時はノープランで始めたので。本当にすみません


第一話改 越後へ

 

 春日山城では長尾景虎が越後であと一つの反抗勢力である坂戸城の長尾政景を討伐すべく準備を進めていた。

 春日山ではそのための軍議が進められていた。戦前だが、広間の雰囲気は和やかである。

 

「いよいよ、政景殿のみとなりました。坂戸城には約二千の兵がいる模様」

 

 かつて景虎の反抗勢力の国人衆の一つの勢力で軍師をしていた天城颯馬は景虎にその才能を惜しまれ投降した。当初は怪しむ者もいたが、今や景虎の軍師としてその能力を遺憾なく発揮している。

 

「つきましては、私が先に提出した策がよろしいかと」

 

 上杉には軍師が颯馬以外にも二人いる。一人は今、軍議の様子を見守っている頭に耳をつけた女性、宇佐美定満。彼女は景虎が当主となる前から長らく長尾家に仕えている。

 

「いいえ! 私の策の方が絶対に上手く行きます!」

 

 そして、颯馬の策に喰ってかかる女性、直江兼続。

 武将としても仕える彼女は感情的であるが、裏表の無い人物で景虎に見出された人物である。

 

「なんだと!? 俺の策のどこに駄目な所が有るんだ!」

「絶対に私の策の方が今後に繋がる! 私は今後を考えて策を立てているんだ。今後を考えずに行動できずに何が軍師だ!」

「今、確実に勝たなくては今後はないだろう!」

 

 歯を牙のごとくして睨み合う二人、年も近いことがあって軍議の場でも無遠慮に言い合うことはいつものことである。

 

「まぁ、二人とも落ち着いて、定満殿はどう考えています? お二人の策について」

 

 ここで毎回二人を止めるのが役目の男性、水原親憲。

 越後で強力な国人集団、楊北衆の古参に入る人物であり、武勇に長けた勇将である。

 親憲に振られた定満は雰囲気のままに穏やかに口を開く。

 どちらの策が良いか、軍師としても家臣の中でも最も発言力のある定満の答えを颯馬と兼続は内心自身の策が選ばれることを期待しつつ待つ。

 

「どちらの策も捨てるには惜しい。だがら、どっちの策も取る。いい?」

 

 言っていることが良く分からないという雰囲気が軍議の場に流れる。

 

「どっちの策も同時に出来ると思うの。違う?」

 

 この言葉に言い合っていた二人は頷く、どちらの策も同時進行は可能だ。定満はその方向で行くべきと考えた。

 

「まぁ、今回は構いませ……ん」

「何、お前が譲ったようにしてんだ!」

「二人とも、もう喧嘩しちゃ、めっ、なの」

 

 定満の迫力に二人は頭を下げる。

 何故か定満の「めっ」は迫力があってみんなが言うことを聞いてしまう不思議なものである。

 

「それで颯馬君の策は兼ちゃんが。兼ちゃんの策は颯馬君がするの」

 

 颯馬、兼続にとっては承服し難い意見ではあったが、景虎が面白そうにそれはいいと言って結局その方向で行くことになってしまった。

 

「そうだ。軒猿から報告があったのだが、どうやら美濃で起きた配下の反乱の首謀者が死罪になったそうだぞ。それから、関連した二人の軍師が追放されたそうだ。ま、今はどうでも良いがな」

 

 軍議の最後に自らが抱える有能な忍からの報告をそれとなく景虎は話す。すると、兼続が直ぐさま反応した。

 

「当然の報いです! 主家に抗うなど愚の骨頂です!」

「ふむ、確かにそうだが普通は首謀者でなくても斬られると思わないか?」

 

 景虎の疑問は当然で謀反を行った以上、首謀者はもちろん、関連した人物も斬られるのが普通である。

 

「そういえばそうですね……ですが、景虎様。今は遠国の事よりも我らの手で越後を統一を早く終わらせることが先では?」

 

 兼続の上段隣に居る長身の女性、小島弥太郎は武勇に優れ、また兼続にとって景虎に推してくれた彼女には多大な恩がある。 

 

「そうだな。ま、そなたらが私を見限るなら堂々と裏切って欲しいな」

 

 景虎は悪戯っぽい笑みを浮かべながら物騒な事をさらっと言う。

 

「景虎様、またそんなことを……」

「意外に茶目っ気があるからなぁ」

 

 少し呆れる程余裕のある親憲や颯馬と違って、冗談の利かない所がある兼続は顔を真っ赤にして「そんなことは無い……そんなことは……」と小声で言っている。

 それを見て声を上げないように笑っていた景虎だが、直ぐに戦前の真剣な顔に変わる。

 

「実及、そなたに留守を任せる。よいな?」

「かしこまりました」

 

 ゆったりと本庄実及は頭を下げる。彼女は地味だが、謙信の師としても信頼高く。留守を任されるがそれほどの信頼と能力を持ち、筆頭格の定満と対等に話せる数少ない人物でもある。

 

「すでに長重と景家を出陣させている。我々も準備出来次第直ちに出るぞ」

 

 家臣全員が「御意」言ったのを聞いて景虎は軍議を終わらせる。

 

 

 日が丁度、真上に差し掛かった頃、龍兵衛は山賊に囲まれていた。

 

「何でこんなところに山賊がいるんだよ?」

「うるせえ、何でもいいから早く身包み置いていくんだ!」

「断るって言えばどうなるんです?」

「んだと? おい、やっちまえ!」

 

 何人かが斬りかかってくる。今、龍兵衛は飯山にもう数時間の山道にいた。普通、城下の近くには山賊はいないはずだか、と考えながら山賊を迎え撃つ。

 直ぐに片付く。そう考えていたが、思っているより人が多い。細道で一気に周囲からやられることはない。だが、人数が多くいる。

 剣術は決して苦手では無いが、かつて高校時代に入りたての下級生に走り込みで負けるほどの体力しかない龍兵衛にはちょっときつく。五人ぐらい斬ったところで息が上がってきた。

 

「(あと、十人はいる。やっぱり逃げようか……)」

 

 遠回りになるが馬を走らせれば撒くことが出来る。そう考えた龍兵衛が身体を反転させようとした瞬間だった。

 いきなり横から槍が目にも止まらない速さで飛んできて一人の山賊の首を貫いた。驚いて龍兵衛がその方向を見てみると、そこには青を基調とした露出度の高く、上は胸を隠すべきところだけを隠し、下は下着が丸見えの服を着た女性が立っていた。

 

「うーん、ここまで来れば大丈夫だと思ったんだけどぉ。やっぱり山賊はどこにでもいるのね」

 

 女性は龍兵衛に目もくれず、すでに事切れている山賊の一人から槍を引っこ抜くとあっという間に山賊を斬り捨てていく。その様は蟻の大群が人間の足に踏まれるようで、山賊は斬り掛かる前に次々と死んでいく。

 残った山賊の連中もその強さを見て、慌てて武器を捨てて逃げ出してしまった。追撃せずに女性は息を吐くと龍兵衛の方に視線を向け「大丈夫?」と声を掛けてくる。

 一方の龍兵衛の方は思わずその女性を見て衝撃を受けた。決して顔が綺麗だとか胸が大きいとかそういうものではない。

 

「なーにぃ? ぽーっとしちゃって……あ、もしかしてあたしが美しくて見とれちゃった?」

 

 勘違いも甚だしい。それ以上に何でこの人がここにいるのか。それが龍兵衛が女性をまじまじと見ている第一の原因である。

 

「な、なな……」

「ん、何? どうしたの?」

 

 龍兵衛は失礼などの考える暇もなく、女に指を差した。

 

「何で前田慶次がここにいる!?」

 

 

 

 

「なーんだぁ、龍ちんって斎藤の蝮のところにいた軍師だったんだ。そりゃ私のことも知っているわねぇ」

 

 二人で山道を歩きながらここまでの経緯を語り合った。どうやら、慶次は養父も死んで織田に居るのも飽きたらしく出てきたらしい。

 今は友好的だが、織田家先代の当主、織田信秀の時は何度か戦っていた相手だ。そこで遠目だが、前線で戦っている慶次を見たことがあった。

 その時は三人の軍師がそれぞれ思い思いの場所に置いた伏兵に囲まれながらも平然と突破をして陣に戻っていったのでよく覚えている。

 だが、その呼び名は正直なんかむずかゆい。

 龍兵衛はそんなあだ名なんてつけられたことが無く、いきなりそんな仲のいい友達みたく接してくる慶次に困惑した。だが、決して馴れ馴れしさを感じることはない。

 前田慶次はかなり破天荒な性格と噂があったことも思い出した。

 向こうがそう呼んでくるため、龍兵衛の方も遠慮なくでいかせてもらっている。

 

「でも、軍師には見えないわ。その体格」

「よく言われるよ」

 

 龍兵衛はかなり大柄な体格をしている。

 戦国時代の平均的身長を考えれば当然だが、よく武将と間違えられる。この世界に来て少し痩せたが、体格はさらに良くなった。そのせいか背も伸びたが、彼自身の自覚は一切ない。

 それが仇となって初陣の際は敵方の将兵の的になってしまい、一鉄に助けてもらっていたという情けないことをしている。

 

「で、慶次はこの後どうすんだ?」

「えーと、あたしはとりあえず……どこに行こうか迷ってた。龍ちんは?」

 

 聞いて呆れるこの発言。龍兵衛はずっこけそうになったのを必死にこらえた。

 

「……俺は長尾に行こうかなと思っていた。ついでだ。行ってみないか?」

「そうねぇ……行ってみよっか」

「軽いな……だけど、今は長尾景虎殿は春日山にいないんじゃないかな?」

「え、どうして?」

「知らないのか? 噂によると坂戸城に向かっているらしいぞ」

 

 そう言うと慶次も龍兵衛の言ったことを理解したように頷いた。

 だが、少し考える仕草をすると嫌な笑みを浮かべてしながら肩に乗っかってくる。胸が当たっているのだが、龍兵衛は気にしない。

 

「ねぇ、なら坂戸に向かわない?」

 

 慶次はとんでもないことを言ってきて龍兵衛を驚かせた。そんな龍兵衛にも構わず慶次は続ける。

 

「別に大したことじゃないわよ。ちょっとした道場破りみたいなもんよ」

「ちょっとしたことではないんだが……」

 

 慶次の言わんとすることは龍兵衛もわかる。一鉄に剣術は教わったので別に構わないが、決して一騎当千というわけではない。

 

「俺はそんなに強くないぞ?」

「別にいいわよ。それにさっきの見てたけどそんなに弱くないじゃない。いざとなったら私が守るから」

 

 もう少し軍師らしい売り込みをしたかったが、守ってくれるならいいだろうと龍兵衛は結論付け、口元をつり上げる。

 

「はは、面白いな噂通りの風来坊のようだ」

「あら、そんな風に呼ばれてたのあたし? あと、龍ちん笑顔が怖いわよ」

「そういえば、よく師匠にも言われたなそんなこと」

「師匠ってだれ?」

 

 二兵衛のことを言うと慶次に大層驚かれた。二兵衛はかなり尾張でも有名らしい。

 

「あ。そういえば、あたしも聞いたことある。二兵衛に継ぐ三人目の兵衛がいるって」

「……とりあえず行こう。坂戸に早くしないと戦が終わるぞ」

「話を逸らすの下手ね……まっ、いっか。よ~し、久しぶりに暴れるわー!」

 

 からかうような笑みで何か言おうとしていたが、龍兵衛は気にしない。

 

「ねぇ、一つ聞き忘れたことがあるんだけど?」

 

 善は急げと立ち上がろうとした時、慶次が口を開いた。

 

「斎藤でさ、最近内乱が起きたじゃない? あの時、首謀者は処刑されて、関連した二人の将が追放されたらしいけど」

「首謀者って誰だ?」

「あら、知らないの?」

「あいにく、その前に追放されたからな」

「えっと、確かね……」

 

 耳を傾け、名前を聞くと龍兵衛の目はたちまち大きく見開かれた。

 

「嘘だろ……」

「ほんとよ」

 

 龍兵衛が聞いた名前は信じたくないことだった。だが、慶次は京からこっちに来た時に美濃を通って来た為、間違い無いと見ていい。

 道三たちは台本を書き換えたようだ。それが彼自らの命令か他の者の仕業かはわからない。

 

「(どこかで落ち着いたら調べなくてはならないな)」

 

 龍兵衛は密かになるべく早く坂戸に向かおうと決心した。

 あの事件は決して龍兵衛ら以外は傷付かないはずだった。長尾に仕えられると決まった訳ではないが、早く身を落ち着かせたい。

 

「(もし。あの方が自らそうしたのなら、その責任は自分にもある)」

 

 龍兵衛からすれば自身達が捲いた種から要らぬ犠牲が出たと感じてしまう。

 彼は暗い雲が心を覆ったような気持ちになった。

 その日、もう自分から口を開くことはなく、暗い表情をしたままずっと下を向いていた。

 慶次もその雰囲気から何かを感じ取ったのかその日の口数はめっきり減り、順序よく坂戸に向かうことが出来た。

 

 

 しかし、翌日に完全な別人となった龍兵衛も見て、さすがの慶次も驚きを隠せなかったのは別の話である。

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