「朝倉か……」
直接受け取った書状を読みながら龍兵衛は呟く。豊原寺城内にある広間にて行われていた軍議はすでに終わっており、ここに残っているのは彼と景勝だけだ。
相手が誰であれ、内通者がいれば戦は格段に楽になる。書状を認めた朝倉景健はかつての朝倉義景の代わりに朝倉軍の総大将を務めるなど、優れた将として聞いている。
紆余曲折あって最後は一向宗に与したことで織田に討たれて生涯を閉じるはずだった。だが、ここでは信長が帰参を許したらしい。結果として再度、一向宗に戻って肩身の狭い思いを続けているらしい。自業自得だが、見返りが安住の地だけとあるため、もう乱世の動きに疲れたということだろうか。
それならば早くどこかの寺で出家してしまえば良いと思う。しない理由は分からないが、何かしらの矜持でもあるのだろうと深く考えずにおく。
「おい、龍兵衛。朝倉の内応、どう考える?」
いつの間にか近くに来ていた兼続が話しかけてくる。
「どうって、これが策かもしれないということか?」
「用心するに越したことは無いだろ。万が一に備えるべきだ」
不機嫌そうだが、それだけ不安視しているのだろう。朝倉、織田、一向宗、織田、一向宗と渡り歩いてきた景健を信頼できない気持ちも分かる。しかし、龍兵衛には別の考えがあった。
「兼続の言い分はもっともだが、これだけ寝返ってきたということは、逆に寝返りに関しては信用して良いということじゃないか」
「あー……まぁ、そう言われれば、そうだが……」
「別に大丈夫だろ。それに金ヶ崎城も落ちたと連絡があった」
先程、上がってきた報告を伝えると兼続の眉間に寄っていたしわが一気にほどけた。
「本当か?」
「ああ、今こちらに向かっているらしい。明日の夕方には到着するらしいが、景勝様とも話し合って夜にしてもらった」
言いたいことを察したのか再び兼続の眉間にしわが寄る。
「夜襲か」
「一向宗は三日後に攻めると朝倉は言っていた。これを信用して良い場合、明後日まではこちらに攻め込むことはしない」
「仮に嘘だとすれば?」
「奴らはこれまで夜襲をしてきたことは無い。攻城を行うとすれば日中だろう」
兼続は景勝の方ヘ視線を向ける。すでに承諾済みの彼女も一つ頷き、納得させる。
「景勝様もそう思われるなら、承諾致しました。万一に備え、兵の配置も整えておきます。龍兵衛、後で仔細を聞かせてくれ」
そう言うと兼続は足早に外へと出て行った。
「……終わった?」
「ええ」
様子を伺っていた景勝が静かに龍兵衛の方へ近付き、横に密着してくる。表情は懐いた猫が飼い主に撫でられているように嬉しそうに目を閉じている。
「外では誰が見ているか分からないので勘弁してほしいのですが」
「〜♪」
「……聞いてます? 先程は兼続の足音が走ってきたから分かったのですよ」
「声、かけられる。問題ない」
兼続が突然声をかけてきたのは龍兵衛の集中力が周りに行っていなかったからのようだ。
よりを戻してからというもの、以前より懐き方に手段を選ばなくなってきている。人の目が付きやすい所は避けておこうと互いに言い聞かせているが、やはり空白期間の寂しさを埋めたいと積極的になっている。
先程も兼続が来るまで、景勝は龍兵衛に寄り添っていた。いつの間にか定位置に戻っている彼女を見て驚いたが、全て合点がいった。
おそらく、再びの押し問答が始まるだろうと考え、地図に目を落とす。
金ヶ崎城が落ちた以上、一向宗は退路を失い、劣勢になるのは必定である。朝倉の情報から彼らがその情報を虚報と信じ込み、報告した者を処断したと聞いている。これで情報が入らない彼らはあっという間に瓦解するだろう。
それ故に、龍兵衛の目はその先に向けられていた。
だが、思案し続ける彼を遮るように景勝が目の前に入ってきた。
「龍兵衛、おでこ、凄い」
躊躇いなく眉根に指を置かれ、なぞるように左右に広げられる。
「止めてください」
嫌だとさらにしわを寄せるが、構わずより強い力をもって解こうとする。可愛らしい指で愛でられるのは嫌いではないが、集中したい時のそれは鬱陶しい以外の何ものでもない。
「戦に負けても良いんですか?」
「これぐらい、集中切れる。良くない」
「そう開き直られても……」
笑顔で言われてしまい、ますます龍兵衛の眉間にしわが寄る。それに気付いた景勝は「あ」と指差し、再び解こうとする。ここまでくると頑固者同士の勝負になってしまいそうなので、負けたことにして彼女に向けて和らいだ表情を見せる。
それを見て、景勝もさらに眩しい笑顔で応えてくれる。このまま時間が過ぎてくれれば良いが、ここは戦場。このひと時も一瞬のうちにしておかなければならない。
「もうよろしいですか?」と思考を戻したいことを告げると物分かりの良い景勝も素直に頷いてくれた。
「勝てる?」
「勝つでしょう。問題はその先に」
「……?」
小首を曲げる景勝の耳元に近付き、周囲を伺ってから口を開く。
「朝倉の処遇、任せていただいても?」
「……!」
龍兵衛の裏を知っている彼女はその意図を察して口を真一文にする。しかし、彼には必ず承諾してくれるはずだと確信があった。
「……分かった」
景勝は自分も手を汚すことを覚悟している。だが、それは彼女の思い込みに過ぎない。見えない所で自身のみが手を汚す。平和の象徴になる天下の主は潔白であり続けなければならない。
目の前にある晴れやかな笑顔を曇らせないためにも。
しばらく景勝で癒やされていたが、いつまでもそうしているわけにもいかず、地図をまとめると立ち上がる。
「兼続の所に行ってきます」
「ん……」
「頑張れ」と言葉にしないが、笑顔を向けてくれる。戦場という公の場でなければ頬が緩んでいただろうが、堪えて頭を下げて広間を出る。
「さて、どこに行ったのやら」
兼続からどこで何をするつもりなのか聞けば良かったと後悔しつつ、辺りを探す。存外、軍師としての気持ちで動くと同じような道を辿ることになる。
兵糧庫で見つけた彼女に先程の意趣返しではないが、背後から小さい声で「おーい」と話しかける。
「何をする!?」
秒速の速さで壁際まで下がってしまった。内心、渾身の握り拳を作ったが、周囲の兵たちが目を丸くして驚いているため「さっきの件で話したいから来てくれ」と無表情で声をかける。
「だったら普通に声をかけろ!」
そう言うと龍兵衛の首根っこを掴み、小柄な体とは思えない力で巨体を引きずっていく。衆目で恥ずかしいところを見られてしまったのがいけなかったのだろうか、少し話し合いが長くなることを覚悟しながら、されるがままにされておく。当然、注目している兵たちを笑わせるために兼続の頭上に鬼の角に見立てた指を立てたり悪戯をしながら。
おかげで皆も声を堪えながら笑って見送ってくれた。
しばらくして、空き部屋になっている所を見つけたのか立ち止まり、容赦なく放り込まれる。
「痛い……」
「当たり前だ! 恥ずかしい思いをさせおって。いいか、あのような公衆の場でだな……」
「そんなことより、一向宗のことを話す方が先だが」
正論をぶつけるといつもの説教態勢を緩め、後で覚えておけと目で睨みつけてくる。
龍兵衛も多少のことは覚悟の上での悪戯だったので別に構わないと思いながら持ってきた地図の内、越前の情報をまとめられた方を広げる。
「ここの兵糧はどれぐらい持つ?」
「補給路を断たれている以上、もって後五日から七日だな」
兼続の表情は言葉とは裏腹にそこまで厳しくない。
「なら、決戦までには支障は無いか」
「……そんなことのために別室に移動させたわけではないだろう?」
龍兵衛は穏やかな雰囲気を持って対応していたが、彼女の言葉で一気に重苦しくなった。
「ここで一向宗を壊滅させる。降伏も許さない」
「それは私も賛同だが、まさか……」
「不慮の事故もやむを得ないだろう?」
兼続は腕を組み、唇を真一文字にする。言わんとするところの真意を容易に察したのは良いが、本当に実行すべきか悩んでいるのだろう。しかし、彼女が了承するという確信もある。一向宗との争いをいつまでも続けるわけにはいかないが、向こうが手打ちを拒否している以上、一方的に終わらせる必要があると軍師たちは考えている。
さらに今回の戦では景勝という重荷がどのような扱いとなっているのか、彼女もよく知っている。
「……景勝様はどうする?」
案の定、皆が苦慮していることを尋ねてきた。少し迷いを抱きつつ、一度間をおいてから龍兵衛は口を開く。
「存じ上げていない。戦後に俺たちが残って処理するからな」
「少し無理がある。せめて、落ち着いた後に……」
兼続の言葉を制するように手を彼女に向けて出す。
「あくまでも存じ上げていない、だ。いいな?」
「……言ったのか?」
「景勝様の覚悟に魅せられた」
冷徹な殺気を浴びせられたが、臆することなく目を見る。兼続は舌打ちすると乗り出していた態勢を直し、仕方ないと右手で顔を覆う。
「知らない体で、間違いないな?」
「もちろん、関わろうとすれば手段を問わずに止める」
「……分かった。正直、やりやすくなったのは確かだからな」
戦後になれば敵は散ってしまい、残党狩りを行う。手掛かりも無い以上、村々を無作為に回らなければならないため、金や手間がかかる。出来ることなら、見えるところでさっさと処理する方が良い。
暗黙の了解を得られたことは兼続も口では不満を言っているが、内心ありがたいと思っているだろう。それ以上は追求せず「ところで」と話題を変えてきた。
「肝心なのは戦の方だ。負ければ元も子もない」
「金ヶ崎城を落とした斎藤殿が率いる別働隊が明日、明後日には来るとすれば、ここで一向宗を壊滅させられる」
「降伏は時間の問題だろうと言いたいのか? 奴らがそうするとは思えんが」
これまでの一向宗との戦いで兵たちが降伏してきたのは皆無であり、殲滅するまで一歩も引かないのは有名である。首を捻る兼続にだが、と龍兵衛は手首を上げる。
「今回は無理やり徴兵させられた者もいると聞く。その者たちと信者の生き残りを選別すれば良い」
「頭を叩かないのか?」
「挟み撃ちの中で死んでくれれば儲けものだが、織田との戦でも大坂に逃げているからな。それに本願寺は弱くなってもこうして息を吹き返せる。代わりはいくらでもいるだろう」
「山を崩すために土を一掘りしたに過ぎないということか……」
兼続は肩をすくめる。はっきりとは言っていないが、了解したと解釈して良いだろう。
すかさず龍兵衛は持っていた地図を広げる。
「一向宗をこの地で追い詰め、一気に片付ける。そのためには彼らを包囲するように兵を配備しなければならない。しかし、問題は兵の数だ」
兵の質は圧倒的に上杉の方が上だが、数は圧倒的に一向宗が勝っており、下手な鉄砲も何とやらと言う。
「どこかに敵を集中させるようにする必要があるが、幸いにも良い所を見つけられた」
「ああ、この前か。朝倉のことでそっちに意識が行っていたが、見つけたのか」
「いや、逆だ。むしろ一向宗が陣取る西側は開けていて、奴らはこちらを威圧するためか、広々と陣を構えている」
「なら、どうする?」
龍兵衛は兼続から目を逸らす。少し思案すると良いことを考えたと彼女に向き直り、一つ頷いた。
「夜襲を今宵かけよう」
「何?」
兼続の眉間のしわが深くなる。だが、その真意を察したのか、おとがいに手を当てると「なるほどな」と呟き、立ち上がる。
「共に景勝様に上申しよう。そうすれば通りやすい」
「よし。どれだけの兵を連れて行く?」
「三千もいれば良い。指揮は私が執る。景資殿を連れて行きたいからお前は景勝様や安田たちと城を守ってくれ」
「いつでも援護できるように支度しておく。西の丸から退却してくれ」
「分かった。朝倉には伝えるのは任せるぞ」
龍兵衛が頷くと矢継ぎ早に決めた方針を話すべく、景勝の下へと急ぐ。
景勝は二人が改めて部屋に来たのを見て、驚いていたが、鬼気迫る雰囲気を察して何事かと身構えている。
「突然の無礼をお許し下さい」
兼続が一言断ってから二人は話し合ったことを分かりやすく伝える。景勝も意図を理解し、二人がそう言うならばと承諾し、無理はしないようにと激を貰った。
二人は支度を行うため、すぐに部屋を辞し、並んで急ぎ足で歩く。先に口を開いたのは兼続だった。
「これから私は兵を集める。他のことは任せて良いか?」
「景資殿を探した後、武具の支度を任せて書を認める。怪しい動きをする者がいればすぐに捕らえるのはお互いだぞ」
「分かっている。半刻後に本丸中央の広場で会おう」
「了解」
「ところで、どうやって一向宗を殲滅する?」
龍兵衛は心中で舌打ちをした。上手く話を逸らしたが、さすがに忘れるほどではなかったらしい。
「……地形を利用する。今言えるのはそれだけだ」
「……分かった。だが、戦が終わるまでには聞かせてもらうぞ」
「もちろん」
それを合図に二人はそれぞれ行動を始める。
一向宗との因縁を断ち切りたいという思いは一緒である。だが、戦にて全てを決したい兼続と戦後処理を利用し、汚いことも承知で事を進めようとする龍兵衛とで若干のすれ違いが残ったままであるのは事実である。
その日の夜に上杉軍は一向宗の陣に南北から挟む形で夜襲を行った。正面にしか目を向けていなかった敵は度肝を抜かれ、あっという間に混乱状態になり、同士討ちも始まる始末だった。
徐々に覚醒した各陣から「上杉、天誅ー!」という声が聞こえたが、兵の練度と士気の差が決め手となり、一向宗はじりじりと撤退せざるを得ず、兼続が頃合いを見て撤退する頃には三千近くの被害と逃走兵を出し、緒戦の勝利は明らかとなった。
一向宗の大将は怒りに任せて翌朝、城を攻めようとしたが、兵の被害と士気の低下、さらに日程を前倒しにしたために支度が出来ていないままの攻勢から防御を固めていた上杉軍によって簡単に追い返された。
そのまま正午を過ぎ、処理が落ち着いたのを見計らうと上杉軍の重臣たちは広間に集まり、軍議を始めていた。
「ここまでは予定通りのようじゃな」
一向宗は豊原寺城の西にある丸岡城を中心に兵力を集中させた。これでは数で劣る上杉軍は手を出せず、再度、防御を固める。
「ええ。景資殿、突然の戦でしたが、ありがとうございます」
「よい。久々に血が滾る戦だった。こちらこそ感謝するぞ」
右隣にいる景資が頭を下げてきたため、龍兵衛は慌てて手で制する。
「しかし、一向宗の頭は随分と気性が荒いですな」
「全くだ。まさか、被害を被ってろくに支度をしていないままに攻めてくるのだからな」
二人の真向かいで兼続と安田能元が呆れたように呟いている。
「河田殿、指示がなかったため、朝倉の陣も襲撃しましたが、良かったのですかな?」
「ええ。朝倉は味方内で孤立無援。兵が減っても構わないようですから」
能元は相変わらず人を見下したような物言いをしてくる。だが、以前よりは皮肉は減りています素直に人の言うことを聞くようになった。傲慢さはお坊ちゃま故だろうが、実力はそれなりになってきたため、家中では皆から近過ぎず遠過ぎずの関係を築けているらしい。
「ならば良いのですが、あの場で朝倉を討っても良かったのでは? いつ寝返るか分からぬ者を家中に置くのはいささか不安があります」
「生真面目に逐一、一向宗の情報を入れてくれますので最大限利用しましょう。それに、彼が願っているのは隠棲です。これ以上、求めてこないならそれで構わないでしょう」
安田は景勝様の御前であるためか、それ以上の質問はしてこなかった。
心配そうに景勝がこちらを見てくるのが分かる。気付かないふりをしつつ、前を向いたまま目を瞑る。
いつもの姿勢のため、誰も咎めずに軍議は粛々と進んでいく。そして、一通り戦術が固まると景資と能元はさっさと準備に向かうために外に出ていく。
一つ間を置いて龍兵衛と兼続も外に出て、彼女に促されるように人気が少ない場所に向かう。
「朝倉の件だが、具体的にはどうするかまだ聞いていない」
「当然だが、信用できない以上、誅する」
「事故に見せかけると言っていたが、そう上手くいくのか?」
「そこは任せてくれ。抜かりなく行っている」
その回答を得て満足したのか、兼続は大通りに戻ろうと促す。
そこからは特段会話も無く、並んで歩き、城外が見える櫓へと登る。二人の視線は一向宗が拠点としている丸岡城に向けられている。昨日まで、かの城を中心に横に広い包囲陣営が築かれていたが、今は兵を集中させ、突貫する陣形が築かれている。
「あれを見る限り、背後からの襲撃は全く警戒していないな」
一通り見終わった兼続がため息交じりに口を開く。
「楽な戦になるな……ん?」
「どうした?」
兼続の問いに応えず、龍兵衛は目を凝らす。
「……敵兵が逃走している」
「何?」
兼続も龍兵衛が向いている方を向く。「見えないな……」とぼやく彼女をよそにその様子を眺める。三人が気付かれないように北西に向かって走っている。
しかし、逃走劇は一向宗の陣から出てきた騎馬兵によってすぐに終わった。無慈悲に背中を突き刺された兵たちはその屍を放置されたままになる。そして、これから起こる戦でその存在すら忘れ去られるだろう。
「諸行無常だな」
「仕方あるまい。私たちもそうだろう」
兼続の指摘に否定できず、龍兵衛は無言で丸岡城ヘ視線を戻す。
上杉軍も統率力が高いとはいえ、逃走した兵がいないと言えば嘘になる。その兵たちを取り締まるのが上に立つ者たちの役目である。仮に今、ここで同じことが起これば自分たちも同じことをしなければならないだろう。
命のやり取りとはそれだけ重く、立場によって軽くなるものだ。
今回の朝倉や一向宗への処遇を振り返る。哀れにも龍兵衛自身も命を軽く見ることが当たり前になっている。自覚した時は自己嫌悪に陥ったが、すっかり慣れてしまった。良くないことだと分かっている。しかし、分かっていてもやるしかないのだ。そうして自分を自分で殺していくことで人を殺める心情を破壊する。
この苦しみは決して誰にも、たとえ景勝でさえも理解されないだろう。
何故なら、皆は生粋の戦国人なのだから。
「直江様、河田様、いずこに」
下から聞こえてきた声によって現実に戻され、兼続と共に声がした方向を覗く。兵が辺りを見回しながら歩き回っていた。
「どうした?」
兼続の声に兵は足を止めて膝を着き、こちらを見上げてくる。
「ここより失礼、お二方とも、景勝様がお呼びです」
「了解。すぐに向かう」
口を閉じるや兼続は梯子から降りていき、龍兵衛もそれに続く。
すぐに広間へと戻ると既に景資と能元は座っていた。
遅れたことを二人で詫びつつ、着座する。すぐに景勝が口を開いた。
「朝信、今宵、攻める」
手にしている書状は斎藤からだろうと推察する。
「手筈通り、こちらが先に攻勢を仕掛け、敵の目をこちらに集中させ、少し遅れて別働隊が背後を叩く。これで一向宗は混乱し、なし崩し的に勝利出来るでしょう」
兼続の言葉に誰も反論せず、景勝の方を向く。それに応えるように彼女は勢い良く立ち上がり、大きく口を開いた。
「この戦、勝つ!」