越後、新潟城では新発田重家に加担した加地衆と景家を大将とした最上救援隊の間で戦が繰り広げられていた。
長重と景家は新発田城で貧乏揺すりを続けていたが、最上軍の中でも知略に優れた定直が策を提案して来た。
加地秀綱の本拠である加地城を攻めるべきである。
確かに目が新発田に行き過ぎていた。二人は動きがなく、いらいらしていたのでその策を是としてすぐに行動に移った。まずは景家が最上軍と共に加茂城に向かった。
加地秀綱はその報告を届くとすぐに彼は援軍を加地城に派遣したがその日の夜。
つまり今日、景家と最上軍は加茂城から引き返して新潟城に夜襲を行った。
加地は突然の急襲に対応らしい対応が出来ずに沼垂城に撤退を始めた。
景家は徹底的に追撃を緩めることなく彼を追い詰め、加地は沼垂城に後一歩のところで首だけとなった。
景家は秀綱の首を陣に高々と掲げ、沼垂城の兵達に見せ付けた。
城主の首を見て士気が大幅に下がったところを見計らって景家は密かに別働隊を率いてやってきた上泉秀綱の奇襲を合図に沼垂城に総攻撃をかけた。
景家や秀綱達による上杉軍の怒りを吐き出すような苛烈で容赦ない攻めに恐怖した兵士達が徹底的抗戦を主張する副将を殺して降伏を願った。
しかし、そんな調子のいいことを怒りに燃える景家達が許す筈がなく、沼垂城を焼き払い、その者達も纏めて沼垂城の兵士達ほぼ全員の首を跳ねた。
逃げた者も盛周が残党狩りを敢行している為にすぐに殺されるだろう。
こうして新潟港が開かれ、景家達はすぐに兵を纏めて山形に向かった。
残党狩りを終えて無事に山形に向かう景家達を見送った長重は新発田城攻めの膠着状態を破る為に先ずは重家側の加茂城を落とすべくその支えである剣ヶ峰砦を落とそうとした。
剣ヶ峰砦はL字型の単調な造りの山城だが、その砦を落とせば加茂城は半分以上落ちたも同然である。
長重は直ちに砦を攻め立てたが、敵も必死に防戦した為に特に成果を上げることが無いまま一度撤退をした。
能元を新発田城の抑えに置いているとはいえわざわざ兵を二分したのだ。結局は何も変わりませんでしたでは意味がない。
夜襲は加地での戦で使った以上は加茂城に籠もる将の耳にも入っている筈だ。それならばあとは方法は一つしかない。
「火攻めの準備を始めてくれ」
早朝、長重の指揮によって放たれた火は剣ヶ峰砦を包み込み、逃げ出て来た兵は悉く長重を先頭にした上杉軍に討ち取られた。
これで新潟港は開かれその日の内に景家と義守は羽前に向けて出立した。
山形城では義守の代わりに城を預かる義光があれこれと指示を飛ばしていた。
彼女にとって今の状況は安東家同様に独立する絶好の機会でもあった。現に安東から決起を呼び掛ける密使が来ていた。しかし、答えは否。
山形城に入った時、上杉軍は民には一切手を出さず貧民には慈善活動を行い、かつて最上軍が広めた悪い噂を簡単に嘘だと行動で表明して民の心をあっという間に掴んだ。
最上がいくら頑張っても出来なかった国人衆達の掌握も地道ながら徐々に行って行き、表面的には忠誠を誓わせて反乱が起きないような状態にしてしまい、義光は大層驚いた。
また、領地は削られはしたが、あれこれと上杉は何かを押し付けるような事はせずに越後と同じ法令を領内に出すことを条件に自治を任された。
義光は越後に義守の護衛として同行した定直と盛周に探りを入れるように密かに命じていたが、彼らから上がってくる報告は上杉家の善政を褒めるものばかりであり、悪い報告はほとんど無い。
彼女を一番驚かせたのは上杉家が所有する豊富な鉱山の成果を独り占めせずに民に還元しているということだ。善良な領主でも欲には眩むもので一人占めにしたいという思いが出て来てもおかしくは無い。しかし、なかなか出来ない事を謙信は簡単にやっている。
最上とて大名である以上は自分達が上に立ちたいと思っている。
あの時の戦は色々とあったのでもしかしたらと思った事もあったが、それはもう過去の事。乱世は先を見なければならない。
評判を聞いて来た義光は上杉家を信じることにした。第一に謙信は自分達を信じてくれた。誰が裏切るま分からないこの時世でしっかりと当主の義守を含めて。
『いざとなった時はそなたの判断で軍を動かすことを許すぞ。もちろんちゃんとした理由があってこそだがな』
つまりはちゃんとした理由が無いなら罪に問うということである。甘いが、義光は決して信じた人の信頼に漬け込んでよろしくないことを企むような人ではない。
軍を動かす真っ当な理由が今はある。最上の為には非道な策も辞さない義光だが、生来根は善である。
謙信の信頼に応えようと義光は立ち上がる。行き先は安東家領内。問題は兵力が心許ないことだが、反乱を野晒しにして置くわけにはいかない。
評定の間にて義光は立ち上がって安東からの密使を怪我をしない程度に蹴り飛ばした。だが、使者は部屋の襖をミシリと抉る程の勢いで飛んで行った。義光は気にしない。密使が立ち上がる前に近付くとぐっと顎を持ち上げて睨み付ける。
「帰って愛季に伝えるのじゃ。精々良い辞世の句を作っておくようにとな」
そう言うと延沢満延に密使を文字通りつまみ出させて鮭延秀綱に明日出陣すると命じた。
「むぅ、なかなかやる。何か良い策は無いのか?」
少し苛ついた義光の口調だが、誰も反応しない。義光らは愛季が北秋田郡に進軍したという情報を掴み、その隙を突こうとしたが、愛季は使者が帰る前からこうなることを予測していたようで顕村に北秋田郡の攻略を任せて自らは上杉家が雄勝郡にある院内銀山確保の為に直轄地にした為に所領の一部を奪われた事に不満を持った小野寺景道と共に義光の侵攻を防ぐ為に由利郡で迎え撃った。
情勢は一進一退。景道と対立していた国人衆の土佐林禅棟が援軍に来たとはいえ決定的な兵力を持っていない以上は策で対抗するしかない。
頼みの義守は新潟港で新発田の足止めを喰らっているという報告が入っている。
謙信達と違って時間は少しだけあるが、なるべく早く鎮めて最上の力を見せ付けたいという思いもある。
「いっそこちらから動いてはいかかです? 夜襲をしてみては?」
「それは駄目じゃ。相手は安東、手は打っている筈じゃ」
「しかし、このままでは味方の士気にも影響します」
知っているというように義光は頷く。しかし、決定打が無い。満延や重臣の一人である楯岡満茂もそこから更に黙り込む。
誰もがこの状況に業を煮やしていることは義光も知っている。何故なら自分もそうであるからだ。
彼女達も今決戦を行えばかなりの被害が出ることは分かっている。
歯痒いが援軍を待つしか無い。義光は各自に逆に夜襲に警戒するように命じた。
景家達が由利郡の義光の陣に到着したのは一週間後であった。相変わらずの膠着状態だった義光軍は援軍の到来と共に義守達が帰って来たことに歓喜した。
「義守ー! 会いたかったのじゃー!」
「わわわ! 義光!?」
とりわけ義光は姉との再会に狂喜乱舞して義守を見るなり、まさに電光石火の速さで飛んで行った。
久々の再会とはいえ義光ははしゃぎすぎなだが、義光からすれば何十年も居ないような気持ちであったので仕方がない。
上杉家に降伏した時は義守が春日山に行くと行った時は義光は自分も行くと言った。
しかし、最上一族のどちらかが山形に残っていないと駄目なので義守が我慢するように懇々と説教をして終いには義守渾身の雷を落とした事でどうにか首を縦に振ったが、義守はその間ずっと鬱憤をかなり溜めていた。
故に、公衆の面前であっても愛情故のべたべたである。
「あー! もう離して!」
猫のようにまとわりついてくる義光をぐいっと引き離すと義守は顔を赤らめながら満延達に状況を聞く。
呆れながら満延は名残おしそうな顔をしている義光を横目に相変わらずの一進一退で動いては退くをお互いに繰り返している。
また財源である院内銀山はどうにか間に合ったが、阿仁鉱山を奪われたという情報も入っている。
「まずいな・・・・・」
景家の呟きは陣の雰囲気を重くした。このまま手をこまねいていては安東軍の主力がこちらに攻めてくることになる。その前に決着を付けることが勝利する道である。
兵力は上杉・最上軍が今のところはかなり上だが援軍が来れば安東軍との差は少しになる。決定的な勝利を得る為、今のうちに攻めることで決定した。
だが、攻めるにしても安東軍が守っている場所が悪かった。
岩谷という場所がある。
そこは国人の岩屋氏の本拠だが独立心が高く、愛季が上杉家からの独立を宣言すると当主の岩屋朝盛も独立を宣言して安東と同盟を結んだ。
岩谷は丘陵地に位置する山城で東西南北が急な丘になっている為に守りに易い城である。
南北は特に攻めることが不可能な程に急激な角度の為に東西に攻撃の場所が集中する。
そのために東西には搦め手などが備えられている為、あまり東北の中でも目立たないがかなりの要害である。
援軍が来る前に落とそうと義光もそこへの攻撃を指示したが、落ちる気配がない。
「なかなか嫌な所に城を建てたものだ」
満延は城を見ながら攻め込んでいる城を恨めしく見つめる。ずっと立ち往生している彼女達からすればかなりの時間が掛かっているように感じていた。
おかげで苛々が溜まった義光は暇つぶしだと岩を満延に投げ付けて遊んでいる始末で、彼女自身もいい加減その岩を受け止めることも飽きた。
「なんとかならないのか、この状況は」
「私に聞かれましても・・・・・・私も色々と考えているのです」
この状況を打破する為に彼女は定直と話し合っているが、全く得策が浮かんで来ず、唸り声が上がる。
「しかし、何故に安東は私達が来るまでに義光様と決戦を望まなかったのでしょう?」
「そういえばそうだな?」
普通ならば今の上杉・最上軍同様に援軍が来る前に決着まではいかなくてもせめて一回ぐらいは大きな攻めるようなことをしてもいいのだが、全く気配が無い。
「いずれにしろ。向こうにも何かあるとみていいかな?」
「ええ、この動きはかなり周到に準備されていたようですから」
確かにこれ程動きが綿密だと最上の面々も気になる。
義守達にも許可を得て二人はすぐに斥候の増員を周辺に動かした。
さらに三日経った朝に情報がもたらされた。
伊達に不穏な動きがあり、戦支度をしてどこかへ向かおうとしている模様という上杉・最上を驚愕させる報告だった。
「輝宗・・・・・・懲りもせずにまだ妾達を狙うつもりか」
怒気を孕んだ義光の言葉は先の最上軍と上杉軍の戦の際の伊達の乱入はかなり根深く恨みを持たれている事を示している。
実際、あの時の戦で最上軍が一番の被害を受けた。原因は上杉軍にもあるが宣戦布告も無く奇襲攻撃をした伊達をいくら乱世を生きる為とはいえ許せる筈がない。
「どう思いますか? 景家さん、秀綱さん?」
「無論討つべきでしょう!?」
二人は義守と盛周の切迫した空気に苦笑いを浮かべるだけだ。
この怒りに支配された空気の中で上泉秀綱と柿崎景家の上杉家から派遣された将はあまりそれには同調出来ないように満延には見えた。
あの時、上杉と伊達は双方武で語り合った。理解し合った。汚いという恨みはあるが、最上と比べたら天と地の差である。
「輝宗殿が何を考えているかは分かりかねますが、とりあえずは御息女の政宗殿に敵意は無いと思います」
「しかし、それは娘であろう。当主は輝宗。何をするか分からんぞ、以前のようにじゃ」
最上軍の一同は義光の言葉に賛同だと大きく頷いている。
景家も負けじと何か言いたかったが、何分口よりも手を動かすのが好きな彼女は何も言えず、秀綱に任せるしかなかった。
秀綱も自身が主導になることは景家のおどおどしている様子から分かっているので涼しい表情は崩さないが、内心、必死に説得しようとしているのが景家には分かった。
「いえ、龍兵衛殿が仰っていました。あの時の策は政宗殿本人が立てたものに間違いない、と」
最上の面々は全員が目を見開いて隣同士とざわめく。
この事は最上軍が上杉家に降る前に龍兵衛が上杉の面々に言っていた為に最上側は知る由もなかった。それが逆に一部の人間の逆鱗に触れた。
「それではもし政宗が来たら我らの手で討ち取るべきではないですか!?」
盛周が音を立てて立ち上がり秀綱に詰め寄った。満延達も怒りで顔を赤くしている。
一方の秀綱は便乗することはせず、静かに手で彼を制する。
その様子を景家は秀綱が追い込まれたのではないかと何も出来ずにはらはらしながら見ていた。
「私も本来ならばこのようなことは言わずに一旦撤退して体制を立て直すことを提案します。しかし、伊達は動かないでしょう」
「何故!?」
盛周はさらに詰め寄るが、秀綱は彼の怒りを鎮めるように静かに言った。
「武人の勘です」
定満は龍兵衛から全てを聞いた。惟信との間に起きた悲劇と彼がひた隠し続けていた罪ある過去の真実を。
もちろん龍兵衛も定満の巧みな話術に堕とされ、外堀が埋められたからとはいえ心の理性はしっかりと保ちながら定満にも分かるように説明した。
心が過去のことについて口を滑らせて絶望で支配されかけたが、皮肉にも定満の励ましのおかげでどうにか持ち直した。
淡々と過去を話していく龍兵衛。その内容を聞いている内に定満は龍兵衛が言っていた『政景殿と惟信の父が似ている』ということに合点がいった。
政景も惟信の父も実直で心に熱いものがあると龍兵衛は言った。
その点がまったく一致していることがどうしても躊躇いを覚えてしまうということも彼は素直に自白した。
「そして、自分は惟信の父を社会的に抹殺しました」
この言葉を聞いた時、定満は龍兵衛を叱り飛ばしたくなった。
「(そんなことを・・・・・・!?)」
口から出せば何度も要約すれば同じことを言ってしまいそうになる。
哀れな者達だと本心からそう思った。
「惟信さんにばれたの?」
「ええ、そうでなければ今頃自分は惟信と一緒にいました」
悲恋を経験したことが龍兵衛と惟信にどのような絶望を味あわせたのか。もはや聞くまでもなかった。
そして、龍兵衛は恋人の父を惟信が言ったように『殺した』のだ。
再び龍兵衛は恋人の父を殺そうとしている。それが彼の心をふわふわとどこかに離れさせている原因だった。
聞けばあの時に龍兵衛は心を鬼にして父よりも愛を取り、泣き崩れた惟信に対して別れたくない気持ちを抑えて彼女を振り切り、一切の関係を絶ったらしい。
あの時の彼女の涙で潰れた綺麗な顔を龍兵衛は忘れたくても忘れられないと言って締めくくった。
定満は彼が最初に惟信の父を殺したと言った時はかなりの憤りを覚えた。
それと同時にあの時、惟信はどうしてそのような冷酷な男とよりを戻そうとしているのか疑問を抱いたが、冷静に考えれば恋とは理論では答えられないものだと思い出した為、その疑問はすぐに頭から捨てた。
もう一つ疑問が出来た疑問の方が定満にとっては大事だった。
「まさか・・・‥・景勝様の事、繋ぎだと思ってる?」
「そんなことありません!」
咎めるような定満の睨みに龍兵衛は首を大きく横に振って否定する。
ちゃんと景勝とは将来を誓い合って惟信とは踏ん切りを付けた。
素直に言った龍兵衛がかなり顔を赤くしているのは恥ずかしいからだというのは黙っておく。
定満はまだ政景のことに龍兵衛が躊躇いを覚えるのは惟信とのことにちゃんとした踏ん切りを付けていないからだと分かっている。
根底にある因縁はもはや解決出来ないことだと龍兵衛は言っているので諦めるしかない。
惟信の父がかなりひどいことをしたのは分かっているが、我慢出来なかった龍兵衛も悪い。
もちろん彼もあの時は今よりも血気が盛んだったと反省しているが、反省してもいつまでも引きずっているのは良くない。
ましてや龍兵衛の場合はかなりの重傷である。もう何年も前の話なのにまだ吹っ切れないのは間違いなく問題である。
「・・・・・・まだ何か?」
「ううん。もう・・・・・・いいの、お休み」
立ち上がった彼は少し以前よりも心持ちが楽になったのか足取りは少し軽くなっている。
「やっぱり、ちょっと待って・・・・・・」
はっと思ったことを聞きたいと龍兵衛を呼び止める。龍兵衛の表情は先程のぼんやりしたものから少し引き締まっている。安堵しつつも彼女は聞きたいことを問う。
「龍兵衛君は、どこから来たの?」
「美濃からですよ・・・・・・・・」
何を分かりきったことをというようにふっと笑いながら龍兵衛は言ったが、定満は誤魔化されない。虚勢を張っているのは見え見えである。定満も勘付いていた。
彼が言いたくないのは分かっているが、彼女の好奇心が聞きたくて聞きたくてうずうずしていたのだ。
「景勝様に私や弥太郎と寝たことばらしてもいいの?」
「あの時は薬で・・・・・・!」
「変わりないの」
定満は龍兵衛の唇を指で抑えて有無を言わせない姿勢を取る。しかし、龍兵衛は指を払って定満を睨む。
「卑怯です!」
「軍師だから、しょうがないの」
時には手段選ばない。それは軍師の心得でもある。
羞恥心を晒すことは避けたい。出生の秘密も避けたい。しかし、相手は定満。
以前のことは言わなくて自身の出生については今後も追及しているだろう。
確信が無いことは追及して来ない定満である以上、何を言っても言い返して来るのは必至。
先程、定満は軍師故に、卑怯な手段も辞さないと言った。龍兵衛も軍師である。
「御免!」
「ひゃ!?」
突き飛ばして逃げる。先程の脅しは所詮は脅し。言いふらすようなことを定満がしないと分かっているからこそ取れる先達に対する暴力。
目を瞑ってくれるだろうが、明日が怖い。しかし、秘密を知られる方が龍兵衛はもっと怖い。
定満は景勝に言って仲を崩そうなどと鬼畜なことはしない。彼女なりに自身を救おうとしようとしていることは分かっている。
だが、逃げるしかない。心を縛るような形になろうとも。
「(何故だ。心が全く重くない・・・・・・)」
一方の定満は突然突き飛ばされたことに怒りながらも少しやり過ぎたかと自身で反省していた。
人は一人ではない。誰かが支えることでその人は幸せになれる。
今回の場合は彼が抱え込んでいたものを少し共有することで龍兵衛は楽にさせようと思った。
龍兵衛は頑なにそれを避けた。確かに人である以上、仲間にも知られたくない秘密というのは一つや二つはある。
だが、見る限り彼の心が危ういことに変わりない。
やはり、自ら壊れることを避けて自らが手を打つべきだろうか。
それとも、彼の彼が見えない以上、やはり自らを築かせる為に動くべきか。
否、既に答えは出来た。先程、突き飛ばされた時の龍兵衛の表情は一切の曇り無く、感情は全く籠もっていなかった。
選択肢は二つ。簡単に道を決められるものではない 龍兵衛と景勝の為にも年上である自身がどうするべきか導くのが仕事だが取るべきところの選択肢はゆるゆると決めないといけない。
全て終わった後に景勝が彼をどう見るかは分からないが、もちろん自身も二人が末永く幸せになれることを願っている。その為にも年上の自分が一肌脱ぐ必要がありそうだと定満は思った。
その結末が残酷なものになろうとも構わないと。