職定はゆっくり立ち上がって天神山城からの光景を眺め見る。
別に上杉軍が来襲したとか危機が迫っている訳ではない。ただ城からの何の変哲もない風景だ。
しかし、職定は笑う。ただ笑う。ここに自分が居るという事は上杉の息の根ともいえる謙信と景勝を越中に留めることにほぼ成功したのだから。
忘れられない恨みを晴らす為に
「ここまでは順調。後は詰めるだけか・・・・・・」
一人静かに呟くと律儀にも家臣の一人が近付くが、何でも無いと首を振って家臣達を下がらせる。
松倉城が取られる心配もあったが、それは杞憂となった。
ここに来るまでにそのような報告は上がっていない。そもそも天神山城を落としたところで松倉城が落ちてもそれは所詮は悪足掻きというやつだ。
「それでも上杉に対して一歩も退かない加賀勢は凄まじいな・・・・・・」
松倉城には椎名康胤らの代わりに加賀の一向一揆勢が入っている。
職定は椎名の家臣ではないが、この戦いでの松倉城の重要さは十分に分かっているし、越中の者として東側を制圧するに必要な城であることも承知している。
一向一揆勢を借り受けて松倉城を攻めようと康胤の進言してかれらに上杉軍が来た時の対処法を指示したのも全て職定であった。
しかし、康胤からすると相手が上杉軍という懸念もあった。向こうは鍛え上げられた精鋭。一向一揆勢は元をたどれば所詮は装備も疎らな民。数の暴力があるとはいえ職定はどうしても不安を拭えなかったが、松倉城に入った彼らはその不安を期待に変えてくれた。
上杉軍の援軍として松倉城に入った小国頼久の隊を指示通りの動きで撃退した。
この報告を受けた時に職定は驚き、一向一揆勢に対する評価を改めた。
民であるが故の絆のようなものが深いのだと確信に近いものを感じた。そして今、上杉軍の本隊相手に松倉城をしっかりと守っている。
松倉城の堅牢さの御陰でもあるが、上杉軍という名前を聞いただけで怯える者も居るというのにかれらは怯えるどころかむしろ向かって行っている。
「流石と言いえば流石だが・・・・・・」
職定は一向一揆の結束力を頼もしく思っていた。かれらの信仰する浄土真宗は端的に言えば「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えるだけで極楽浄土に行く事が出来るという教えである。
民達は乱世という生き地獄に居るならば死んでから楽になりたいという訳であろう。
かつて京で仏教宗派勢力同士の争いに敗れて加賀に下野したが、教如がその簡単な教えで民の心を掴んだのは誰もが知るところである。
その後、再び力を盛り返した浄土真宗は京に戻り、今は本願寺を中心に絶大な勢力を築いている。
職定自身は武将である為に民の心を理解するには限界があるが、乱世を憂いているが故に分からない訳ではない。
だが、職定はその一向一揆勢の恐ろしさも一方で感じていた。
一度だけかれらを晴貞から借りる際に見た事があるが、かれらはただ命令に忠実で首を縦に振るだけで感情の起伏など無い。
職定の放った斥候からの報告が彼の背中をさらに冷やした。
死ぬまで一歩も退かずに死んで行き、死に対する恐怖も無くただ敵に向かって死んで行き、表情を変えないまま西に頭を向けて死んで行く。
武将である職定でさえ戦で死ぬ恐怖を持っているのに民であるかれらは死ぬ事を怖がらないのか不思議だった。
両手を広げて素晴らしいと言っても良いのかもしれないが、職定はどうも合点がいかない。
本願寺への忠誠心というよりは職定にはどちらかというと一向一揆勢の忠誠心は晴貞に向いている気がしてならないのだ。
かれらの信仰に対する篤い思いが浄土真宗に対するものではないと職定は感じるようになっていた。
「いずれにしろ今は味方、大丈夫だ」
疑問が残っても浄土真宗の庇護の下、長職の娘である長住を当主として神保家を再興させる。
職定の最終的な目的はこれである。念願を叶える為に上杉は潰さないといけない。
一向一揆勢と上杉家。越後を治めている以上は北陸全土に宗教国家を築く野望がある本願寺とは相容れない仲である。
それに上杉家は神保家に屈辱を与えた間接的な原因でもある。
復讐心を抑える事が出来なかった職定は長住と共に主家の過ちを正す為に家を出てまで上杉家を倒したい気持ちが強く心にある。
公より私を選んだと見られるかもしれないが、職定は職定で神保家を守ろうとしている。
元々彼は人徳の厚い将だった。その為に本来なら長職もこちら側に誘って神保家の全てを挙げて上杉家と対抗しようとしたのだが、邪魔者はどこにでもいる。場合によってはそれは自分の権勢にまでしゃしゃり出てくる。
「あの馬鹿さえいなければ・・・・・・」
毒を吐いた矛先は言うまでもなく小島職鎮である。彼は上杉家との因縁を捨ててかれらに靡いている。その為に主君の長職も上杉家与党になってしまっている。
職鎮が何か吹き込んだのだと彼は信じて疑わなかった。この戦はその害毒の膿を神保家から抽出する為の戦いでもある。
今でも彼は長職を上杉家へと心を向かせているに違いない。
しかし、職定からすると長職だけでも職鎮によって支配された心から解放して本願寺から向けられている仏敵の対象から外したい。
長職と長住の親子の醜い骨肉の争いを終わらせ再び親子仲良く元通りにと職定は心の底から篤く思っていた。
「これが神保家の損にならないようにしなければ・・・・・・」
職定は立ち上がり、将を集めて越後から来る上杉軍の援軍を迎え撃つ為の準備を始めるように命じた。
軍議ではさほど重要な情報も危急の知らせも無く、ただ顔合わせで進んでいく。
「・・・・・・他に何か意見はあるか?」
「某から一つ・・・・・・」
軍議も佳境に差し掛かった頃。締めとして配下を見回すと一人の将が声を上げる。
「どうやら民が流入しているようですが、いかが致します?」
「迷う事はない。迎え入れてやれ」
「しかしながら、殆どが越後から来た者共ですぞ」
他の将も戸惑いや反対の意見を述べている者が多い。しかし、職定は揺るがない。
「民に何の罪がある?」
「いえ、その・・・・・・」
民が頼って来たのであれば無碍に追い返すなど出来る訳が無い。かれらは生活の日を求めているのだ。職定の正論に将は言葉を失い。最終的には頭を下げてしまった。
「密偵の可能性があるのでは?」
配下の者達が言いたい事も分かる。
だが、簡単に読めるような策を上杉家の軍師達がするとも考えられなかった。
それに職定の人徳が苦しんでいる民達に救いの手をのべてやりなさいと言っている。第一に謙信が民を間諜に仕立てるということ自体有り得ない。
「兵糧に余裕はあるか? あるならかれらに与えてやれ」
「よろしいのですか? かなり厳しくなりますぞ」
「民があってこその国だ。迷うな」
何と慈悲深い御方であろう。改めて職定の度量の深さに配下の将達は頭を下げた。
民達は快い職定の歓待を受けて大変嬉しそうにしている。
その着ている服を見てみると誰もがぼろぼろでいくら何でもこれはないだろうというぐらいの汚れっぷりである。
仕事を終えた職定が夜になって自ら何故越後から逃げて来ているのか聞くと民達は口を揃えてこう言った。
「坂戸の長尾政景様が春日山と飯山の兵が出陣したのは越中の援軍に行くと見せかけて実は反乱を企んでいると言い回っているんですだ」
道理で動きがないと思っていたらそのような事を考えていたのかと職定は内心にやにやと笑いながら政景の策に感服していた。
この流言を上杉軍にばらまけば簡単に謙信達は疑心暗鬼に陥る。
政景はがら空きとなった越後を難無く奪い取り、職定が保護した民達を越後に戻す事で生産性の糧を壊す事無く越後を早く再興させる事が出来る。
「なかなか考えた・・・・・・流石は長尾政景殿だな・・・・・・」
戦いの天秤は反上杉に傾き続けている。
もうすぐで謙信達の首だけとなった姿を見る事が出来ると思うと職定は心の高ぶりを抑えるのに必死であった。
夜が長く感じる季節で夢の中で彼が見たものは何だろうか、それは彼がこの戦の終焉に見るものと同じであった。
一方の神保長職は富山城の中で一向一揆勢の攻勢を受け止めて早数週間。
城内への侵入を全く許さずにここまで守り抜いている。
富山城にいるのは約一千五百。対する一向一揆勢は一万以上。兵力だけで十倍の差があるこの戦いでしかも援軍も無い悲壮感漂う中でこの戦況を保っているのは賞賛されるべきものである。
しかし、それはこのまま一向一揆勢が退いてくれればの話で負ければそのような話は歴史の暗闇へと消えて行くだけ。
孤立無援の富山城の中で長職はじっと目を瞑り、動じること無く座っている。その場では配下の将達が指示が下るのをはらはらしながら待っている。
「申し上げます! 敵軍が三の丸への攻撃を開始!西と南から攻め込んでいます!」
「慌てるな。前線に伝令、怯む事無く防げと。職鎮は西、勝重は南、それぞれ三百ずつを連れて援軍に向かえ」
「「御意」」
小島職鎮と水越勝重。神保家の重臣中の重臣が勇んで出て行く。
伝令兵がもたらしたその報告を聞いてもう何度目だろうか。長職の将兵は傷が付いていない者がいない程加賀と能登の軍勢に攻め込まれていた。
疲労困憊の中で長職は涼しい顔を崩さない。彼自身も自ら白刃を血の色へと変えている。
だが、その勇姿に城内の兵は勇み立ち相手の兵は恐れおののく訳ではない。
厳密に言えば能登の軍勢は恐れているが、加賀の軍勢は全く恐れを抱いていないように見える。
確かに富山城に籠もる兵の数の方が少ないのだが、当主自らがその武勇を振るい、傷一つも付けないで戦っているのを見ると普通は近寄りがたいものを感じる筈。
しかし、彼は見ていた。全く表情も変えずに覇気も無いままに向かって来る加賀の兵の無秩序な襲来が嫌でも目に入ってくる。
富山城を攻めている加賀の兵は正規の兵士の為にきちんと武装しているのだが、別に凄いと思える程鍛えられている訳でも無く、長職であればかり簡単に打ち払う事が出来る程度であった。
「とはいえ数は向こうに利があるか・・・・・・」
質よりも数が重宝されるのはいくら鍛え上げられた兵士でも数打ち当たり勝負すればいつかは絶対に負けるからである。
こちらは籠城しているとはいえ被害は日に日に増えている。
それは向こうも同じだが、数が減っていくのが早いのは兵が少ない富山城である。守りが崩れるのは時間の問題であった。
それでも彼は富山城を守らなければならない。
彼は晴貞の内部に隠されている狂気を知っていた。
それは本当の偶然だった。だが、長職ははっきりと見た。晴貞が加賀の国内からお忍びで越中西の長職の領内に来ている事を。
本来なら捕らえるなりした方が良かったのだが、長職には椎名家との争いがある以上は加賀と越中東の挟撃を避ける為にも動かずに静観する事にした。
そして、自ら足を運んで晴貞を監視していた際の事。
農村で晴貞の足がぴたりと止まった。視線の先を見てみると綺麗な女性が一人で野良仕事をしている。
「(まさか・・・・・・)」
嫌な予感しかしない長職は晴貞の行動を瞬きもせずに見守る。見てしまった。
晴貞は周りに誰もいないのを確認するとその女性を素早くかっさらい、どこかに連れて行った。
追って行き、その場で問い質す事も考えたが、長職の足は動かなかった。
晴貞を咎めて加賀の機嫌を損なわせる事はその時の上杉や椎名のことを考えるとあまり戦略的に良しとは言えなかった。
「(すまない・・・・・・)」
心でその女性に深く深く頭を下げて長職はその場をひっそりと後にした。
その後、件のの女性が死体で見つかったと聞いた時は晴貞の手で行われたとすぐに分かった。
長職はその事について口を開く事は無く、結局女性を殺した犯人は今でも分からないままになっている。
彼は黙ることを貫いた。その中で晴貞への不信感を募らせた。
だから職定が晴貞に合力しようと誘った時にはすぐに反対した。
何故と聞かれても彼は上杉と組んだ方が明日があると言うだけでそれ以上は言わなかった。
長職は神保家の中にも晴貞の間諜がいる事は分かっていた。故に、それを言えば間違い無く晴貞は越中の一向一揆勢を煽って蜂起させて加賀の軍勢を越中に向ける。
それだけは何としても避けたかった。一方で、あんな晴貞と手を組むのも絶対に嫌だった。
職定は表面だけで彼の裏を全然分かっていない。だが、彼は晴貞の表面の偽物の人間性にすっかり取り込まれていた。
さらに長職の頭を抱えさせたのは実の娘までもが晴貞の偽の魅力に取り憑かれていたのだ。
長職も私では父親である。娘の長住に晴貞と会わせてみるものなら何をされるか分からない。
身内贔屓をしても可愛いらしく育った愛娘があんな下郎の下に入る事を考えるだけで長職は気分が悪くなる。
しかし、斥候からの報告を聞けば長住は晴貞と共にいるという。
「(早く長住を助けてやらなければ・・・・・・)」
逸る心はあっても神保家当主として家の存続の為に長職は戦わなければならない。守るべき民達が将兵が、あの蛆虫のような輩の下に入る事を何としても避けないといけない。
私情に走って多くの人を犠牲にする事は出来ない。
「申し上げます! 敵軍から矢文が・・・・・・」
「また降伏しろという催促だろう? 懲りないものだ」
このところ毎日のようにやって来る。そのせいで兵の士気は落ちるばかりだ。だが、降伏したところで晴貞のおもちゃになるのは死ぬ事以上に御免である。
それは長職だけでは無い。配下の将兵も同じ目に遭う。分かっていない兵の士気を上げるのは難しい。
「(何としても踏ん張らなければ・・・・・・)」
長職は立ち上がると矢文を持って外に出た。
外では将と兵がこの冬に汗にまみれて戦の前線に出ようとしている。長職の姿を見ると何人かが膝を着くが長職はそのままで良いと手で制する。
それがしばらくの続いて長職がようやく三の丸に着いた時には神保家の将兵は長職の事など気にせずに戦っていた。
血生臭い臭いが漂い、敵味方のものなのか区別が付かない死体が転がっている。
ふと長職が見ると刀を合わせている味方の兵が死体に足を取られて倒れているのを見た。
兵は農家の次男として産まれた。長男が家を継ぐのが当たり前であるこの時代では彼は実家に居ても意味がなかった。
そこで彼は神保家に入った。特に何か能力があるわけでもない彼は生きる為に必死で敵の人間を斬ってきた。
最初こそ何故このような事をして普通でいられるのかと先輩の兵に聞くようなこともあった。
その時、彼に聞かれた兵はこう言った。
「お前もあと二、三度戦場に出れば分かる」
疑問だった。本当に分かるのだろうか。
結果はその通りだった。彼は自覚していなかったが、三度目の戦。人を殺す事に何も感じなくなった時、彼は生死の価値が分からなくなった。
彼に倒されて怯える敵兵を見ても何も感じなくなった。血が冷たくなり、怯える理由が分からなくなった。
戦場は生と死が背中合わせの筈。何を怯える必要があるのか。しかし今、彼は死への恐怖を味わっている。
「(まさか自分が殺った敵兵に足を取られるとは・・・・・・これが俺にやられた奴らが味わった恐怖なのか・・・・・・)」
目を閉じて首を取られるのを待つ。最期に不思議な敵と出会った。
無表情で斬っても斬っても変わらない表情のまま死んで行くかれらに死の恐怖はあったのだろうかおそらく無かっただろう。今の自分がそうだから。
目を閉じると顔に血が当たる。
「(温かい・・・・・・温かい?)」
「えっ」と思いながら恐る恐る目を開けると一人の将の背中が見えた。将と分かったのは明らかに着ているものが違い過ぎるからだ。
将の手には血で赤くなった刀が握られている。その人の足元を見てみると今まさに相対していた敵が死んでいる。相も変わらず無表情なままで。
「大丈夫か?」
「えっ・・・・・・」
振り返ったその顔には見覚えがあった。普段から戦線で自分達兵を鼓舞しているその姿は忘れる訳がない。
呆然としながら兵が頷くと将も頷いた。そして、兵を救った者は周りを見ると持っていた文を高く掲げた。
「これを見よ! 晴貞は愚かにも私に降伏を勧めてきた!」
兵士も周りの兵もその突然の行動に呆気に取られている。それでも構わず将は続ける。
「私は神保家の主として宣言する。加賀の兵共、晴貞に伝えろ! 断固としてこれは拒否するとな!」
そう言うと将は躊躇いも無く、その文を破り捨て踏み潰した。
その姿は勇ましく、頼もしく、どこか悲壮感漂うものだった。
一介の兵士には何故そのような悲壮感を抱くのかは分からないがそれでもその疑問を吹き飛ばすような眩し過ぎる姿を兵士は見た。
「神保の将兵達よ、生きよ!」
ただ生と死の二つの内、この逆境で生を選択した神保家当主を崇めた。
富山城は加賀・能登勢の攻勢を夜まで受けたが、結局この日も城を守りきった。はっきり言って被害はここまでの攻防戦の中で一番多かった。
しかし、兵の顔には勇ましいその表情が戻っていた。
長職の徹底抗戦の姿勢が諦めが見え始めていた兵の心に再び火を点けたのである。夜中に城に残っていた酒が将兵全員に振る舞われた。
将兵は騒ぎすぎない程度に騒ぎ、自らの功を自慢しあっていた。その中には長職に助けられた兵士もいた。
その日の松倉城の夜は明るかった。
月は新月、夜は真っ暗闇になっている中でそこだけが輝いているように見えた。
「綺麗だね・・・・・・」
「・・・・・・はっ?」
颯馬が素っ頓狂な声で火事場にはまるで合わない発言をした官兵衛を見る。
「あたしの弟子がねよく言ってたんだ。『遠くから夜に見る明かりはたとえどんなものだろうととても綺麗だ』って」
遠くを見て過去を思い出している官兵衛にはその小さな身体からは出せない筈の保護者のような雰囲気が出ている。
何でだろうと颯馬が思っていると官兵衛が突然睨んで来る。
「・・・・・・今、何か変な事思わなかった?」
大当たりです。などと言える筈なく、颯馬は首を横に振って強引に話を逸らす事にした。
「でも、あいつってたまに柄に合わない事言うよな・・・・・・だけど確かに言われてから見てみると・・・・・・」
少し遠目から見るようにしてみると確かに少しは颯馬にも綺麗に見えるかも。
「やっぱり俺には見えない」
がくーっとずっこける官兵衛。颯馬は改めて人の美的感覚はそれぞれであると確信した。
「あいつって軍師以外にもこういう事に才能あるんだよね~」
「やっぱり柄に合わないな~」
「あたしもそう思う~」
大柄な彼が文化に目覚める姿は確かに少し滑稽が過ぎるだろう。親憲の女装に近い感覚かもしれない。
吹き出しそうになったのをぐっと堪える為、身体を屈めた颯馬を見て官兵衛は訝しげに彼を見るが、何でもないと颯馬は言うと二人は松倉城を見上げる。
城の木材と城内の兵か民か分からない者達という材料を得ながら紅蓮の炎は一晩中燃え続けるだろう。
その炎は上杉軍の逆転への狼煙かそれともただの一向一揆勢への悪足掻きとなるのか。
自身達が春日山城を眺めることが出来るかそれとも戦場の土となるか。
かつて自身を拾ってくれた謙信ではないが、運次第の結末になるだろうと颯馬は思いながら松倉城に背を向けた。